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竜の背

エアイース衛星国は国土の全てを月面に有する極めて特殊な国家だ。


その歴史は宇宙で最も長いとされ、地上に降り注いだ残骸から貴重な文化的遺産および技術が現在も多数発見される。


「あり得ない。前史の技術が本当にこれほど発達していたなんて...」

空間中央の転送門に張り付いてぼそぼそと何か言い続けるイェール。


「ケルン。それと、君も。ここは危険かもしれない。安全な場所はないか探そう。」

ネアは口調を変え、何か危機感を含ませる。辺りを気にし始めた。


「ああ。同感だ、でも一帯に人の気配は無いぞ。」

「私は人以外の気配が心配。」

「おわぁあああ!?」

自身の耳元で突然音が発生したネアは軽く跳ねるほど驚いた。背から降りたリリーは淡々と身に着けた装備を点検する。


「無事そうでよかった。私もリリーに賛成。ここから一刻も早く離れたいな。」

転送門の傍らからイェールが言う。こいつらは何を感じ取っているんだ?


この広い部屋は吹き抜けになっている。ガラスの天板の向こう、そこには地球が写っていた。そして壁には幾重もの通路と、転送門が設置されている。ほとんどが停止または不規則に明滅を繰り返していた。


次第に、その明滅が足取りを揃え始める。


その光の向こうから何か影が現れようとした瞬間、ネアが叫ぶ。

「全員ッ!俺に着いてこい!何かが来る!」


全員が一斉に広い通路の暗がりへ駆けた。何者か大量の足音を背に、シモンは相変わらず笑っている。


----------


転送門


任意の地点を結ぶ時空間穿孔、その発生・制御装置。

具体的な原理と構成技術は過去の調査文献というか、古文書と称されるほどの書物でなければ目にできない。現代では、もっぱら御伽噺や創作物の中に登場する概念だ。実際、理論物理的魔窟と称される調査団技術部一課ですら実装・制御に成功していない。

聞くとリリーとイェールはそこの出身だと言う。先ほどから仮説検証に花を咲かせている。その専門性に弾かれた俺とネアは入り口の傍で談笑しつつ、通路を警戒していた。


薄暗い部屋。空調が効いており、肌寒くすら感じる。小さい光が機械的に点滅を繰り返す。ここは記録保管庫のようだ。部屋中に積まれた保管ディスクのケージが排熱に唸る。


あの大転送門を取り囲むように現れた大量の白い機械。それらの足音はようやくはるか遠くに聞こえる程度にまで落ち着いた。しかし、全くと言っていいほど安心はできない。あれだけの数を前に月面で逃げ回るのは至難だ。


するとネアが何か楽しみそうに問う。


「それにしても、これからどうするよ?」

「どうもこうも、転送門から元の場所に戻ればいい...ってダメだ。危険すぎる...」

「お前らもか。実はこっちも危機一髪だったんだよ。」

劣化版結界装置は転送門から離れた位置に落としたままだ。転送門を通じて海底へ戻ったとして、救助隊が近くにいるとは限らない以上あの水生生物を警戒するに越したことはない。

ネアは公国首都月区の公城で月光騎士団九十九名に取り囲まれたところ、偶然近くにあった転送門が起動し脱出できたとのこと。

いずれにしろ戻れば死の危険があるという共通点に笑うしかできなかった。

それ以前に、あの機械の警備を超えて転送門に辿り着くこと自体困難だが。


「転送門以外にどうやって地球に戻ればいいんだ...」

「衛星国の住民が転送門以外に移動手段を用意しないはずがない。せめて施設地図があればなあ。」


「お話は終わりました?お二人さん。」


「リリー。そっちこそ。何かわかったのか?」

「はい。脱出に必要な要素は主に二つ。」


一つ。巡回する警備機械を仲間にする。

二つ。秘密軌道エレベータの警備システムを解除する。


立てられた二本の指をネアと共に見つめる。

「どうやって?」「なんて言った?」そう言葉を零す直前、リリーに代わってイェールが説明を始めた。背中を俺たちに向けて作業を続けながら声をこちらに届ける。仕事モードだ。


