Memory 4
ルディオ城下町鍛冶工房、カカーリオ。
聞けばそこは、基本的に高レベルプレイヤー(現在では18レベル以上)、もしくは紹介、特務騎士団のPCの注文しか受けないといういわば高級鍛冶店であるらしい。
店主のリオは外見こそぶっきらぼうであるが、ルディオが国から指名したほどの鍛冶職人らしい。特務騎士団の団長の友人であり、彼もまたハイレベルのプレイヤーだということだった。
僕は今、そんな高レベルな鍛冶工房に来ていた。
「ほれ、注文の品だ」
くいっ、と指で示した先には木箱があり、その中に僕がオーダーした全ての武具が入っていた。
僕はその中から、ルディオの紋章が刻まれた鞘を取り出し、そこから剣を引き抜いた。
飾り刃の部分に、よく分からない文字で何かが書かれている。
「ナズメタルロングソードLv7。注文通り打突特化で超耐久だ。素材がよかったから、加工すればレベルは15までは上げられるぜ」
「ありがとうございます!」
僕は早速ナズメタルロングソードをベルトに引っ掛け、装備する。前よりも重くなっているが、ユウの筋力も上がっているので丁度いい重さに感じる。それに、刃渡りが長くなっているようなので近接戦闘も楽になりそうだ。
僕は続けて木箱を漁る。中から不思議な感触のジャケットを取り出す。
「そいつはうちの秘伝レシピで作ったジャケット風軽鎧だ。一切の行動障害なしに既存の鎧と同性能の防御値! 大切に使えよ」
僕は革鎧を脱ぎ捨てて、黒いシャツのようなインナーの上にジャケットを羽織った。若干重いが、着心地は大変良い。色合いも本革の質感を損なわない茶色で、非常に格好いい。
「そうだ、アンタにはおまけも用意してある。経験点は余ってるな? アーマメントマスタリで靴と手袋を1レベルずつ取得しな」
「あ、はい」
僕はスキルウィンドウを展開して、言われた通りに二つのマスタリを取得した。あわせて500経験点。今の僕には安い数字ともいえる。 「その箱の中に3レベルのブーツとグローブを用意してある。オールラウンドはほんとに便利だな」
リオはにやっと笑うと、顎で木箱を示した。
オールラウンドとオールラウンドⅡの効果で、僕の取得しているマスタリ効果は+2されているのだ。
僕は木箱からやや長めの革製のしっかりとしたブーツと、オープンフィンガーのグローブを取り出した。
「凄い……」
どれも保温性や耐久性などに優れているだろうことが一目で分かる。旅人の助けとしてはこれ以上なさそうなくらいの代物だ。
「あ、悪いな。ロングブーツで作っちまったからあんたのズボンにゃ合わねぇか。折角だから後で服屋でも覗いてみるといいかもな。ブーツパンツとかも結構いいのが揃ってるんだ」
「服屋なんてあるんですか!」
「当然だ。こっからなら歩けば5分くらいでいける距離にな。
レッドムーンっていう店なんだが、あそこの裁縫師はいいセンスしてやがる。時間あったらなんだ、あの嬢ちゃんと一緒に行ってみるといいんじゃねえのか」
あの嬢ちゃんというのは、リースのことだろう。
「はい、そうしてみます」
僕はブーツとグローブを装備して、木箱から最後の装備品を取り出す。
鋭く光る銀色の垂直三角形をした腕を覆えるほどの大きさの盾。手で持つタイプではなく、腕にはめて使用するタイプのこの盾は、バックラーと分類されるものだ。
「軽い……」
「だろう? 錬金術師に頼んで素材を作ってもらったんだぜ。俺らの世界でいうところのステンレス+アルミスチールってとこか。それで防御力は大したもんだから使い勝手はいいと思うぜ」
「これは……使いやすいですね」
腰に掛けた鞘からロングソードを引き抜き、盾と共に構える。そのままひゅんひゅんっと素振りをしてみて、装備全体の使い心地を確かめる。
以前より重量感がありながらも、とても『流れ』に乗った動きができるようになっている。速度が、上がっている。
「ほー、やっと剣士っぽくなってきたじゃねぇか」
「そうですか?」
