⑧神話の怪物
「うわ、なんだこれ」
私の服を洗濯しようとした圭に、極小サバイバルナイフが見つかってしまった。
慌てて圭に怪我がないか確認しに走った。
「わたしは触ってないけどなんでこんなものをお前が持ってるんだ」
圭に聞かれたので正直に答えた。敵を殺すためだと。
実はその敵についてはもうそれほど気にしてはいなかった。ただ何処かの道端でばったりと出会ってしまった時は殺そう。そんな些細なものだった。
ついでに服用していたうつ薬も見つかかってしまった。圭は自分との仲がギクシャクしたことで、私がこれを飲んだと誤解し会社にばらしてしまった。
「たぶんクビ、ここにも住めなくなる」
圭に正直に話した。会社に入ってから病を発症した場合クビになることはない。ただしその前からうつに罹患しているのに、履歴書にそれを書かなかったら虚偽履歴書になる。私の場合は会社に入る前からだった。
たくさん圭に謝罪されたので問題ないと答えた。多少疲れが出ていたのでそれならそれでいいと。
『圭ちゃんから聞きました。半月程度休んでください』
木島社長からメッセージが入った。
半月休みをいただいた。
「どうしよう。私がいない間に敵が来たら皆死んじゃう」
そういうと圭が皆はわたしが守ると言った。その意気や良し。
「でも私が一番強いんだよ」
圭はぐぬぬとなったが、とにかく今は寝てろと言った。
これはある意味一番正しいうつの治し方だった。正確にはうつそのものは治らないが、一日16時間寝てたら発症はしないという説もあった。不可能に近いが。
圭は学校を午前中で切り上げて看病してくれた。
休み始めて二日目に鳴もやってきた。うつなのに何故か寝ている私を見て泣き出してしまった。
「わたしたちが不甲斐ないせいでこんなことになってしまってごめんなさい」
鳴は頓珍漢なことを言い始めた。
「鳴じゃん、看病ありがとうな」恋のライバル?なのにちゃんと受け入れる圭は格好良かった。
「これね、これ。短い刀身のナイフを二人に見せた」いじめに遭った時の首謀者をずっと殺そうとしてた。それだけなんだ。でも今はわりとどうでもいいんだ。
二人から見たらたいへんな事に見えたらしく、うつ薬よりこちらに関心が移ってしまった。
「こんな小さくても誰か殺せるのか」
圭が言ったので、歯の下側にあるギザギザの説明をした。
「刺しただけでは多分死なないけどこのギザギザで内臓を引きちぎるんだ。つまり刺して引き抜いたら勝ちだよ」丁寧に説明してあげた。
「それよりもあなたが付いて居ながら、溝口先生が寝た切りなってるのは大問題よ」
鳴が圭を責めた。圭が頭を掻いている。寝たきりでいる理由はほぼないので、私は起き上がってソファに腰掛けた。
「この会社に来てからまだ一年経たないけど、最初は二人のパンツ見えないか下から覗き込んでいただけだった。だけど最近は敵が強くなってわりと大変だった」
鳴はこれを聞いて、そんな初めの頃から気に掛けてくださったんですねとおかしな事を言い始めた。気になっていたのは君ではなくパンツだ。
「それでここに来たのは溝口先生の看病のことで、もう学校には仮病で半月休み取ったのでずっと一緒に居れますね」仮病の内容が気になった。
鳴は暴走すると止まらないタイプかあと思いつつ、圭に目線で助けを求めたが、押しに弱い圭が断れるはずがなかった。
怒ったり説教したりする元気がなかったので勝手にしていいよと伝えた。
午前中は圭が学校に行っているので鳴と二人だった。
「学校はともかくどうやって外泊許可取ったの」素朴な質問だった。
なんでも会社での強化合宿ということで許可を取ったらしい。強引さが鳴らしかった。
「食事から下半身のお世話まで全部やるのでゆっくりお休みくださいね」
無茶なことを鳴が言ってきた。特に下半身のお世話は圭にして貰えると思うので気にしないで。というといつかの鋭い目付きで睨まれた。
翌朝失礼しますねと言って鳴がレッド・ローズに変身した。鳴がロリータドロワーズを脱いでしまったのでそれだけでもうパンパンだった。
「上から脱ぎますよ」と言いながら赤のドレスなので上下のピンクの下着が丸見えになった。
ベッドから出て何処かに隠れたかったがどうやってもどこか触ってしまいそうだった。
「勘弁してください。なんでもしますから」
頼んだが許して貰えない。というかあなたのその姿そのものが凶器なんです。誰でも落ちますって。ゆっくりと鳴は身体を重ねて来た。我慢できないので言葉も出ない。そのまま犯されてしまうと思ったので勇気を出して叫んだ。
「圭と別れたくないのでやめてお願い」泣きながら鳴に懇願した。
この一言で鳴は服を着てくれた。助かった。
下着を手洗いしているところで圭が帰ってきた。超怪しい目で見つめる彼女の視線が痛い。
「最後まで耐えきったよ。圭でしか出さないからね」
圭はあまり信用してない様だったが鳴をちらっと見たが何も言わなかった。
煙草を吸いながらベランダで外を眺めていると圭が来た。