「この記録保管庫に保管されているのはただの記録ではありません。人の、いえ、人に近しい何者かの思考模型、その回路情報。しかもまだ生きている。」

「つまり?」

「ここにあるのは衛星国の住民の記憶と人格です。」

「当然彼らなら施設情報も把握しているはず。感情ユニットとも言えるこれをインストールし案内を依頼します。」

作業が完了したのか、親指ほどの大きさの情報記録装置を怪しげな端末から取り外しこちらにプラプラと見せつける。あれが人だという。


「次に、帰宅手段の確保。現在、全ての警備システムが稼働しています。システムに登録された存在以外を排除する、そういう仕組みです。幸い、軌道エレベータの警備システムは独立している。ここだけをダウンさせれば地上に戻られます。攻撃プログラムも、ここに。」

二本目の情報記録装置。同時に端末の電源がイェールの手で落とされる。リリーが続いて喋る。


「それと、以後転送門には近づかない方がいいでしょう。故障した転送門は恐らく、記憶、肉体の順で転送を行う。本来は同時に行われるのに。そしてあれだけあった転送門のほとんどが地球ではないどこかへ繋がっている。下手に近付くのは危険でしかない。」

「了解。リリーさん、イェールさん。となればまずは俺の出番だ。一機、とっ捕まえればいいんだな?」

ネアは腰を上げ、肩を回す。


「そう簡単には行きませんよ。奴らは位置情報と稼働状況を共有している。突然信号が途切れれば全機がそこに集まります。」

「集まらないようにすればいいんだろう?」

「ええ、そうですけど...」

「それじゃ、行ってくる!」

「あ、ちょっと!」


開け放たれた扉。差し伸ばされたリリーの右手が空を掴む。


「私あの人少し苦手かもです。」


すぐさま響いた遠くの轟音。リリーが更に顔を歪ませたのは言うまでもない。


----------


ネアの扱う月の魔術。これは月の祝福の力を借り受けて行使される。故に月へ近付くほど、その威力を高くする。

地上では最弱の月光騎士とも揶揄された彼でさえ、ここ月面では一騎当千。ネアはおよそここら一帯の警備機械を引き連れ、ある一室に集めた。退路を断たれ、全方向から撃ち込まれる熱線の全てを避ける。

畳かけるような機械の突撃は、剣の一振りで吹き飛ばす。


仲間の信号の途絶を検知して、更に多くの警備機械がこの一室に押し寄せる。やがて数分して部屋に収まり切れないほどになったとき、彼は「そろそろか」と呟いた。


続く言葉は第五の月相。

「『満月』。」


白銀の圧力が、一瞬空間を震わせ、そして弾けた。

保たれた一気圧が消え失せる。ネアの描いた無尽の軌道は強固な施設外殻を細切れにし、警備機械もまた鉄片と化して宇宙の闇に葬り去る。

ゼロ気圧を意に介さず、彼は空間の中心で鞘口を鳴らした。


----------


集まったすべての警備機械を一気に破壊する。それがネアの作戦であり、リリーらが本気で怒っている原因でもあった。少なくともこの区画において何の信号も受信できない。遠く離れた別施設に警備機械の反応はあるものの、ここまで数時間とかかる距離。こちらからの手出しも到底不可能。


「ほら、もう集まらないよ。」

ネアはへらへらと笑いながら言う。月面に移動してからというもの力が漲っていたため威力がある程度向上することは予想していたが、予想以上の威力を前に嬉しくなっている。

この真意は汲めずとも反省の色が薄いのは明らかに伝わる口ぶりだった。


「そういう問題ではありません!話を聞いていたんですか!?この感情ユニットのインストールにはハードウェア、あの警備機械が最低でも1台必要なんです!全部破壊したって...もう...あぁ...。」

「あの、はい。すみませんでした。」

記録保管庫の隅に追いつめられ小さくなる男を前に、リリーは再度思考する。が、先にイェールが口を開いた。


「そう怒らなくてもいいよ、リリー。必要なのは頭部の部品だけ。一つくらい無事なものもあるでしょう。ネア、探してきて。」

「え、でも。」

「探してきて。」

有無を言わせないイェールの圧力に負け、ネアは勢いよく部屋を追い出された。

その後警備機械の頭部を抱えて帰還するのはおよそ1時間後になる。お腹減った。


----------


ザ...ザザ...


