Extra Episode 1 神崎鳴
最終決戦が終わり次の年の冬になろうとしていた。
ルクセンブルクのヴィアンデン城を模した城が完成していた。王妃の圭は隣室に住まわせたが、側室たちには少し離れた部屋をあてがった。
庭には温室を作り、寒い冬でも花やハーブが作れるようにした。それと城の外の吹雪を暖かいところから眺められるのは気に入っていた。
隣には大鷲たちの温室があり、かなり大きいので彼らでも多少飛ぶことができた。基地から届いた猪を与えると彼らは喜んで食べた。彼らは排泄をしないので汚れることがない温室で、悠や紅葉が野菜作りをしていた。
明日はウラジオストクに用事があるので、一緒に行ってもらうパートナーに鳴を選んだ。
鳴はてきぱきと荷物をまとめると、ハイヤーでハバロフスク駅に向かった。一駅だが特別列車なので、私と鳴以外は従業員しかいなかった。
「煙草やめないと早死にしますよ」
そう鳴に注意されたが、細胞分裂の際に全く失敗がない我々なので肺もダメージが一切なかった。そもそも病気にほとんどならないのだ。
二人で窓の外の吹雪を眺めながらサンドイッチを食べた。鳴の左手の薬指には前からずっと指輪が付いていた。その指輪を私は眺めていた。
「圭とは上手くやっていますか、でないと選ばれなかった女の子に刺されますよ。ってわたしが言う立場ではありませんでした。失礼しました王」
鳴は言っていいんだよ。そのために指輪は外さないんだろう。
鳴に目を閉じるように命じ唇を重ねた。そのあと涙を鳴が流したので、指でやさしく拭ってあげた。圭と同じくらい好きなのにそれを言えないのが歯痒かった。
「たいした用事じゃないんだ。明日はキャンセルしてこのままイルクーツクまで行こう。予定は後で組みなおしてくれ」
特等客室はわたしの要望で贅沢な広さがあり、風呂も完備されていた。私が使用しない時は一般の人も使えたが、料金はかなり高く設定されていた。
突如運航先を変えたのでウラジオストクでかなり長い時間停車することになったので、しばらく二人で街を散策することにした。
指輪を鳴と真彩に買ってあげたグム百貨店の裏を歩いた。すると鳴が私の袖を引っ張り引き留め、聞きたいことがあると言った。
「この指輪に期待したわたしが馬鹿だったんですか。このおもちゃに」
キスをして慰めようとしたが鳴が拒んだ。
道行く人は国王が女を泣かせてるのを興味深く見て通り過ぎて行った。私は気にせず鳴を抱きしめたが、これは拒まれなかった。
「言っていいのかずっと迷っていたが言うよ。圭と鳴同じくらい愛してるからずっと胸が痛いんだ。圭と別れて欲しいか?鳴の苦しみが取れるなら考えるよ」
そういうと鳴ががっくりと膝を付いてしまったから、抱っこして駅まで戻ることにした。駅に着き電車に乗ったら夕食を部屋に運ぶよう頼んだ。
ボルシチやピロシキ、肉料理をいただき鳴は落ち着きを取り戻していったようだった。発車時刻が迫ったので、食事の時と同じ窓際の対面席で二人で出発を待った。
「鳴と二人でシベリア鉄道に乗れるなんて夢のようだ。私に取って鳴は憧れだったから、だから話しやすい圭に逃げたんだ。君は私には眩しすぎて、好かれてるなんてこれっぽちも考えることが出来なかった。今言うと卑怯だな、すまん」
しばらく鳴は無言で窓の外の真っ暗なシベリアの景色を見つめていた。私も同じ方向を見つめ、鳴の気持ちに向き合おうとした。
「風呂にお湯溜まったけど先に入る?まだと言うなら私が入るよ」
鳴の返事がないので先に入ろうと立つと、鳴が無言で手を握ってきた。
脱衣場に二人で入り同時に服を脱いだ。鳴が服を脱ぐ姿に魅了され、目が離せずにいた。その美しい肢体に私は虜になっていた。
一緒に湯舟に浸かったが、特別ルームとは言え流石に二人では狭かった。そして無言で彼女の首筋と唇にキスをして、同時に乳房に触れた。
愛するってなんだろう。今私は鳴と同じ風呂に入り幸せに満ちていた。しっかり者の鳴と一緒なら素晴らしい人生が送れる気がした。圭という伴侶がいるからそれはダメなんだということは本能でわかる、だがそれで鳴を悲しませていることはいいのか?正解ってもともとないんだろう?
