Next Quest 5
金色の髪の青年は、木の根と蹴りの相殺攻撃で減少した自分のHPバーを見て舌打ちすると、木の根に回し蹴りを叩きこみ、弾き返す。
すぐ後ろに倒れているリースのほうへ振り返ると、
「《ウィンドバリア》張ってくれたほうがよかったんだけどな。ステ・速度支援頼むぜ!」
「は、はいっ。《ブレスウェポン》──《エアダッシュ》!」
「上等だ、そこの剣士にもしてやんな」
金髪の青年は大きく地面を蹴ると、襲い掛かってくる木の根を足場にして、段々と高く飛びあがっていく。
僕もリースに同じ魔術をかけてもらうと、剣を構えて飛び出す。木の根が鞭のようにしなって僕に襲い掛かってくるけど、それをギリギリのところで避け、リースに向かう軌道の木の根だけを攻撃しながら人の形をした巨木に突っ込む。
「飛ばすぜ、《イグニッション》!」
金髪の青年はクイックスキルを発動させ、その身に赤いオーラを迸らせる。そして、目にも留まらない速度で空中にいながらも巨木の顔面に蹴りを連続で叩きつけ、地面に着地する。
「でっけえ杭打ち込んでやろうぜ!」
「《バッシュ》! 行くよっ」
どすっ、と巨木の根元のほうに剣を突き刺す。巨木のライフは相当高いらしく、この程度ではHPが減っているかどうか確認することができない。
「《獅子連弾》」
突き刺した剣目掛けて、青年の高速の蹴りが六連続で吸い込まれるように放たれる。
「っ、らぁ!」
緑色のフラッシュエフェクトを帯びた回し蹴りを続けて放つ。
剣は深々と木に刺さっていて、もう柄すら見えない。
「ねぇ僕やることなくなったんだけど!」
「いーや、お前には一番大事な役があるぜ。正攻法じゃ倒せそうにねーし、なんとかしてあの木の口から体ん中入って、暴れてこい!」
「あ、あんな高いとこまで行けないよ!」
「《エアダッシュ》の効果中ならなんとかなんだろ。あとはあの天使ちゃんがサポートしてくれんよ!」
僕と青年を襲ってきた木の根を避け、それに跳躍して飛び乗る。確かに、走るのが速くなっている上に跳躍力も大きく上昇している。今ならアクアと同じくらい高く飛べるのではないかと思うほどに。
「ユウさん! 《エアダッシュ》も1ラウンド持続効果です! 時間に気をつけてください!」
「分かった!」
ラウンド終了まで残り20秒といったところ。
下手をすれば空中でエアダッシュが切れて地面に叩きつけられるかもしれない。僕はより一層強く脚に力を込めて、跳躍した。
空中にいる僕ですら執拗に襲ってくる木の根。今はそれが逆にありがたい。それは足場にしかならないのだから。
もう遥か下に見える、青年の姿。リースに襲い掛かる木の根を執拗に叩き落としている。
もう、木の口は目前。僕は最後の足場を蹴り、木の口に飛びこんだ。
「やりゃできるじゃねーか!」
下から歓声が上がる。僕はごつごつとした木の幹内に入り込み、思ったより広い空洞となっているその中を滑るようにして落ちていく。
「っと」
とすん、と着地。かなりの高さから落下したものの、エアダッシュの効果か、すんなりと着地することができた。
剣を探すと、それはすぐに見つかった。どれほど無茶な威力で叩きこんだのか、剣は突き刺さっているわけでもなく、木を貫通して、中に落ちていた。
「さぁ、行くよ!」
バッシュを発動して、木の内部を抉るようにしてジグザグに切りつける。
木が不思議な音のような声で悲鳴をあげ、暴れまわるが、僕はなんとか踏みとどまって、手当たり次第に木の内部を削り、突き刺す。
「これ、楽しいかもっ」
ひゅんっ、と勢いをつけて剣を振り、その反動で跳躍して反対側の内部面を叩きつける。
繰り返すうちに、段々と木の動きが弱まってくる。
ドカン! という盛大な音が響いて、木が壁を破ったように、大きな穴を空けた。外側から青年が僕の攻撃で薄くなった部分を蹴破ったみたいだ。
「こいつはいい眺めだな。そら!」
破れて脆くなった部分から段々と壊していく青年。
めりめり、という音がしてきて、幹を支えきれなくなった木が中ほどから段々と折れてくる。
「オ、ウォオ……」
その音は止まず、木はやがて真っ二つに折れて地面に投げ出された。
「ヒュウ! 最っ高だぜ!」
木の内部から飛び出した僕にハイタッチ。
僕達の視界の端には<GET Exp+81000>という文字があった。
