あの日、あの時
「宗ちゃんは納得したようね」
「私が生きてることはあっさり信じたの」
「宗ちゃん、あんまし考えないタイプね」
「その方がいいの。宗ちゃんには重いこと考えて欲しくないの」
「うん、でも私だってココロちゃんが死ぬのは悲しいわ」
「平気なの。私はずっとこうなの」
もう準備は整っている。
「関東旧車會」は全員殺す。
宗ちゃんを危険な目に遭わせ、ココロちゃんを死なせた連中だ。
絶対に許さない。
「あなたは? 一応聞いておくわ」
「XX9シリーズ タイプ「ウォーモンガー」なの」
「そう、その機番だと戦闘特化タイプなのね」
「肯定なの。過去機体から継続するものはあるけど、戦闘モードが強化されているなの。本当を言えば、さっきのような会話は苦手なの」
「でも上手くやってたよ」
「ならいいの。どんな私でも宗ちゃんのことは大好きだからなの」
「うん、みんなそうだよね。あの日「学園」で宗ちゃんを見たからね」
「宗ちゃんは優しかったの」
「それに希望もくれたわ」
「そうなの!」
ココロちゃんがニコニコした。
「あのね、出来るだけ私にやらせて欲しいの」
「そっか、いいんじゃない?」
「あいつら、宗ちゃんを殺そうとしてたの」
「絶対に許せないよね」
「集まっているのは1988人、全員ぶっ殺すの。残りの50人はしょうがないから来栖に任せるの」
「私たちの方の奴らの装備は?」
「全員FAL L1A1(※アサルトライフル)を持ってるの。10人がRPG-7(※無反動砲)、スティンガー(※携帯ミサイル)47門、ストリックス迫撃砲3門、バレットM82(※対物ライフル)は3、ダネルMGM(※グレネードランチャー)8、ハンドグレネードとハンドガンは数えてないの。あと、M60(※重機関銃)装備のマローダーが4台、クレイモア(※対人地雷)200」
「ふーん、あいつら訓練を受けてんの?」
「旧ソ連のパラミリ上がりの連中がついてたの」
「そいつらも参加?」
「ううん、もうどっかに行っちゃったの」
「じゃあ、やっぱロシアのヒモ付きってことかぁ」
「そうなの。多分日本国内でド派手なことをやらせるつもりだったの。でも冴姫ちゃんにつまずいたの」
「宗ちゃんのせいだよ。宗ちゃんに関わって暴走したんだ」
「私もそう思うの」
「なんにせよ、何人か残して口を割らせないといけなくなったね」
「うん、面倒なのー」
「ゲロさせたらぶっ殺そうよ」
「釘打ちの刑なの!」
「うはー、そりゃ可哀想に」
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いつからそこにいたのか、記憶は曖昧だ。
そこに入れられてから、私は毎晩同じ夢を見ていた。
砂漠だ。
地平線まで続く、起伏のある砂の海。
太陽が照り付け、砂に触れた足が熱くなる。
そのことが歩き続ける理由の一つにもなっている。
喉が渇き、体力ももう無いのが自分で分かっている。
それでもどこかへ歩いて行くのが、自分でも不思議だった。
砂に付く足の熱さだけではない、自分を動かす何かの理由。
その理由を見つけるためだけに歩いているとも思う。
まるでそうしなければならないと思っている自分を、少し上から見ているような感覚もあった。
歩くと砂の熱さは足を上げた瞬間に和らぎ、また足が砂に付くと熱い。
歩いて行くことそのものが辛かったが、身体のだるさも募っていく。
照り付ける太陽が熱く眩しく、目がくらんで来る。
汗が全身に流れ、渇きが更に辛くなる。
零れた汗が砂に乗る足にまとわりつく。
足の間から砂が流れ、指の間に挟み込まれて痛みすら感じるようになる。
足は段々上に上げるのも億劫になり、宙を掻いては身体を支える力を喪っていく。
地平線まで見える景色はいくら歩いても何も変わらない。
果の無いことがこれほどに疲れるのだということを初めて感じた。
私はどこへ向かっているのか、向かわなければならないのか。
いつまで歩けばいいのか、終わりは来るのか。
その思いが体中を巡り、私の大事な何かが砂に落ちて削れていく。
