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Material World Online  作者: カヨイキラ
番外編 - Off/On:Line
31/39

猫屋敷

 ルディオ城下町。

 常に人が絶えることなく道を賑やかしている。とても活気に溢れた町であり、他の国からやってきた旅人などが度々定住してしまうほどだ。

 広場ではバザーが催されているのか、色とりどりの旗が掲げられていて、いくつもの簡易商店が開かれている。僕はてっきり、あれらはNPCの通常商店なのかと思ったが、実はそうではないらしく、ああいった簡易商店の多くはプレイヤーがアイテムを出品する商店らしい。

 僕は、それをルディオの城から見下ろしていた。

 「ここからの景色は好きか?」

 突然背後から現われ、そう問うた女性。

 袴姿に、戦羽織。両腰には一本ずつ佩かれた刀。

 黒く長い髪。しかし、まるで流血の跡のように、いくつもの房が赤く染まっている。この不思議な色合いの髪は、純血種のものではない。純粋な黒髪は純血種の専売特許なのだが、こと彼女種族に限って言えば、『黒髪混じり』の髪も珍しくないという。 

 彼女、ルディオ特務騎士団団長"神剣"のなずな。特務の序列第一位にして、ルディオ最強の剣士。

 彼女は、オーヴィエルでは珍しい神族種である。

 直接の神の子であり、親はすなわち神である。彼女の親は遠い東の国が神、天照大神というらしい。そのためか、その国の象徴である黒髪と、陽の象徴である赤の髪が混ざっているそうだ。

 「うん──」

 「お前の家、こっから見えるんだったか?」

 「えっ」

 しまった、そうくるか。

 彼女、なずなは事あるごとに『キャラクターの設定掘り下げ』や『ロールプレイの振り』をする。ルディオ最強の剣士、彼女はRPをこよなく愛し、そのソウルを糧に戦うサムライなのだ。

 それでも、勿論悪い気はしない。

 そういえばユウの出生や家柄など、僕自身も決めていなかったのだ。MWOでは基本的に『言ったモン勝ち』なので、無茶な設定でも基本的に喋っていればシステムが拾ってくれる。

 「僕は、えーっと……孤児だったからさ」

 「へぇ、じゃあ家っつーのも変だな。ここらの孤児だとすると、猫屋敷か?」

 なずなが窓の外へと手を伸ばし、指し示す。

 そこは住宅地のはずれ、やや大きいが年季のある屋敷だった。

 「猫、う、うん。そうだよ。騎士になるっていってから、色々あったし、もう随分顔見せてないや」

 「ったく、屋敷出ならそうと言えばいいものを。俺からアーチーに言っといてやる。あそこの孤児達は元気で俺にもたまに挨拶してくれる──あれだけ孤児が多くちゃ、金銭面では辛いだろーしな」

 彼女が男性の喋り方をするのは、個性らしい。ユリシア曰く、彼女の喋り方はリアルのそれと全く変わらず、プレイヤーが男性だということで、無理のないRPともいえる。

 「うん、僕ももう騎士団員だし、屋敷にお金入れてあげないと」

 「ああ、そこも含めて気にすんな。お前の給金から引いておくようにちゃーんと言っておく」

 ははは、と和風美人な顔を歪めて豪快に笑うなずな。

 「うん、じゃあそれで。僕は、久々に顔出してくるよ」

 「おう、そーしろそーしろ」

 ひらひらと手を振るなずな。

 僕は城の廊下をやや急ぎ足に、歩いていった。







 『RPクエスト ルディオ,猫屋敷

 猫屋敷を訪れて、孤児と屋敷の主、ノアと会話をする。

 報酬:50Soul』


 「きたきた」

 クエストウィンドウを確認し、閉じる。

 当初は戸惑ったものの、MWOにはRPクエストというものがあるらしい。

 キャラクターに大きく関わるRPやそれをほのめかすような会話、RPをした時に主に発生したり、あとはNPCと深く関係を持ったりなどなど、様々なトリガーで発生するイベントのようなものだ。

 これらのクエストの報酬はゴールドや経験値ではなく、ソウル。こういったクエストをこなしていくことでキャラクター性を深めつつ効率よくソウルを稼ぐことができるというわけだ。

 

