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彼女はフラフラと立ち上がり、手を前へかざした。
「ブレア様!私のブレア様!!!」
きゃははははと耳を劈く様な高い声で笑うと、黒い固まりをブレア様目掛けて解き放った。
「危ない!!」
私は咄嗟にブレア様を突き飛ばす。その反動で自分も少し飛び、黒い塊には2人ともギリギリ当たらなかった。
これが火事場の馬鹿力と言うやつなのだろうか。普段扇子以上の重さのあるものは、持ったことの無い細腕で、柱へ縛り付けられていたロープを引きちぎり、筋肉質な成人男性を突き飛ばすことが出来た。
「リリ!」
その反動なのか、意識が少し朦朧としている。ブレア様が私を抱き上げ、カイルに何か指示を出している。そして再度私の顔を見て、不安と焦りの入り交じった顔をしている。
「大…丈夫……?ブレア…」
良かった。無事で…残り僅かな力で腕を上げ、親が赤子を安心させるように頬を撫でる。そこで私よ意識は途切れた。
……誰かが泣いている。どうして?泣かないで。大丈夫。大丈夫だよ。
暗闇に響く泣き声。声のする方へ歩みを進める。そこに居たのは小さな背中の少女。言葉を買わさなくても伝わってくる、彼女の小さすぎる背中に似つかわしくない、たくさんの大きすぎる重責。
そして泣き声から伝わるのは、不安、恐怖、悲しみ、劣等感、怒り、嫌悪、憎しみ、恨み、怒り、そして殺意。これは、本来のリリアンヌ・ウェルズリーの感情だ。
ゲームの中の彼女は、跡継ぎになれない女という理由だけで、家族から冷遇され、政治の駒にされ、唯一心を交わすことを許された婚約者にさえ拒絶され、何者にも成れない。
唯一成れたのは悪役令嬢。
そんな本来の彼女の心の叫び。彼女は私に気が付くと、泣くのを止め、涙を拭い、飛び切りの笑顔で、“私を愛してくれてあがとう。”そう言った。
当たり前だよ。私は貴女で貴女は私なのだから。この先もずっと愛し続ける。今、暖かい家族が居るのも、大好きな婚約者が居るのも、全部、全部貴女と私が愛した結果なのだから。
そう告げると彼女は安心した様に、姿を消した。
そうだ、全部全部思い出した。ゲームの中のリリアンヌも、現実世界で社会人をしていた私も、今の愛されているリリアンヌも全部、私だ。私たちだったんだ。
目を開くと、馴染みのある風景。自分の部屋だ。いつの間にシュタイン王国に戻ってきてたのだろう。
いつも以上に重たい身体を起こす。
ドアの方には私のお世話をしに入ったと思わしき侍女。彼女は手に持っていたお湯の入ったボウルを床に落とすと、大声で廊下を駆けていった。
「奥様ー!!!旦那様ー!!!!お嬢様が!!!!」
なんか…デジャブ。




