Memory 1
ルディオ城。
ルディオ王国の中枢部、その更に真ん中に位置するルディオの核ともいえる王城の内部である。
内装はファンタジー小説などでよく見られる絢爛豪華なものではなく、殺風景でこそないが、どこか実用的な造りになっていて驚いた。
「……なんだか緊張しますね」
僕の隣にはリースがいる。先導して歩いているのはユリシア。
なぜ僕達がこんな場所にいるかというと、そもそもがユリシアの言い出したことだった。
「報告と、保護の承認を」
王都に着くやいなや、早速ユリシアに王城へと連れてこられたのだった。
王城内部にはNPCの兵士や役人などが歩いていて、現実にこういった場所が存在しているような錯覚を覚えてしまう。
しばらくユリシアについていくと、ユリシアがこちらを振り向く。
「謁見の間に入る。失礼がないように」
「あ、うん」
装いを正そうとするが、そもそも服ですらない。バックパックを背負っていくのはアリなのだろうか? なんて考え隣を見てみると、リースが装飾剣を両手にあたふたしているのが見えて、どうでもよくなってしまった。
「まだ持ってたんだ、それ」
「戦利品ですから!」
僕達が話していると、ユリシアが早くしろといいたげな目線を送りつけてきて、リースの装飾剣を奪い取ると、ヤンキーが釘バットを肩で弄ぶかのようにしながら謁見の間の大きな扉を空いた片手で開けた。
それが失礼にあたらないのなら僕達も気をつける必要はないのだろう。
控えめな色合いの絨毯が中央に敷かれた、とてもありがちな謁見の間。僕の乏しいファンタジー知識ですらよく分かるほどだ。
部屋の両端には甲冑姿のNPC達が槍を脇に立てかけながら、兜越しにこちらに視線を寄せてくる。そして、その騎士達の作る道の先に、一人の男性がやや豪華な椅子に座りながらこちらを見つめる。
「ご苦労様です。ユリシ……ア、まずはその剣を降ろしなさい」
「分かった」
がらんっ、と装飾剣を床へ投げ捨てるユリシア。周りの騎士がびくり、と鎧の肩当を振るわせる。ついでにリースの眉もぴくり、と動いた。
「こほん。まずは任務の報告をお願いします」
頭上にNPC アシュレイと書かれた男性。
黒々とした髪は長く、背中で結っている。どこか女性的な顔立ちをしていて、学者肌とでもいうのだろうか、片目にかかったモノクルが酷く似合う。
衣装は国王のものとはとても言いがたい、白衣のようなものを着用していて、ところどころに薬品のような色合いのシミができていて、室内で動き回っていることが窺える。
「セノンで帝国の刺客の撃退に成功。剣士二人を討伐、魔術師を一人再起不能に。堕天使を一人保護、迷いの森攻略班のユウを回収。以上」
「大変分かりやすくて助かりますが、何があったのかさっぱり分かりません。もう少し細部まで報告していただけますか?」
はぁ、と眉間を押さえながら溜息をつくアシュレイ。国王というよりは、年頃の娘について悩む父親のような姿である。
「ルディオを発つ際に何らかの要因で記憶をなくしたユウと遭遇。今回の事件の被害者ということを聞いたので急遽任務に参加させた」
「ふむ……」
モノクル越しの視線を浴びせられる。何か言いたげな表情だが、
「ユウのことについては後でもう少し詳しく話しましょう。続けてください」
「ん。セノンに到着後、ユウの同行者、この堕天使と合流」
「リースです、覚えてください」
この堕天使、という物言いが少しツボに入ってしまい、笑いを堪える。リースに勘付かれなければいいけど。
「堕天使に変わりはない。民衆もおびえていたので、うちで保護することにした」
「……野良猫を飼うのとは訳が違うんですよ、ユリシア。──リースさん、と仰いましたね? 少し話を聞いても構わないでしょうか」
「は、はい」
突然呼ばれたことに身を硬くしながらも応答するリース。
「私はアシュレイ・ルディオ。この国の第二万十四代目の継承者です。天界の方は私の名を知らないでしょうから、名乗らねばなりませんね」
「ええと、リース、です?」
困惑している堕天使の図。ちなみに周りの騎士達はリースの姿に圧倒されているのがありありと分かる。
「ユウがお世話になったようですね。感謝します。
天からの使者が我が国に訪れるのは史実によれば四十二代も昔のことになります。まして、黒翼の使者が最後に訪れたのは、百代以上も前のことです。
当時の歴史書では天から落とされた災厄、または悪魔、などと書かれていましたが、私にはあなたの実態が分かりかねます」
やや強く、リースを見るアシュレイ。その瞳の奥の光には、どこか強い悩みの色が窺える。
「わ、私は──」
「リースは! そんな悪い人間じゃない!」
つい口に出してしまう。咄嗟に出た言葉なので、非常に頭の悪い台詞としか思えないが、それでも考えは伝わったようで、アシュレイは静かに微笑む。
「丁度うちには万年人手不足の部隊がありましてね……。
特に、魔術の適正があるものが不足しがちです。天族種のような魔術の才のある人間がいればどれだけ心強いか分かりません」
「…………?」
リースが小首をかしげる。
「特務騎士団。ユリシア、そしてユウが所属する騎士団。
正当な報酬も支払いましょう。もし入団していただけるのなら、あなたをルディオの特別国民として認めます」
「それは……」
先に口を開いたのはユリシアだった。
「特務は危険すぎる。天界からの使者を地上の汚い小競り合いに使うのか」
「その通り、危険な任務ばかりが待ち受けているでしょう。
ですが、リース。あなたが普通に地上を歩くのと、騎士団に所属すること、どちらが危険なのかはあなたが一番よく分かっていることでしょう」