風呂を出たらワインとグレープジュースを運んでもらった。
車窓を眺めながら二人で乾杯した。なるべく言葉は発したくなかったので、ワインをちびちびと飲みながら鳴を眺めていた。
「ちょっと列車内見学行ってくる。眠かったら先に寝てて」
そう言って席を立とうとしたら鳴がまたしても袖を引っ張ってきた。
鳴の手を引っ張ってまず食堂車に寄ってキャビアといくらを買った。それから一般席と二等席を見て回り、誰も座っていない一般席に座った。
「...わたしと結婚してください。二番目でいいんです」
私はそうしようと即答した。
「さて、そろそろ寝よう鳴」
そういうと鳴は寝間着を脱ぎ始めた、「私のためなら無理をしなくていいよ。気持ちは満たされたし」
鳴の気持ちは嬉しいが義務的なSEXはして欲しくなかった。
「そうではなく結婚の前祝です...」
揺れる電車の中の特等席で鳴と私は一つになった、「ありがとう最高だったよマイハニー」
そう言って鳴を抱き寄せやさしく口付けした。
「レジェンド オブ バイカルの宿泊予約取ったから冬のバイカル湖を楽しもうね」
はいと言う鳴は嬉しそうだった。
ロシア正教会や歴史的建造物を観光したあと、昼食は四つ星レストランのミーシャでいただいた。鳴が腕をずっと組んでくれて幸せそうだった。圭に事後承諾という形になるが、彼女は他人の心の機微に鋭いので許してくれるだろう。
「流石にこれだけ寒いとバイカル湖も凍るんだねえ」
そう言うと鳴はうんうんと頷いて可愛かった。
「お金に困ってないから幸せという訳じゃないし、立場が上だから楽な生活を送れるわけじゃない。ましてや女の子に泣かれたらいつもどうしていいかわからない」
指を弄りながら言い訳みたいに鳴に聞こえるように言った。
「ご迷惑でしたか、だったら...」
「誤解させるようなこと言ってごめん。嬉しいし最高に今幸せだよ」
冬のバイカル湖を背景に私たちはちょっと強めに抱き合った。
夕食をいただいた後はバーに行った。お酒が飲める年齢じゃない鳴はジュースを、私はウォッカの水割りを頼んだ。国王が来てるということで挨拶責めにあった。
「たくさんの歓迎をいただき感謝する。しかし、日本人の格好をした化け物が国王で申し訳なくも思っている」
そう言って客たちに日本流で頭を下げた。
バーの一同がどよめいた。まさか謝罪をもらうとは思ってなかったようだ。
「我々はロシアの中でも辺境で貧しい生活を送っていましたが、今は急激な発展を遂げています。それは王のお力があったからです」
拍手をいただいたのでまた頭を下げてしまった。
ドレスを着た若き同伴女性が王妃ではないことをみんな知っていた、が誰もそのことには触れようとせず鳴の美しさを讃えてくれた。
「良かったですね。あんなに歓迎されてるんですから自信を持ってください」
「アメリカに核弾頭撃ち込まれた時に心が一度死んだ。あれは我々が化け物だから、躊躇わず彼らは遂行した。まあ一万倍にして返したんだが」
鳴に取っても他人事ではないので考え込んでいた。
「でもさ、そういうことが出来るホモサピエンスがダメ生物なんだと考え直した。これから千年以上生きる我々は知恵を集積し彼らを導くべきなんだ」
実は人類のことなんてどうでもいいと思っているので嘘だった。
アメリカの緩衝地帯については事実上我が国が預かった。しかし取る訳ではなくあの土地を使う資格がある者が現れるまでで、そして当然アメリカには返さない。
「ちょっとふわふわ過ぎるねこのベッド、えっちに使いにくい」
Wベッドで鳴と一緒に寝ながらそう言うと、鳴が複雑な表情をした。
「こっちから言わないと抱いてくれないんですか」
鳴のこの一言で性欲に火が付き、強引に鳴の服を脱がせた。
