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Material World Online  作者: カヨイキラ
2.Sword & Sword
36/39

Dari'hates 5

 

「マズいですねこれは……」

 僕の腕の中で、リースが呟く。

 見上げるはルディオの街並。ところどころに火が上がっていて、黒雲舞い、雨嵐が炸裂している。魔術師の軍勢がいるのは間違いなく、おそらくあちらはPCで構成された特殊騎士団のほとんどを自国の防衛ではなくルディオの攻城にあてたのだろう。なにせ、戦争の敗北条件は降参か代表の死亡だ。王が先陣を切っているのなら、攻撃と防衛どちらにもあてられる前線になるべく戦力をつぎ込むのは正しい。

 そして、ルディオが自国の防衛にあてた特務騎士団員の数はといえば──

 「ユリシアさんとマッコイさんが心配です。急ぎましょう」

 「僕、ずっと走ってて、さすがに、疲れたんだけどっ」

 「あ、いい魔術がありますよ。慈愛神から愛を込めて──《ヴァイタルウィッシュ》」

 僕の体をオレンジ色のフラッシュエフェクトが包む。

 途端、体が軽くなったような感覚。

 「あ、れっ。楽になったような?」

 「慈愛神にしかない体力回復魔術です。便利でしょう?」

 「うん、それ凄いよ」

 僕は再び足に力を込め、平原を駆け抜ける。

 やがて見えてくるルディオ城門。そこには既に中へと突入された跡がある。恐らく、帝国が真っ先に狙うはアーチー。城下町を突破されたのでは、城に立て篭もっているのだろうか? となると帝国が狙うのは、城下町。破壊活動を続け、アーチーが出てくるのを待っているというのが一番ありそうな話だ。 

 すぐにでも、やめさせなくてはならない。

 「多分今まともに動けてるのって僕達だけだよね?」

 「遅れてなずなさんもやってくるでしょうけどね。あと、なずなさんと一緒に行動しているはずの"硝煙"さんですけど、多分先ほどの魔術師さんを倒してさっさとルディオに戻ったものだと思いますよ?」

 そういえば、ルクと呼ばれた叔父さんの仲間の魔術師は切り傷一つなく戦闘不能になっていたのだった。なずなによるものでないのは明らかだ。

 「それじゃあ、頼りになるのは"硝煙"さんと正規騎士団かぁ……」

 「正規騎士団は余り頼りにならないでしょう。きっと、向こうの正規騎士団に押されているはずですよ」

 「うーん」

 そう、ルディオの正規騎士団は正直なところあまり強くない。

 指揮官(コマンダー)は中々優秀な人物らしいのだが(これはPC)、なにしろ兵の質が悪いらしい。

 

 「ユウさん! あれ!」

 

 はっ、として城門のすぐ近くを見る。

 数々の折れた剣、砕けた鎧欠片、おびただしい量の血に囲まれて、倒れる一人の人影。

 急いで駆け寄る。

 「ユリシア!? なんで、こんな……っ」

 純白の鎧はところどころ魔術による破壊の跡が見られる。彼女自身も深い傷を負っていて、酷い有様だ。唯一不思議なほどに光を放っているのが、彼女の愛剣"雪原"。

 「──《アウェイクン》」

 リースがユリシアの額に手を当て、覚醒の魔術を行使する。

 慈愛の光がユリシアを包み、彼女のHPバーを幾分回復させた。

 「……流星、黒き羽……」

 彼女は雪原を手に、立ち上がる。綺麗な栗色のシルキーウェーブも、血にまみれて乱れている。

 「星屑王、あれに勝てるのはユウ。ユウだけ」

 「僕だけ……? それって、どういう」

 「星屑の剣技。流星の対極の剣技を、使う。私は町の特殊騎士団を潰す。──こんな、」

 ぷるぷると手を震わせながら、雪原を握る。普段は表情のないユリシアだが、この時は違った。

 真っ赤な憎しみに包まれたその表情。

 「ま、待ってください。回復を……」

 「必要ない──《レイジ(私の怒り)》」

 まるで雪崩のように、彼女の怒りが爆発のようなフラッシュエフェクトとなって天まで届いた。雪原が唸りを上げ、聞こえるはずはないのに剣が鳴動しているような、そんな錯覚に囚われる。

 ユリシアはフルアーマーとは考えられないような速度で怒りのオーラを放つ両手剣を下げ、町を駆けていく。

 

