Pre-Episode Parau Paraiso : 召されるパラオ
風光明媚なことで世界中から愛されている美しい島国パラオ。
かつて日本の占領統治があったため、今でも日本語を話す人も多く、みんな日本人には親切だということで日本からの観光客も多い。
人口は2万人に届かず、総面積も460平方キロに満たない。
大小200以上の島々があり、輝くエメラルドグリーンの海に囲まれている。
俺たちはパラオ最大の都市コロールに宿泊することになっていた。
就職した会社の社員旅行で俺にとって初めての海外だ。
毎年の新入社員の歓迎会を兼ねたものだった。
いつもは国内の温泉地だったようで、今年は特別らしい。
新入社員13名のうち海外旅行経験者が2名のみで、ほとんどが初の海外旅行だった。
もちろん俺もそうだ。
成田から国際線に乗るまでの行程から大興奮で、先輩方に笑われた。
飛行機に乗るのも初めてで、離陸する際には思わず声が出てしまうほどに感動した。
今時社員旅行など珍しいのかもしれないが、俺の入社した和田商事は、昔ながらの昭和の雰囲気が色濃い。
でもこういうことを嫌う新人もおらず、みんなで楽しみにしていた。
体育会系のノリの人間が多いのかもしれない。
昼間に本社社員約130名でバスに乗って観光し、仲の良い同期の連中とまた自由観光を満喫して、夕飯は全社員が集まってホテルで美味しい食事を楽しんだ。
自分たちが海外にいるという意識が、何を見ても興奮させ楽しくなった。
そして夕食後はホテル内のバーラウンジに先輩たちに連れられ、普段は飲まないカクテルなんて飲んで最高の気分で親しく会話。
他の同期の男たちは更に先輩に連れられ、夜の街へ。
いかがわしく楽しい「お店」に行くに違いない。
俺は婚約者同伴ということで誘われなかった。
俺も行きたかったよー!
仕方なく窓から街の夜景を一通り眺め、シャワーを浴びてもう寝ようと思っていた。
俺は新人だったので、オーシャンビューではなく街の側の部屋にいたので眺めは良くない。
でも街の夜景がそこそこ綺麗だったので、少し窓越しに眺めていた。
内線が鳴った。
出て見ると俺の婚約者となっている冴姫からだった。
そういえばあいつ、夕飯の時から姿を見ていない。
もしかしたら二人でどこかに行きたいってことかぁ!
上機嫌でワクワクしながら受話器を取った。
「どした? さっきから見えなかったけど」
冴姫は別にいつもと変わりない口調で言った。
「まずいよ、ちょっとカチ合った」
「はい?」
今、なんてった?
「じゃあ行って来るね。すぐに終わらせっからさ」
「おいおい、なんですかぁー?」
「あんたは一応部屋にいてね。大丈夫、私が絶対に敵を近づけないから」
「おい!」
そう言ってあいつは窓から飛び出した。
俺の部屋のベランダ側の窓から、冴姫が明るい光に包まれて飛んでいくのが見えたのだ。
「敵」ってなんだよ!
まったく、わけが分からん!
そしてすぐに戦闘が始まった。
いや、あれは本当に「戦闘」だったのか?
戦争なんぞ俺は知らんが、少なくともこんなに激しい爆発音や破壊音がするものなのだろうか。
映画ではもうちょっとマシな感じだと思っていたのだが。
眼下の街がどんどん爆散していく。
銃声は一度も聞かず、大きな爆発音と何かが崩壊する音だけ。
悲鳴すら一切聞こえない。
それと窓から眩しいほどの光が時折入って来る。
しかもそれが次第に激化していく。
どんどん街が吹っ飛んで行く。
一度ホテルの非常ベルが鳴ったが、すぐに切れた。
なんなんだろう!
そして慌ただしくホテルの従業員たちが駆け回って部屋から出ないように呼びかけ始めた。
他の宿泊客のものらしい大声で叫んでいる声も聞こえるようになった。
部屋から出た人間と従業員が怒鳴り合っているようだ。
会社の人たちはまだ部屋に戻っていないようで、知っている人は誰もいない。
よく見るとみんな外国人のようだ。
でも彼らだって、何が起こっているのか知りたがっているだろう。
多分従業員もよくは分かっていないのではないだろうか。
俺は冴姫から少しだけ聞いたが、でも何がなんだか分かってはいない。
冴姫が攻撃しているのは知っているけど、どこの誰と戦っているのかすら知らない。
俺はといえば、そんなに慌ててはいなかった。
あの冴姫が「大丈夫」と言ったからだ。
破壊音は凄まじいが、ホテルは攻撃された様子は一切無いのだ。
衝撃で窓ガラスが割れたりはしているが。
そのうちに戦闘がますます激化して行った。
爆発音はますます大きく、時々耳が痛くなるほどの高音が響き渡った。
窓の外で聴いたことも無い大音響の爆発音が続き、夜にも関わらず眩しい程の光が何度も輝いた。
ホテルの窓が激しく振動し、俺の部屋ではない場所で更にガラスが割れる音も聞こえてまた耳が痛くなる。
最後の衝撃音が響き渡り、耳鳴りがようやく収まったので、俺はホテルの8階の部屋の窓を開けてベランダに出て外を見た。
冴姫が飛び出してから、ものの数分だった。
「……」
街がねぇよ……
海沿いに建てられたこのホテルから後、扇状に拡がる何にもない荒れ地。
数キロ先に、山が見えるが、そこは元のままのようだが暗くてよく分からん。
ベランダに乗り出して、完全に破壊された土地を見た。
数多くのビルもあったはずが、完全に崩壊して所々の地面が溶解して鈍く赤黒く光っている。
いや、先輩や同期たちは街に繰り出して行ったんじゃないか……
そう気づいて途端に恐ろしくなった。
ブゥゥーンという低い振動音がして、冴姫が目の前に来た。
ここは地上8階のベランダ……
冴姫は背中に10メートル四方もある巨大な兵器を背負っていた。
全体にLEDなのか、光るラインが幾つも走っている。
美しいと同時に途轍もなく恐ろしいものを感じた。
一体その兵器がどのような戦力なのかは想像もつかない。
冴姫自身は銀色に輝く鎧のような機械の中にいた。
何だか全身から飛び出ている意味不明のものが沢山あり、凶悪な姿だ。
冴姫の派手な金髪の髪は、いつも通りにポニーテールのまま。
その中にある美しい顔が満足げに微笑んでいる。
これほどの惨状の中でも輝く、本当に華麗に輝く美しい悪魔。
良かった、冴姫に怪我はないようだった。
冴姫の顔を見るなり先ほどまでの恐ろしさがどこかへ吹っ飛び、俺はそんなことを考えている自分に驚いた。
そして背中の巨大な箱のようなものと鎧のようなものが魔法のように消えて、冴姫が俺のいるベランダに入って来た。
冴姫の表情は普段と全く変わらない、朗らかな笑顔だ。
でもまた冴姫の向こうに拡がる地獄が見えて怖くなった。
「宗ちゃん、終わったよー」
「……」
「全部殲滅したから、もう大丈夫だよ」
「……」
「ねぇったら!」
「……」
冴姫が手を伸ばして俺の前髪を掴んで顔を揺すった。
「おい、聴いてんの?」
「お、おう」
「エヘヘヘヘヘヘ」
「……」
おい、一体何人死んだ?
冴姫が獰猛に微笑んで、俺の頭を撫でた。




