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第十話 デザートは別腹

「まさか一日で二回も気絶するとは思わなかったな」

 意識を失っていた健斗は、ものの数分で復活した。

 といっても、捻った後遺症は残っているようで、しきりに首

をさすっている。

「すぐ起きるように、手加減したからいいでしょ」

「あれで手加減かよ……」

 葵のパワーに内心で恐怖する。胸ではなく、間違った方向に

成長したのではないかと。

 このまま葵が、人外への道を歩む前に引き止めようと決意し

た。

「何か変なこと考えなかった?」

「そんな滅相もない」

 まだ死にたくないので、全力で首を振って否定する。首が痛

むが、屍になるよりマシだろう。

「それより橘君。早くメニューを決めてくださいよ」

 お腹が減って我慢しきれなくなった知佳が、頬を膨らませて

健斗を急かしてきた。その様子はどこか、ハムスターを連想さ

せるものだった。

 そんな知佳に、健斗は流石に抗議をしたかった。直接の原因

は葵だと。

「元はといえば葵の」

「…………」

「俺が悪いです、はい」

 しかし、無言で睨み付けてくるという、圧力にひれ伏すこと

しかできなかった。

 額をテーブルにこすり付け、誠意を存分にアピールする。

「馬鹿やってないで、早く決めなさい」

「はい」

 やり取りを終え、手元にあるメニューを開く。これも飲食店と比べて遜色無い作りだった。

「おいおい、デザートまであんのかよ」

 メニューを見た健斗は、驚きを通り越して呆れていた。

 もう学食とかのレベルではない。完璧に飲食店だった。

「デザートもおいしいって評判よ」

「ほう……」

 健斗は興味深く相づちを打つ。

「食べたいけど、学生だから金銭的に不安なのよね」

「そうだ葵ちゃん。いいこと思いついた」

 テーブルをかじっていた知佳が、急に姿勢を正した。そして、

葵の耳に顔を寄せる。その顔は、イタズラを考えている子ども

のようだった。

「葵ちゃん、ごにょごにょ」

「なるほど。ごにょごにょごにょ」

 嫌な予感。

 健斗のセンサーが敏感に反応していた。

「悪いな二人とも。ちょっと用事を思い出した」

 席を立ってこの場を去ろうとした。しかし、葵に腕を掴まれ

ることにより、それは阻まれる。がっちり掴まれているため、

簡単には抜け出せない。

「アタシね、健斗の一言ですごく傷ついたんだ」

 さっきとは真逆のしおらしい態度。その様子に、健斗は寒気

を感じた。確実に自分にマイナスなことが起きるだろうと。

「アタシだって女の子なんだから、胸とかのこと気にするんだよ」

 健斗からは表情が分からないように、顔をうつ向かせる。

「そ、それは悪かった」

 演技だとは頭で理解していても、この流れに逆らうことはで

きなかった。

「だからさ」

「?」

「デザートおごって」

 顔を上げて葵は、語尾にハートが付くぐらい、可愛いらしく

お願いしてきた。




「チョコレートケーキ追加で」

「私はチーズケーキで」

 テーブルには既に、いくつもの空になった皿が積まれていた。

 それは、たった二人の女子によって作られたのである。

「ま、まだ食うのか……」

 健斗はげっそりとしていた。このままでは、財布の中身が全

て飛びそうだからだ。

 結局、二人に押しきられる形で奢ることになり、少しならい

いかと承諾したのがまずかった。

 そんな健斗のことは露知らず、続々とケーキが運ばれてくる。

「女の子はデザート好きだもんね」

「ねー」

 二人は嬉しそうに笑い合う。

 デザートは別腹とか言葉があるが、レベルが違う。明らかに

メインより食べていた。

 金銭的に不安なのは、この食べる量のせいだろう。

「よく考えたら雨音は関係ないだろ!」

 傷ついたのは(表明上で)葵だけだ。今さら知佳に奢る必要

がないことに気づいた。

「橘君! 女の子が二人いるのに、片方しか奢らないという、

甲斐性のないことをしてどうするんですか!」

「ええ!? 俺が怒られるの?」

「ショートケーキ追加で」

「あっ、私も」

「無視すんな!」


「ありがとうございました」

 ウエイトレスの笑顔に見送られながら、三人は食堂を出た。

 二人は満足そうに、一人は真っ白に燃え尽きながら。

「んー、たくさん食べたわ」

「おいしかったですから、ついつい注文しちゃいましたよ」

 二人の教室に向かう足取りは軽い。

「財布が軽いぜ、ハハ……」

 一方、沈むんじゃないかというぐらい、重い足取りの健斗。

実に対照的だった。

「ゴメンね、ちょっと食べ過ぎちゃった」

「いいけどさ」

 幸せそうにしている二人を見ると、まあいいかと思えてしま

う。

「ふふ、ありがと。健斗は相変わらず優しいよね」

「……そんなこと言ってないで、とっとと教室に戻るぞ」

 健斗は少しだけ歩くペースを速めた。もちろん照れ隠しのた

めだ。

「照れてるわね」

「照れてますね」

 ばっちり二人に気づかれていたが。


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