 「恥ずかしかったんでしょうね」

 「え?」

 「星屑王に敗れて、それをユウさんに任せることが、ですよ。あんな風に、面と向かって言える人なんて滅多にいないですけど。

 行きましょうユウさん」

 「うん」


 僕は再び走り出す。走りなれた城下町を、風を受け一心に走る。

 民家には火が放たれているところも多く見受けられる。許さない、絶対に。

 広場、バザーは勿論やっていない。普段は活気ある場所が、今はこうして不気味な沈黙に包まれているのが悔しい。

 商店街の一角を抜けたところで、僕を声が呼び止めた。

 「おい流星!」

 「っ!? て、リオさん!」

 そこには、カカーリオの扉から顔を出すようにして、一人の男性。

 ルディオ最高の武具職人だ。

 「お前、随分前にこれを作ってほしいって言ったな!」

 リオが1セットの金属具を僕に手渡す。複雑なギミックが取り付けられた、ブーツ用格闘刃(ブーツプラスエッジ)

 戦闘において、足技も重要だということを悟った僕は、足でも有効な攻撃ができるように、ハルのようにブーツに取り付けられるエッジを注文したのだ。

 「あ、ありがとう!」

 「代金は、特務に請求しとくぜ。絶対に救えよ、この国を」

 「はい!」

 ととんっ、と1,2度ステップを踏んで調子を確かめる。このブーツプラスエッジはサイドエッジ型で、ハルのように踵に取り付けられているものではなく、足の側面を使って斬りつけるタイプだ。したがって、蹴り攻撃と斬り攻撃を使い分ける必要がある。

 

 「……3、4、7? 7人……」

 リースを降ろす。 

 「敵ですか?」

 「うん、多分。かなりの人数だよ。帝国通常騎士団ならいいんだけど……」

 路地の四方から、囲むようにして一斉に人影が飛び出す。

 黒い外套に身を包んだ騎士が、二人一組、そして三人一組の計五人。

 

 ダンッ(、、、)


 渇いた火薬の音。

 飛び出した特殊騎士団の一人が、大きく吹き飛ばされた。

 「ここは君らの見せ場じゃぁねぇ。──俺らの見せ場なのよぉ♪」

 「そうじゃな。ワシらに任せい」

 "硝煙"クリスタ、"砂漠の花"マッコイ。

 二人は、僕とリースを逃がすようにして一つの路地に立ちふさがった。リースが小さく頷いたのを見て、僕は迷わず駆け出した。

 


 ルディオ城。

 正規騎士団と、帝国の騎士団が戦っている。凄まじい人数だ。

 こうしてNPCの騎士同士が争っているということは、まだ城には突入されていないのだろうか? すると、城門付近の前線で戦っているのはお互いの特務、特殊騎士団?

 「リース、エアウォーカーで城門の上に。僕はイクシードで一気に前線まで行く」

 「分かりました。城門の上からなら援護し放題ですしね。それでは──《ウィッシュ》《ブレスウェポン》《ピュリフィ》《ヴァイタルウィッシュ》《エアダッシュ》」

 ありったけの援護魔法を受けて、僕の体が眩い光に包まれる。

 「絶対、死なないでくださいね?」

 「当たり前だよ」

 くすり、と笑って、鞘からルァエティを抜き放つ。

 リースがエアウォーカーで城門に飛んだところをしっかりと見届けてから、一つ深呼吸。


 「《イクシード》!」

 

 対象は、20m先の一人の特殊騎士団員。接近が目的だけど、まずは一人脱落してもらうっ!

 一筋の流星が流れ、巨大なスラッシュエフェクトと共に不意打ち判定の成功、JustHit!のシステムメッセージが表示され、騎士のHPを全損させた。

 どよ、と戦闘の流れが一転したことに、辺りがどよめく。

 

