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Material World Online  作者: カヨイキラ
1.Orwiel
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Next Quest 3

「ふう」

 どさり、とバックパックを放り捨てるように地面に置く。

 あれからしばらく歩き、陽が沈んだ。僕達は今、迷いの森の入り口、鬱蒼と茂る木々を遠目に見れる位置まで来ていた。

 「疲れましたね……」

 ころり、と草の生えた地面に転がるリース。装飾剣は地面に突き刺している。それを捨ててくれば歩くのも大分楽なんじゃない? なんていえない。

 「うん……凄い疲れた。あとお腹空いたよ」

 「ご飯食べましょうか。携帯食、ありましたよね?

 この世界にいるとちゃんと食欲がありますからね……。こんなに食欲のある私になりたいです」

 元の世界では拒食症でも持っているのかな、なんて思いながらも、バックパックを二人分持ってきて、その中から皮袋に入った携帯食料と水筒を適当な量取り出す。

 凄まじく硬いベーグルのようなパンと、何の肉だか分からない干し肉のようなもの。今は米食の気分だったけれど、そんなことは言ってられない。

 「いただきまーす」

 「この世界にそういう文化はないんですよ、ユウさん」

 そういうと、黙々と固いパンを口に押し込めるようにして食べていくリース。今のはRPに関するアドバイスだったのかもしれない。

 しかし小さい口だなぁ。

 「な、何を見ているんですか」

 「ああ、いや、別に……。食べるの大変そうだなって」

 「特に不便は感じません。強いて言うならこの固いパンが強敵です」

 正直僕にとっても強敵だ。

 「よく分からないけど切ないなぁ」

 「本当ですね……」

 ここまでリアルに作られてしまうと、リアルで普通の食事を採っている身としてはこういった食事はどこか寂しいものがある。ただ、生命維持のための食事というか。

 「早く稼げるようになって毎日のようにいい物を食べたいです」

 きゅ、きゅと渇いた音を立てながらパンを噛みながら言うリース。ハムスターのような顔になっていてどこかほほえましい。

 「携帯食じゃなければいいや。暖かいの」

 「火属性魔術があれば野生動物狩ってユウさんの剣でさばいてユウさんの剣を鉄板にして」

 「僕の剣は調理道具じゃないよ……」

 ごっくん。大きく喉を鳴らして飲み込む。

 「冗談です。実際に狩ったばかりの動物の肉を焼いても、固くてとても食べられないそうですよ。

 食用とされているのは、一晩以上血抜きしたものです」

 「え、そうなんだ。冒険家とかは兎なんかを捕まえてそのまま焼いて食べちゃいそうなイメージあったけど」

 「確かにそういったイメージは強いですね。ですが、サバイバルの料理をするならば魚類のほうが向いていると言えるでしょうね。

 あ、焼いたお魚が食べたいですね、ユウさん」

 「…………」

 「…………」

 しょっぱい干し肉を強引に咀嚼する。食欲は、確かに満たされる。

 「この話はやめましょうか」

 「うん、そうしよう」

 リースはバックパックを座ったまま近くに引きずり寄せると、中から毛布を取り出した。

 あまりいい質感ではないその毛布を一度、ばさりと広げる。

 「そろそろ私は寝ます。変なことしたら明日から神聖魔術は使いません」

 「しないよ。それより、寝るって?」

 「MWOにいても睡魔は襲ってきますよ。夜明けまでの時間も短いですが、しっかりと寝ることはできるんです。寝ないと翌日ステータス低下しますし、疲労度が取れません。

 あと、魔法力がもうないので寝なければなりません」

 ゲームの中も現実と同じように寝るのが常識だったんだ、と若干のショックを受けながら、僕もバックパックから毛布を取り出した。確かに、先ほどから酷い眠気を覚えていたけど、寝るっていう発想がなかったせいか、朝までリースと話している気でいた。

 毛布をかぶって横になってみると、鎧がごつごつとして痛い。翌日全身が痛いなんてことになっても困るので、鎧の留め金を外して慣れてない手つきで装備を外していく。インナーは黒い不思議なデザインのシャツと、ジャージのズボンのようなもので、これが王国支給のものだと思うとあまりにかっこ悪くて泣けてくる。

 リースを見ると、やはり寝辛そうにしている。ふわふわとした質感の白いローブを着ているが、それとは別に背中の羽根がとても邪魔そうだ。

 僕が再び毛布に包まると、リースが声をかけてくる。

 「枕がほしいです……」

 「水筒でいいなら」

 そういうとリースはむっとした顔つきで毛布ごとこちらにずるずると移動してくると、僕の腕を引っ張る。そしてその上に頭を乗せた。

 「これで私は安眠です」

 「僕の安眠は……」

 右腕に感じる重み。そこまでは重くないので、あまり苦ではない。

 流れる白くて長い髪につい見とれてしまうと、急になんだか恥ずかしくなってくる。

 よくよく考えてみるとゲームの中とはいえ凄い状態だった。

 「リース、その、悪いんだけど、やっぱもうちょっと離れてくれると嬉しいんだけど」

 「すー」 

 綺麗な寝息が聞こえてきていた。

 「あー……」

 見上げる空にはとても綺麗な月が浮かんでいて、とても静かなこの場所、それでもやっぱり、

 「寝れない」

 

 翌日、僕はゲームの中で目の下に深い隈を作ってしまったのだった。











・System information

 

◇『生死判定』について

 MWOでは、キャラクターのHPが0になった時、自動的に[戦闘不能]状態となり、判定を行う。これが『生死判定』である。

 生死判定は(CL×10)+(Luck+Soul)+(ランダマイズ 基本2D6)がHPの負数、例えばHP10の状態で20点のダメージを受けた場合、HPは-10となる、このような負数を越えれば生死判定は成功となる。

 生死判定に成功したキャラクターは、MWO内の時間で一時間後に[戦闘不能]が自動的に回復し、意識を取り戻す。


 逆に、生死判定に失敗したキャラクターは[死亡]する。

 死亡したキャラクターは二度と使用することはできない。

 新たにキャラクター作成する場合、合計経験点を引き継いで作成することができるので、キャラクターの冥福を祈りつつ、新しい体に生命を吹き込んでほしい。

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