ばさりっ、とマントを翻して振り返る。
同時に、ようやく手馴れてきた納刀の動作を行い、静止。
「ところでリオさん、注文があるんですが──」
……………………
………………
…………
……
オーヴィエル時間、二時間後。
僕は王城の会議室へと呼び出されて来ていた。
やはり機能的な内装になっており、書類棚に大きな机、椅子程度のものしか置かれていない。なんでも、王城内部に金を使うくらいなら国民のために使おうという考えらしい。
中身が一般庶民なだけに、そのほうが落ち着くしありがたい。
「それで、何の用でしょう?」
この部屋には僕を含めて三人の人間がいた。
ルディオ国王のアシュレイ、その隣に腰掛けているのは、特務騎士団副団長であるユリシアだ。
「ユウ、君に任務を与えることになりました。国としての重要性は低いものですが、君にとってはとても大事な任務になるでしょう」
アシュレイは穏やかな口調で告げる。
「どういった内容ですか?」
僕は若干緊張しながら聞き返す。
「迷いの森再調査任務です。先ほどリースから聞いた話なのですが、迷いの森には何らかの魔術的な仕掛けが組まれているということでした。
消息不明の隊員を探せという訳ではなく、ユウ、あなた自身の記憶を探してきてほしいのです。恐らく、あなたの記憶障害は物理的な原因ではなく魔術的な原因だと私は踏んでいます」
「僕の、記憶……?」
「そうです。あなたの記憶、流星の剣は特務にとっては重要な力です。
迷いの森の謎を解き明かした上で、あなた自身の記憶も回収してきてください」
『System:スタートクエスト5/5を開始します』
「はっ、はい!」
システムメッセージの発生と同時に、僕は大きく返事をした。
『-流星の剣-
謎の剣技"流星"。かつてその使い手であったというあなたの記憶を取り戻し、ルディオ特務騎士団員としての実力を取り戻してください。
推奨環境:レベル10前後のPC三人以上のPT
クリア条件:迷いの森の謎を解き明かし、記憶を取り戻す。
クリア報酬:Exp+100000,《イクシード》スキル』
「それでは、後の交渉はユウに任せますよ。特務騎士団の精鋭三人を投入しても一人しか帰ってこなかった迷いの森、多すぎるとかえって危険かと思いますが、それでも何人かは必要でしょう。
あなたが指揮官に直接、交渉してください」
「ま、待ってください。その指揮官っていう人は……?」
「アーティアチリィ・ルディオ。第二万十五代目ルディオ継承者"ルディオの名を継ぐ者"──私の娘です」
ぎり、と不穏な音を立てて大きな木製の扉が開かれる。
アシュレイはゆっくりを立ち上がると、会議室を後にする。扉が開かれた先から入ってきた人物と、入れ替わるようにして。
視線の先には、漆黒のロングヘアー、気品溢れる佇まいの女性。
やや背丈は高く、目つきは父親のそれとは異なり、とても鋭い。すらりとしたドレス・アーマーを身にまとい、横を取り巻く兵士よりも強そうに見える。
そして特徴的なのは顔立ち。アシュレイ王とは似て似つかず好戦的で、線こそ細く整っているのだが、とても血気盛んなイメージを持てる。
「突然のことで驚かれたでしょう……"流星"。お久しぶりですね」
上流階級を彷彿とさせる柔らかいながらも鋭い口調。彼女、アーティアチリィ・ルディオはアシュレイのように頭上にPCネームが表記されていない。つまりは──僕と同じPC。
特務騎士団員スタートで驚いたのも束の間、世界には王族からスタートしたPCもいるようだった。
「あ、っと……えー、お久しぶりです、殿、下……?」
「ぷっ」
くすくすと忍び笑いをする殿下。付きの兵士達は仏頂面で静かに佇むだけだが。
「失礼しました」
兵士が陛下のために椅子を出すと、そこに優雅な仕草で座る。王族RPも大変そうだな、とふと思った。
「昔は殿下などとは呼びませんでしたのに」
「すみません。お聞きのことかと存じますが、記憶を失っているもので……」
