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第七話 遅刻はダメです


 校則 第六条

(1)始業までに登校するように努めること。

(2)始業開始より後に登校した場合、風紀委員の指示に従い、

遅刻届に名前、組、番号を記載すること。

(3)遅刻届に記載しない限り、遅刻とはみなされない。




「だあぁぁっ!」

 東条学園に入学してはや数日。ようやく慣れてきたと油断し

たばかりに、健斗はまた寝坊してしまった。

 現在、通学路を疾走中である。

「涼の野郎、起こしてくれてもいいのに」

 自分を置いて先に登校した悪友を恨めしがる。寝坊した自分

が悪いのだが。

 アスファルトの道を必死に駆け抜けながら、健斗はそんな悪友

との会話を思い出していた。


「ああ、知らなかったのか?」

「初めて聞いたぞ!」

 意外そうな顔をする涼に、健斗は食って掛かった。

「……自分の行く学園ぐらい調べるべきじゃないのか?」

「……確かに」

 正論なので何も言い返せない。

「そう仕向けたんだがな」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、何も」

 呟いた気がしたが、健斗は他に聞きたいことがあったので、

気にしないことにした。

「具体的には治外法権ってどういうことなんだよ」

「学園が一つの国みたいなもんだ。ここでは何よりも校則が優

先される」

「……まじかよ」

 こんなにおかしい学園だとは、思っていなかった。

「そんなに変わんないさ。少し法律と違うところがあるぐらい

だ」

「だから生徒が武器を所持してたのか」

 ここで謎が解けた。銃刀法違反でも、学園内は日本の法律で

裁けないのだ。

「そんなんで大丈夫なのか?」

「無法地帯ってわけじゃない。風紀委員もいるし、そこらへん

はしっかりしてるさ」

 その風紀委員に襲われたら元も子もないのだが。というか悪

友がいたら、どこでも無法地帯になる。

 そんな健斗の視線を受け流しながら、涼は一つ助言してきた。

「校則は知っておいて損はない。生徒手帳をよく読むことだ」


 キーンコーンカーンコーン。

「はあ、遅刻かよ」

 肩をがっくり落とす。

 懸命に走ったが、学園にたどり着く前に始業のベルが鳴った。

結局、無駄に体力を消耗しただけだった。

 正門の前には同じく遅刻した生徒たちがいた。近くの武器を

持っている生徒は、風紀委員だろう。

 風紀委員とは顔を合わせづらい。だから健斗は大人しく正

門前、ではなく電柱の陰に潜んでいた。

「そういえば、遅刻に関する校則もあったような」

 鞄から生徒手帳を取り出し、ページを捲る。探していたことは、

校則第六条に書かれていた。

「どういうことだ?」

 (1)と(2)は分かる。しかし、(3)のことが理解でき

ない。

「遅刻届に記載しなけりゃ……って!」

 閃いた。

 電球がピコーンとなるぐらい思考が鮮明になった。

「なるほど。涼、お前の言いたいことが伝わってきたぜ」

 さっきまで愚痴っていたのに、手の平を返すような態度だった。

「よし、こうなったら善は急げだ」

 ひとまず健斗は、正門あたりにいる風紀委員に見つからない

位置まで移動することにした。

 正門前から塀を回り込んだとこにある校舎に近い場所。ここ

なら風紀委員は気づかない。

 つまり、わざわざ正直に遅刻届を書く必要はないのだ。見つ

からなければ、何も問題はない。

「よっと」

 自分より高い塀を軽々と上り、敷地内に着地した。どうやら、

目論見通り人気は無いようだ。

 一安心して汗を拭う。

「ふう、何とかなりそう……」

「――校内に侵入者。警報を鳴らします」

「――なわけないよな」

 警報装置はしっかりあったが。世の中そう甘くはない。

 健斗は面倒くさそうに頭をかいた。


「待てえぇぇ!」

「待てと言われて誰が待つか! バーカ、バーカ!」

 現在校内を疾走中、もとい逃走中だった。登校するときよりも

速いことから、彼の必死さが伺われるだろう。

 やっぱりあの後、風紀委員が集まってきて追われる立場とな

ってしまったのだ。

「うおっ!」

 飛んできた矢が肩を掠める。

 もう少しで当たるところだった。

「殺す気かよ!」

 命の危機に思わず叫ぶ。

 それでも逃げ続ける限り、攻撃は止まない。飛び道具は鞄で

防ぎ、直接攻撃は避ける。そこにできた隙をついて、転倒さ

せるように足払い。

 それの繰り返しだった。

「はぁ、はぁ。まだ追ってくるのかよ」

 健斗はあまりのしつこさにうんざりしていた。いくら倒そう

とも、逃げようとも、また追いかけてくるのだ。

 体力があるといっても無尽蔵ではない。このままではじり貧

である。

 ――待てえぇぇ!

(何だ?)

 この状況をどう打破しようか考えていたときだった。自分の

後ろではなく、他の場所が何やら騒がしい。しかも、段々と近

づいている気がする。

(嫌な予感しかねえ)

 悪友のおかげで、健斗は危機察知能力に優れていた。だが危

機回避能力は全くといってない。

「追っ手か!? って橘じゃん」

 予感が当たるように、ばっちり風紀委員に追われている康介

に会ってしまった。

「お前こっち来んな!」

 仲間を見つけて嬉しそうにこっちに来る康介。制止も全く効

かなかった。

「一緒に行けばいいんじゃんかー」

「風紀委員も連れてきてどうすんだよ!」

 おかげで攻撃の激しさも倍。一層、体力が削られてしまう羽

目になってしまった。

「このままじゃ捕まっちまうぞ」

 健斗はお前のせいだろとツッコミたい衝動を抑える。

「一つ策がある」

「おおっ、流石だな」

 健斗に尊敬の眼差しを向ける。

(くっくっくっ。悪いが犠牲になってもらおう。風紀委員を連

れてきたお前が悪いんだぜ)

 それとは裏腹に、康介にバレないように黒い笑顔を浮かべた。

自分が遅刻したことは棚上げだった。

「橋本、こっちに来い」

 康介は指示に従い、健斗の後についていく。どうやら上に行

くようだ。

「どうしたんだ?」

 上の階に行くかと思ったら、階段の途中で健斗は足を止めた。

「せいっ!」

「ごふっ」

 綺麗な後ろ回し蹴り。

 反応できるはずもなく見事にヒットして、康介は風紀委員を

巻き込んで落ちていった。おかげで十分な時間が稼げた。

「短い付き合いだったが、お前のことは忘れない」

 康介に弔いの敬礼をする。そして、颯爽とその場を去ってい

った。

「橘ぁぁっ!!」

 誰かが自分の名前を叫んだようだが、気のせいだろう。


「ふう、やっと安心できるな」

 教室のある四階にたどり着き、ようやく走る速度を緩めるこ

とができた。

 ここまで必死に遅刻を免れようとするのは、担任の忠告があ

ったからだ。どうやら給料に関係あるらしく、「遅刻したらア

イアンクローな」と注意し(脅し)たのだ。

 健斗はコブラツイストがトラウマになっているため、遅刻は

絶対にしたくなかった。

 尊い犠牲もあったので、何とか遅刻にならなくて済むだろう。

「あそこの角を曲がれば……」

「どうなるんだ?」

 心臓が跳ねて体が硬直した。冷や汗が背中をゆっくりとつた

う。健斗は音がしそうなぐらい、ぎこちなく振り向いた。

「また君か」

 そこには呆れながら金棒を構える、風紀委員長の玲奈がいた。


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