「いい機会だから鳴に出して貰え」
むせ過ぎていろんな機関に煙が入った。それは絶対に嫌ですときっぱりと言った。
「鳴のがちょっと大きいだろう胸。それにアイドル級だぞあの容姿は」なら圭が出して貰えばいいじゃんと言ってリビングに帰った。
圭は絶対に自分だけを見てとは言わない。自己評価が低すぎるせいでいつも自分を後回しにする。損するから止めなさいと言ってあげたい。ロシア人とのハーフでSNSで一番人気は圭なんだよ。
それにしても。
うつの療養になってないなあと思いつつ、鳴が私に拘る理由が分からない。ただの年上への憧れだけなのかホントに。たまたま今だけ中学生専用フェロモンが出てると言うことで納得した。
午前零時を過ぎてベッドに入ろうとしたが圭がいない。
探しに行くと自分の部屋に布団を敷いて彼女は寝ていた。一緒に寝たいと駄々をこねたがなかなか起きようとしない。
案の定鳴に見られた。
「お風呂に入り忘れたからお湯溜めてくる」
鳴の姿を今見たらダメだと思い距離を取った。圭の頭を撫でながら寝たかった。それを拒否されじゃあ鳴でとかダメに決まってる。
お湯は二人が入った後なので既にあった。少し温め直して風呂に入ることにした。
後から鳴が入って来たが予想通りだったので動揺はなかった。
「いつもは圭と一緒に入ってるのかな」
鳴が聞いてきたのでたまにだけど入ってると言った。鳴は掛け湯をすると自然に私の前に座った。圭がいつもそうするように。
「聞かれる前に言うけど興奮凄いからね。犯してしまってもおかしくない」
鳴は落ち着いて肩までお湯に浸かり直した。あと、分かってるかとは思うけど圭はもう処女じゃないとも言った。
「いいですよ。心の準備は出来てるから」
そう言われて逆らえる男はいるのだろうか。ゲイでも重度ペドフィリアでもない男が。
「気持ちだけ受け取っておくよ。流石に責任を負えないことはできないから」
圭にそう言って洗い場で身体を洗い始めた。鳴も隣で洗い始めた。今まで見たかったものが見えて幸せだった。
神に謝罪しつつ二つの乳房を掴んだ。自分で何をしてるかははっきりと分かっていたが、欲望の闇に包まれていた。
「流石に二人同時は無理だから。誠実でありたい」
今乳に触った男がそんなことを言っていた。しかし鳴は私を押し倒し、上から私のモノを自分の中に入れようとした。
「鳴ちゃん経験者なの?」
普通に誰でもそう思うであろう質問をしたが、鳴は首を横に振った。
鳴は10分頑張ってみたが入らなかったので私のナニが萎えて終了した。
その夜は鳴と一緒に寝た。文字通り寝るだけ。
翌日は敵の出勤日だった。圭はどうせ落ち込んで力が出ないだろうから出動準備はしていた。真彩の技は海に近い方が威力が大きいので芝浦辺りにおびき寄せるよう指示した。
『ライドニング・ストライク!』
圭の放った一撃だけで敵は沈黙爆発した。
やればできるじゃんと思っていたところで、まったく違う人型の敵が二体出現した。
ブルー・オーシャンとグリーン・フォレストが足止め技を使い、後の三人の一撃でトドメを刺す作戦だ。いつもと同じならなんとか行くはず。
楓の注射があと一歩で届かない。鳴のスティング・ローズも敵の結界深いところで止められてしまう。問題は圭だ。さっきのを二発叩き込めるか。
すると圭の髪の毛がゆらゆらと揺れ目からハイライトが決めた。来るのかまたあれが。
『ローリングストーン!』
二体とも石化したので楓の毒針と鳴の棘薔薇が届いた。
私は嵐を起こし圭を引き寄せ、落下する彼女を受け止めた。
ベランダに圭を誘った。
さっき戦った芝浦はたぶんあっち。指差すと彼女はそっちを見た。
「圭はそうとうメドゥーサと同化してたんだな。気が付いてやれなくてごめん」圭は黙っていた。
神話なんて気にすることはない。アテーナ―もペルセウスも俺が討つ。正義の味方と言う名の虐殺者は許さない。圭は小さく泣いて抱きついてきた。
「あとベッドに早く戻って来なさい。そろそろ鳴に犯される…」
伝達をミスしたつもりはなかったのだが三人で風呂に入っていた。
これでは誰で大きくなったのか判別が付かない。なので圭だけガン見することにしたら、やめろと言われ断られてしまった。なら当然鳴を見ることにした。
過去最大級の勃起に驚いて身体を洗い終えていないのに走って出て行った。
先に出たのでソファでナイフの刃を出し眺めていた。東京は広い、私の本当の敵に出会う可能性はほぼゼロだろう。探し出して肉片にする予定も今のところはなかった。
「憎しみは消えませんか」次に出て来た鳴に聞かれたので頷いた。
いつの間にか隣に圭が座ってきたので慌てて隠した。
「わたしも見たいだろ」
と圭が言うので全力否定した。お前は危ないんだよ一番。
私はこれで敵を刺しても煙草ふかして平然としていられる自信がある。
だけど圭、お前はこれを自分自身の首筋に当て、やがてその首を掻き切るんじゃないか。