「堅苦しくしなくて結構ですよ。昔は私のことは女王様と呼んでいらしたのに」
「へっ?」
今度はNPCの兵士達が一斉に笑い出した。
「じょっ、女王様! 我が国ルディオ、国王がアシュレイ陛下は現役ですぞ!」
うわっはっは! とがたいの良い兵士達が肩を震わせて大笑い。
「そうでしたわね。からかいのネタの通例ですのよ」
「ユリシアにも言われましたよ、同じこと」
「あら」
くすり、と笑う殿下。
「冗談です。改めて自己紹介しましょう──私はこの国の次代継承者、アーティアチリィ・ルディオ。親しい者達は私のことをアーチーと呼びます」
「僕は、ユウ。特務騎士団に帰ってきたばかりの、冒険者です」
「冒険者、いい響きですわね。ですがあなたは我が国の騎士。他所でそう名乗るのは感心しませんよ」
「は、はい。すみません殿下……」
「アーチー」
つーん、と澄ました顔で不服そうな表現を行う殿下。
「あ、あー、アーチー」
「よろしい。あなたは私の騎士団直属の騎士ですからね。私にとっては大切な人です」
言うが同時に、数人のNPC兵士から殺気の篭った視線を浴びせられる。まさかこいつら、AIの癖に僕に嫉妬してるのだろうか。
「あなたは名乗る際には"流星"と名乗ればよいのです。特務では二つ名で名乗るのが通例となっていますので」
「流星の剣、ですか」
「ええ。あなたが特務に入団できた理由でもあります。あの鮮やかな剣捌きを、もう一度見てみたいものですね」
「今はまだ、記憶と一緒に忘れてしまってますが」
「ええ、聞きました。もし記憶を取り戻すまでの間、あなたが"流星"の名を封印するというのなら、こう名乗るとよいでしょう。
ルディオ特務騎士団序列五位、と」
「序列五位、って。僕がどうしてそんな位に?」
「元々、特務騎士団員は11名でした。
"神剣"なずな、"雪原"のユリシアを筆頭に、新規入団者である"黒き羽"リースを除いた、あなたを含めた11名。
序列第三位"魔弾"のエルキュリア、現在イース大陸へ遠征中。
旧序列第四位"熱病癖"イザリオ、迷いの森にて失踪。
旧序列第五位"ドラゴンライダー"カルラ、現在イース大陸へ遠征中。
旧序列第六位"追求"の雅人、迷いの森にて失踪。
旧序列第七位"流星"のユウ、は今私の目の前にいますね。
あなたは元々序列七位に位置する団員でしたが、迷いの森の一件で失踪者が出たために繰り上がって、現在では第五位となっています」
ルディオ特務騎士団員の総数は11名。その中の中間に位置するのだから、そこそこのものなんだろう。しかも、この僕が、だ。
「でも、僕はそこまで強くないですよ」
「流星の剣こそ使えないものの、筋は悪くないとユリシアから報告を受けています。今回の任務の達成可否で序列に影響するかもしれませんが、現在のあなたは序列第五位だということを忘れないでください」
「は、はい。頑張ります」
「よろしい。では、ユウ。ここからが本題と言えるでしょう。
今回の任務に同行させる団員を指名してください」
クエスト内容にも書かれていたPC3人以上、というのはこのことなのだろう。恐らく、迷いの森探索は僕やリースが思っている以上に辛いものとなるのだろう。なにせ、特務騎士団員が二人も失踪しているのだから。
「リース……とは一緒に行きたいです。頼りになるし、リースには迷いの森の道に精通した精霊、ゼファーがついています」
「迷いの森の精霊と契約したのですか! 成程、それは同行させざるを得ませんね。
あと1,2人ほどは連れて行って構いません。要望がなければ適当にこちらで見繕って同行させますが?」
「正直、他の団員となるとユリシアしか知らないので」
本音だ。僕が記憶喪失ということも生きてきて、他の団員を知らなくても不自然ではない。
「それもそうですね。同行可能な他の団員について、おおざっぱに説明させていただきます。
まずは団長、"神剣"なずな。彼女は技術とスピードに特化した神人種のサムライです。ルディオ最強の剣士であり、大陸全土を見渡してもこれほどの使い手はいないでしょう。
