22.ブレアside
「リリアンヌ・ウェルズリー公爵令嬢様ですよね?」
この女、挨拶をして別れたはずなのにいつの間に僕の後ろに居たんだ。なぜ着いてきた?さり気なく僕の腕に手を寄せ、緊張した面持で話している。リリは可愛いとでも思って居るのだろう。
この女はユリウスと同じタイプだ。しかもユリウスよりタチの悪い狼。
「私、エリザベス・ハートンと申します。よろしくお願いします。」
僕は静かに腕を離すが、気にしない様子でリリへ自己紹介をした。普通ならば爵位が下の者は上の者から話しかけるまで、自己紹介や話してはいけない決まりだ。
特にこの国最高位の公爵令嬢で、この僕の婚約者…婚約者か…いい響きだ。いや、違う違う。本来の思考から逸れてしまった。取り敢えず、僕の婚約者であるリリへ勝手に話しかけるなど、世間知らずも大概にした方がいい。
リリはそれを気にすることも無く、笑顔で完璧な自己紹介を返す。さすが僕が選んだリリだ。いや、選ばれたと言ってもいいのかな?
とにかく現時点で一番幸せ者は誰かと問われたら、僕は迷いなく自薦する。他薦ならばリリだ。
なんて事を呑気に考えていた時だった。後ろを通りかかったご令嬢が、リリにぶつかった。ぶつかった衝撃でリリの持っていたグラスが揺れ、エリザベス嬢へワインがかかってしまった。リリのドレスにも少し飛んでしまったのが見える。
そっちに気を取られてしまったせいで、令嬢が何処へ行ったのか見ていなかった。しまった。僕のミスだ。しかもエリザベス嬢は勘違いしてしまっているし、どうしたものか…
リリにぶつかった令嬢を捜索させるために色々考えていると、リリとエリザベス嬢の話し合いは思わぬ方向へ進んでしまっていた。
エリザベス嬢は泣き帰ってしまったし、リリを庇うことができなかった。僕はなんて使えないんだ。その後三人で休憩室へ移動し、侍女に染み抜きをしてもらうことになった。
僕はリリの隣に座り、とりあえず婚約者になった嬉しさからリリを抱きしめていた。
「僕、さっきリリにぶつかったご令嬢を見たんだ。」
「あぁ。私も気配は感じていたよ。ここは彼に任せるか。」
ユリウスはそう言うと、手を2回ほど叩いた。その直後、ユリウスの後ろが少しづつ歪み始め、一つの人影が浮び上がってきた。
それは瞬く間に色彩を持ち、はっきりと確認できるまでになった。
「お呼びですか?我が君。」
そう言って現れたのは、ユリウスの参謀兼付き人、カイル。カイル・イーストン伯爵令息だった。