 帝国騎士の列から、一人の男が歩み寄る。男は片手を上げると、帝国騎士達は静まりかえり、戦闘にこう着状態が生まれた。ルディオの騎士達も、不用意には近づけない。

 「今の、星の剣だな?」

 僕に歩み寄ってくる男。

 黒く、逆立った髪。茶色い瞳に深い隈。悪魔のような表情で、耳には趣味の悪いシルバーのピアスがいくつも付けられている。

 真っ黒い豪奢な外套に身を包み、体は漆黒のピンポイントアーマーに包んでいる。その手には一振りのやや刃渡りの長い漆黒の片手長剣。左手には手甲を嵌めている。

 「流星の剣技。僕は、"流星"のユウ」

 「俺様は"星屑王"ヴァッツ」

 王というよりは、どこかロックミュージシャンのような雰囲気を漂わせている。

 「元星屑王、じゃない?」

 「んだと?」

 胸倉掴みかかる勢いでガンを飛ばしてくる星屑王。

 僕は腰から一本の剣を抜く。

 爛々と煌く装飾剣、継承の剣。

 「聞け! ダリヘイツの兵! 今ここに新王、"流星王"の即位を宣言する!」

 「なにっ!? 継承の剣だと!?」

 ダリヘイツの兵達は一斉にひれ伏す。当然だ、システムで規定された王の剣、それにNPCが逆らえるはずがないのだ。

 「帝国騎士団および、帝国特殊騎士団の解散を宣言! 兵達はすみやかに帝国へと帰還すること! 戦争の宣言を──撤回する!」

 僕のその宣言に答え、兵達が一斉に武器を引き、逃げるようにして走り去る。町の戦争状態も解除されたようで、破壊不能オブジェクトは破壊不能属性を再び宿す。 

 戸惑っているのが、PCの特殊騎士団達。現在では星屑王の他に前線に立っているのは二名。

 「テメェ……」 

 殺意を込めた視線で僕を睨むヴァッツ。

 「王に対してその態度はどうかと思うよ?」

 「ばっ、馬鹿にしやがって! ブッ殺す! おいてめぇら! やるぞ!」

 一斉に剣を抜く。

 僕は継承の剣を鞘に収める。こんな装飾剣、戦闘に使える代物ではない。

 

 改めて状況を確認する。

 城門の上で隠れているリースに、前線の僕。

 相手はヴァッツを含めた三人の剣士。


 Quest Climax! のシステムメッセージを読み流しながら、緊張しながら剣を構える。他の二人はどうだか分からないが、ユリシアを倒すほどの実力の剣士だ。

 


 「《フォーメーション》」

 クイックスキルの光が、体を包む。

 次の瞬間、僕は違う場所に立っていた。

 「え……?」

 「よくやりました、"流星"、"黒き羽"。──助力します」

 そこに立っているのは、

 ドレスアーマーに身を包んだ、ルディオの継承者、アーティアチリィ・ルディオ。

 見ると、リースは僕の隣にいる。これもクイックスキルの効果なのだろうか?

 ともあれ、これで状況は3対3。

 力量の分からないアーチーの力を頼るしかない現状。


 ダリヘイツとルディオの最後の戦いが、始る。






・Skill information


《ヴァイタルウィッシュ》 Horymagic/神聖魔術(慈愛神)

 コスト:120MP 詠唱:30sec.

 対象:単体 射程:至近

 対象の体力を50%回復させる。

 取得、使用には慈愛神への信仰が必要。

 取得にはマジックマスタリ:神聖魔術10レベル以上が必要。



《ウィッシュ》 Horymagic/マジックマスタリ:神聖魔術(慈愛神)

 コスト:(40+SL×20)MP 詠唱:3sec.

 対象:単体

 射程:50m

 対象のHPを(Min÷10+10+SL×35)の回復値で回復する。 

 使用、取得には慈愛神ノイへの信仰が必要。

 取得にはバシネス10レベル以上が必要。



《ピュリフィ》 Horymagic/マジックマスタリ:神聖魔術(慈愛神)

 コスト:(40+SL×8)MP 詠唱:6sec.

対象:単体 射程:30m

 射程内の武器一つを対象とする。

 対象の攻撃力を+(120+SL×15)点。90秒持続。

 使用、取得には慈愛神ノイへの信仰が必要。

 取得にはブレスウェポン10レベル以上が必要。



《フォーメーション》 Quickskill/汎用

 コスト:25Soul 

 対象:味方ユニット(SL)人 射程:視界

 対象をあなたを中心とする半径3mまでの位置に任意に配置する。

 その戦闘中、このスキルの対象としたユニット全員をあなたの隊列員として扱う。

 


《フォーメーションⅡ》 Quickskill/汎用

 コスト:50Soul 

 対象:味方ユニット(10+SL)人 射程:視界

 対象をあなたを中心とする半径5mまでの位置に任意に配置する。

 その戦闘中、このスキルの対象としたユニット全員をあなたの隊列員として扱う。 

 取得にはレベル10以上が必要。フォーメーションⅡを取得した場合、フォーメーションは使用できなくなる。

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