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ドアグレブ地下大砂城

アストルの誓い


俺たち調査団・探検家・学者の倫理として継承されている誓い。

その生涯に純粋と真実を貫き、研究を行う。

あらゆる謎の相違を問わず、不正を犯すことなく、探求を行う。

知を求める者に報酬なしにこれを与える。

人を殺める一切の術に対し継承を禁ずる。


以上四項を始めとする学術倫理の一つだ。


「治療は罠だ。人でなくなる前に東へ向かえ。アストルの誓いを忘れるな。」


彼女は確かにこう言った。そして次の夜から放送は途絶えている。

その身に何があったのか。電波は北から強く発せられている。首都の近辺に潜伏しているのだろうか。考えたくもないが、医師局と呼ばれた組織の活動と関係があるに違いない。そして俺たちの知らない事柄の多くを既に掴んでいるだろう。


調査団の持ち込んだ放送局と無線中継器が生き残っているのは僥倖だった。学者たちで構成される調査団は複数期に渡って人員をこの大陸へ送り込んだ。そしてそのほとんどが帰らなかった。

持ち込まれた機器もまた大陸に残置されているはず。扱いは心得ている。何かあれば助けを求めることも、助けを求める人の元へ向かうことも出来る。


今回派遣された俺たちの目的には、調査はもちろん彼らの救助も含まれていた。

東か北、どちらへ向かうかは決まっていた。


----------


「不幸にも竜の気まぐれにドラスティ王国は衰退した!だが、誇り高いその血筋は生き残っている!最後の王家!シモン・ドラスティ様である!」


「尊い彼の御心は憂いている!国民に誤った医療を提供し、不幸の輪を広げ続ける医師局の蛮行を!」


「第三次北方遠征は医師局の行使する術式の特定と国民の保護を目的にする。行動開始!」

ウィレの乗る砂牛に合わせて全体が速度を上げた。広い蹄が砂を掴み、通常ではあり得ない速度で砂上を突き進む。


「首都まではここから数日かかる。鱗の連中が襲ってくるから道中も気は抜けない。特に夜は見えづらいからな。痛い目に遭いたくなきゃ一人にはならないことだぜ。」

隣の砂牛を駆るハドリーは俺に向けて忠告する。余計なお世話だと返せばけらけらと調子よく笑う。


「それにお前は首都が初めてだろう。俺たちの洞穴なんて比じゃないくらいの規模だぜ。迷子になってくれるなよ。」


ドラスティ王国は周辺各国との小競り合いが絶えないという。かつて竜の炎に焼き融けた旧文明の中心地で、冷え固まった未知の結晶がその砂の下から発掘される。その結晶は高い硬度や魔術的な特徴を持ち、高値で取引される。そのため国境付近では盗掘が絶えず、警備の目的のため各地に砂城と称される砦が建設された。この砦がドラスティの象徴の一つとも言えるらしい。

そして地表は過酷な温度変化と砂嵐に晒される。首都機能を持つ都市もまた自然と地下に形成された。


医師局は出自不明の医療団体だという。各地を巡り医療を提供する、浮浪の一団。

国境を閉鎖して長いドラスティには大陸全体を覆う情勢も相まってその正体・真の目的は伝わっていなかった。

首都は現在医師局の活動拠点として、呪いに侵された患者たちの保護のために開放されているという。

患者の取り合いが王権派との間で発生しているが治療という目的は一致する。この遠征は互いの技術交流も兼ねていた。ウィレは敵意剝き出しだったが助け合いのみが互いを生かすことを理解していない訳ではなかった。


ハドリーはそう説明して、一枚の絵を見せてくる。荘厳な装飾が施された絵葉書だ。


「すげえだろ。よそ者向けの観光地としても有名だったらしいぜ。」


首都の中心に位置する、ドラスティ王国の象徴である逆さ城。

地下空洞に垂れ下がるように形成された世界最大の宝石。

通称、ドアグレブ地下大砂城だ。


----------


周辺一帯よりなお赤い砂。床から天井まで、一切をその砂岩に囲まれた地下空間。

中心の大結晶の発光は太陽のように、空間を暖かな光で満たしていた。想像を遥かに超える規模の空間に呆気にとられていると一人、白衣を着た人物が現れた。


「我々医師局はあなたたちを歓迎します。ヒポクラテスに誓って、共に医療へ尽くしましょう。」

首都郊外は閑散としていたが、中心である王城に近付くにつれてぽつぽつと人の影が増え始めていた。

特に王城内部には沢山の人物が動いている様子が外から伺える。

一団は郊外の空き地に仮拠点を設置する。その後は医師局に所属する男に首都を案内された。


鱗に侵された人々が病床に並び、その間を白衣を着た人物たちが忙しなく動いている。

そして何より、全員が笑顔だった。王権派の拠点には少なくともこんな雰囲気は無かった。この患者たちは確実に完治へと向かっている。鱗の無くなりつつある患者も見られ、確かな希望がそこにあった。


「ハドリー、彼ら本当に元気そうですよ。」

「ああ。表情だけはな。体を見てみろ。血色はどうだ。青白く、フラフラだ。」


そういう治療もあるだろう。医療体制の簡単な説明を受けていると日の暮れた時間になった。結晶の光が弱まるのを確認して一行は仮拠点へと戻る。

医師局は少なくともまともだった。この終末においても医療者として実直に患者と向き合っていた。少なくとも倫理的な違反点は見られなかった。


おかしいのは王権派の方ではないか。


----------


その日の夜、ふと地上に出た。ラジオで声を聴いた彼女がこの地下にいると思ったが一切の音沙汰が無い。地上にいるならと思い、ラジオを持って斜面を登った。

数分間先日の放送局の周波数へ設定したまま放置するが、雑音しか発せられない。彼女の身に何かあったのだろうか。


すると地下空間に繋がる洞穴から一人出てくる。荷台を牽引している男だ。

俺のいる岩陰の向こうで止まり、詰んでいたバケツを取り出しその内容物を辺りに撒く。様子がおかしいので話を聞いてみる。

「すみません、何をしているのですか?」

「...」

岩陰から身を乗り出し、遠くの彼に話しかける。こちらを見るが返事は無かった。

かわりにバケツを持ったまま近づいてくる。砂を踏みしめる音と内容物の波打つ音がやけに響く。彼の表情は変わらない。重そうなバケツだ。置けばいいのに。

十数歩の距離まで近づいた彼は立ち止まる。そしてバケツを後ろに振りかぶる。


その液体を俺へ向かってぶち撒けた。


俺は横から不明の存在に突き飛ばされる。液体は誰もいない地面に染み込んだ。

一団の中でも特に豪華な鎧を纏う人物。ウィラだ。そのまま男を蹴り飛ばし、岩に頭を打った彼はそのまま動かなくなる。手早く男を拘束する彼女に問いかける。

「ちょっと!なんで蹴ったんですか!」

「奴は君を殺す気だったよ。声を出さないで。もし生きて帰りたいなら着いてきて。」


神妙な面持ちの彼女は歩きながら状況を説明する。

砂漠の夜に語られた医師局の真実は紛うことなき悪魔の所業だった。

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