 ひた、と足が止まる。

 見上げると、そこには猫屋敷と呼ばれた屋敷があった。

 古びた洋館のような、風情漂う屋敷。その屋敷の庭に、何人かの子供達が遊んでいるのが見える。

 しかし、何故猫屋敷──

 「あーっ!」

 屋敷に踏み入れた僕を見て、子供達が大きな声をあげた。

 「「ユウにーちゃんだ!」」

 あ、そうか。僕はここの孤児院の出で、彼彼女らからしてみれば、僕のような年上は、兄貴的存在なのか。というか、家族同然ともいえるだろう。

 「ただいま、えーっと。ジャック、クリス、メディ」

 「「おかえりー!」」

 これは……いいかもしれない。

 兄弟のいない僕にとって、非常に新鮮な感覚だった。

 「ねぇねぇユウにーちゃん、騎士様になったんだよね!?」

 「うん、ほら」

 ばさり、と深緑色の騎士団外套をひらめかせてみる。

 「すっごい! 騎士様だ! 騎士様だ!」

 「騎士様だぞー」

 ばさばさとマントで遊ばれる。

 どこか和やかな気持ちになりながら、屋敷の門へと歩いていく。

 「ユウにーちゃん、今日からうちに帰ってくるの?」

 「んー……僕は騎士になったから、皆を護るために、お城に住んでるんだ」

 「そうなんだぁ……」

 「でも、大丈夫。たまにはこうして戻ってくるから」

 寂しそうな顔をするメディの頭をなでてやる。

 僕が屋敷に入ろうとすると、突然屋敷の扉が開いた。 

 「「ユウにーちゃん!?」」

 「っ!?」

 思わず後ろへ仰け反る。

 そこには、数十人もの僕の義理の兄弟達が、いた。



 

 客室のような、屋敷の中で他の部屋と比べて格段に綺麗な部屋。僕はそこまで通され、一人前として認められたかのような対応をされていた。

 「君も立派になったなぁ……感慨深いもんだよ」

 しみじみと、僕の前の男性が言う。

 彼の名前はジェイン。壮年の男性で、この猫屋敷の親らしい。つまり、僕の義理の父親ということになる。

 しかし、ここで一つ不思議な点がある。

 クエストに表示されていた、屋敷の主の名前は一体──

 「ええと、義父さん。ノアさんは?」

 「ノアか? ノアならそこにいるじゃないか」

 ほれ、と指を指してみせるジェイン。

 そこには、白い長毛の猫。

 ああ、猫ね。だから猫屋敷。

 しかし、それならそれで、まだ不思議な点がある。

 このMWOでは、NPC,エネミーとPCの区別が徹底している。例えば、町の中にいるなんでもないような猫だったりすると、猫の上にはキチンと『猫』と表示されているし、ルディオの城でユリシアが隠れて飼っている犬には名前がついているので、『ガディオン』と表示される。しかし、この猫はどうだろうか。頭上には、何の表示もなかった。

 「ノア? えーっと、ただいま」

 「…………」

 胡乱な目つきで僕を見上げるノア。

 というより、これは違う。僕には見えない何かを見ている。 

 例えばそう、システムウィンドウを見る目つきだ──

 「ユーウー? 久しぶりだねぇ……。騎士団に入ったのかぁ。

 まぁあれだねぇ……。元気にやってるようなら……ノア様としても嬉しいねぇ……」

 ありえない。

 PCで獣人種猫族というのはいるが、あれにしたって猫耳や尻尾が限界で、ほかは人間だ。でも目の前の猫はどうだろう。完璧にただの猫なのに、まるでプレイヤーキャラクターだ。

 というか、何で喋ることにツッコみがないのだろう。

 「ノアはほんとうに、猫みたいに天邪鬼だな。ユウが立派になって、炬燵から出て走り回りたいくらいに嬉しいだろうに」

 はっはっ、と笑ってみせるジェイル。今のは冗談だったのだろうか?

 「ノア様はそんなことはせんよぉ……。まぁこうしているのもあれさねぇ。下で子供達と遊んでおいで……。

 あああぁそうだそうだ、和叉(かずさ)にも挨拶しておきなぁ……」

 しわがれた魔女のような声で言葉を紡ぐノア。

 システムメッセージが伝える。

 この孤児院には、僕と、ノア、そしてあともう一人、和叉というプレイヤーがいることを。




 


 