下着姿のまま座らせ、後ろに回ってピンクのブラを押し上げ乳房を鷲掴みにした。丁寧におっぱいを揉んだ後押し倒してパンツに手を入れた。
割れ目を何度もなぞっていると鳴の息遣いがどんどん荒くなっていき、声が出そうになるとキスをして口を塞いだ。意地悪な責め方に鳴が頬を膨らましたが、その顔がとても可愛かった。意地悪はやめ潤ったアソコに私のモノを挿れていった。
「気持ちいい。早く動かして」
鳴に急かされ腰を振り始めると、聞いたことが無い大きな喘ぎ声を出した。気遣いの鳴だから今までは自重してたんだなと思い、今日は思いっきり腰を動かして突き上げてあげた。乳首をつねって快感が限界にきたようなので、腕をぐっと踏ん張り腰をさらに強く動かす体制にした。だが少し動かしただけで出してしまった。それでも勃起を踏ん張り鳴がイクまでは頑張り抜いた。
「テクニシャンの溝口先生が先に出しちゃうなんてあるんですね」
身体をティッシュで拭きながら、鳴はさらっと嫌味を言った気がした。
「女に慣れてて、生きてて本当にすいません」
そう言うと鳴は慌てて嫌味っぽいこと言ってすいませんと謝罪した。
「鳴、七人を一人で相手してるんだぞ。どういうことかわかるか」
「はい、ごめんなさい。もう言いませんから」
反省してる鳴に続けた。
「圭と鳴、真彩の三人を同じくらい好きなんだ。みんなにジャンケンさせて、勝った一人と添い遂げる人生を送ってみたい。今言うことかどうかはわからないが、本音はそうなんだよ」
翌日の正午、我々の特別列車はハバロクスフに引き返して行った。
「昨日は変なことばかり言ってごめん。本心じゃないんだ」
夕食を摂りながら鳴に謝罪した。
「本当はちゃんとわかっていました。圭とだけずっと一緒にいたいんだって」
「言い換えないでくれ、鳴も圭と同じだけ好きだって部分を。ただ誰か一人と添い遂げるという考えはとっくに捨ててるから」
「結婚するのにすまない。鳴を幸せにしてみせるから」
そう言うと鳴は気を取り直して嬉しそうに頷いた。
ハバロフスクに帰ると、鳴の部屋を圭の3つ隣に移動させた。
「おかえり。けっこう長かったが楽しかったか、鳴との旅」
「とても良かったよ。圭は行ったことある街だけど今度行こうね」
「お前に全部任せてるぞ、なんでも。だからいつでもいいぞ」
圭は相変わらず圭だった。
それから鳴と二人で圭の部屋に挨拶に行った。鳴が第二王妃になったことを伝え、事後承諾になってしまったことを謝罪した。
「まだだったのかよお前ら、そんなんじゃ鳴は最後になってたかもな」
圭に気を遣って我慢してたのにと鳴の拳が上がりかけていたので、そのまま殴っていいよと私は平然と答えた。するとガンという音がして圭にたんこぶができた。
「誤解しないで欲しいんだけど、圭って独占欲強いからね」
「わかってます、私たちはよく似ていて貧乏くじ引きたがるタイプだもの」
二人は深いところでわかり合っていて、お似合いのコンビニなれそうだった。
第一とか第二とかそういう呼び方はやめようか。争いの種になりかねない。
「ダメだ、鳴はそういうことに凄くこだわるはず。真彩は正妻にしろと言って、側室は一切認めないとか言い出すぞ。だから上手く立ち回りしとけよ」
奥様の圭から有難いお言葉をいただけた。自分の命のために頑張ろうと思った。
圭が膝枕を貸してくれて、ごろんと横になった。上を見上げると圭の顔とちっちゃなおっぱいが見えた。手を伸ばしたらシャツを上げてくれたので、久しぶりに正妻の乳で楽しんだ。
みんなとこれからも一緒に生きていきたい。今回鳴は自分の気持ちを押し殺し過ぎて、こころがボロボロになっていたようだ。
