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押し掛けギャルは殲滅者  作者: 青夜
Boy Meets Gal : 双方ともとんでもないというお話

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《子供の神様》

 「何が食べたい?」

 「あれ、リクエストに応えられるの?」


 冴姫がちょっとおどけて言った。

 俺のことは調べているはずだ。


 「俺が料理好きって資料になかった?」

 「ああ、ホテルのレストランでバイトしてたんだっけ」

 「厨房でね。割烹料理店でも働いたよ」

 「そうだね。じゃあ和食がいいかな。ギンムツの照り焼き」

 「分かった」

 「それとそぼろ大根が食べたい」

 「オーケー」

 

 駅前のスーパーで買い物が必要だ。


 「じゃあ買い物して来るな」

 「ああ、一緒に行くから」

 「いいよ、近所だし」

 「そうは行かないよ」


 近いので歩いて買い物に出た。

 冴姫が自然な動作で俺に腕を絡めて来る。


 「エヘヘヘヘ」


 俺がにやけていると、冴姫が小声で「調子にのんな」と言った。

 でも、俺の顔は崩れたままだった。

 怒っているかとそっと横顔を盗み見たが、冴姫は仄かに笑っていた。

 それが演技なのかどうなのかは俺には分からない。

 冴姫は「深い」人間なのだともう分かっている。

 俺は子供の頃から人間観察が好きで、相手のことを自動的に解析するような癖がある。

 冴姫のおっきなポヨンポヨンを味わいつつ、スーパーの地下の食料品階に行った。


 「えーと、まずは鮮魚のコーナーだな」


 ギンムツのパックに手を伸ばすと、冴姫が止めた。


 「やっぱさ、オコゼの唐揚げがいいかな。今が旬だしね!」

 「お、おう」


 突然変わりやがった。


 「あー、やっぱ一緒に来て良かったぁ! 実際に食材を見るとさ、本当に自分が食べたいものが分かるよね!」

 「そうだね!」


 まあ、どうでもいい。

 今日は好きなものを作ってやろう。

 見たところオニオコゼの鮮度は、刺身にしても良さそうなものだが、唐揚げもいい。


 「ねぇ、刺身もちょっと食べたいな」

 「あ、ああ」


 そうですか。

 冴姫は料理に詳しそうだった。

 俺も冴姫と同じでオニオコゼを食べたくなったので、5尾買った。


 「頭もちゃんと唐揚げにしてね!」

 「よし!」


 頭が齧れるようにするのはちょっと面倒だが、冴姫のポヨンポヨンのお礼だ。

 喜んでやりますよー!

 他に明日の朝の魚に子持ちシシャモを買い、大根や他の食材も買った。

 

 ポヨンポヨンでまた楽しく家に戻り、冷蔵庫に食材をしまって俺は夕飯の支度をした。

 米は出がけに用意している。

 俺はすぐにエプロンを付けて夕飯の準備を始め、冴姫は部屋でまた伊勢海老マシンガンのTシャツとホットパンツに着替えて、ダイニングから俺の料理する姿を見ていた。

 オニオコゼは背びれが付いていたので、先に切り落とした。

 そのまま背を割ってハラワタを捨て、綺麗に水洗いする。

 

 「へぇ、本当に料理が上手いのね」

 「おう!」


 冴姫に言われて嬉しくなった。

 鍋が沸騰し、昆布で出汁を摂る。

 すぐに大根を輪切りにし、皮を剥いて面取りをする。

 隠し包丁を入れて、鍋に大根を沈める。

 醤油を少し加えて弱火にして落し蓋をする。

 中華鍋に油を溜めて低温に温まった油に下味を付けて片栗粉をまぶしたオニオコゼを二尾入れた。

 上から油を掛けながら、じっくりと揚げて行く。

 一度油から引き揚げて余熱が冷める前に、また油へ投入。

 また丁寧に油を上からかけてやる。

 こうして何度か繰り返すことで、骨も頭も全部食べられるようになる。

 オニオコゼの残りを刺身にし、40分ほどで料理を終えた。

 皿に盛ってテーブルに並べた。

 冴姫はニコニコして箸を手にした。


 「いっただきまぁーす」

 「いただきます」


 冴姫は箸の使い方が上品だった。

 ギャルの見た目だが、意外と育ちは良さそうだ。

 オニオコゼの唐揚げを箸で器用に割って頭を口に入れる。

 バリバリと、そこは豪快に咀嚼する。


 「いいね!」

 「そうか、良かったよ」


 付け合わせのシシトウの素揚げを口に入れ、辛さに嬉しそうな顔をする。

 そぼろ大根を箸で切る。


 「味が染みてるぅー!」

 「アハハハハハ!」


 喜んで食べてくれると、こっちも嬉しくなる。

 

