《能力者》たちのこと
翌朝の日曜日。
俺は8時に目を覚ました。
休日だからといって、ダラダラと過ごすのは好きではない。
ダイニングへ行くと、冴姫が起きていて自分で淹れたらしいコーヒーを飲んでいた。
「宗ちゃん、おはよー!」
宗ちゃん?
そういえば昨日も何度かそう呼ばれた。
それに決定したかー。
「ああ、おはよう。もう起きてたんだ」
「うん、いつも大体こんくらい」
「そうなんだ」
そう言えば一緒に住むとは言っても、何も決めていなかった。
「朝食を食べるだろ?」
「うん! ありがと!」
冴姫が嬉しそうに笑った。
輝く笑顔だ。
俺は昨日買ったシシャモを焙り、七味マヨネーズをかける。
目玉焼きを焼き、豆腐の味噌汁を作った。
ご飯は夕べセットしている。
レタスを千切って、イタリアンドレッシングを掛けて目玉焼きと一緒の皿に盛る。
「いただきまーす」
「いただきます」
冴姫がまた優雅な動作で食事を始める。
シシャモを美味しいと言い、味噌汁を美味しいと言った。
「ご飯も美味しいね」
「結構いいお釜を買ったんだ」
「そっか、本当に宗ちゃんは美味しいものが好きなんだね」
「そうだな」
食事を終え、一緒に洗物をした。
なんかこういうのはいい!
コーヒーを淹れてのんびりした。
「そういえばさ、一緒に住むのに決めておいた方がいいことがあると思うんだ」
「うん。料理は宗ちゃん」
「まあ、いいよ」
「宗ちゃんの食事は美味しいから、掃除と洗濯はあたしがやるよ」
「おう、助かる!」
俺も手伝うつもりだが。
「食事の買い出しは一緒がいいかな。なるべくね」
「ああ、分かった」
それはちょっと嬉しい。
「宗ちゃん一人だと危ないからね」
「え?」
「一応ココロちゃんと、嫌だけど来栖もいるけどね。でも出来るだけ私が一緒にいる方が安全だから」
また知らない名前が出て来た。
「ココロちゃんって?」
「うん、忍びなの」
「忍び?」
「そう、忍者だよ?」
「……」
ナニソレ?
「ココロちゃんは気配を消すのが抜群に上手いの。だから敵に気付かれずにガード出来るからね」
「そ、そうなんだ……」
「すっごくいい子! 私の一個下で、大親友なんだ!」
「へ、へぇ」
それで忍者ってなんだよ!
「来栖には昨日会ってるじゃん」
「ああ、何も話してないけどな」
「あいつは暗殺者なんだけど、情報収集も得意なんだ」
「暗殺者……」
「性格は最悪! 生意気でいちいちあたしに突っかかって来るのよ」
「昨日も絡んで来たよね?」
「そうでしょ! 前にあったま来てボコったんだけどね。まだ懲りてねぇ」
「ボコったんだ……」
「あいつも一個下。気に喰わないけど、あいつの情報収集は当てになるかな。それなりに強いしね」
「へ、へぇ」
理解が追いつかん。
それにみんな16,7歳なのかよ!
「あのさ、みんな若いんだね?」
「うん、そう。やっと技術が確立したのがそんなに前じゃないからね」
「技術?」
「適合者を見つけるのが大変だったんだよねー。10代そこそこじゃないと適合出来ないことが分かって、その年代の中から適合因子を持つ人間を見つけるのがね。学校の定期健診で因子の調査を始めたんだけどさ。それでやっと何人かを見つけたの」
「て、適合因子? そんなのがあるんだ」
国家規模の話だったか。
「そうだよー。ほら、私の《超次元格納》って相当特殊だしさ。更に兵器を扱う才能があるっていうのもあるしさ」
「才能?」
どういうことだ?
政府が全国的に適合者を調査をしたというのは、反論はあるが理解は出来る。
でも、その因子や才能というのは?
「そう。例えば超高速で思考して兵器を操る《アクセラレイター》なんかは、適合できる人間があんましいなくてねー。私って結構特別な才能なんだよ?」
「あ、ああ、そうなんだ。じゃあ特別な訓練とかやったのか?」
「まあ訓練もちょっとやったけどね。でも改造を受ければ簡単だから」
「改造!」
「あたしもよくは分かんなーい。ナノマシン? そんなのを入れたり、脳の活性化? そんな処置を施されたの」
「おい、冴姫はそんなことをされたのかよ!」
「そうだよー。そうじゃないと無理じゃん」
「お前、それで平気なのかよ!」
「うん、別にいいよ」
冴姫が平然と言ってのけた。
自分が改造されて平気なわけがない。
多分、洗脳とかされているのだろう。
でもそれは冴姫に言っても仕方がないことだと思った。
今更俺が反対したって、元に戻せるようなことでもないだろう。
俺の中で絶対に納得できない何かが生まれた。
それにもしも戻そうとしても、セッティングされたことは、無理に崩せば何か不味いことになる可能性がある。
そういう本を前に読んでいた。
でも、俺は子供にそんなことをすることは許せなかった。
大人が自分の意志で何かを決めるのはまだいい。
選択してそれで失敗しても死ぬことになっても、それは仕方がないことだと思う。
しかし子供は違う。
守ってやらなければいけないのだ。
「ココロちゃんとか来栖君なんかもそうなの?」
「うん、そうだよ。「学園」の人たちが適合因子によってそれぞれ改造したの」
「学園」?
ああ、今は別な話をしよう。
俺は気になっていることを聞いてみた。
「あのさ、ご両親はそのことを知ってるの?」
冴姫は呆気なく話した。
「ああ、親は私が死んだと思ってるから。事故でグチャグチャになったって言われてる」
「えぇ!」
「仕方無いよ。だって、こんな仕事じゃん。親は知らない方がいいんじゃない?」
「……」
やっぱり冴姫はおかしい。
それでも、それを指摘することは出来なかった。
「あれ? 宗ちゃん泣いてる?」
「……」
知らないうちに、俺は泣いていたようだった。
涙を流せない冴姫のために、俺は泣いていた。
「それはあんまりだよー!」
「宗ちゃん、やっぱり優しいんだね」
そう言って冴姫は座っている俺の後ろに回って、俺をそっと抱き締めた。
「ありがとうね。でもそんなに気にしなくていいんだよ? 自分でやりたくて決めたことだし、あたしは十分に幸せ。親もね、結構な賠償金をもらってるし、今は弟と一緒に幸せに暮らしてるの。だからね?」
だから何だというのか。
冴姫はどうなる!
「宗ちゃん、もう泣かないで。あたしは大丈夫。宗ちゃんを守りたいだけ。それが今の、これからの私のやりたいこと、絶対にやり遂げることなの」
「冴姫、俺をそんなにも……」
「そうだよ! 宗ちゃんが大好き。だからだよ?」
それも洗脳なのだろう。
俺はそのことが悲しくて一層泣いた。
「何でそんなに俺のことを?」
「……宗ちゃんが日本にとって大事な人だから。それじゃいけない?」
「そうか」
今、冴姫は言葉を選んだ?
それは、「大好き」ということとは違うのではないか?
でも俺はその時黙っていた。
冴姫は「まだ話せない」と言っているのだ。
今はだから聞かないで欲しいと。
冴姫は御飯を5杯お替りした。
俺はだから1杯しか食べられなかった。
まあ、昼食の分も炊いておいてよかったか。
そういえば夕べも朝の分まで冴姫が食べてしまったことを思い出した。
これからは気を付けよう。
でも冴姫は可愛かった!




