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Material World Online  作者: カヨイキラ
1.Orwiel
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Another World 2

 家に着く。もう日は暮れて、少し涼しい風が吹いていた。

 楽しみな気持ちを抑えきれずに、僕は玄関をやや強めに開けてただいま、と焦ったように言いながら靴を脱ぎ、家へ駆け込んだ。

 廊下を半ば走るようにして進み、自室の扉を開けた。


 そこには、ゆったりとした黒いソファ。否、ソファのように見えるが実際はとても長い名前のある機械。それは僕をもう一つの世界へと連れて行ってくれる魔法の道具なんだ。一本のコードが走っている。恐らくそれで回線に接続されているんだろう。僕の意識はあのコードから広い世界を受信するんだ。

 いてもたってもいられず、僕は制服の上着(浦葉高校に制服はないんだけど、僕の父さんは制服着用を僕に強要している。ちなみに詰襟)を脱ぎ、丁寧にハンガーにかけてからそのソファに飛び乗るようにして座った。

 すると、下のほうに不思議な感触。

 するすると尻のほうに手を伸ばしてみると、そこには冊子のような薄い紙の束が。表紙には『Another World Dive Device』と書かれている。ページをめくってみると、これが取り扱い説明書だということが分かった。

 最初のページには各部分の名称と役割の図解、次のページには使用方法や注意点、あとは保障だのなんだのがつらつらと書かれているいたって普通の取り扱い説明書だった。

 パラパラとめくっただけでその内容を理解し、僕はその冊子を投げ捨てた。物をやたらに投げるものではない、と怒られそうだけど、僕の意識はそんな些細なことには微塵も向いていなかった。

 まずはAnother World Dive Device、通称AWDDに深く座る。そして腕をもたれさせる部分、右手部分にあるボタンを目を閉じながら五秒間押し続ける。


 『ようこそ、Another Worldへ。ここではあなたが快適な生活を送るためにセットアップ作業を行います。

 あなたはAWDDを使うのは初めてですか?』

 

 無機質な声。それが機械の音声だということが分かる。

 おそるおそる目を空けてみる。

 そこには、真っ白い広大な空間が広がっていた。

 体の自由は利かず、どこも動かせない。とりあえず機械の問いかけに答えなくてはいけないみたいだ。

 でも、どうして? 最初に思ったのはそんなこと。

 僕はただ座って、目を閉じていただけ。こんな、別の世界を見ることが出来るなんて、どれだけ今の技術は進歩していたのだろうか。僕ががむしゃらに勉強だけしていた日々の中、これだけ世界は進歩していたのか……! 

 「うん、初めてだよ」

 『それでは、まずあなたの名前を教えてください』

 「永野裕也。ほかには?」

 機械は応答を確認すると、すぐに次の音声を発してくる。

 『永野裕也 さんですね。

 それでは、セットアップを行いますので少しお待ちください』

 視界に緑色のバーのようなものが点滅する。ローディング画面というわけだ。

 そしてそれはすぐに0から100%まで到達した。

 『お待たせしました。これでセットアップ作業は完了です。

 それでは、もう一つの世界をお楽しみください』

 

 無機質なシステム音声の後に、視界は真っ黒に染まった。

 そして静かな音楽が聴こえてくる。 

 目の前には姿見。姿見を見ているはずの自分の姿は映っていない。

 そして、姿見の隣には透明な結晶でできた板のようなものがある。その中にいくつもアイコンや、選択肢があるようだ。叔父はなんといっていたか……そう、これがウィンドウだ。

 上のほうに「キャラクター作成」と書かれている。今まで僕はゲームなんてしたこともないし、キャラクター、という言葉にもあまりピンとこない。英単語として知っているくらいだ。

 まずはキャラクター名。

 「ええと……どうやって入力するんだろ」

 とりあえずキャラクター名、と書かれているアイコンに触れてみる。すると効果音と共に、空中に半透明のキーボードが現れた。

 これでタイピングしろ、ということなんだろう。

 「どうしよう……ええと」

 しばらく悩んで、馴染みのある名前にしようと思い、キーボードに指を走らせる。

 Y、U、U……ユウ。

 数少ない友人は皆、僕のことをこう呼ぶ。

 ユウ、と入力し終えると、姿見の一番上のほうに「ユウ」という文字が現れた。キャラクター名がこれで確定したということなんだろう。

 次の項目には性別、とあった。

 これは勿論男性、だ。僕は迷わず男性、と書かれているアイコンに触れた。

 性別の次には、種族と書かれたアイコンがあった。

 それに触れてみると、効果音が鳴り、ポップアップウィンドウが展開された。

 新しく展開されたウィンドウには表のようなものが表示されている。縦の列に純血種、魔族種、天族種、獣人種、魚人種、吸血種、神人種、と書かれているアイコンがある。そのどれもが、僕には不思議な響きを持った単語の群れに見えた。

