⑤勝手な奴ら
「敵が強くなっていますね」
新社長が事務的に言った。私もそう思っていますと返答した。
週一のペースは律儀に守ってくれる敵だったが、強化されて現れるのも怖かった。
「あと二人勧誘しましょう溝口さん」
社長が提案したがナンパとかしたことないので、圭を連れて行くことにした。
我々は結構有名人だったので、すぐに結構の数の少女が希望してくれた。
100名近く集まったところで順番に面接することにした。危険な仕事に親御さんの許可が取れるのか、勉学に多少遅れが出ると言うことを新社長が話した。
年棒契約なのだがこれが相当に高い。上場企業の40才平均を目安に与えているという。
私のそれはもっと高かった。
「二人に絞りましたので溝口さんお願いいたします」
新社長の手際の良さが光っていた。変身ヒロインになるのは難しいことじゃないので、もうレッスンに入って大丈夫です。と彼は言ったがその方法については言わないのが怖かった。
「初めまして。川島恵美と言います」
挨拶がきちんと出来てるので好感が持てた。早速レッスン室で変身してもらった。
グリーンの戦闘スーツに身を包まれたのだが大きい。胸部が大きすぎてこれはまずいと思ったのだが、これって新社長の趣味だからとそのままガン見することにした。
森を背景に真彩のように敵を緑で覆いつくすのだが、あっという間に敵が息絶えた。
「毒盛ってますよねこれ」
社長に連絡を入れたが問題ないという。
続いて岬楓ちゃん。
ピンクのナース服に身を包んで可愛らしかった。ところが大きな注射器を持っている。
鳴が薔薇の花びらで包み込んで攻撃をした後でアタック。注射を刺された敵が朦朧としてる隙に圭の電撃でトドメを差した。
「幻覚剤使ってますよねこれ」
というとやはり問題はないらしい。
下から覗き込んだらピンク色のパンツが丸見えだったのでここは改善の余地があった。
新人ちゃんたちどうかなと週末に圭に聞いてみたら、強いしいいと思うと言っていた。
下着を抱えながらインスタントコーヒーを淹れに行った。最近は圭もこれを飲めるようになっていた。二人でコーヒーを飲みながら明日はデートしようと提案したらわたしも行きたいと言ってくれた。
「ブラとパンツは置いていけよ」
と言われたので渋々了承した。何処へ行くか二人で考えた結果植物園にした。
就寝が近づくと私は必ずそわそわする。ところが圭が落ち着き払っているので焦りを感じた。いつも自分の欲望を押し付ける訳には行かないので今日は断念か、と思っていたら圭がシャツのボタンを外し始めた。ブラが黒だったので驚いた。
「こういうのはどうなんだ」と聞かれ嬉しいけど圭には早いんじゃないかと言った。
「バージンって訳じゃないし、たまにはこれもいいかなと思った」
圭の意見はまったく正しい。ただ私は明るめの色が好きなので困惑していた。
「好みじゃないみたいなんでそれ貸せよ。こっちがいいんだろ」と言って白いのに着替えてくれた。
そんなことより今日は圭に話しをしたいことがあった。
圭と将来住む家を買いたいと言った。
圭がどこの大学受けるか分からないから、賃貸でもいいんだけどと前置きしてから。
私はもう圭との未来しか考えていなかった。人生なんて何が起こるかわからないから、未来のことはこれまで考えたことはなかった。
「重すぎたらごめん。圭が同意してくれたらだから」そう言って圭の反応を待った。
悩んでる訳ではなく圭は物件を細かく見ていた。
「J大行きたいから近い方がいい」と言って赤坂見附のマンションを指さした。中古だがとんでもなく高価で、正直大丈夫かと思ったが決断は早い方が良い。
「そこ検討するよありがとう」そういうと圭の顔が緩んだ。
まだプロポーズは出来ない。ならそれに近いことをしてあげたかった。満足してそのまま寝ようとしたら頭を叩かれた。やることやってから寝ろと。
「マンション買うんですか溝口さん、ローンは勿体ないので、会社で建て替えますので後で給料から天引きにしましょう」
新社長の木島さんに言われ一瞬何が起こったか分からなかった。
「入社数カ月の私にそれっておかしくないですか」
私が率直に言ったところ、木島さんは溝口さんもう変身ヒーローじゃないですか。それくらいいいですよと笑顔で言ってくれた。
正直この会社がどんな風に資金を調達してるのか分からない。だが戦車が歯が立たない敵をやっつけている。たぶんあれには爆撃も効かない。なんらかの国家的なところから資金が出ているのはわかる。ただ深く考えちゃいけないらしかったので追及はやめた。
新物件に木島さんは抵当を付けなかったのでこれは私のものだった。処分したら数億円になる。家に荷物を運んでいたら圭が来た。
「凄いなここ」ベランダを眺めながら彼女は目を輝かせていた。
「大学落ちて遠くになったら意味ないからな。今日からまた頑張ってもらう」圭は頷いてくれた。
後日、鳴や真彩、新人たちも遊びに来た。凄いと言いながら地上30階からの景色を眺めた。
