ユリシアさんの日常
時刻は13時ジャスト。
いつもの位置、これは比喩などではなく、1mmたりともブレない、完璧にいつもの定位置。ほんの少しも動くことなく、完璧なポジション。
服装に一点の乱れもなく、髪型も完璧。長い前髪は目を隠し、肩までかかる漆黒のシルキーウェーブの髪。彼の趣味ではないようだが、これは私のアイデンティティ。譲るわけにはいかない。
スカートはやや短めに、ソックスは黒のハイソックス。彼の趣味は完璧にリサーチ済み。
「…………」
おかしい、彼は平均して13時01分前後にはここに到着しておよそ七割の確立で「よぉ」と第一声を私に向けて放つのに。
手が汗ばむ。あまりのイレギュラーな事態に、脳が沸騰しそうになる。
膝が震え、動悸が激しくなる。
「エリ、エリ、レマ……サバクタニ。エリ、エリ、レマ──」
「ストップストップストップ! お前今日は何!? いきなりキリスト教にでもなったか!?」
「13:02。今日は、遅い」
「俺の質問はスルーかよ」
私の目の前には、彼が立っている。
茶色の脱色した髪をいわゆる無造作ヘアとしてまとめた髪、やや細めの目に、人の良さそうな笑顔。細身ながらも肉つきはよく、健康的なスタイルをしている。
男子制服を着崩しながらも見事に着こなしていて、清潔感のある雰囲気からも、女子生徒からは人気が高い。
坂井学。
そんな彼と、二人で隠れて昼食を採るこの時間こそが、私の一日の幸せの実に98%を占めているといっても過言ではない。
彼とは対照的に、私の周りからの評価は低い。自覚しているどころか、冷静にそれを分析した上でこう言えるのだ。地味な容姿に、性格。勉強だけはそこそこできるほうだが、それ以外はサッパリ。これといった趣味はオンラインゲームだけしかない。周りからの呼称はメンヘラ女。
そんな私が何故彼のような人物とこうして昼食を採っているのかと言うと──
簡単な話、弱みを握っているのだ。
「別にキリスト教になった覚えはない」
「あっそ。んで、なずなさんにはバラしてねーだろうな?」
「バラしてない」
私の携帯を見て、忌々しげに問う彼。
なずなさん、というのは彼の想い人だ。一学年上の三年生で、生徒会長。今時珍しい和風美少女とでも言おうか、和な雰囲気をまとう女子生徒だ。当然、私からしてみれば敵であり害虫である。
そして、彼、坂井学がMWOで使用しているキャラクターのネームは『なずな』。容姿もジャストで生徒会長なずな氏本人をオーヴィエルに連れてきたかのような容姿。これを映したスクリーンショットを、新聞部にメールで送ると脅しつけているのだ。
彼も私も、MWOプレイヤーだ。
元はと言えば、私がずっと気になっていた彼がMWOをやっていると、会話の端で聞いたのがきっかけだった。
私はその日、いてもたってもいられずにMWOをセットアップし、すぐさま始めた。
キャラクターメイキング時の質問には全て彼の会話の端で聞いていたルディオや、騎士、などと言った単語をとにかく話し、キャラクターステータスも完全に近接型に。
そして願い叶ってか、私のキャラクター『ユリシア』はルディオの騎士となった。
そして出会った。
あの憎き生徒会長の顔をした、あのキャラクターに。
当初こそ、まさか生徒会長がMWOをやっているのか、と思ったが、そうではなかった。
あの容姿で、一人称は「俺」。挙句に、男口調で豪快に話す。一発でわかってしまった。これが、彼だということに。
例えヴァーチャル世界だとしても寄り添いたいというのに、それが憎き害虫の姿かたちをしているのだ。やりきれないにも程がある。
私はそのキャラクターをスクリーンショットで写し、正体を明かした。
その日から、私は彼を奇妙な圧力で縛り付けた。
「おい、おーい。何ボーッとしてんだよ」
「なんでもない」
私は彼のその一般的に言うところのキモチワルイ楽しみをバラさない。彼は私と学校の日、毎日私と昼食を共にすることでのトレード。
「そんで。んぐっ、昨日の話だけどさー。"流星"君はスタートクエストクリアできたのか?」
「できたと聞いた。昨日は迷いの森の魔族種の集落で宴会が開かれたから、ルディオに帰るのは今日になるらしい」
ルディオのツートップ、"神剣"なずなと"雪原"のユリシアの奇妙なまでの連帯感は、こうしたリアルでの関係があるからということを、オーヴィエルでは誰も知らない。
「流星の剣技、今日帰ったら見れるわけだな。今日は特訓ナシにしよう」
「それは合理的じゃない。流星も確か学生だったから、私達と帰宅時間はほぼ変わらないと見ていい。しかし流星達は森からルディオまでの移動時間がある。私達がいつも通りログインしても、彼らがいるわけじゃない」
「……ゲームのことだとよく喋るよな。まぁ、分かった。じゃー特訓はいつも通りにして、流星達が来そうな時間に城に戻ろうぜ。
つーか由里、お前ほんとそんくらい饒舌なほうが周りからいい目で見られんじゃねぇ?」
