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しばらくして、後続の馬車に乗っていた侍従が戸をノックした。
「ブレア様、リリ様、準備が出来ました。」
「あぁ。今行こう。」
ブレア様の返事を合図に、馬車の扉が開かれる。開くと同時に、外には紅葉の景色が広がっていた。赤、オレンジ、黄色と綺麗なグラデーションの山々に、目の前には青々と広がる湖。
そしてそこに反射する紅葉達がさらに美しさを際立てていた。
「すごい…」
「綺麗だろう。去年の秋、入学の手続きをするために訪れた際、この景色を目にしてね。絶対にリリに見せたいと思っていたんだ。」
そう言って、エスコートして馬車からおろしてくれるブレア様。少し離れたところには布が敷いてあり、食べ物が並んでいた。
そのまま手を繋ぎ、私たちは座ってサンドイッチを食べ始めた。
「ブレア様、こんな素敵な景色を見せてくれてありがとうございます。」
「どういたしまして。もっと他にもリリに見せたいものが沢山あるんだ。2人だけの思い出をこれからも増やしていこう。」
「もちろんですわ!」
それからはお互い何が好き、何が嫌い、何が得意、何が苦手という話で盛り上がった。
「私は薬学が苦手で…特に調薬は出来た試しがありませんの。」
なので魔法科には入りませんでしたのよ。と続ける。魔法は感覚でできるが、薬学はそうは行かない。きちんとした手順を踏んで行わないといけない。何か一つでも飛ばしたり、量を間違えたりするとすぐ失敗へ繋がる。
こう見えてかなり大雑把な私にとって、調薬は苦手分野だ。特にこの世界には計量器が無い分、天秤で質量を計らないといけない。
そんな繊細な作業、私に出来るわけが無い。
「リリでもできないことがあるとは、意外だな。」
「あら、他にもありますわよ?」
絵を描くこと、刺繍をする事、お菓子を作ること、これら全て苦手だ。刺繍は淑女の嗜みのため、優秀な刺繍作家を雇い教えて貰っていたが、なんとも言えない残念な仕上がりにしかならず、先生を困らせていた。
よく、リリアンヌ様が出来ないのではありません。私の力不足なのです!と言われていたが、そんなことは無い。私のわがままで共に刺繍を習っていた侍女は、未経験から始めて、今では先生と並び王都で一位二位を争う刺繍作家になった。
懐かしいなぁ。結婚を機に退職したが、元気にしているだろうか。私が物心着く前から着いていてくれて、退職する時も駄々を捏ねたのを覚えている。
わがままで私の専属侍女は彼女だけ。と決めたのでそれ以来専属はおらず、日替わりで世話をしてくれている。




