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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
Boy Meets Gal : 双方ともとんでもないというお話

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15/27

プライバシーは無かった

 月曜日に、冴姫と一緒に出勤した。

 四ツ谷駅の丸の内線新宿方面のホームに二人で降りる。

 冴姫は緊張した様子も見えなかったが、きっと抜かりなく周囲を警戒しているに違いない。

 階段の途中で大きな声で呼ばれた。


 「神楽坂さーん!」

 「ユカリちゃん、おはよう!」


 先週仲良くなったユカリちゃんだ。

 確か8歳で小学3年生だ。

 首の中ほどの髪の長さで、目がクリクリしていて愛らしい。

 私立の小学校に通っており、時間帯が同じで毎日のように会った。

 小さな身体で混雑する地下鉄に乗っており、可哀そうになって俺が近くに呼んで守ってあげている。

 冴姫を目を丸くして見ている。

 

 「あ、おくさんですかー?」

 「い、いや」

 「まだ婚約者よ。冴姫って呼んで」

 「冴姫さん!」


 冴姫は最初はユカリちゃんを観察していたが、すぐに笑顔になった。


 「綺麗な人ですね!」

 「そうだろ!」

 「ウフフフフ」


 三人で一緒に新宿方面の電車に乗り込む。

 ユカリちゃんが乗り換えしやすい、一番後ろの車両だ。

 ユカリちゃんは俺の手を握って見上げて笑っている。


 「神楽坂さんはこんな綺麗な彼女さんで嬉しいですね」

 「うん!」

 

 冴姫はユカリちゃんにどこの小学校だとか年齢や住んでいる場所のことなどを聞いていた。

 自然な感じでの会話だが、きっとユカリちゃんのことを探っているのだろう。

 新宿三丁目駅で乗り換えのためにユカリちゃんは降りた。


 「今日もありがとうございましたー!」

 「いやいや、気を付けてね」

 「はい!」


 ドアが閉まりユカリちゃんは階段に向かっていく。


 「あの子もなのね」


 冴姫が呟いた言葉がそう聞こえた気がした。


 「あの子もってなんだ」

 「そんなこと言ってないよ」

 「あ、そう」


 よく分からない。






 和田商事で俺たちはまだ教育研修中で、冴姫は教育係の人からみんなに紹介され、自然に俺たち新入社員の中に入って来た。

 ちょっと派手だが冴姫の美しさはみんなが驚くほどだった。

 それに最初から俺の婚約者だと告げられ、またみんなが驚いていた。

 一応家庭の都合で研修に今日から加わると説明される。

 何かを疑うような人間はいない。

 それに冴姫は明るい性格ですぐに打ち解け、みんなと仲良くなった。

 冴姫はちゃんと大人の礼儀で会話している。

 ああいうのも「学園」の教育なのだろうか。

 昼休みに教育係の人に呼ばれて、冴姫と一緒に榊常務の部屋へ行った。

 俺には雲の上の人だ。

 重厚な木製のドアをノックして部屋へ入った。

 物凄いダンディな50代の紳士がいた。

 身長は175センチで、結構逞しい体格。

 オールバックの頭髪に、引き締まった渋い顔。

 一目で分かる高級スーツ。


 「やあ、よく来たね。まあ、座ってくれ」

 「神楽坂宗三です! 和田商事に入社出来、光栄です!」

 「榊さーん、おひさー!」

 「!」

 「ああ、冴姫ちゃん、これから宜しくね」


 俺は冴姫の態度に驚いたが、そういえば裏で話が通じているのだ。

 冴姫は誰の下にも就かないのだと言っていたし。


 「ちょっと食事をしながら、神楽坂君には話しておこうと思ってね」

 「はい」

 

 秘書の方と思うが、天丼の重箱を持って入って来た。

 ソファに座った俺たちの前に置いていく。

 すぐに別な秘書の女性がお茶を持って来た。


 「さあ、食べながら話そう」

 「はい、頂きます」

 「いただきまーす!」


 流石に常務が食べるものらしく、美味い天丼重だった。

 だけど俺は緊張で箸が進まない。

 冴姫を見ると、当然のようにガンガン食べている。

 その時、ふと冴姫にはこれでは足りないのではないかと思った。

 先ほどの態度を見ると、冴姫はそれを口にするかもしれない。

 しかしよく見れば、冴姫の前には天重が3つ置いてあった。

 さっきは緊張で気付かなかったのだ。

 では、榊常務は冴姫のことを詳しく知っているに違いないと思った。


 「神楽坂君、君と冴姫は婚約者だね」

 「は、はい、そうであります!」

 