その傍で圭は荷物を開けていた。
「引っ越しみたいだけどそんなにいっぱいどうしたの」圭に聞いたら引っ越しだという。このタワマン見たら親も了承してくれたという。
「お前が覚悟してくれたのに応えない訳には行かない」
相変わらず圭は男らしかった。
常識も条例も無視だ。14才と同居して何が悪い。それで力強く前を向けるならいい。
とは言いつつ節度を持って規律は厳しくしようと思った。今まで通り週末一回だけの性交渉に抑えて勉学に集中させる。高校は私立の名門女子校に狙いを定めた。
「お前我慢できんのか」圭はいつもの様にキャミをたくし上げてブラを見せてくる。血涙を流しながら頑丈な壁に頭をドンドンと叩きつけて耐える。
「平気だよ。余裕」
血を流しながらそう言うと、ふ~んと言いながら圭はソファに腰掛けて珈琲を飲んだ。
「一生圭と生きて行きたいから結婚してください(未来で)」
分かったと圭は言ってかかとを伸ばしながらキスしてくれた。
あまりにも早いプロポーズを圭は受け取ってくれた。人生は稲妻より早く過ぎ去ってゆく。決断は今しかないと思ったのだった。
週一回の敵が襲ってきた。
よりにも寄ってマンションからわりと近いところだった。避難勧告で住民は逃げていたが私たちは逃げない。圭一人で相手をした。ポセイドンに変身済みだった私が見ているので圭は思う存分やれた。『ライドニングコメット!』圭にしてはおしとやかな技で敵を貫き殲滅させた。
嬉しそうに私の元に圭は降りてきた。待機していた他の四人はその凄さに唖然としていた。
「もう夫婦ですよねお二人」
真彩の言葉に、夫婦仲にもいろいろあるので恋人のままでいいと私は言った。
翌週は他の四人で挑んだ。
オーシャン・ブルーとグリーン・フォレストが敵の動きを止める。続いてピンクナースが敵を麻痺させる一撃を放ちレッド・ローズがトドメを刺した。
いろいろな連携が出来そうだが、新人二人の技は強化出来そうだったのでレッスン室で特訓させることにした。
それとまずかったのは楓のナース姿はパンツ丸見えなのに放置してしまった。SNSで物凄い数が拡散されもう生きて行けないという彼女を慰めた。
お詫びに甘味処に連れて行ったがお客からじろじろ見られて死にたいという楓がいた。
「木島社長のミスだけど本当にごめんね」
自分もチェックで見たことは言わなかった。
次からは完全ガードにするから許してと言ったが、一旦流通してしまった写真はもうどうしようもないと言って落胆したままだった。
こんな事故はなかったのでどうしたものかと一旦席を離れ、木島さんに連絡したら消せるよというのでやってもらった。
翌日からSNSやサイトから消えたどころか個人フォルダに保存したものまで消えてしまった。ネットから切断されたものまでだ。
これは大ニュースになったが木島さんは平気な顔をしていた。
もともと変身ヒロインについても謎だらけだから、社訓に近い深く考えるなを発動した。
楓はホッとしたようだった。
変身ヒロイン関連で不気味との声も少なからず上がった。あまりにもオーバーテクノロジー過ぎて人々が怖がったのだ。
なので私の判断で翌週は誰も出さなかった。
たいした敵でもないのに怪獣は大暴れし都内で多数の死者が初めて出た。定時が来たので敵は帰って行っただけで何も出来なかったのだ。
出さなかったことにも批判が出たので、その次の週も出さなかった。
そろそろかなと思い木島社長と私とで会見を開いた。
「下着を撮って勝手に拡散しておいてそれを消したら不気味がる。出撃させなかったら文句を言う。彼女たちはただの少女です。恥ずかしくないんですかねあなた方」
特大の煽りを入れて置いた。
「変身ヒロイン出撃をビジネスにしてもいいんですよ」
社長はその値段はアメリカの国防費を余裕で超えるのですが、皆様払えますかと続け完全に黙らせた。
「とにかく謝罪と応援が無い限り出撃はないです。東京壊滅前に皆様頭を冷やして考えてください」私が言い会見を締めた。
「ありがとな。これで皆も報われる」
圭の言葉に対し当たり前のことしただけだよと私は言った。
翌週から給料が30倍に上がった。
「スポーツ選手や芸人でもっと貰ってる人が大勢居るのを考えたらこれはまだ安すぎなんですけどね」
社長が当たり前のことを言った。
よく考えたら正義の味方をしていたが、この戦力で国を攻めたらと考えたら凄いことになる。ただそれを彼女たちは望まないだろうから勿論やらない。
世論が我々の味方になったのを見てようやく出撃させた。五人同時出撃で敵をあっと言う間に倒した。東京はまた守られることになった。
「この程度の敵ならなんとかなるが、相手のことも殆ど分かっていない。その時は逃げていいんだよね」圭に聞いたら逃げないという。お前とわたしが居れば無敵だろう。
神話の神と化け物。名前だけ借りてるけど、いざとなったら訳の分からない敵を皆倒せるのか不安だった。




