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第三話 捕獲、連行、体罰?

「落ち着いたか?」

「……ああ」

 こくり、と少女は頷く。

 一人でひたすら慰めた甲斐もあり、少女はようやく泣き止ん

でくれた。

「本当にすまなかった」

 撫でていた手を離し、誠意を込めて少女に謝る。襲われたと

はいえ、女子に暴力を奮ったことが、自分で許せなかったのだ。

「……ぷっ」

「?」

「あははははっ」

 重い雰囲気だったはずなのに、それを壊すように少女は笑い

だした。

 いきなりのことで、健斗は困惑の表情を浮かべることしかで

きなかった。

「おかしかったか?」

「自分が捕まりそうだったのに、謝ってきたからな」

 少女には泣いていた面影はなく、今では笑顔になっている。

(泣き止んだなら、それでいいか)

 ほっと一息。

 ――ガチャリ。

 も、つかの間だった。

「……ええと、これは?」

 健斗の右手には手錠。少女の左手には手錠。健斗と少女の手

は、見事に繋がれていた。

「見ての通り、捕獲したのだが」

「何というかタイミングがおかしいというか」

 さっきまで慰めてたのは、なんだったんだ、と言いたくなっ

た。言っても聞かないだろうけど。

「私はお前らを捕まえに来たのだ。これは当然だろう」

「抵抗してもいいか?」

「ま、また痛いことをするのか?」

「…………」

 ささやかな反抗を試みたけど、涙目で返されたらどうしよう

もなかった。

 健斗にとって、そこまで怖がられる方がショックなのだ。

「分かった。大人しく連行される。だから、そんなに怯えない

でくれ」

「では行こうか」

 途端に笑顔になる少女。正直、演技ではないのか疑ってしま

う変わりようだった。

「はいはい」

 少女に引かれて、大人しくついていく。ちなみに、背中に装

着した金棒は、無視することにした。

(涼め、覚えておけよ!)

 こんなことになった原因を作ってどこかに消えた悪友に、悪

態をつく健斗だった。


「君の名前は何という?」

 しばらく歩いていたら、少女から話しかけてきた。最初に会

ったときより、少し刺々しさがなくなっている。

たちばな健斗 だ」

「私の名前は神崎かんざき玲奈れなという。一応、君

より一つ先輩なんだがな」

 玲奈は非難じみた視線を送ってきている。ああいう状況だっ

たとはいえ、健斗がため口だったからだ。

「あー、すいません。でも今さら敬語を使っても仕方ないと思

うんだ」

「全く、しょうがない奴だ」

 怒っている様子ではない。健斗のため口を容認した、という

ことだろう。

「ところで、もう一人の男はどこに行ったのだ?」

「こっちが聞きたいぐらいだ」

 長い付き合いとはいえ、悪友の行動は理解しきれない。一つ

だけ分かっていることは、いつも厄介事を持ち込むことだ。

「ほら着いたぞ」

「……はぁ」

 健斗たちの目の前には重厚な作りの扉。その上に校長室とい

うプレートが付いている。

 ここに筋肉ダルマの校長がいるのは、間違いないだろう。気

のせいか、扉から殺気が漏れている気がする。

「元はと言えば、あいつが悪いんだ。見逃してくれないか?」

「それは無理だ。君も共犯扱いになっているし、何よりゆでダ

コ発言は弁解の余地がないからな」

 玲奈の言うとおり、大声でのツッコミは確実に校長にも聞こ

えていた。

「だけどあれは、ゆでダコとしか言い様がないだろ」

「ふふっ、君は本当に面白い奴だな」

 こんな状況でも、軽口を叩けることを笑う玲奈。

 おかしそうに笑う玲奈を見てたら、怒られるのも別にいいか

な、と柄にもないことを思った。

「さあ行くぞ」

「どんとこい」

 玲奈はドアを叩いた。扉から乾いた音が響き渡る。

「風紀委員長の神崎 玲奈です。先ほどの騒動の犯人を一人捕

まえてきました」

 数秒して返事がきた。

「よっしゃ、入れ」

(今よっしゃって言ったよな)

 嫌な予感しかない。どんとこいとは言ったが、やっぱり帰り

たくなった。

 そんな心情とは裏腹に、玲奈に連れられ校長室に入った。

 入って正面には椅子に座っている校長。カツラはなく、頭は

まばゆいままだ。上半身も裸である。その横には先生らしき人

が二人。入り口の横には武器を持った生徒が立っている。

(銃刀法違反じゃないのか?)