 「冴姫は嫌いなものってあるか?」

 「うーん、大体食べれるけどね。不味いものは嫌いって感じ」

 「まあ、そりゃ誰でもな。でも今日のリクエストなんて渋い選択だよな? 結構いろんなものを食べてるんだろう」

 「そうかなぁ。でもいろいろ連れてってもらってるかな。闇絵さんとか。あの人料理も上手いんだよ!」

 「ああ、今日会った人か。綺麗な人だったな」

 「そうだよね! あ、後は周一郎さんなんかにも何度も美味しいものをご馳走になった」

 「兄貴か! 俺も時々連れてってもらってる」

 

 冴姫はタケノコのすまし汁を飲んでまた喜んだ。


 「宗三って本当にお料理が上手いんだ!」

 「自分でも美味しいものを食べたいからな。いろいろやってるよ。ああ、ところで冴姫って幾つなんだ?」

 「ん、17歳だけど?」

 「ゲェ!」

 「なによ!」

 

 手を出したら犯罪じゃねぇか!


 「わ、若いな」

 「まーね」


 冴姫は気にせずに食事を進めた。

 ご飯やすまし汁のお替りを俺がよそった。


 「毎日これかぁ! 頑張るぞー!」

 「いや、お前も時々は作れよ」

 「インスタントでいい?」

 「自分で美味い物が好きだって言っただろう!」

 「じゃあ宗三が作って」

 「うーん」


 17歳なら仕方ないか。

 そういえば最初に料理は得意じゃないって言ってたな。

 まあ、ここは俺の家だ。

 基本的な家事は俺がやるか。


 「しっかし俺なんかが《特異点》だなんてなー」

 「ウフフフフ、実はもう一つあるのよ?」

 「えぇー! なんだよ!」

 「これは本当に極秘。周一郎さんたちも知らない」

 「ゲェー!」

 「《子供の神様》っていうの」

 「はい?」


 なんだかカワイイ。


 「志賀直哉的な?」

 「それは『小僧の神様』」

 「あー」


 冴姫が文学を知っていてちょっと驚いた。

 だけど、なんなんだ《子供の神様》って。


 「ああ、こないだ通勤の時に地下鉄で小学生の女の子に懐かれた」

 「そう」

 「制服を着てたから、どこかのイイトコの学校だと思うんだけどさ。ちっちゃいから人に押されて可哀想で、傍に来させたの。そうしたらお礼を言われて、そっから一緒になると笑顔で寄って来るようになった。同じ時間帯で、毎日のように一緒なんだ」

 「あなたはいつもそうね」

 「え?」


 当たり前のことじゃないか。


 「あ、そういえばさ。昔、兄貴にどこかの養護施設に連れて行かれたな」

 「!」


 冴姫が驚いたのか箸を止めて俺を見ていた。


 「ちっちゃい子供が一杯いてさー。何日か一緒に遊んだりしたな」

 「そう」

 「女の子が一人だけ離れて座ってたんだ」

 「……」

 「カワイかったなぁ。でも寂しそうだった。みんな親がいないんだもんな、可哀想に」

 「……」

 「一緒に遊んでさ。ああ、最後なんて出て行く時に泣かれちゃって困ったんだぜ」

 「そう、その子にも好かれたのね」

 「そうかなぁ。あの子元気にしてるかなー」

 「知らないよ」

 「そりゃそうか!」

 「宗ちゃんは優しいね」

 「宗ちゃん!」


 何故か冴姫がちょっと寂しそうな顔をした。

 そういう会話でも無かったと思うのだが。

 食事を終え、洗物は冴姫がやると言った。

 皿を割りまくるかと思ったが、全然そんなことはなかった。

 確かにドジっ子ではない。

 ちょっと残念。

 皿を割って顔を赤くして困惑するのは、「突然同居物」の定番なのだが。

 風呂を沸かし、その日はそのまま寝た。

 いろいろ聞きたいことは山ほどあったが、冴姫がちょっと暗そうな雰囲気になったので何も聞かなかった。





 《子供の神様》ってなぁ。

 冴姫もまだ子供じゃねぇか。


 「まあ、これからも宜しく、冴姫」


 呟いて俺も眠った。

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