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第五話 二度手間な自己紹介

また短いです……。

次回からきっと、いや、多分長くなるはずです(笑)

「じゃあ次は自己紹介を始めるぞ」

 出鼻を挫かれて呆然としていた健斗は、ようやく気を取り直

した。もちろん、今まで先生が話をしていた内容なんて、右か

ら左に流れていた。

(自己紹介だと! これでさっきの失態を取り消さないと!)

 名誉挽回、汚名返上とばかりに紹介の仕方を考える。だが、

ボキャブラリーに乏しいと自認するぐらいだ。良い案が浮かぶ

はずもなかった。

(くっ、何も思いつかねえ……)

 健斗は頭を抱えるしかできない。

 しかも、こういう時に限って時間の流れは早く感じてしまう。

あっという間に自分の前の席まで順番が回ってきた。

(背に腹は代えられない……!)

 涼に視線を送る。それだけの行動で親友は理解できた。伊達

に幼い頃から一緒にいたわけではない。

 涼は頷いて素早く紙を渡してきた。これに求めていることが

書かれているはず。

 それに合わすかのように、前の生徒の自己紹介が終わった。

健斗は軽く呼吸を整えて立ち上がる。他の生徒はさっきのこと

もあり、好奇心半分、恐怖心半分といった様子だった。

「大丈夫だ、まだ大丈夫だ」

 健斗は誰にも聞こえないように小さく呟いた。そして、渡さ

れた紙を見て自己紹介を始める。

「俺の名前は橘 健斗。この学園の秩序を乱し、混沌と恐怖を

もたらすものだ。わはははは、平伏せ! 迷える子羊よ……

っておい!」

 おかしさ満載の文に、健斗は涼にツッコンだ。

 呼吸を整えても平常心を保っていなかったため、途中まで文

がおかしいことに気づかなかった。

「お前の将来の夢は魔王だろ」

「いつの話だ! 小学校の頃だろ!」

「! 夢を簡単に諦めるというのか!」

「うがあっ! あれは違うわ!」

 興奮したことと、恥ずかしさで健斗の顔は真っ赤になってい

る。健斗は小学校の頃を掘り返されることが恥ずかしいのだ。

「少し落ち着いた方がいいぞ」

「……へ?」

 自分が煽ったくせに、涼はそんなことを言ってきた。とりあ

えず落ち着いて周りを伺うと、何やら様子がおかしい。具体的

には、ほとんどの生徒が体を震わしている。

「くくっ、橘は魔王になりたいのか」

 先生のそんな一言で、せき止めていた物が溢れるようにクラ

スメイトたちは吹き出した。

 最初の印象と違って、いいのかもしれない。だけど何か間違

っているような気がした。いや、そうだ。間違っている。

「…………」

「な、成功しただろ」

 穴があったら入りたい。

 今の健斗はその気持ちで一杯だった。




「じゃあ今日はこれで終わりな。気をつけて帰れよ」

 適当すぎる挨拶をして詩織は教室から出ていった。初めて話

した時から、がさつだとは思って健斗だが、この挨拶で確信を

持てた。

 コブラツイストをしてくるし。

「昼飯でも食いにいくか?」

 涼が時計を見ながら健斗を誘う。

 時間はちょうど正午前といったところ。入学式とホームルー

ムだけなので、午前だけで済んだのだ。

 昼食にはいい時間帯。お腹も空いてきたので、その誘いを受

けようとした。

「久しぶりね。二人とも元気にしてた?」

 だが、横から聞こえてきた声に遮られてしまった。

 二人してそちらを向くと、何やら嬉しそうな顔の少女がいた。

それに反応してか、健斗たちから見て右横に括っている髪が

ピョコピョコ動いている。

「えーと、どちら様?」

 いきなり久しぶりと言われても、健斗にはいまいちピンと来

るものがなかった。

「はあ? 名前聞いて何も思わなかったっていうの?」

「いや、自己紹介なんて全く聞いてなかったからな」

 前半は焦り、後半は恥ずかしさで人の名前など聞く余裕が、

全く無いに等しかったからだ。

 呆れたような視線を向けてくるが、健斗としては自分のせい

じゃないので不服だった。

「アタシの名前は呉橋くればしあおい。どう? 思

い出した?」

「……ええっ、葵!?」

 まさかこんなところで再会するとは思っていなかったので、

健斗はかなり驚いた。

「やっと思い出したわね」

「だって昔と変わってるからさ」

「三年も経てば変わるわよ」

 面影は残っているが、記憶に残っている葵と大分違っていた。

髪も長くなっていて、全体的に大人っぽくなっている。

「涼は気づいていたか?」

「当たり前だろ」

「アンタたちは全然変わってないわね。入学式も一騒動、起こ

していたし」

 懐かしい。

 葵は昔を思い返すような目をしていた。

 別れる前までは、三人でよく行動を共にしていたのだ。

「俺は巻き込まれただけ。元凶はこいつ」

 やれやれと涼に顔を向ける。

「お前もノリノリだったじゃないか」

「誰がっ!」

 先ほどは変わってないと思っていた葵だったが、今の健斗に

違和感を感じた。

「あれ? 健斗ってそういうの好きじゃなかった?」

 小学校の頃の健斗なら、自分から騒動を起こしていたはず。

 その差異が違和感の正体だった。

「ちょっとな、健斗はボケてしまってな」

「えー! 健斗、頭大丈夫!?」

 涼も久しぶりに会った葵も、遠慮なく毒を吐いてきた。その毒に挫けそうになるのを何とか耐えた。

「ふっ、昔とは違うのさ」

「本当に大丈夫?」

 本気で心配してきた。こちらをジッと見つめてくる。

 やっぱり小学校の時の自分と違うからだろうか。だけど、自

分はアホなことはしないと決めたのだ。結局、涼に巻き込まれ

るけど。

「大丈夫だから。ところでせっかくの再会だし、飯でも食いに

行かないか?」

 とにかく話題を変更をしたかったので、昼食に誘うことにし

た。強引な変更だったが、葵はそれに乗ってきた。

「いいわね。せっかくだし、アタシの友達も誘っていい?」

「別にいいぞ。涼もいいよな」

「ああ」

 ひとまず誤魔化せたことにほっとする健斗。気の緩みから、

悪友が不敵な笑みを浮かべているのに気づかなかった。


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