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「ひっ!!!」
飛び起きた私は、首を触る。暖かい。あの夢はなんだったのだろう。本来、私はブレア様がヒロインの乙女ゲームの悪役令嬢だ。
だけどこの世界ではブレア様は男。つまり、私は悪役令嬢では無い。と思うのだが……
少し考えて落ち着きを取り戻す。少ししてから侍女が来て、今日の用意をしてくれる。今日はお忍びデートなので、平民の服に、落ち着いたハーフアップ。そしてつばが弘めの帽子。
「リリ、おはよう。」
「ブレア様!おはようございます。」
ちょうど用意が終わった頃、ブレア様が部屋まで迎えに来てくれた。食堂へ移動し、大公様夫妻を加えた4人で食事をして、私たちは公城を後にした。
「ブレア様!見てください!あの建物すっごく綺麗ですわね!あれはなんですの?」
「あれは国立図書館だ。身分関係なく誰でも利用可能な施設なんだ。後で行こうか。」
私は笑顔で頷いた。教会のような見た目をした、中央にステンドグラスを施してある凄く綺麗な建物。私は昔からああいうロマンチックな建物が大好きだ。
なのでこの世界に転生できた事は凄く嬉しい。
「リリ、これすごく美味しいんだ。」
ブレア様はいつの間にか近くの屋台から串焼きを買っていた。生粋の公爵令嬢であればかぶりつくなんてはしたない。と言うのだろうが、私の前世はドがつく庶民。そんなの全然お構い無しなのである。
「んん!美味しい!すごく美味しいです!!」
なんの躊躇もなくかぶりついた私。噛めば噛むほど柔らかいお肉。そして口の中へ溢れ出す肉汁。
そして程よいアクセントになっているスパイス。王国では食べたことの無い美味しさに、思わず目を見開く。
「これはこの国の民族料理でね。僕も小さい頃から市場へ来てはよく食べていた。」
この国は大昔にシュタイン王国の王弟が納めていた移民領地だったのを独立して作られた国。たくさんの移民による文化が混ざり、この国の文化として発展したのだそう。
その後も、私達は散策を続け、残すは図書館へ行くのみとなった時だった。
「あ。すみません。」
すれ違いざまに、女性と肩がぶつかり、少しよろける。その拍子に女性が財布らしきものを落とした事を私は見落とさなかった。
急いで拾い、後ろを振り向いたが女性は急いでいるのか少し早く歩いて遠ざかろうとしていた。走れば追いつくかもしれない。と考え、私は女性を追いかけた。
だが、思ったより歩く速度が早く、普段馬車移動の温室育ちの公爵令嬢の私にとってはとても追いつけるスピードではない。
だが、何を思ってか、ムキになり私は追い掛けていた。すぐに返して戻るつもりだったので、隣にブレア様は居ない。
それが、判断ミスだったのだ。やっと追いついて声をかけようとしたところで、私は後ろから近付いてくる人の気配に気付かず、首元に強い衝撃を受けた後、意識を失ってしまった。




