Beast Rage 3
あの後、アクアと『フレンド登録』を済ませた後に、僕は一度MWOを終了して、少し遅めの昼食を採ることにした。
フレンドとは、どこにいても簡易メッセージを送れたり、ログインしているかしていないかの情報がどこでも確認しあえる状態を指すのだと説明を受けた。メッセージウィンドウに。僕とアクアは二時ごろにまたログインして遊ぶ約束をした。
(僕がゲームで、人と遊ぶ約束だなんて……!)
母親が用意してくれた炒飯をつっつきながら、先ほどの感動を噛み締めるようにして黄金色の飯を口へ運んでいた。
今までの人生でやったことのないこと、というのは僕の心をどうしようもなく躍らせていた。
いつもよりかなり早く、僕は昼食を採り終えた。
時刻はまだ一時半。ちょっと早いが、MWOにログインしてアクアを待つことにした。
……………………
………………
…………
……
──のだが。
ログインしてからフレンドウィンドウを確認してみると、アクアはもうログインしているようだった。
早いなぁ、と思いながらその場でしばらくウィンドウを眺めていると、後ろのほうから声がした。
「ユウー!」
ぱたぱたと結構なスピードでこちらに走ってくるアクア。
「やっぱり早めに来たね。絶対暇しちゃうじゃん!」
「あ、やっぱりアクアも暇だった?」
「だってやることないしー」
くすくすと二人で笑いながら、森の道を抜けて村へと出る。
アクアが前に出る形で進んでいて、気づいたことがあった。アクアの胸の包帯は包帯というよりはリボンのような布地で、背中のほうで大きくリボンで結ばれていた。もちろんそのリボンも青い。
アクアの衣装はそれなりにゲームらしいというか、可愛らしいのだが、僕の衣装ときたら古めかしい革の鎧一丁だ。この差は一体どこからくるんだろう……。
「さって。これからどうしよっか?」
くるり、と振り返って僕に問いかけるアクア。
「少し考えてきたんだけどさ。やっぱり、盗賊団を完全に潰しちゃうべきだと思うんだ。盗賊がアクアを追ってるなら、その内ここもバレちゃうだろうし」
ふんふん、としきりに頷いているアクア。
僕は続ける。
「そういえば、アクアはなんで盗賊に追われてるの?」
「んっ。話してなかったっけねそういえば。
私のお母さんは凄い探検家だったんだけどね、あの盗賊団、BeastRageに捕まっちゃったんだ。ヤツらの目的はこれ」
と言って、短パンのベルトに提げられている短剣を抜くアクア。その短剣は実用性の低そうな、それこそシャープペンシル大の代物だった。アクアの小さな手にはぴったりと収まっているが、それでも刃物として扱うには心もとなさそうだった。
「漣の宝鍵って言うんだけどね。この村にも隣接してる平原、ここからだと南にずっと進んだところに遺跡があるんだ。そこの遺跡の扉を開ける鍵……ってお母さんからは聞いてるよ」
「そ、それじゃあアクアのお母さんは盗賊団のその、拠点にいるってこと!?」
するとアクアは困ったように、
「ううん。お母さんならヤツらに殺されたよ。
私、ずっとお母さんに憧れて探検家になりたくて、小さい頃から色々と探検に必要な技術を教えてもらってたんだ。それで、ついこの前ようやくお母さんが探検に連れて行ってくれることになって、その先でこの短剣を手に入れたんだけど……。
そこでヤツらに見つかったんだ。短剣は奪われて、私達は盗賊団の根城に連れてかれた。短剣だけ奪って、私達はどこか遠くに売りさばく気だったみたい。でも、私はお母さんに助けられて、なんとか逃げられたんだ」
「そうだったんだ……」
しんみりとした空気の中、フェネオネの道を歩く。
「あれっ、そういえば。アクア、これは君の?」
腰のベルトにひっかけていた、小さな鞘を抜いてアクアに見せる。
アクアは驚いたようにその鞘を僕の手から奪い取るようにして受け取ると、慌てて腰のベルトから漣の宝鍵を抜いた。
「こ、これ短剣の鞘だよ! どこにあったの!? 逃げてる途中で失くしちゃって、焦ってたんだよ……!」