次に序列第九位、"干渉"の坂井光一。ルディオ唯一の隠密屋、暗殺や斥候などを得意とする魔族種のアサシンです。
そして序列第十位、"砂漠の花"マッコイ。彼は……暑苦しい男です」
「なんか一人だけ凄い評価ですね」
しかし、やはりオンラインゲームというだけのことはある。PCは思い思いの個性的な名前で、世界観さえも無視した日本名PCもいるようだ。というか団長からして日本名な気がする。
「そして最後に序列第十一位、"硝煙"のクリスタ。特務騎士団で唯一の遠隔武器、銃を使うソルジャーです。同行は可能ですが今回の任務には向かないと思われます。何せ視界が悪い場所ですからね。
以上を踏まえて、私が勧められるのは"神剣"くらいでしょうか。悪路になることを考えて重装備の"雪原"は論外、暗殺の必要がないので"干渉"も除外、となるとなずなに頼るしか──」
非常にもっともな言い分に聞こえる、が。
「"砂漠の花"、さんはどうなんです?」
途端、アーチーの顔が「ええ……?」と、明らかに嫌そうな表情になる。何が不服なのだろう。
「確かに彼は適任でしょうが……でもわざわざむさ苦しい男を連れて行くんですか? それなら絶対に私は"干渉"を薦めますが」
「適任でしたら、"砂漠の花"さんがいいです。最近どうにも女性とばっかりいる気がして落ち着かなくてですね」
「贅沢な悩みですね、"流星"。記憶を失ってからはモテ期だとでも言いたいのですか」
「ちがっ、違いますって! まだ僕はその、男友達って呼べる人がいないので……。特務の男性陣くらいとは仲良くしておきたいなぁ、と」
これも本音だ。男子校に通う身としてはMWOのユウを取り巻く環境は嬉しいというよりもやや苦痛に近い。
「そこまで言うなら仕方ありませんか。では後ほど"砂漠の花"のほうにも任務を出しておきます。あなたは明朝までに準備を済ませ、リースと共に城壁前で待機していてください」
それでは、と席を立つアーチー。
流れるような動作で立ち上がると、兵達を従えてつかつかと会議室を出て行った。
取り残された僕は一人。
場の盛り上がり、を感じて、つい笑顔が漏れてしまう。
明日から、ユウの記憶を探す任務に赴く。
この事がどうしようもなく楽しみだった。
「さって! しっかり準備しないと!」
・System information
『装備品生産について』
MWOでは生産スキルを通じて、PC用の装備品を作成することができます。
ここでは装備品生産の詳しい手順を説明します。
1.生産方法を決定する
武器、防具、服、アイテムなど、種別を問わずに三つの生産方法が存在します。
一つは【レシピ】。これは、NPCが販売していたり、口伝で伝わっていたりするそのアイテムを作るためのレシピ通りにアイテムを作成する方法です。
二つ目は【アレンジ】。これは、レシピで使う素材の一部を変えたりして、新たな作り方を試みる作成方法です。
三つ目は【オリジナル】。これは、素材から加工過程まで全て自分の発想でアイテムを創りあげる作成方法です。
いずれの作成方法を選択してもアイテム作成は開始されます。
2.作成環境を整える
アイテムを作成するためには作成できる環境が整っていなければなりません。
ポーションを作成するなら薬品を調合するための施設やキット、鍛冶を行うなら火力を確保できる炉と鍛冶台、といったものです。
環境が整ったところで、アイテム作成の実行が可能になります。
3.材料を準備する
環境が整ったら次は、材料です。
作成したいアイテムに必要な材料を用意してください。
アイテム作成では必ず一つの【メイン素材】が存在します。【メイン素材】のレベルがイコールで完成したアイテムの最高レベルとなるので注意してください。
4.加工する
環境、材料が準備できたらいよいよアイテム作成です。
アイテムの種別に応じた加工を行い、目的となるアイテムを作成してください。