 そして横の列にはStr、Dex、Int、Agi、Vit、Wis、Min、Luckと文字で書かれている。種ごとに英語の下に数字が書かれている。ウィンドウにはステータス、と書いてあるのでこれはキャラクターの能力を示す数値なのかもしれない。とすると、種族毎に能力に差があることになるが、やはりそこはゲーム、しっかりと全種族のステータス合計値は同じ値になっていた。

 試しに純血種のアイコンに触れる。すると、薄い文字で純血種の説明文が浮き出てくる。



・純血種

 いわゆる普通の人間にあたる種族。第一の種族であるとされ、純血種はそれを誇りに思っている者が多い。そのため、数百年前まで基種、と呼ばれていたのを改め、純血種と呼ばれるようになった。

 純血種の特徴は、一目で分かる漆黒の髪にある。他の種族にはない髪の色であるために、容易に見分けがつく。また、武器や道具を上手く使いこなすことができる種族であるとされている。

 成人の平均身長は男性が170cm,女性が160cm程。

 寿命は60~90年程だと言われている。



 「へぇ、なんだか凄いや」

 指を滑らせ、順々に全部の種族を触れてみる。そのどれもが特徴的で、僕の脳に新鮮な何かを運んでくるような感覚を与えてくれた。

 でも、

 「やっぱり、これかな」

 僕は最後に純血種のアイコンをクリックした。

 普通であること、特徴が普通なこと、これは美徳だ。僕にとっても、きっと誰にとっても。

 確認画面が出てきて、そこでYESに触れる。すると種族ウィンドウは消え、元のキャラクター作成ウィンドウが見えるようになる。

 種族の次に設定する項目には、ボーナスポイントと書かれていた。さきほどの純血種で表示されていたステータスの数値に、男性のステータスの補正が示されたグラフが表示されていて、StrやDexなどのステータス文字の隣に「+」アイコンがある。これに触れるとボーナスポイントを割り振れるようだ。画面の端に表示されている数字は5。5点まで好きに割り振れるということだろうか。

 「Strは……なんだろう。獣人が高かったからStrong、いや、Strengthのほうかな。やっぱり力は強いほうがいいよね」

 Strの横の+アイコンに触れる。

 最終的な数値が1点上昇し、6になる。

 「あとはそうだなぁ。Dex、器用さ? は元から器用な種族みたいだったからいいかな。知能よりはそうだな、素早さが欲しいな。あとは体力と運?」

 +アイコンを叩く。Agiが6、Vitが6、Luckが7になる。

 「あとは~……。もう、これでいいか!」

 Luckに+する。Luckの最終的な数値が8になったところで、ボーナスポイントウィンドウが消え、キャラクター作成画面に戻った。

 次の項目は、キャラクターの容姿だった。

 またポップアップでウィンドウが展開される。

 最初に髪型と書かれた文字の下に理容店にありそうな様々な髪型のカツラをかぶったマネキンのようなアイコンがいくつもあった。それぞれ下に髪型の名前をおぼしき名前が書かれている。

 その中の一つ、ウルフと書かれたアイコンをクリックする。

 同じクラスのスポーツ万能の、密かに憧れている生徒と同じ髪型だ。

 髪型を選んだら次は輪郭や目、口、鼻、耳などといった顔のパーツだった。やや細い輪郭に、優しそうなものを次々と選んでいく。そしてOKというアイコンを最後に押す。 

 すると、ウィンドウの横にある姿見に、キャラクターの外見が映し出された。

 「うわ」

 キャラクターというよりは、むしろ現実の僕がちょっとイメチェンしたみたいになってしまった。でも、これなら愛着も沸きやすいかもしれない。別に自分の容姿が気に入っていないわけではないのだ。むしろ髪型を変えて少しお洒落をしたのがこのキャラクターだと思ってしまえばなんの問題もない。

