Beast Rage 1
冬服なのが苦痛に感じるほどの夏日、突き刺すような日差しが僕を苦しめていた。予備校へ行くだけなのに制服を強要する父親に呪詛を吐きつつも、ひたすらに熱気を集め、吐き続けるアスファルトの地面を歩く。
「暑っつ……」
「こんくらいで何へばってんの!」
あはは! とそんな僕の弱さを笑い飛ばすのは幼馴染である、遥夏。
運動的なポニーテール。黒々とした髪。熱い炎のような美しい笑みを浮かべた、その整いすぎた容姿。僕とは対照的にノースリーブの涼しげなシャツにミニスカートという出で立ちだ。
「遥夏はそんな格好だからまだいいよ。僕なんかこんな、詰襟だよ!? 信じられないよ本当!」
「ほんと信じらんない!」
お腹を抱えながら隣で大爆笑されてしまった。暑いから近寄んないで、と酷い冗談まで言いながら。
遥夏は僕の通う浦葉高校と対になっている浦葉一女高校の生徒だ。どちらも県内一の進学校で、男子、女子校と分かれている。遥夏は僕と違って、死ぬ気で努力をしないでもすんなりと浦葉一女に受かってしまったのだから、僕との学力の差が分かるというものだ。
浦葉高校と浦葉一女高校はすぐ近くの場所にあり、予備校は同じ場所。僕と遥夏は高校に入ってからというもの、学校の行きも帰りも一緒にしているのだった。それは思えば小学生からのことで、ただそうあることが自然であるかのように、いつも二人で登下校をしていた。
男子生徒から人気のある遥夏と、どうにもパッとしない僕の組み合わせに、小中学校では男子達から反感を喰らったが、遥夏の『本性』が露見してからはその時期は遥夏に寄ってくる男子はいなくなっていた。
「それで今週の『まにまに』さ、えーちゃん先生がめっちゃかっこよくてさ!」
「へぇ……」
そう、遥夏は重度のオタクなんだ。
アニメやゲームにとどまらず、鉄道にも映画にも歴史にも。ひたすらにコアな部類の物だけを選んでいるかのようにすら思える作品郡を熱心な宗教家のように集め、信仰(?)している。
僕は父親があれだからアニメなんかは修学旅行とかの帰りのバスの中で見るくらいだし、ゲームに至っては昨日生まれてはじめてプレイした。
ともあれ、小中学生はそういったコアなオタクを疎む傾向にある。遥夏は自然と『美人だけど変人』のレッテルを貼られ、無事なのかなんなのか分からないままに小中学時代を終えた。
高校に入ってからはそうでもないどころか、「腐なお話ができるお友達ができてね~?」と、僕にはよく分からない国の単語を使って嬉しげに話していたものだ。
それに、浦葉一女高校は女学校だからそもそも男子が言い寄る機会がない。僕はそれに少しホッとしている。
別に遥夏にボーイフレンドができようが僕には関係のない話だけど、それでも、なんだかこう、それは非常に嫌なことだ。
「ん、どしたの?」
「えっ、あ、いやぁ。別になんでも」
遥夏のほうを見ていたのだろうか。遥夏は首を傾げていた。
「あ、そうだそうだ。あれ聞かせてよ。Material World Onlineの感想!」
Material World Online、通称MWO。
第二世界体験システムAnother Worldを搭載した初のオンラインゲームであり、国内だけでなく世界的にもサービスを展開している。
操作デバイスを必要とせず、第二世界の自分自身のキャラクター、PCを直接動かすことで楽しめる新世代のゲームだ。
「うん、凄かったよ」
率直に一言。
「え、それだけ?」
「いや、勿論他にもあるけど。なんというか、感動しすぎて説明しづらいんだよ」
「へぇ~。ユウ、ゲームとか全っ然興味ないのかと思ってたんだけど。面白かった?」
「うん」
そういうと遥夏はしばらく考え込み、やがて何かを決意したような瞳でこちらに詰め寄ってきた。
「私もやる!」
「えっ、何を」
「Material World Online! 私、今やってるオンゲーのほう最近過疎ってきててさ。フレンドもイチゴカルピスだし。丁度引越ししようかと思ってたから丁度いいの!