警備機械頭部には音声の出力部は存在しない。イェールが自身のイヤホンを取り外し、内部回路に接続することで口頭での会話を可能にしようと試みていた。しかしどうやら難航しているようだ。

リリーとイェールも諦めて、記録保管庫に備え付けのコンソールを介した文字列ベースの交渉に決定する。


「さ、多分これで起動出来たと思うんだけど...」

『...』

「『おはようございます。』、と。」

『...あ...た....て....』

「うーん、少し思考の安定まで時間がかかりますね。」

意味のない文章が画面に並ぶ。リリーが何かをまた調整する。すると文字列が意味を孕み始めた。


『...あ、ああ、あ、聞こえているのか!?誰か!誰か!』

「『聞こえていますよ。』」

どうやらこの人にとっては喋っているようだ。静かな部屋にうるさい文字が並ぶ。リリーに関してはなぜか喋りながらタイピングしている。面白い。


「『皆はどうなった!?無事なのか!?』」

「『詳細は不明ですが、この施設に人の気配はありません。ここで何があったのですか?』」

「『あ、あああ...なんということだ...我が国が滅ぼされるなど...』」

随分と物騒な内容だ。だが、話はあとでも聞くことができる。今は地上への帰還が優先される。リリーもそう考えていたのか、指を走らせた。


「『私たちは軌道エレベータに行きたいのですが、場所がわかりません。現在の座標と周辺情報を送信します。エレベータの位置情報を教えてください。』」

『...』

彼は何かを考えているのか、急に静かになる。


『取り乱して済まない...私は宰相アスガナ。軌道エレベーターだったな...君たちの近くに要人向けの秘密軌道があったはずだ。座標は...たしかここだ。』

リリーが送信した周辺情報ファイルの複製に座標情報が追加される。


「徒歩で30分ほどですか...よかった。一部の通路は誰かさんのおかげで真空になっているけど...。」

リリーのジト目を向けられ更に小さくなるネア。もっとも、リリー曰く潜水ユニットを衛星国の技術をもとに改造すれば問題なく俺たちも宇宙で活動できるようだ。

イェールにコンソールを明け渡したリリーは早速作業を開始する。


だが、アスガナと自称する男の一言で二人ともが手を止める。


『君たちは魔女を知っているか。』


「魔女...」

確かベルの口からも聞いたことがある。何をやらかした人なのかは分からないが、よほどの事をしでかしたのだろう。まさか月にまで来て聞くことになるとは。


『我が衛星国、そして盟国にあるシアロフ共和国を滅ぼしたのは奴だ。』


大悪党ではないか。しでかしすぎだ。


『奴には何か明確な目的がある。そしてそれが達成しえないことを自覚していた。』


『目的とは?』


『不明だ。しかし、奴は笑っていた。何もかもが戯れのようだった。』


『君たち。奴と決して正面から衝突するな。会話が可能であった以上、交渉もまた可能だ。間違えるな。我々のように。』


----------


秘密軌道エレベーターは現代において月と地上を結ぶ数少ない移動手段の一つである。かつての閉鎖的な運用体制と厳重な警備、自動的な保守保全機構によって今もなお稼働している。利用者はいないようだが。


数時間前とは一転、限りなく静かになった通路を歩く。

軌道エレベーターの麓に辿り着くと同時に、イェールは作業を開始し制御システムを奪取する。曰く宇宙線の影響か部分的に保守保全が上手く回っていなかったらしい。作業は数分で完了した。

開放された扉の向こうに豪華絢爛なケージが広がる。かなり広く、水槽の中では見たこともない魚が泳いでいる。機械のようだが。

意気揚々と乗り込むネアと俺とシモンを後ろから見つめる二人の視線に気づいて俺たちもまた足を止めた。何かあったのだろうか。


「イェール、このエレベータはどこに向かうのかな?」

二人は闇へ向かって聳える支柱を仰ぎ見る。地球の公転と月の自転が同期していない現世紀において、月と地球を結ぶ直線軌道の形成は難易度が高い。月が同じ面を常に地球に向けていないのだ。

故に地球の静止軌道に浮かぶ基盤環境と月の静止軌道に浮かぶ基盤環境のそれぞれまでは地上からエレベータを利用できるが、それらの間を飛び移るには特別な計算と移動ポッドが必要となる。

その制御システムが数千年前から停止していることをイェールは制御室の記録から確認した。


タイミングを誤ればポッドは空間を漂うだけになる。自動制御が停止している今、手動での飛び移りは危険すぎた。


リリーはこの時点でエレベータを用いた帰還を諦めていた。地球側のエレベータがどこに繋がっているかは向こうの基盤環境に飛び移った後でなけれは分からない。もし海洋のど真ん中であった場合、救助まで生存できるかも怪しい。