 「アクァ──っ?」

 そこにいたのは、青い髪の少女。

 孤児達が元気に外で走り回っている中、一人、屋敷のロビーで静かに読書をしている。

 そこに、以前のような活気はなく、というよりもまず特徴的な兎の耳がなかった。

 「…………?」

 その青い髪の少女はこちらを向くと、不思議そうに一度目を細め、そしてシステムメッセージに気づいたのか、本よりやや高い目線で何かを読む。恐らく、僕の設定だろう。

 「えっと、ただいま、和叉」

 「帰ってくる必要はなかったのに」

 二の句が出ない。

 「孤児の皆を守るために騎士になった。あなたらしいと思うわ。

 でも、あなたは騎士らしく国の皆を守ってなさいな。孤児の皆は、私が守るもの」

 きっ、と鋭い視線を浴びせられる。

 恐らく、僕が介入したことによって、孤児を一人で守るという立場が失われたために、僕に対して怒っているのだろう。なんとなく分かる気はした。

 「和叉が? ついこの前まではただの女の子だった君が?」

 言ったモン勝ち。

 「ばっ、馬鹿にしないで! ついこの前まで隣のおうちの犬に吼えられて泣いて逃げてたアナタが!」

 言ったモン勝ち。

 「君に何ができるんだい? ついこの前まで庭の木に登ったはいいけど降りられなくって泣いてた君が!」

 「もう中位の召還魔術は使えるようになったもの! あなたのほうこそ何かできるようになったの?」

 「僕はこの国で唯一の流星の剣技の使い手だよ! 僕こそが人を守るには相応しいと思うよ!」

 「私が!」

 「僕が!」

 視線が交錯する。

 「こぉれかずさぁ……。あんまりユゥを困らせるものではないよぉ。二人ともこの屋敷を守ってくれてるのは分かっているのよぉ……。

 ユウはお給金を削ってまで屋敷にお金を入れてくれているようだよぉ。さっきお城の兵士さんが伝えてくれたのさぁ……」

 階段をよたよたと下り降りるノア。

 「む……」

 「ユゥも、安心しぃ……。和叉は必死に勉強してとぉっても強い魔術を覚えてるのよぉ……。だからこの屋敷は大丈夫……。

 ユウは気にせずに、自分の道を歩くがいいよぉ……」

 そこには得体の知れない迫力があって、頷くしかなかった。 

 



 



 「──っていうのが、僕の家族」

 「なんというか、インパクトありますね」

 ルディオの特務騎士団用の詰め所。

 そこで、リースと家族について会話をしていた。

 「今度機会があったら私も行ってみたいです──そのノアさんという方が気になりますので」

 「ああ、あれは僕も気になるかも」

 多分魔術ですけどね、とだけ言って、僕とリースは城門の警備に赴くのだった。






 801話第二段、番外編はこれで一旦お終いになります。

 本編で語るに語れないユウの出生と、ユリシアさんの日常でした。

 それでは、ユウのキャラステータスを公開して番外編を閉じたいと思います。

 次回から、第二章を引き続きお楽しみください。








PCName:ユウ

Level:9

Exp:230350/279480

Sex:Male

Race:PureBladd

Soul:58

HP:226  【所持可能重量】 155

MP:209  【基本移動力】 175

Str:146  【基本命中力/魔術】137/51

Dex:128  【基本攻撃力/魔術】274/85

Int:43  【基本防御力/魔術】92/21

Agi:142  【クリティカル抵抗】35%

Vit:49  【攻撃─魔術攻撃力】292/304/304 - 85

Wis:42  【防御─魔術防御力】142/147/142 - 21

Min:43  【移動力】 186

Luck:71  【ランダマイザー】 2D6

sen:4


◇character

・流星            攻撃速度+5%


◇Equipment

・ナズメタルロングソードLv7    18/30/30

・リアスチールカイトバックラーLv7 15/15/15

・リオジャケットアーマーLv8   25/30/30

・ハイレザーブーツLv3   2/2/2 move+6

・オープンフィンガーグローブLv3 3/3/3 Hitrate+3%

・ルディオ特務騎士団外套Lv0 5/5/5 move+5


◇Skill

《オールラウンド》

《オールラウンドⅡ》

《マルチアクション》    

《イクシード・フォーム》

《イクシード》

《ウェポンマスタリ:剣》5

《ウェポンマスタリ:小型盾》5

《リベレイション》5

《バッシュ》2   

《剣界》4

《ルナブレイド》4

《アーマメントマスタリ:軽鎧》6

《フルディフェンス》

《アーマメントマスタリ:靴》

《アーマメントマスタリ:手袋》

《鑑識眼》

《水中行動》

《スカウト&レンジャースキル》4

《ウォーリアスキル》3

《トレーニング:Str》4

《トレーニング:Dex》3

《トレーニング:Agi》3

《ムーブアシスト》3

《ライフブースト》

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