 そうじゃないことも知っているだろうに。


 「このことは社内でも通達しておくよ。婚約者同士が一緒に入社し、頑張ってくれると。だから神楽坂君には女性は近づかないだろう」

 「はい?」

 「君はなかなかに女性にモテそうだからね。顔もいいし優しそうだ」

 「いえ、女性と親しくなったことはほとんどなくて」

 「それはね、君が以前から守られていたこともあるからだよ」

 「え?」


 思わず失礼な返事をしてしまった。


 「万一にも君が《特異点》である可能性を鑑みてだね、君に近づく人間はある程度は吟味されていたんだ」

 「ど、どういうことですかー!」

 「女性に限らないよ。君は同性の友人も少ないだろう?」

 「そうですけどー!」


 冴姫は見せてくれなかったが、きっと「資料」にはそういうことも書いてあるのだろう。


 「確かに友人は他の人ほど多くはないかもしれませんが、私は大切に思っているんです」

 「そうだろうね。でも君に友人が少ないのは、別に君に欠点があったわけではないんだ。君を守るために仕方なくね」

 「え、どういうことですか?」

 「「組織」が調査し、選別して誘導したこともあるということだよ。だから君と親しい人間はみんな「安全」だ。女性もね」


 俺は親しい人間は本当に少なかった。

 むしろ多くの人間から避けられていた記憶がある。

 今、榊常務は誘導と言ったか。


 「あの、私は結構同級生とかから嫌われていた覚えがあるのですが。ええと、親しくなりかけた女性が急に態度を変えてきたことも」

 「ああ、それはそうだよ。君が嫌な奴とかヘンタイだと噂を流しておいたからね」

 「なんですってぇーーー!」

 「そうじゃなければどんな奴が君に近づくのか分からないから仕方が無いじゃないか」

 「横暴ですよ!」

 「まあ、過ぎたことだよ」

 「そんなぁー!」


 過ぎたことじゃねぇ。

 俺は結構悩んで来たんだ。

 中学生の頃から周囲に避けられて来たと感じたのは本当のことだったのだ。

 俺が親しくというか仲良くなれたのは小さな子供たちばかりだった。

 同年代とはあまり親しくはなれなかったので内心では悩んでいたのだ。

 それがなんだ、俺が嫌われるように誘導されてたんだって?

 

 「神楽坂君と関わる人間はみんな調査されている。安全な人間が君の周囲に揃ったはずだし、君とどういう遣り取りをしたとか監視していたし、その後もずっと監視を続けているんだよ」

 「あ、じゃあ、もしかして美鶴とのこともぉー!」


 冴姫が答えた


 「そういうことだね。宗三とどこで何をしたのかは全て分かっているし、彼女は今九州の特殊な大学へ編入して聖職者の道に入っているよ」

 「俺とのことは、ど、どこまで知ってんの?」

 「まー、全部じゃない?」

 「ギャァァァァァーーーー!」


 俺は頭が真っ赤になった。

 美鶴は俺が大学生時代に付き合った女性で、女性と付き合えたのは後にも先にもその一回だけだ。

 ちゃんと肉体関係もあったのだ。

 俺は初めてのことで、随分と緊張して最初は失敗もした。

 美鶴は優しく俺をリードしてくれたのだが。

 まさか、そんなアレコレまで報告されているのだろうか。

 確かめようが無いし、確かめたくもない。

 ついでに言うと、美鶴とは2か月で破局したが。

 でも、一応なんだ、しょ、初体験まで済ませたのだ。

 美鶴は経験者だったが。

 そんなことではなく、俺との一部始終が組織的な所に報告されてたってことかぁ!

 俺はずっと事細かに見張られていて、全てが組織にバレているなんてぇ!


 「一応言っておくけど、君の友人たちや君と親しく関わった人間は、みんな君のことが大好きだよ。切っ掛けはどうあれ、本当に友人と言ってもいい」

 「そんなこと言われてもぉー!」

 「大丈夫だ、関係は変わらないよ。相崎美鶴はともかく、他の友人たちとはずっと付き合って行けるさ」

 「……」


 俺は生涯こんなのなんだろうか。

 《特異点》などというもののために、俺は一生本当の友人や恋人が見張られるのだ。

 いや、恋人はもういらないか。


 「宗ちゃん、私がいるじゃん!」

 「う、うん」


 まあ、それで俺は満足なのかもしれない。

 本当にそう思った。

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