圭が言うとおり真彩は独占欲の塊で、大きな火種になりえるとは思っていた。ただ圭の正妻の地位は動かせないので頭痛の種だった。
鳴が部屋にいないので探しに行くと、大鷲に餌をあげていた。旅の余韻があるので後ろからやさしく抱きしめると、抵抗せずに動かないでいてくれた。
「圭ばかり餌をあげてるとばかり思ってたんだが鳴もやるんだな」
「たぶん圭がもう与えてるかな。食欲がイマイチだもの」
正妻二人が気が利くやさしい女性で私は幸せだった。
そのまま二人でラウンジに行き、私はウォッカ水割りで鳴は珈琲を注文した。来る前に鳴が目を瞑ったので唇を重ねた。すると横に圭が座っていた。
「圭ちゃん今の見た?」
本を読みながら無言で頷いた圭だったが、気持ちがいまいち読めなかった。
二人の真ん中でおろおろするしかない情けない王だったが、どちらも正妻だからと圭にもキスをしたところ、頭を叩かれた。
「鳴に失礼だからそういうのはやめろ。こいつ意外と根にもつからな」
「根に持つし溜め込む最悪女ですよ。でも圭だって今嬉しかったでしょう」
二人がぐぬぬ顔で睨み合っていたので、二人の手を取って握手させた。
「無理して仲良くすることはないけれど、二人とも可愛い私の奥さんなので喧嘩するところは見たくない。むしろレズセしてるところが見たい」
そう言うと二人から同時に頭を叩かれた。
「邪魔しちゃ悪いから部屋に帰るぞ。後で来てくれな」
そう言って圭は自分の部屋に帰って行った。
「そういう訳で今夜は圭の部屋に行くんだ。御免とは言わないがすまん」
そこまで気を遣ってたら倒れますよと鳴に言われ、ご飯だけは一緒に食べたいとお願いしたら受け入れられた。
さっきから視線を感じていたが、その先を見ると喫茶店に真彩がいた。
「さっきからずーっと見てましたが、本当に仲のよろしいことで」
地雷を踏み抜いていたことに気が付き、鳴と私は顔が青くなっていた。
「違うのよ真彩、手違いで暇になってしまったから二人で旅行に行ったの。その話で盛り上がってしまったのだけど、場所を考えるべきでしたごめんなさい」
真彩は無言でサンドイッチを頬張っていたが、怒ってる姿が可愛かった。
なんとか真彩と南の島でデートをするという条件を出し許してもらった。南の島で真彩のメロン水着が見れると想像していたら、頭の中を読まれ鳴に足を踏まれた。
「という訳できちんと女の子たちと付き合っていく自信がなくなりました」
圭は本を読みながら頭を撫でてくれた。
「お前が誰と何しようと自由なんだし、いちいちみんなの顔色を伺うな。もしも女同士で本格的な諍いが起きそうだったら無敵のメドゥーサ様がなんとかしてやる」
奥様があまりに格好良過ぎて惚れ直した。
ベッドで圭が服を脱いでくれたのでやさしく抱いた。
翌朝我々はほぼ同時に起きたので、目が合った瞬間にキスをねだった。その後はしばらくベッドの上で抱き合っていた。
ロシア正教会としては重婚禁止なので嫌がったが、闇献金を渡すことで同意させ結婚式を行ってもらった。出席者は鳴と私以外は圭だけだった。
ドレスを着た鳴を圭は熱心に写真に収めてくれた。私の写真の十倍はある。
永遠の愛を鳴と近い口づけをした。
新郎新婦と圭は式が終わるとロシア料理店に向かった。
「おめでとう鳴、とお前」
私の扱いが酷い正妻の圭だった。
「ありがとう圭、これでやっと少し追い付けた気がするよ」
鳴は幸せそうな顔でそう言った。
だいぶ遅くなってしまった鳴との結婚だったが、書類上は圭だけが妻なので、その点では鳴は可哀想だった。王だけ重婚可とかいう荒業も頭をよぎった。
ただ次の真彩が最大の難関だと既にわかっていた。独占欲の塊の彼女をどう言いくるめるかは、私の話術に掛かっているのだ。