私は毎朝、昨日よりも空虚になって目を覚ました。
そこには50人の子供がいた。
みんな突然連れて来られ、一緒にいるようだ。
私もそうだ。
ある日、気が付いたらここにいた。
最初は怖くて泣いたが、すぐに何も感じなくなっていった。
毎日身体を調べられ、注射されて何も考えないようになった。
来た頃には怪我をしていたようで、事故に遭ったのだとだけ説明された。
ベッドに寝かされていたが、そのうちにいろんな「訓練」や「勉強」をするようになった。
大きな機械の中に入れられて、頭の中に映像が浮かんで来る。
手足が何かの命令で動かされる。
そのうちに部屋の中で実際に自分で身体を動かすようになった。
「教官」が一対一で私たちに教えた。
何をしているのかは知らないが、そういう疑問も湧かなかった。
他の子たちとはそれほど一緒にならなかった。
寝るのも一人だった。
そしてあの人が来た。
「はじめまして、仲良くしてください!」
私たちの誰よりも背が高く、優しそうな笑顔の人だった。
ここにはそういう人はいない。
まだ大人では無く、私たちよりも少し年上の子供。
事前にその人がここに来ることを「教官」たちから聞いていた。
その人も両親が事故で亡くなり、私たちとは別な場所に引き取られたのだということだった。
私たちと同じで、親を喪ったのだ。
その人は私たちと一緒に食事をし、その後で遊んでくれた。
その人がいる間は毎日そうだった。
なんて明るく笑う人だろうと思った。
その人を見ているだけで、渇いて小さくなっていた私の心が少しずつ膨らんで行くのが分かった。
その人は一人一人に話し掛け、頭を撫でてくれる。
そんなことはここでは誰もしてくれないので、みんなその人から離れなくなった。
ボールで遊び、まだ身体が上手く動かない子は抱き寄せて話し掛けてくれる。
私は最初、離れてそれを見ていた。
「君もおいでよ」
その人に手招かれたが、私は動かなかった。
眩しいほどに明るく優しく、削れてしまった自分が恥ずかしかったのだ。
するとその人は私に近付いて来た。
そして抱き締めてくれた。
「辛いね。でも大丈夫だよ。前を向いて行こう」
「……」
「人間はね、自分で決めて歩くことが出来るんだ。大丈夫、君たちはみんなそれが出来るよ。僕はそういうことが分かるんだ」
「……」
不思議なことに、その人がそう言うとそれを信じられた。
あの毎晩見る夢を思い出して嫌な気分になった。
ただただ砂漠を歩いて行くだけの自分。
「ほら、君は何がしたい?」
「……」
「何でもいいんだよ?」
「じゃあ、あなたと一緒にいたい」
「え?」
その時に私は本当にそうしたいと思った。
何も無い私が一つだけ望むもの……
その人は一層の笑顔で私を抱き締めて頭を撫でてくれた。
何か温かいものが身体に流れて行くのを感じた。
ああ、この人は本当に……
「じゃあ、いつか一緒に暮らそうか」
「うん!」
「待ってる。だからがんばってね」
「うん!」
3日間その人は私たちと一緒にいてくれた。
その時だけはみんなで一緒にその人の傍にいた。
みんなで食事をして夜はみんなで一緒に寝て、その人の近くで眠るのをみんなで争った。
私は勝って、毎晩隣で眠った。
その人がいなくなってから、私たちが大きく進んだと「教官」たちに言われた。
「やはり「あの子」の影響だろうな」
「ああ、間違いないだろう」
そんな会話が聞こえた。
また会いたかった。
でもそれからは来てくれなかった。
私は「やりたいこと」が決まった。
絶対にあの人の傍にいるようになるのだ。
毎晩見ていた砂漠の夢を見なくなった。
最初は50人もいた子たちも徐々に少なくなっていった。
怪我をして1ヶ月見なくなってまた戻って来る子もいたが、戻って来ない子も出て来た。
戻って来ない子がどこへ行ったのかは知らないし興味も無かった。
最終的に8人の子が残ったが、あそこにいた時の記憶は曖昧だ。
他の子も同じだった。
ただみんな、あの人が来てくれた日のことだけは鮮明に覚えている。
あの人に会いたいとみんなが思っている。
残った8人は名前をもらった。