 玲奈もそうだが、普通に生徒が凶器を所持していて大丈夫な

のか。もちろん教師も所持していたらいけないが。

「よく連れてきた。もう手錠は外していいぞ」

「はっ!」

 玲奈は懐から鍵を取り出し、手錠を解除する。その後、入り

口の生徒のところで待機した。

「やあ、君は橘 健斗君だね」

 筋肉をピクピクさせながら、話しかけてくる。正直、不気味

だ。

「そうです」

 そんなことは口走れないので、素直に返事をする。

「君は我が学園の校訓が分かるかね?」

「三度の飯より睡眠ですか?」

「自業自得だっ!!」

 自分としては良い校訓を言ったつもりなのに。そんなに怒鳴

られるとショックだ。

 周りは今の会話が面白かったのか、クスクスと小さく笑って

いる。

「……でだ。君がしたことは、実に許されることではない」

「ゆでダコって言っただけですけど」

「それがいけないのだ!」

「そんなに怒ると血管が切れますよ」

「誰のせいだ!?」

 端から見たら漫才のようなやり取りに、また周りの人は笑い

だした。

「ええい、黙らんか!」

 校長の叱咤でピタッと静かになる。腐ってもハゲていても校

長だった。

「で、俺はどうなるんですか?」

「もちろんワシの筋肉の餌食だ」

「は?」

 素で今の言葉が理解できなかった。てっきり、停学にでもな

るのかと思っていた健斗だが、予想の斜め上を超えていた。

「久々だから手加減はできないぞ」

 不敵な笑みを浮かべる校長。

「……体罰じゃないんですか?」

 昨今の教育現場では、体罰などしたらマスコミに叩かれるだ

ろう。その危険を犯してまで、体罰をするのだろうか。

「そんなもんここでは関係ないわい」

(ここでは?)

 健斗は何か妙な違和感を感じた。武器を持った生徒を見たと

きと同じものだ。

(まさか、涼のやつ……)


「大変だな、健斗」

 そんな思考も、急に天井から現れた涼に遮られた。

 天井を改造でもしたのだろうか、開くようになっている。そ

こから涼は、華麗に降りてきた。

 健斗以外は突然の登場に驚きを隠せないでいる。健斗は悪友

の神出鬼没スキルを、嫌というほど味わっているので、大して

驚かないのだ。

「お前どこ行ってたんだよ!」

「ふっ、真打ちは遅れて登場するものさ」

 相変わらずの余裕綽々といった態度。いや、この場ではふて

ぶてしいの方が合っているかもしれない。

「ほう、自ら罰を受けに来たのか」

 しばらく驚いたままの校長だが、平静を取り戻した。憎き二

人が揃ったのが嬉しいのか、皺を寄せて気持ち悪い顔になって

いる。

「そんな感じですかね」

 涼は依然として、気楽な状態だ。

「ふふふ、では罪を償ってもらおうか」

 いやらしく口の端を上げ、立派な椅子から立つ校長。筋肉は

さっきより躍動感に溢れている。

(大丈夫なのかよ!)

(任せておけ)

 小声で会話をする二人。

 健斗は口では言ったが、そこまで心配していない。大丈夫か

聞いたのは、通過儀礼みたいなものだ。

「校長、一つ聞きたいことがあります」

 今にも襲いかかりそうな校長を制するように涼が質問をして

きた。

「……何だ?」

 話を聞く気はあるのだろう、校長はそれに応じる。

「ここの校訓は?」

「自業自得だ」

「そのとおりです。良いことをしたときは良いことが、悪いこ

とをしたときは悪いことが、自分に返ってきます」

 もったいぶったような言い方。焦らすような口調。校長には

ストレスが溜まっていく。

「何が言いたい?」

「これを」

 涼は校長に歩み寄り、怪しげな一枚の封筒を渡した。

「何だこれ……は!?」

 訝しげに封筒を睨んでいたが、中身を確認した途端に声が裏

返った。

「こ、これをどこで?」

「いやいや、偶然手に入れただけですよ、校長」

 にこり、と眩しいぐらいの笑顔を振り撒く涼。

 それに比例して、校長の顔色が悪くなっていく。髪がないの

で、その様子がよく分かる。

「これで校長が何をすべきか分かりますよね?」

 止めとばかりに校長の肩を優しく叩く。健斗は心の中で、ほ

んのちょっぴりだけ同情したのだった。


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