「へえ、やっぱ経験値高いな。俺がフィニッシュで半分、とするとそっちは一人八万前後ってとこか。いやー、いい稼ぎだ」
リースは早速消滅した木の場所から角材のようなものと、大量の金貨を拾い上げてこちらに走ってくる。
「今回のドロップはこちらですね」
「どれどれ。……《血の魔眼》」
青年は目に赤い光を宿らせる。美貌も相まって、結構怖い。
「トレント材。レベル20の木材アイテムか。俺はいらねーから、どっちか持ってけ。んで、ゴールドがえーと? 9万くらいあるな」
ほい、と目分量で三つに金貨の山を分けると、僕達に手渡した。
僕達は財布を持っていないので(アクアが持っていった)それぞれバックパックに詰める。少しお金持ちになった気分だ。
「あの、ところで」
「ん?」
「助けていただいたのはいいのですが、どなたでしょう」
もっともな質問だった。
「ん、あー……。こいつの知り合いだ。しばらく姿見せねーと思ったら、こんなとこほっつき歩いてたのな」
「ごめん、僕記憶なくしてるから、分からないや」
演じている当人達は勿論相手が誰だか分かっているが、ソウルのため。
「覚えてないのか!? ハル、ハルだよ!」
自分の胸に指を指して言う。しかしリアルと差がありすぎて困る。
まず性別からして違う。
「ごめん……」
「あー、ま、いいさ。お前には前から世話になってたしな」
ハルがそういうと、視界の端にメッセージが現われた。
『ハル と関係を作成できます。関係名:旧友 許可しますか?』
「あ、関係だ。ユウ、折角だし設定しとこうぜ。関係つけとくとパーティ組んでる時にボーナス入るんだ」
「う、うん。あれ、RPは……」
「ユウはそれっぽく演っとけ。俺は吸血種だからソウルはなるべく捨てたいんだよ」
僕は頭の中で許可。と呟くと、フレンドリストが現われてハルという名前が追加され、その隣に『関係:旧友』という文字が表示されていた。
「天使ちゃんはアレか? こいつのダチか」
「同行者といったところですね」
『リース と関係を作成できます。関係名:同行者 許可しますか?』
妙に寂しい関係ができてしまった。
「しかし凄いな、迷いの森を二人で踏破したなんて、王国に知れたら大騒ぎだぜ」
「あれ、まだ結構長いんじゃないの?」
「何言ってんだ。ここ、森の入り口だぜ」
指差す先には、木々の少ない、街道が広がっていた。
「や、やっと抜けられたんですね……」
「ここから北にしばらく歩けばルディオ城下街に一番近い村、セノンに着く。疲れたし、そっち向かおうぜ?」
「そうしましょう。美味しい物が食べたいです」
リアルの夕食を忘れた一同は、村に到着した頃に時間を思い出して、各々ログアウトしたのだった。
・Skill information
《イグニッション》 Quickskill/戦闘
コスト:(SL×3)HP 対象:自身
このラウンド中、あなたの行う格闘攻撃ダメージを+(SL+10%)し、格闘攻撃の攻撃速度を+(SL×5%)する。
《イグニッション》はエンチャントスキルであり、1ラウンドに1回しか使用することができない。
取得するにはウェポンマスタリ:格闘が(SL)以上必要。
《獅子連弾》 Activeskill/戦闘
コスト:(SL×2)MP
対象:単体(動作型)
宣言と同時に攻撃速度を+(SL×100)%した蹴りによる格闘攻撃を(SL)回行う。
攻撃中、自身の【防御力】と【魔術防御力】は0になる。
《獅子連弾》は1ラウンドに1回しか使用することができない。
取得するにはウェポンマスタリ:格闘が(SL)以上、CL3以上が必要。
《血の魔眼》 Activeskill/種族(吸血種)
※CL3以上で自動的に取得する。
発動ソウル:0~50
コスト:5MP
射程:視界 対象:視界内全オブジェクト&ユニット
《魔術眼》と《鑑識眼》の効果を+(CL)して同時に発動する。(魔術眼と鑑識眼を取得している必要はない)
《血の魔眼》を使用している間、あなたの目は赤く染まる。
1日に1回だけ使用することができ、1ラウンドの間効果は持続する。
《エアダッシュ》 Spiritmagic/マジックマスタリ:精霊魔術[風]
詠唱:3sec.
対象:単体 射程:10m
対象の移動力を+(SL×50+50)。
対象が落下によって受けるダメージを-(SL×10)。
効果はラウンド終了まで持続する。