 そして、その下にあったのが身長・体格という項目。

 バーのようなものを操作し、うねうねと身長と体格を操作する。そして現実の僕よりちょっとだけ身長を高く設定し、決定する。

 姿見を覗き込むと、そこには少しお洒落になって身長が高くなった自分がいた。服は簡素な真っ白なボタンダウンシャツに、紺色のスラックス。

 そして、姿見の中の僕が両手を差し出す。

 『利き手はどちらですか?』

 僕は差し出された右手を掴んだ。

 すると、姿見の中の僕が右手ごと、鏡の中へと僕を引きずり込んだ。

 目を開けてみると、そこには僕の体があった。勿論、もう一つの世界で、今僕が作った体だ。身長が若干伸びただけなので全く違和感がない。

 そして目の前にウィンドウが現れる。

 『スキルを取得してください。 残り経験値:1000』

 「スキルというと、技術かな。えーと」

 目の前に現れたスキル名と、スキルアイコンを見渡す。ウィンドウの上端にはタブがあり、それぞれ『汎用』『戦闘』『生産』『魔術』と書かれている。

 僕はその中の戦闘タブから《ウェポンマスタリ:剣》《ウェポンマスタリ:小型盾》《アーマメントマスタリ:軽鎧》、そして《バッシュ》という剣技らしいスキルを取得した。

 すると、ウィンドウに表示されていた残り経験値は0になった。一つのスキルあたり250の経験値を使ったということになる。

 ここまで決定したところで、姿見に文字が映し出された。

 次の項目はなかった。

 かわりに「これでいいですか? YES NO」という欄がある。

 僕はYESに触れた。

 すると新しいウィンドウが展開され、次々とと文字が打ち出されていく。



PCName:ユウ

Sex:Male

Race:PureBladd

HP:16  【所持可能重量】7

MP:15  【移動力】7

Str:6  【基本命中力/魔術】5/5

Dex:4  【基本攻撃力/魔術】10/9

Int:5  【基本防御力/魔術】11/2

Agi:6  【クリティカル抵抗】4%

Vit:6

Wis:4

Min:5  

Luck:8


Skill

《オールラウンド》      種族

《ウェポンマスタリ:剣》   戦闘

《ウェポンマスタリ:小型盾》

《アーマメントマスタリ:軽鎧》

《バッシュ》



 これでキャラが完成したんだと思うと、急にこのキャラクターに愛着を覚えた。これがRPGをプレイする、ということなんだろう。何故だかちょっと嬉しい。

 見慣れない単語の羅列を見ているだけで自然と顔が綻んでいくような感覚。

 手をにぎにぎしてみる。綺麗な手だ。

 「これが僕……」

 ほうっ、と溜息をついてしまいそうなほどに感動していた。


 『それでは、最後に質問をします』


 「うん?」

 唐突にシステム音声が響いた。

 『あなたは剣士に憧れたことがありますか』

 「ない、かなぁ」

 勉強にだけ日々を費やしてきた人間にそんなことを聞いても答えはわかりきっている。

 『あなたはとてつもない強さを持っているとします。あなたならその力を何に使いますか?』

 「進学」

 即答した。

 不意に脳裏に叔父の言葉が思い浮かんだ。「RPGっていうのは、ロールプレイするゲーム、つまりロールプレイングゲーム。自分の役割を演じることが楽しいんだよ」という叔父の言葉。

 ユウは、そう。僕ではないのだ。

 ユウはユウ。永野裕也ではない。

 「あ、待って、やっぱ今のなし!」

 『目を瞑ってください』

 「なし──駄目か。目を瞑ればいいんだね?」

 ぎゅっ、と強く目を瞑る。

 『風景を思い浮かべてください』

 「できたよ」

 森の中。綺麗な光がいくつも飛んでいる光景。現実ではありえないほどに幻想的な森の夜。

 『その風景はどんな風景ですか?』

 「ええと、夜の森なんだけど、綺麗な光の球がいくつも飛んでるんだ。木の間から月が見える、綺麗な風景」

 『あなたは──』

 「まだ続くの!?」

 

  

 ……………………


 ………………


 …………


 ……


 