堕天使は、その見た目や人々が受け継いできた童話、神話などで忌避されてきている種族だという。神々に反して天界から追放された存在、災厄の象徴。人々に恐れられ、常にその命を狙われる。
「分かりました」
黒い羽から微弱に漂う赤い燐光を揺らして、返事をする。
「騎士団、入ります」
「ありがとう。宜しく頼みます」
アシュレイは椅子から降り、こちらへ歩いてくるとリースへと手を差し伸べる。
華奢で色白のその手を、更に白く、小さいリースの手が握った。
「それで、ユウ」
「は、はい!」
国王だからなのか、話の切り替えが早すぎて妙に間が取りにくい。
リースの手を握ったまま話しかけてきている。どう対処したものか困っているリースと、ぼーっと突っ立っているユリシアを横目に、咄嗟に返事をした。
「先ほどユリシアがさらりと記憶喪失のようなことを言っていましたが、どういうことか説明してもらえますか?」
「ええと、まず僕はユリシアが言った通りに、記憶喪失です。
気がついたときには、迷いの森を越えた先、フェネオネっていう村の近くで倒れていました」
「迷いの森の先? つまり探索班は迷いの森を突破したのですね。他の隊員は、どうしたのですか」
「分かりません。僕以外に姿は見えませんでした」
「そうですか……。その先も話してください」
「とにかく何も覚えてなくて、流れに任せて進んで来ました。
その流れでリースと、僕の記憶を失くす前の友人と迷いの森をもう一度抜けて、王都方面まで戻ってきました」
一つ一つ思い出すようにしながら、報告する。
「それでセノンで、僕のことを"流星"だとかなんとか呼ぶ人に攻撃されて、リースに助けられながら王都まで逃げて、そこでユリシアに会いました。何だか分からなかったけど、特務がどうとか言って連れてかれて……」
「大体の話の流れは分かりました。探索班に何があったのかは分かりませんが、ユウ、あなたが帰還してくれたことは喜ばしいことです。
危険な道程だったと思います。次の任を言い渡すまで、しばらく王都で休養を取ってください」
にっこりと笑いかけると、アシュレイは騎士を率いて謁見の間を出る。
「ユリシア、二人に色々と教えてやってください」
「ユウはいい。リースを連れていくな」
小さい娘の手を握る父親のような自然さで、リースの手を握ったままだった。
「すいません、つい握り心地が良くて……」
「べ、別にいいですけど」
NPCって何なんだろう。
人工AIがここまで進化してしまうと若干恐怖を感じてしまう。
ゲーム初心者だからこんなことを考えるのだろうか。でもきっと僕は間違っていないはず、だ。
・Skill information
『汎用スキルルール』
汎用スキルの取得には、他のスキルとは違ったルールが存在します。
《ブースト》と名のついたスキルは1系統しか取得できません。
《スキル》と名のついたスキルは2系統しか取得できません。
《トレーニング》と名のついたスキルは3系統しか取得できません。
《アシスト》と名のついたスキルは1系統し取得できません。
《センス》と名のついたスキルは2系統しか取得できません。
上限取得数まで取得した場合、他の系統のスキルを取得することができなくなってしまうので、よく考えて取得してください。
《ウォーリアスキル》 Passiveskll/汎用
Strを+(SL×15)。
基本攻撃力、基本防御力を+(SL×5)
《バトルスキル》 Passiveskill/汎用
Vitを+(SL×10)。
基本防御、魔術防御力を+(SL×4)
《レストスキル》 Passiveskill/汎用
自動回復速度を+(SL×50)%
HP,MPを+(SL×5)
《キャスタースキル》 Passiveskill/汎用
Intを+(SL×15)。
魔術の詠唱時間を-1。(最低1)
《メイジスキル》 Passiveskill/汎用
Wisを+(SL×15)。
基本魔術攻撃力を+(SL×8)
《ヒーラースキル》 Passiveskill/汎用
回復効果のある魔術の射程に+(SL×5)m。
回復効果のある魔術の効果に+(SL×12)。
回復効果のある魔術のコストを-(SL 最低1)。
《トレーニング:○○》 Passiveskill/汎用
基本能力値毎に別のスキルとして存在する。
Str:+(SL×6)
Dex:+(SL×8)
Int:+(SL×8)
Agi:+(SL×12)
Vit:+(SL×6)
Wis:+(SL×8)
Min:+(SL×6)
Luck:+(SL×12)
《マナブースト》 Passiveskill/汎用
MP+(SL×12)
マナ自動回復速度を+(SL)%
《ライフブースト》 Passiveskill/汎用
HP+(SL×12)
ライフ自動回復速度を+(SL)%
《ヒールセンス》 Passiveskill/汎用
回復効果のある魔術の回復値に+(Min÷10 最大SL×10)。
《マジックセンス》 Passiveskill/汎用
射程が1m以上の魔術の射程を+(SL×3)m。
魔術による射撃、精密なターゲッティングを行うことができるようになる。
《ムーブアシスト》 Passiveskill/汎用
基本移動力を+(SL×8)
跳躍力を+(SL)。
《ディフェンスアシスト》 Passiveskill/汎用
武具で攻撃、魔術攻撃を防御した際、相手のヒットレートを-(SL×3)%
ディフェンスアシストの効果を受けている時、あなたが受ける最終的なHPダメージを-(SL×10)。