「昨日川から流れてきたんだよ。何に使うか分からなかったから、一応持っておいたんだ」
「ほんっとありがとう! よかったぁ……」
かしり、と鞘に短剣を収め、腰に戻す。
村の民家の連なる通りをいくつか過ぎたところで、ふと足を止める。
「僕達、どこ行こうとしてたんだっけ?」
「特に決めてないよ? どこいこっか」
しばらくその場で考え込み、今何をしたいか、何をするべきかを考える。
「盗賊団を潰すなら、そうだなぁ。まず村長さんに相談してみよう。何か協力をしてもらえるかも」
「この村の人達とは仲がいいんだ?」
「というより、この村の人くらいしか知り合いがいなくてさ……」
はは、と渇いた笑いを漏らす。
「はは……っと、あ」
道端の露店のような場所に、いくつもの花が用意されていた。色とりどりで、どこか不思議な形をした花。確かに綺麗ではあったが、そのどれもが鮮やかすぎる色をしている。
それらの花を丁寧に並べているのは、紫色のポニーテールを愉快げに揺らしている、イーゼ。
「やぁ、こんにちは」
ぴこんっ、とポニーテールが跳ね上がり、こちらを向くイーゼ。
「あ、ユウさんこんにちは。そちらの方は? 村の人じゃないみたいですけど……」
「私はアクア。盗賊団に襲われたところを、ユウに助けてもらって。この村に逃げさせてもらう形になっちゃったけど、勝手に入っちゃマズかったかな……?」
少しだけ申し訳なさそうに言うアクア。
対して、イーゼは特に気にした風でもなく。
「いえいえ! フェネオネは悪い人じゃなければ誰でも大歓迎ですから! 基本的に村の外から人が来ることが少ないので……きっと他の人も喜ぶと思います!
私はイーゼって言います。よろしくお願いしますね!」
「ん、うん。よろしくね、イーゼ」
なんだか相性の良さそうな二人だなぁ、と後ろから見守っていたものの、このままだと話が進まなそうだったので割ってはいることにした。
「ところでイーゼ、ドムさんはどこにいるか分かるかな?」
「村長なら、家にいると思いますよ! この道を真っ直ぐいって、一番おっきい家です!」
「わかった。ありがとう」
「いえいえ! それじゃまたです!
あっと、アクアさんにはこれを~」
したした、と数歩歩いてアクアの頭にぽんっ、と手を乗せるイーゼ。そのまま何度かなでなでして、怪訝そうな瞳をしたアクアを一度見て、満足げに露店のシートのような場所に座った。
アクアの髪に、一輪の白い花が咲いていた。
「永遠に枯れない花、百願花です! 百個の違うお願いごとをしておくと、その内一個が叶うっていうお花です。お願いごとが叶うと枯れちゃうみたいなんですけどね!」
「は、花……? これ、くれるの?」
「はい!」
「あ、ありがとう」
もぞもぞと、花の位置を調整するアクア。青い髪に白い花がよく映える。
「どう?」
「よく似合ってるよ」
「当然!」
さ、行こう! とアクアに手を引かれるままに、僕達はドムの家へ向かった。
・System information
レベルアップに必要な各種経験点
◇キャラクターレベル
1 -
2 2000
3 4500
4 10000
5 14500
6 22000
7 30000
8 36000
9 40000
10 52000
11 78000
12 90000
13 110000
14 135000
15 156000
◇ウェポンマスタリ
1 200
2 500
3 1000
4 2500
5 5000
6 8000
7 12000
8 17000
9 22000
10 28000
11 35000
12 42000
13 50000
14 61000
15 73350
◇マジックマスタリ
1 500
2 1500
3 4000
5 8000
6 14500
7 20000
8 31000
9 43000
10 56000
11 70000
12 83300
13 95500
14 110000
15 136000