 『あなたは何故冒険者となったのですか?』

 「冒険者? あ、そういう設定だったんだっけ。そうだなぁ、退屈な毎日に飽きてたから。でどうかな」

 『分かりました。それでは、あなたを今からオーヴィエルの大地に送ります。どうか素敵な日々がありますように──』

 実に三十の質問をされて飽きを通り越して楽しくなってきていたところだった。内容はどれも心理テストのようなものだったりこの世界のことだったり、意思の確認だったりまちまちだった。

 

 質問が終わると、真っ白い辺りの空間が薄くなって消えていった。そして視界もなくなり──

・Bladd information


オーヴィエルには神より生まれたとされる七種の人族が暮らしている。それらは全て「人間」と呼ばれ、私達の世界でいうところの人種のようなものであり、それぞれに特徴がある。



・純血種

 いわゆる普通の人間にあたる種族。第一の種族であるとされ、純血種はそれを誇りに思っている者が多い。そのため、数百年前まで基種、と呼ばれていたのを改め、純血種と呼ばれるようになった。

 純血種の特徴は、一目で分かる漆黒の髪にある。他の種族にはない髪の色であるために、容易に見分けがつく。また、武器や道具を上手く使いこなすことができる種族であるとされている。

 成人の平均身長は男性が170cm,女性が160cm程。

 寿命は60~90年程だと言われている。

 


・魔族種

 エルフと呼ばれることも多い、神々の魔力を強く引き継いだ形で誕生した第二の種族。他の種族との交流は少なく、自然の多い秘境などに集落を作り暮らしていることが多い。

 魔族種の特徴は、長い耳と薄い色素の髪と、濃い瞳の色である。また、その身に強力な魔力を秘めており、魔術に対する適正が非常に高い。

 魔族種は12歳~20歳までの間で一度身体的な成長が止まる。そのため、身長や体格などは非常にまちまちだが、基本的には純血種よりも細身で長身の者が多い。

 寿命は約200年であるとされている。150歳を過ぎた時点で止まった成長が進み始める。



・天族種

 神によって育てられた種族。天使と呼ばれる種族である。

 10歳~20歳の間に育て親の神が試練のために地上に落とすのだという。この時、それまでの全ての記憶を失い、オーヴィエルの大地に降り立つ。人の役に立ち、己の任を全うできた時に再び天へと昇ることができると言われている。

 例外としては育てられている間に天界で過ちを犯した場合である。この場合は『堕天使』としてオーヴィエルに落とされる。堕天使は一定の条件化で黒くなる羽を持っている。堕天使であることが発覚すると、基本的にどこにいてもいい目では見られないだろう。

 特徴としては他の六種のうちどれかの特徴を持っていることの他に、背中に白い羽を持っている。

 体格などは特徴を引き継いだ種族に順ずる。

 寿命は不明。



・獣人種

 獣の血を強く残している種族、それが第三の種族、獣人種である。

 彼らの特徴は、体のどこかにある何らかの獣の特徴を持った部位。耳であったり、尻尾であったりする場合が多い。それ以外は純血種と大差ない外見をしている。

 成人の平均身長は男女共に150cm。

 寿命は60年程。



・魚人種

 海で生きていた時代の血を強く残している種族、それが第四の種族、魚人種である。

 彼らの特徴は、水中でのみ変化する半身の魚の姿である。童話の人魚と同じような姿を取ることができ、その状態でなら水中で呼吸をすることもできる。

 成人の平均身長は男女共に160cm。

 寿命は60年程。



・吸血種

 神々との制約で一切の食物を口にしないと誓った者達の子孫、それが第五の種族、吸血種である。

 彼らの特徴は、恐怖を催すような美貌に、鋭い眼光、鋭利な八重歯だ。吸血種は他者の生き血を吸うことによってのみ餓えと渇きを癒すことができる。

 吸血種は陽光の下で活動する場合、疲労が溜まりやすい。

 成人の平均身長は男女共に180cm。

 寿命は200年程。



・神人種

 神と神の間に生まれた者、それが第六の種族、神人種である。

 神によってしか生まれないためにその絶対数は少なく、滅多に見かけることができない。

 特徴は、圧倒的な知能にある。外見的な特徴は皆無といっても差し支えのないほどで、黒髪でない純血種といったところ。

 成人の平均身長は男性が170cm程で、女性が160cm程。

 寿命は不明。

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