④ポセイドン
週に一回程度現れる敵を変身ヒロインたちは退治していた。
彼らは暴れまわるだけで死亡事故はないし、危機と言えばメドゥーサ化した時の圭だけだった。
「・・・」
もし圭がもう一度メドゥーサ化した時が、最終回でラスボスだったらと考えた。圭の敵に私は回るのだろうか。
それはないので考えない。圭がラスボス化したら私は彼女の援護に回るからだ。
最近毎週圭が泊まりに来ていた。ありがたいが後ろめたい気持ちがあった。
圭の両親にばれて責任を取ってくれと言われたら勿論そうする。お泊り頻度が多すぎるんじゃないかと圭に言ったが、私の性欲を考えたら当然だと言う。
「ぶっちゃけわたしの方が気持ちいいんだから気にすることないだろ」圭が真理を突いてきた。
全身性感帯の女と一部しか気持ちよくない男ではその差はあるらしい。だがこれはぶっちゃけて欲しくなかった。
「私が欲しいから我慢できない。だから圭がそういうこと考えなくていいよ」
これも真理だった。性欲は男のが強いのは間違いないからだ。
鳴が先日の事を謝ってきた。
もう気にしていないから平気だと言った。
鳴の家は共働きで、父は大手銀行、母は弁護士で忙しくてあまり家に居ないそうだ。
家に帰ったらいつも独りで寂しかったという。
「だから学校が終えてここに来るのが楽しいんです。溝口先生も居るし」
また役職を間違えていたが、鳴の言葉には素直に感謝した。
明るく振る舞うのも演技で寂しさで愛に飢えている少女だったことは分かった。
「親がそうなら良血で、勉強は集中すれば伸びそうだな」
鳴が勉強に集中できてないことは分かっていた。それは私の責任でもあったのでどうにかしなければと思っていた。
「ところでまだ彼氏作りたいか」なんとなく聞いてみた。
鳴は少し考えてからはいと返事をした。
寂しさが紛れるのならそれがいいと思う。圭と私は好き同士だから遅かれ早かれくっついた。二人とも特に恋人が欲しいとは考えていなかったと思う。
「だけどやっぱりいいです。自分のせいで嫌われてしまいましたから」
鳴のせいじゃない。女の武器を使って誘惑するのはたぶん誰でもやっている。私に圭が居なかったら即落ちしてた可能性もあった。
だけど本気だったことが分かり嬉しかった。ありがとうとだけ伝えた。
自分がそれほどモテないことは知っていた。社交的な部分に乏しく、顔と腕だけ男とも中傷されたこともある。圭が今使ってる枕の彼女しか今まで居なかった。それが二人の美少女に好かれたのは彼女たちが幼いからだろう。
自分を過小評価していると昔の彼女に言われたことがあった。自分自身で俺は凄い奴だ、と自信満々に思ってしまったら傲慢になる。
余計なことを考えならら眠りに付こうとしたらドアの鍵が勝手に開いた。
「よっ、まだ起きてるか」
圭はいつだって男らしく可愛らしい少女だった。
圭をすかさずお姫様抱っこしてベッドに運んだところ、いきなりかおいと言われ我に返った。ジュースを出しながらこんな遅い時間になんで来たんだと聞いた。時刻は22時を回っていた。
友達の家で遊んでたら遅くなったんで、泊まるって家に連絡したから平気だと言う。
「それより結構飲んでるみたいだな。辛い事でもあったのか」
圭に聞かれたので、過去のこととかいろいろ考えてたらそれなりに辛くなったと言った。そして明日には直して置くとも伝えた。
圭をシャワーに行かせたので、いつかみたく脱衣場で下着を漁っていたらやっぱりそれやると圭に言われた。
いただいた下着に代わって、前に圭が置いていったパンツとブラを探していた。
今が幸せだからきっと前を向いて歩んでいけると考えていたが、簡単ではなかった。ちょうど今の圭と同じ年の頃いじめにあった。
そのせいで20kgのダンベルを買い、その後自分に敵対するものは皆殺しにすると考えていた。今でも。
いただいた下着を抱きしめながら圭にそのことを話した。情けない男と知られてしまい振られても仕方がなかった。
「敵はわたしがやっつけてやるからお前はもう気に病むな」
と圭に言われたので今度こそベッドに運んだ。
「真彩はもっと大きな攻撃を意識してくれ。敵を窒息させるつもりで」
ブルー・オーシャンは大海のうねりを大きくして敵をまるごと包み込んだ。鳴がその後薔薇の花びらで退治した。
彼女がレッスン場上空から降りてくるとライトを点けて明るくした。
休憩室で缶ジュースを皆に奢ってあげた。実力を付けてきた真彩は安堵している様だった。
「新人スカウトしないのか。わたしたち三人で今のとこ充分だが」
圭がそう言ったので、あと二人増やす計画があることを話した。だけど今は必要ないと言って断ってることも話した。
自衛隊の10式戦車すら効かない敵を彼女たちは倒した。戦力増強は要らないと判断するに十分だった。
