悪鬼集結
俺たちは警察から子飼いの連中にドラレコの映像を手に入れさせ、相手の顔や車のナンバーを握った。
ヴォタンテなんて高い車に乗ってやがる。
田代の女にも顔を確認させ、間違いないと言った。
首都高を大勢に巡回させてヤサも掴んで見張るようになった。
二人とも普通のサラリーマンだった。
マンションを張っていると女が出て行ったので男を攫うつもりだったのだ。
カタギの二人を始末するのは、軍用の銃火器を持っている俺たちには簡単なはずだった。
しかし予想外の強烈な反撃に遭い、無敵のはずのマローダーまで潰された。
報告すると、馬路さんの機嫌は最悪だった。
男の方を襲うつもりが逆襲され、実行部隊が全員死んだ。
ヤサから男は小さな女に連れられて逃げた。
銃撃で仕留めようとすると車体ごと斬られたし、後方の奴らは爆破された。
どんな攻撃か分からない。
すぐに100人で追い込み、中野坂上では高性能爆薬まで使った。
マローダーまで出したのに、それが爆破されてしまった。
あれは相当な地雷の爆発にも耐えられる軍用の装甲車両だったはずだ。
あの逃避行の中で、一体どんな爆薬を使ったのか。
少なくとも追っていた連中の映像を確認してもそれらしき爆発物は見当たらなかった。
男の方は手ぶらだったし、女の方も荷物は無かった。
背中に超合金の楯を仕込んでいたようだが、銃の一丁も身に付けていなかった。
それに女は対物ライフルで昏倒し、その上で何発もFALの弾を受けて動ける状態でも無かったはずだ。
死体になっていたはずの女が爆発し、あのマローダーまでが四散した。
中にいた連中も全員死んだ。
どれほどの高性能爆薬だったことか。
「波佐間、あいつら何者だ!」
「分かりません。でも真っ当な奴らじゃありませんね」
「サツでもねぇな」
「そりゃもう。あまりにも殺しに躊躇がありませんし、反撃の方法が異常です」
「なるほどな」
「サツが集まったのですぐに追撃は辞めました。現場に残ったものから面倒なことにもなる可能性が」
「なんとかしろ」
「はい!」
マローダーの輸入は巧妙に人や会社が経由しており、俺たちに繋がる恐れはない。
武器の調達はもっと深い闇だ。
しかしそれなのに、俺は敵が俺たちに追いつく想像を止められなかった。
警察ではない。
きっとあいつらに襲撃される。
馬路さんもそれは分かっていた。
「波佐間、ありったけの武器を準備しておけ。あいつらのヤサに場所を知らせろ」
「オス!」
馬路さんはヤルつもりだ。
「全員を集めろ。総力戦だ」
「いえ、馬路さんは逃げて下さい」
「なんだと?」
「敵は得体が知れません。最初に田代の頭を躊躇なく吹っ飛ばしたこともそうですし、今回もマローダーが崩壊するほどの爆発物です。俺たちはヤバい相手に手を出したのかもしれません」
「関係ねぇ。俺たちは武闘派ヤクザも潰したんだぞ」
「そうじゃありません。海外の特殊部隊か何かの可能性が。だから正体を調べて対応を考えた方がいいです」
いきなり馬路さんに胸倉を掴まれた。
「おい、今更イモ引けって言うのか」
「ば、馬路さん……」
「俺たちはこれまでどんな相手も喰い破ってここまできたんだよ! そうだろうがぁ!」
「は、はい」
「今更相手が強いからって引き下がれるかぁ! おい、俺たちの集めた武器は軍隊にも通用すんだろう!」
「その通りです! 一流の武器を揃えました!」
「だったらよぉ! やるしかねぇだろうが!」
「はい!」
馬路さんの言うことは絶対だ。
たとえ相手がどこかの特殊部隊だったとしても人数はこっちが圧倒的に多い。
2000人を超える構成員が俺たちだ。
しかも馬路さんの言った通り、俺たちは最新の武器を持っているし、元パラミリから戦闘訓練も受けている。
ヤクザや警官、自衛隊の連中にさえ勝てる。
自衛隊が戦車や戦闘機で来れば別だが、それは現実には不可能だ。
日本国内でそんな軍事兵器を運用出来るはずがない。
だから堅牢なマローダーを持っている俺たちが優位なはずなのだ。
一台は破壊されてしまったが。
しかし今度はこちらが準備出来る。
「馬路さん、どこに集結させますか?」
「秩父に廃車処理場があっただろう」
「はい、やっぱりあそこですね」
「ああ、どんなでかい音を立てても問題ねぇ。波佐間、誘い込め」
「はい!」
「それと全員集合だ。シャブを配れ」
「はい!」
久しぶりの総力戦ということだ。
前に北九州の武闘派ヤクザと揉めて以来だ。
先日マローダーを出動させたことからも、馬路さんが本気だということが分かる。
馬路さんは勘がいい。
相手がただの奴じゃないことを感じているのだろう。
さて、武器を移動させなければならない。
13カ所に散らばっているものをどうやって運搬するか。
でかい物もある。
俺は頭の中で高速で段取りを組んだ。
馬路さんは酒を飲み始めた。
「波佐間、殺し損ねた男にも兵隊を回せ。50人もいればいいだろう」
「分かりました。運ばれた病院は掴んでますから」
馬路さんの機嫌が少し直って来た。
「田代の女を連れて来い!」
誰かが部屋を飛び出して行った。
あの女、名前も忘れたがまだ生きているだろうか。
部屋に監禁してエサもろくにやってないはずだが。
生きててくれないと今は困る。
しばらくして、田代の女が抱えられて来た。
意識はあるようだが、呻き続けている。
もう自分の足では歩けないほどに衰弱しているようだった。
女の顔は腫れ上がり、どす黒く変色をしている。
近づくと腐臭まで漂って来た。
よく見ると顔ばかりか首筋から見えている肩口まで変色している。
恐らく毒が全身を回って歩行困難にもなっているのだろう。
「脱がせろ」
「オス!」
あの女はもう殺される。
俺はすぐ興味を喪った。