それじゃあ後でメールすると思うから!」
遥夏はこちらに背を向けて大急ぎで走り去っていった。
「あっ、待ってよ、ねぇ!」
「あんたの家はそっちでしょ!」
話していたせいか、自分の家の道を曲がり忘れていた。
何やってるんだろう。苦笑しつつ、帰宅した。
今日は土曜。朝から昼にかけての予備校での勉強も終わり、これから一日自由にできる!
僕の頭の中は、Material World Onlineのことでいっぱいだった。
・Magic information
魔法について
PCはMPを支払って魔術を行使することができるが、いくつかの制約、そしてルールがある。この制約とルールのことを総称して魔法と呼ぶ。
まず一つ目が『物理法則無視によるエネルギー代償』である。これは、魔術によって物理的な法則を完全に無視してしまうことにより生じる、世界に与える影響を中和する代償として使用者のMPを使用することだ。
二つ目に『魔術による発生エネルギー負担』だ。これは魔術を発動する上での基本代償であり、これをクリアできなければ自動的に魔術は失敗となる。一つ目と同様に術者のMPを消費する。例えば火を起す、水を発生させる、といったように本来はそこに存在しない力を発生させるのに必要な代償なのだ。
三つ目が『魔術の現象化媒介の用意』だ。魔術とは本来奇跡の力であり、目にしたり触れたりすることのできない力である。それを限りなく物理現象に近づけるために必要とする媒介を用意する必要を示したのがこの三つ目の制約である。行使する魔術のカテゴリ毎に必要とされる媒介は異なる。
・魔術について
魔術とは、魔の法で定められた制約に従って行使する魔なる術のことである。
現在オーヴィエルでは12種の基本魔術、9種の上級魔術が確認されている。
それぞれの性質などを下記に記す。
◇属性魔術:無
最もポピュラーな魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
汎用魔術、と揶揄されることも多く、汎用性に富んだ魔術のレパートリーを誇るカテゴリ。
習得に必要なIntが低いのが特徴。魔術剣士や駆け出しの魔術師などに広く愛用されている。
◇属性魔術:火
魔力を火に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
基本魔術の中でも屈指の魔術攻撃力を誇るが、全体的に消費MPが高いのがネック。
◇属性魔術:水
魔力を水に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
補助、回復の効果を持つ魔術が多いのが特徴。
神聖魔術と並行して習得する者が多い。
◇属性魔術:風
魔力を風に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
速度や空間に干渉する特殊な魔術が数多く存在するのが特徴。
軽やかに立ち回る魔術剣士やシーフ達に愛用されている。
◇属性魔術:地
魔力を土や石に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
地形や地脈に干渉する特殊な魔術が数多く存在するのが特徴。
弓などを使う者が補助に習得することが多い。
◇属性魔術:雷
魔力を雷に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
詠唱時間が極めて短いのが特徴。魔術そのもののエフェクトなども短いものが多い。
◇精霊魔術
オーヴィエルに存在する精霊と契約することでのみ習得することができる魔術。精霊の力を借り、魔術を行使する。
行使に必要な媒介は精霊との契約文(精霊語)の『詠唱』。
精霊とどのようにして邂逅を果たすのかは不明。
同時に複数の精霊と契約をするのは不可。
(キャラクターメイキング時に《マジックマスタリ:精霊魔術》を取得したキャラクターはオープニングクエストで必ず一体の精霊から力を借りるイベントが発生する)
現在オーヴィエルで確認されている精霊は
無垢の精霊『エル』
火の精霊『カナト』
水の精霊『シーエンス』
風の精霊『ニェツェ』
地の精霊『グンザイタナ』
雷の精霊『ヴェルー』
の7種のみ。