ある程度の居住環境の整えられたここ月面で救助を待つのが最も安全だ。最も望みは薄いが。


イェールもまたこれを理解したうえで言葉を紡ぐ。

「――ここに残る、という選択も、合理的ではありますが。」


イェールは淡々と、どこか遠い場所を見つめるような声で言った。その声音には、わずかに迷いと、決意が滲んでいた。


「ちょっと待って、何を考えているの?」

とリリーが問う。その瞳は冷静で、だがどこか試すような光を湛えていた。


「転送門を解析します。技術屋として、腕が鳴りますね。リリー?」


----------


一週間が経った。イェールとリリーは転送門近くの部屋に籠ったまま、二人で延々と盛り上がっている。

いや、アスガナの補助もあり複数名の衛星国の技術者もまた画面を介して議論に参加していた。記憶データ群が、次々と目覚め、仮想の会議空間が築かれていた。部屋には静かなざわめきが絶えず、リリーのタイピング音、イェールの指示、断片的な会話が交差する。


「面白いな...この転送門、次元の捻れを折りたたんで繋いでる。距離じゃない、概念的な位置で接続してる...」

イェールがどこかうっとりした表情で呟く。普段のこいつからは想像できない表情だ。


「異世界の侵略が魔女の目的?」「理論上観測不可能な世界との接続面の向こう側が魔女なのでは?」

「いや、それならなぜ記憶と人格の保存を見逃した?」「何か探し物をしていたのでは?それか、何かを特定の物を壊そうとしている?」

転送門は運用開始後の行き先の変更が出来ないため新しい転送門を一から作成する必要があるようだ。

そんな一連の会話を背に、俺とネア、シモンの三人は部屋の外、静まり返った通路の片隅にいた。最近ずっと隅にいる気がするが気にしない。


「なあ、魔女って何者なんだろうな。」

俺の問いに、シモンなぜか口元を歪めた。魔女が嫌いなようだ。会ったこともない相手を嫌いになるのは失礼だぞ。そういえばベルが帝国の港で気になることを言っていたが、気のせいだろう。魔女はきっと怖いので会ったならすぐ分かるはず。


「分からないが、相手にはしたくないな。うちの騎士団長の次くらいに。」

ネアは鼻で笑いながら言う。前から思っていたが、月光騎士団に所属しているネアも十分異常だ。腕相撲で勝てたことがない。ちなみにシモンは全勝している。強いねえ。


「魔女は海底の転送門を不正に起動し、地球の海洋の一割を月面に送った。」


「それによって地球と月の同期は更に乖離することになる。閉鎖空間が海水で満たされ、記録保管庫への避難が間に合わなかった数万の民が命を失った。我が国始まって以来最悪の犯罪者だよ。」


リリーとイェールによって声を手に入れたアスガナが言う。気付けばあまりの規模の大きさに口が開いたままになっていた。


「それは...国家レベルどころか、惑星規模の災厄じゃないか。」

俺はようやく口を閉じ、そう呟いた。隣でネアも眉をひそめる。


「魔女って……いや、ちょっと待ってくれ。それが本当なら、どうしてそんな人物が今も自由に動けているんだ? 世界各国が黙ってるはずがないだろう?どうして魔女を公に皆が知らない?」

「それが、黙っているんだ。」アスガナの声に、妙な苦味が滲む。


「強すぎたんだ。各国政府も軍も、基本的には混乱を避けるため口を閉ざしている。散歩しながら国を滅ぼして回る存在が今も野放しだなんて、体制が揺らぐ要因になり得ない。」


またも重苦しい沈黙が広がる。アスガナが続ける言葉でそれを破る。


「魔女討伐のためなら我々は喜んで手を貸そう。しかし体が不自由なので少々手を借りることになるがな。」


男性的な低く渋い声が笑みを伴い始める。無機物から伝わる確かな感情に戸惑うことも無くなり、一友人として助け合うことができることを喜び合った。


リリーとイェールらが転送門を完成させるのはそれから約半年後、地球への帰還は約一年後となる。


----------


転送門の片方を積載したロケットが地球へと旅立った。並行して行われたロケット開発、打ち上げ回数は十回を優に超えていた。衛星国技術者の支援により素材の加工から何まで地上では見られない精度と速度で行われていたものの、当初の予定を大きく超える資材と時間を消費したそうだ。

