暗殺者ではなく《殲滅者》(暗殺も出来るそうです)
冴姫と名乗ったギャルは、思いの外上品な仕草でソーサーを持ちながらコーヒーを飲み始めた。
よく思い出せば、靴を脱ぐ仕草から歩き方、座る姿勢まで全てに品がある。
見た目と喋り方はギャルだが。
「あ、美味しいよ!」
「そりゃどうも」
冴姫は不思議な子で、動作に気品があるせいか、あんな大きなナイフを振るうのに恐怖感を感じさせなかった。
見た目が100パーのギャルであることに加え、とにかくカワイイのだ。
それに雰囲気が明るく、何となく優しい感じすらする。
俺は女性に関しては疎いのでよくは分からないが、悪い人間には見えない。
まあ、自分が暢気であることは自認しているが。
この状況が明らかに異常であることも分かってる。
でも、どうしようもないのと、冴姫に興味を抱いてしまった自分もいる。
突然カワイイ女の子が家に押しかけて来たという、夢のような非日常に興奮している。
まさか自分に本当にそんなことが起きるとは。
大好きなラノベのシチュエーションだったからだ。
もちろん、冴姫に対する警戒心はまだある。
しかし喜んでいる自分を誤魔化すことは出来ない。
コーヒーを嬉しそうに味わう冴姫を見て、気付いた。
あれ、さっき持ってたでかいナイフがないぞ?
鞄も何も持っていないので、どこに仕舞ったのか。
服も結構ピッタリ目で、隠すところは無いと思うのだが。
冴姫は、これまたどこから出したのか、分厚いA4の書類を持って見ていた。
でかいクリップで挟んであり、何度も読まれたもののように書類には硬さを感じない。
冴姫がその書類をめくりながら読み上げた。
「神楽坂宗三、22歳。身長178センチ体重53キロ、ちょっと痩せすぎだね」
「なんだそれ?」
俺の問いを無視する冴姫。
「今年J大学文学部を卒業し、現在和田商事に入社。友人関係は親しいのが地元で5人、大学で3人。少ないね」
「なんだよ!」
「女性関係は大学時代にやっと一人経験と。現在は恋人無し。寂しいね」
「おい!」
その通りだ。
どうもその書類は俺に関するものだったようだ。
また警戒心が強まって来たが、同時に俺のことが事細かに、あまりにも詳細に調べられていることに驚いていた。
冴姫は書類を読み上げながら、何か違った点があったら言えと言った。
冴姫は分厚い書類を手慣れた手つきで捲りながら、読み上げて俺に確認して来る。
その書類は俺の生年月日から病歴、家族構成から交友関係まで全て把握しているようだった。
一体誰がその資料を作ったのだろうか。
また訳も分からないままに冴姫に確認されて行き、考える間もなく俺は答えて行った。
30分もそれが続き、またようやく異常なことに気付く。
俺ってこんなに優柔不断で雰囲気に流される人間だったっけ!
俺は段々恐ろしくなり、最初の警戒心とは違った恐ろしさを冴姫に感じていた。
それと、冴姫のおっきい胸を見ていた。
まるで突き出すように服を押し上げているロケットだ。
無意識に緊張をほぐすためか、俺は冴姫のオッパイを凝視していた。
冴姫も気付いていた。
一通りの書類の確認が終わってから、冴姫が言った。
「性欲は人一倍、と」
「そ、そうかよ!」
その通りです。
もう俺は冴姫のオッパイから目が離せないでいる。
だってこんなものが目の前にあったら……
「あのさ、あたし、当面そっちの面倒は見れないからね」
冴姫に言われて慌てて正気を取り戻して冴姫のオッパイから視線を外した。
今更ながらに苦しい言い訳をする。
「い、いらねぇよ! そんなんじゃねぇし!」
「それとさ、あたし家事はあんましだから」
「なんだ?」
「掃除くらいはすっかなー。洗濯と食事は頼める?」
「なんだよ!」
「一応、彼女的なカバーで来てんだけどさ」
「はい?」
「あー、買い物はすっかぁ。じゃねぇとおかしいもんなー」
「お前、なんなの?」
先ほどのナイフを握った冴姫は恐ろしかったが、今はただの普通のギャルに見える。
なんなら、愛らしいと言ってもいい。
魅惑的なお顔と肉体です!
特にオッパイ!
「あー、なんつーかなー」
「あ、「押し掛け彼女」!」
さっき考えていたラノベのジャンルを口にした。
大好物です!
押し掛けて来た女の子がヤンキーだったり、刑事だったり。
特に今夢中なのが、暗殺者だったという押し掛けメイドさんだぁ!
俺は自分の恥ずかしさを誤魔化そうとしたのか、夢中でそのラノベの話をする。
「あ、あのさ! 突然カワイイ女の子が家に押し掛けて来てさ!」
「あにそれ?」
「ほら、突然家に押し掛けて来て彼女とかメイドにして下さいってさ! よくある設定じゃん!」
「はぁ?」
「他にもいろんなパターンがあるじゃん! 両親の再婚で相手の連れ子って設定もあるけど、俺が好きなのは女の子だけが押し掛けてメイドになるパターンだよ!」
冴姫がエキサイトして来た俺をちょっと驚いて見ている。
「でもさ、その子は大体家事とか全然ダメなドジっ子なの! メイド志望なのにね!」
「ドジじゃねぇよ! メイドでもねぇし!」
冴姫が心底嫌そうな顔をして見たが、俺は興奮して続けた。
今一番好きなラノベの暗殺者メイドの話をした。
「それでさ、暗殺者とかって設定は? まあ、ないよなー」
それはラノベや漫画の中だけだ。
もちろん俺も分かってる。
所詮、自分の動揺を誤魔化すための話だった。
「あー、一応暗殺者じゃねぇし」
「それはそうだよね」
まあ、そうだろうが、そこは先ほどよりも否定の仕方が小さい。
俺も会話が繋がらないので、ジョークを言っただけだ。
「まあ、暗殺も出来っけど、あたし、《殲滅者》だから」
「はい?」
殲滅者らしかった……