◇神聖魔術
オーヴィエルの神々の力を借り、自らの信仰を示すことで一時的に神聖なる魔力で魔術を行使するのが神聖魔術である。
行使に必要な媒介は信仰している神への祈りの言葉(神語)の『詠唱』。
他の魔術とは異なり、習得に必要なステータスがMinなのが特徴。
また、神への信仰を失ったり、神の教えに背くような行動を取った場合はペナルティが与えられることがある。
天族種は、神聖魔術を詠唱を行わずに行使することができる。
現在オーヴィエルで確認されている神は
星神『イリネリス』
武神『エグサミド』
豊穣神『ミエディア』
慈愛神『ノイ』
海神『ビドー』
天神『ネアサ』
の6種のみ。また、神の力は信仰の力とイコールである。
◇影魔術
影を媒介としてのみ行使することのできる魔術が影魔術である。
影に関する特殊な魔術が多いが、まだ明らかになっていない点が多く、好き好んで使用する者はごく僅かである。
謎の多き魔術として、今注目を受けている魔術だ。
◇召還術
神界の正反対に位置する場所にある霊界に存在する動物の霊王を召還する魔術。
行使に必要な媒介は召還する動物の霊王に応じた『儀式』。
他の魔術とは異なり、習得に必要なステータスがLuckなのが特徴。
◇時空魔術
オーヴィエルで最近になって発見された魔術。魔力の他に術者の寿命を代償にすることで、時間の流れに干渉することを可能としたのが時空魔術である。
術者への負担は極めて大きく、基本的に消費するMPは○○%というふうに、術者の最大MPから見た割合の数値で魔術の代償を支払わなくてはならない。また、中にはHPを消費する魔術も存在する。
現在、研究が進められている魔術である。
◆属性魔術:光
魔力を光に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
一部のエレメンタルシールド以外の魔術防御力を無視してダメージを与えることのできる攻撃魔術や、強力な補助、回復効果を持つ魔術が多く存在する魔術カテゴリ。
《マジックマスタリ:属性魔術:無》《マジックマスタリ:神聖魔術》に加え、CL、Minが一定以上になった時に取得可能になる。
◆属性魔術:闇
魔力を光に換えて様々な現象を引き起こすことのできる魔術である。行使に必要な媒介は真語の『詠唱』。
一部のエレメンタルシールド以外の魔術防御力を無視してダメージを与えることのできる攻撃魔術や、魔術を打ち消す対抗魔術等の魔術が数多く存在する魔術カテゴリ。
《マジックマスタリ:属性魔術:無》《マジックマスタリ:影魔術》に加え、CL、Wisが一定以上になった時に取得可能になる。
◆概念魔術:無
魔術の現象化を行わない概念魔術のうちの一カテゴリ。
行使に必要な媒介が存在しないのが特徴で、準備時間も存在しない。
魔術的な効果のみが発生する特殊な魔術である。
《マジックマスタリ:属性魔術:無》、CLが一定以上になった時に取得可能になる。
◆概念魔術:虹
魔術の現象化を行わない概念魔術のうちの一カテゴリ。
行使に必要な媒介が存在しないのが特徴で、準備時間も存在しない。
感覚能力に魔術的な効果を及ぼす特殊な魔術である。
CL,Int,Wis,Luckが一定以上であり、習得した魔術の合計レベルが200以上になった時に取得可能になる。
◆概念魔術:時
魔術の現象化を行わない概念魔術のうちの一カテゴリ。
行使に必要な媒介が存在しないのが特徴で、準備時間も存在しない。
時間に干渉する魔術的な効果を及ぼす特殊な魔術である。
《マジックマスタリ:時空魔術》、CLが一定以上になった時に取得可能になる。
◆古代魔術:始
遥か遠い古の時代に忘れ去られた魔術。
行使に必要な媒介は特別な『儀式』。
遠き過去に失われた古代の兵器や兵を作り出す特殊な魔術が存在する。
取得方法は不明。
◆古代魔術:終
遥か遠い古の時代に忘れ去られた魔術。
行使に必要な媒介は特別な『儀式』。
遠き過去に失われた古代の攻撃魔術、純粋な魔力エネルギーを射出する魔術のみが存在する。
取得方法は不明。
◆禁術
魔法を完全に無視し、独自の経験だけで作り出したオリジナルスペル。禁術を扱う者は異端として扱われる。
現在この魔術については謎に包まれている。
取得方法は不明。