しかし皆が奇跡だと喜び合っている。門外漢として詳細は理解できないが、簡単ではないことを成し遂げたことは理解できた。

壇上でイェールが声をあげる。


「皆!打ち上げ成功おめでとう!」


喝采が巻き起こる。機械の体を与えられた衛星国の技術者や学者が思い思いに喜びを露にしていた。


「ロケットが地球に辿り着く約五日後、地球と月が再び繋がる!しかも、私たちの手で!」


リリーもまた、壇上の隅で小さく微笑んでいた。

この一年間、彼女は無駄口を叩くことなくただひたすらに作業を続けてきた。魔女の痕跡、転送門の特性と原理、そして記録保管庫に残された知識の整理。今や彼女は、衛星国の誰よりもこの転送門の本質に近付いていた。イェールが言葉を連ねる。


「皆のおかげで私たちは故郷に戻ることが出来る!本当にありがとう!」


「ですが...私たちは、帰還して終わりではありません。」


喝采の余韻がすうっと引いていく。誰もがその言葉の意味を探るように、静かに彼女を見つめた。


「多くの国々の滅びを見てきました。そしてその多くに魔女が関わっている可能性がある。私たちは帰還後、魔女討伐について各国に連携を呼びかけます。」


「皆さんの技術は我々の数世代先を進んでいます。是非、引き続きの交流をお願いします。」


壇上で頭を下げるイェール。それを見た者たちの中から、アスガナが一歩前に出る。


「盟友イェール、そしてリリー、ネア、ケルン、シモン。君たちは地上に希望が残されていることを私たちに教えてくれた。宰相アスガナの名のもとに、エアイース衛星国の支援を約束する。」


「そして、我らが衛星国の秘宝、メーミス大結界を御覧じよう。」


----------


転送門を抜けると、そこは雪国だった。


「お兄ちゃんっ!?」


そして妹がいた。久しぶり、身長伸びた?


俺たちは転送門の地球到着を確認した後、門を通じて地上へ戻ることに成功する。位置は南方大陸中央に設定されていたようだが、誤差があったのか西方大陸のどこか雪の多い地域に落下していた。高山だろうか。

知り合いがすぐそこにいたのは幸運であったが、どうやら戦闘行為の真っただ中であるのは不運にほかならない。


「お姉ちゃんもっ!?えぇっ!?リリー!?と、取り敢えず戻って!それ、通って!戻って!」

「隊長。右翼を抜かれかけています。指示を!」


お邪魔して申し訳ないが、転送門は魔力を消費するので戻るにも時間がかかる。そしてそれを説明するのにも時間がかかるので難しそうだ。困った。

だが光を失った転送門を見て察したのかベルはすぐベル隊長に戻った。


「両翼。遅滞戦闘に務めよ。中央第一小隊。民間人と転送門を回収、撤退を開始。リリー。右翼に参加して。装備はこれ。出来るね?」

「はいはい。相変わらず部下の扱いが荒いんだから。」

リリーは手早く装備を身に着け、作業に集中していた時よりも鋭い気配を纏う。気が付けば姿を遥か上空に見失った。

そして俺とネア、イェールとシモンはそのまま大男たちに飛空艦へと運ばれ戦場を後にする。


と、思われた。


ベルが今相手取っている敵の航空勢力に攻撃を受け、隊員が気絶する。航空能力を失い飛行から自由落下へとあっという間に転じた。

全身を包む浮遊感と、刺すような冷気。吹雪で何も見えなくなる。


激しい気流を抜けて黒い岩肌が見えた瞬間、何か頼もしい支えが突然腹の下に潜り込むように現れた。

「ぐえ」

少し強く押し込まれ肺から空気が追い出される。手の平に感じるのは艶やかな質感。

見れば鱗のようだった。視線を進行方向に向けると人の背中。そして竜の背中。


口を開けようにも風が入り込み思うように喋ることが出来ない。奥歯が寒さにカチカチと鳴り続ける。

俺を回収したことを確認したのか、騎手がマスクを外し振り返る。


そこには見知った顔。聞いた声。


「久しぶりねケルン!シモン様を守ってくれてありがとう!」


「ウィラ!」


ドラスティ帝国最後の貴族がその赤髪を風に揺らし、遥か上空に竜を駆る。

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