「喋るのは得意じゃない」
現に、由里と呼ばれただけで上がってしまうほどだ。
「知ってっけど」
っはは、と笑ってみせる彼。
「よっし。それじゃあ俺はそろそろ教室戻るな。また、オーヴィエルで」
「ん」
彼が鞄に弁当を片付けていく。
屋上を出て行くのを律儀に見守る。
「もっと、食べるの遅ければいいのに──」
未練がましく、閉じてしまった屋上の扉を見つめる。
もう昼食を食べる気なども起きず、弁当を片付ける。
今日の残りの幸せはあと2%。それも、家に帰ってからのこと。
午後の憂鬱な授業を思い溜息をついて、月城由里は、教室へと足を運んだ。
◇
「遅い」
「別に、そうでもねーだろ」
ルディオからやや離れたところにある山脈、その麓。
私と彼だけの秘密の特訓場。
数多くの魔性の化物が出現するこのエリアで、毎日のように狩りを続けている。
「そんじゃ、流星達が来るまでいつも通りやろーぜ」
「ん」
彼、オーヴィエル内での彼女は、両腰の鞘から刀を引き抜いた。
私も彼女に習うようにして、背中から大剣を抜く。
「討伐数、私が勝ったら明日から私が弁当作る」
「なんだそれ? 俺めっちゃ得してね? ──じゃあ俺が勝ったら、どうしようかな」
二人してモブモンスターを切り刻み続ける。
このもう一つでの世界のやり取りも、一応はユリシアの幸せなのだった。
やや遅れてしまいましたが、正月に公開を予定していたオマケエピソードその1です。第一回はユリシアさんの中の人を描いた801話。大変短いちょっとしたお話ですが、個人的には絶対に書いておきたかったエピソードです。
第二章に入る前のオマケとして、他のキャラクターのちょっとしたエピソードと一緒に、感想でも言われていたキャラクターステータスの第一回公開を行いたいと思います。
※本編で公開されていなかったスキルデータも同時に公開します。
PCName:"雪原の"ユリシア
Class:ガーダー
Level:14
Exp:2023750/2186780
Sex:FeMale
Race:Magy
Soul:1220
HP:797 【所持可能重量】 177
MP:771 【基本移動力】 107
Str:163 【基本命中力/魔術】278/110
Dex:264 【基本攻撃力/魔術】355/192
Int:96 【基本防御力/魔術】534(574)/90(164)
Agi:106 【クリティカル抵抗】90%
Vit:353 【攻撃─魔術攻撃力】511/495/453 ─ 192
Wis:96 【防御─魔術防御力】919/904/979 ─ 214
Min:181 【移動力】 127
Luck:95 【ランダマイザー】 10D10
◇character
・『雪原』 氷属性ダメージ無効
・無口 基本魔術防御力+10
・ガーダー 基本魔術防御力+20
◇Equipment
・雪原の宝鍵Lv10 156/140/98
・アークィバスアーマーLv14 125/125/180 move-10
・ヴァルキュリアLv10 50/50/90 mdef+50
・ナイトグローブLv10 120/100/80
・ハイクラシックグリーブLv10 45/50/50 move+25
・ルディオ特務騎士団外套Lv0 5/5/5 move+5
◇Skill
《イモータル》
《フィールドセンス》
《ナイトハイカー》
《バニッシュ》
《ウェポンマスタリ:剣》10
《バシネイション》10
《バシネイションⅡ》4
《マジックブレード》10
《エッジディフェンス》10
《オーラブレード》
《アーマメントマスタリ:重鎧》14
《アーマメントマスタリ:ヘルム》10
《アーマメントマスタリ:ガントレット》10
《アーマメントマスタリ:グリーブ》10
《ランダマイズアップ》
《鑑識眼》
《魔術眼》
《バトルスキル》10
《レストスキル》10
《ライフブースト》10
《ディフェンスアシスト》10
《トレーニング:Dex》9
《トレーニング:Min》9
《トレーニング:Vit》9
《イモータル》 Passiveskill/魔族種
※キャラクターメイキング時に自動取得
あなたの最大MPを+(CL×CL)する。
あなたには寿命がない。
《フィールドセンス》 Passiveskill/魔族種
※CL3以上で自動取得
あなたは環境によるペナルティを受けない。
《ナイトハイカー》 Passiveskill/魔族種
※CL5以上で自動取得
あなたは明度によるペナルティを受けない。
《バニッシュ》 Passiveskill/魔族種
※CL10以上で自動取得
あなたが受ける攻撃魔術によるダメージを-(CL×CL)する。
《ランダマイズアップ》 Passiveskill/汎用
行為判定に使用するランダマイザーを10D10に変更する。
取得にはCL10以上が必要。