ココロちゃんは無事だった!
誰かに手を握られていることに最初に気付いた。
意識が曖昧で自分の態勢がよく分からず、ようやく横に寝かされていることが分った。
目を開けると白い天井が見え、声を掛けられた。
「宗ちゃん、良かった!」
「冴姫……」
冴姫が俺の手を握りながら泣いていた。
いろんな冴姫の表情を見て来たが、泣いているのは初めてだ。
状況が分からずに戸惑っていたのは一瞬で、俺はすぐに何が起きたのかを思い出した。
「おい、ココロちゃんが!」
「大丈夫、無事だよ」
「でも! 何発も銃で撃たれて爆発したんだぞ!」
ココロちゃんの身体から血が噴き出していたのだ。
そして目の前で……
生きているはずは無かった。
「平気。あの子は「忍び」だから」
「何言ってんだよ! 俺の目の前で……」
激しい怒りと興奮で頭が真っ赤になった。
ココロちゃんは俺を守るために死んだのだ。
口を塞がれた。
冴姫の唇で。
少し顔を離してから俺の耳元で冴姫が優しく言った。
「本当に大丈夫。後で来るわ」
信じられない話だったが、冴姫の口づけが俺を一気に冷静にさせていた。
「本当かよ!」
「うん。だから安心して」
「わ、分かった」
あの爆発はココロちゃんの身体で起きた。
その前に何発も銃で撃たれていたのを俺は見ている。
無事であるわけがないのだが。
しかし冴姫を疑うことは無い自分に驚いている。
冴姫がまた俺を抱き締めた。
「宗ちゃん、ごめんね。私が守れなかった」
「いや、それは……」
「もう絶対に失敗しない。約束するから」
「いいよ。ココロちゃんが無事ならばそれでいい」
「うん……」
冴姫が身体を離して内線で誰かと話した。
すぐに医師と看護師が部屋に入って来て俺を診た。
俺は点滴を入れられ、手足に大きな絆創膏を貼られていた。
「宗ちゃん、腸に内出血が多少あるけど大丈夫だから。手足は擦りむいた傷。結構酷いけどね」
「そっか」
巨大な対物ライフルというもので撃たれたのだ。
ココロちゃんが着せてくれた防弾の上着が相当に優秀だったのだ。
一通りの簡単な検査の後で、医師たちは部屋を出て行った。
その後で本当にココロちゃんが入って来た。
「宗ちゃん!」
「ココロちゃん! 本当に!」
驚くことにココロちゃんには傷一つ無かった。
銃弾で撃たれ、自爆したと思ったのに。
「ココロちゃん、なんともないの!」
「うん、平気なの」
「だって銃で撃たれて、爆発も……」
「私「忍び」だから。忍者は不死身なの」
「おい、そんなこと……」
でも本当にココロちゃんは何ともない感じだ。
何発も銃弾を身体に受けたのに。
どういうことなのか分からない。
絶対にあり得ないことだが、でも確かにココロちゃんが目の前にいて微笑んでいる。
冴姫はココロちゃんも俺も見ずに壁の方を向いていた。
視線を逸らしているようで不思議だった。
そういえばこの部屋には窓が無かったことに気付いた。
四方を壁に囲まれている。
「だって、信じられないよ。傷跡とかないの?」
「見たいのなの? 宗ちゃんはやっぱりエッチなの」
「そうじゃねぇよ!」
やっと冴姫が俺を向いて言った。
もういつもの冴姫だった。
「ね、宗三、ココロちゃんは無事でしょ?」
「あ、ああ。そうだな。良かったよ。俺はてっきり……」
「宗ちゃんは私を助けようとしてくれたの」
「いや、あれは……」
「もう、メッなの! 二度とやっちゃダメなの!」
「うん、ごめんなさい」
ココロちゃんが俺に顔を近づけ、頬にキスをした。
「宗ちゃん、でもありがとうなの」
「いや、俺は何にも出来なかった」
「あんな絶望の中で出て来るものは、本当のものなの。やっぱり宗ちゃんは優しくて勇敢なの」
「そんなことはないよ。ただ必死だっただけだ。だってココロちゃんが……」
「ありがとうなの。でももうしないで欲しいの」
ココロちゃんが俺を見ていた。
「危ないことはしたくないよ。俺は臆病だからね。あの時も本当に怖かった」
「うん、そうに決まっているの」
「でも目の前で俺のために誰かが死ぬのは嫌だ。俺はそう思ってるよ」
「宗ちゃん……」
「ウフフフフフ」
冴姫が笑っていた。
「ね、ココロちゃん、宗ちゃんはこんな人だから」
「うん、そうだね。冴姫ちゃんの言う通りだったの」
「「資料」には書いてないよね。でも私には分かってた」
「宗ちゃんはこれまで本当に危険な目には遭って来なかったから「資料」には記述がないの。でもこれで分かったなの」
「大変だよ、宗ちゃんを守るのは」
ココロちゃんがまた俺の頬にキスをした。
「私、やるのなの。絶対にやるの」
「うん、これからも宜しくね」
「うんなの」
「それとね」
「なんなの?」
「ちょっと宗ちゃんにキスし過ぎ!」
「アハハハハハハハ!」
ココロちゃんはもう一度俺にキスをして、冴姫が本気でココロちゃんを俺から離した。
ココロちゃんも笑っていた。
「さてと、じゃあ仇討ちに行きますかぁ!」
「手伝うなの」
「うん! じゃあ、宗ちゃん、行ってきます」
「え?」
「「関東旧車會」は全滅させっから」
「はい?」
「一応嫌だけど来栖をここに呼ぶよ。嫌な奴だけど我慢してね?」
「えーと……」
「あいつはあたしほどじゃないけど結構強いから大丈夫」
「いや、あの、冴姫たちは?」
「あたしたちに任せて」
「冴姫、あいつら武器を持ってるぞ!」
「うん、分かってる。大丈夫だから」
「おい!」
冴姫とココロちゃんは出て行った。