「変身ヒーローになる?」新社長に聞かれたので格好いいならやると言った。
溝口さん顔良いから人気出ると思うよ、と言われたが圭がいるのでそういうのはいいですと答えた。圭とのことで単独会見した時にけっこう騒がれてたのは知っていた。
だけど三人と同じでアイドル的ななにかではないのでそういうのは要らないと感じていた。顔がいいだけでちやほやされる奴にろくなのは居ないと言う偏見もあった。
圭にだけ格好いいと思われればそれで良かった。新社長はもう変身改造済んでいるんだけどねと言った。そんな話をしていたら警報が鳴った。
今まで見たことがない人型の敵だった。顔には表情がなく敵意もないように見えたがいきなり三人に襲い掛かった。それぞれ散会して攻撃を躱し間合いを取った。
「あれ喰らうとたぶん動けなくなるから真彩が抑え込んでくれ」
圭がそう頼むと電撃体制を整える。鳴はもう最前列から決める構えを取っていた。
真彩が大きなうねりで海水の攻撃を加えると敵は身動きが出来なくなった。鳴と圭は同時に必殺の技を打ち込んだがまだ人型は倒れない。
圭の目からハイライトが消えかけたので地震を起こした。敵が怯んだので私が首を絞めそのまま打ちのめした。変身ヒーロー、ポセイドン誕生だった。
「すいません。いいとこ取っちゃいました」
皆に謝ったがその必要はなく三人が私に抱きついてきた。役得だが今日は受け取っておこう。
二人を自宅に送り届けた後で圭に聞いた。まだメドゥーサ化出来るんだなと。
「前と違って自分で制御出来るから問題ない。今日の敵も強かったから、そういう時使おうと思って取っておいた」
圭がそういうので渋々許可した。だけど私が守るので使わないようにと厳重注意しておいた。
翌日、SNS上で私の姿が拡散されていた。腕が太すぎてキモいけど格好いいと。
敵殲滅後メドゥーサが降りてきた時の二人の表情が良かったので、カップルとして認めてあげるべきだという擁護ポストがたくさんあって嬉しかった。
週末は皆の活躍のご褒美に海水浴に行くことにした。私だけ男だとバランスが悪いので新社長も一緒に。彼はまだぎりぎり20代だった。
混みすぎる関東の海を避け新潟まで行くことにした。私のRX-8レース用改造車は、あっというまに関越道を走り抜け目的地まで着いた。
「こんなバカげた車に乗ってるとか頭おかしいの溝口くん」と新社長に言われたが気にしなかった。
どうせ一般海水浴客に見られてるので皆可愛い水着にした。
圭は黄色のセパレートでフリルがいっぱい付いてる。鳴はピンクのセパレートでこちらはシンプルだが赤いパレオを巻いていた。真彩は青のワンピだが麦わら帽子とサマーサンダルが似合っていた。
他の二人には触れないので圭の身体に日焼け止めを塗ってあげた。後の二人は背中をお互い塗りっこしてたが新社長の顔がぐぬぬとなっていた。サーフィンをやっているので遠泳は得意だ。新社長も意外なことに付いて来た。
遊泳可能ぎりぎりまできてブイに寄りかかりながら、新社長が話し掛けてきた。
「圭ちゃんはもちろん他に二人とも上手くやってるかい」
そう思います。鳴とは温泉泊したけど何もなかったので大丈夫です、と余計な事を言ったので彼の私を見る目が呆れていた。
「まあいいよ。君がモテないことには付いて来ないからね彼女たち」
事務的に練習やらせてるだけじゃ、この仕事は無理だろうなと思っていたので頷いた。
「そうなんですね。鳴ちゃんとも一泊旅行をしたんですね」
真彩がいつの間にか近くにいて会話を聞かれていた。彼女が水泳部なのを失念していた。
「言いふらしませんけどばらすかも知れない」と真彩は言ってあっという間に岸まで泳いで行った。
信頼を失ったので新社長に真彩のことを丸投げした。
宿に付き食事を終え風呂に入ったんだが、真彩は鳴に説教していた。
「圭と溝口さんが付き合っているのに横恋慕は良くないと」鳴に真彩は言い聞かせていた。
本気だったからそんなに悪くないもん、と言い鳴は布団に入ってしまったそうだ。圭が鳴を慰めた。
まだ怒り足りなかった真彩はは隣の男部屋にまで入ってきた。
私は布団に入り逃げた。
「三人とも溝口さんのことを狙っていたけど、圭が素早くモノにしちゃったから諦めたんです」と真彩は新社長に言って、彼は私の方を見てきたが寝たフリした。
「それって真彩ちゃんも後ろで寝たフリしてる人が好きだったってことだよね」
と新社長が言うと真彩は顔を真っ赤にして部屋から出て行った。
「年上願望が皆にあったんですよ。私じゃなくても同じだった」
ここまで言って悲しくなった。すぐに布団から出ると隣の女子部屋に乗り込んだ。浴衣が慣れない彼女たちは、一部下着が見えていたがちらっと見ただけで圭を探した。もう一度風呂に行ったと言うので彼女が出るのを待っていた。
でも圭から何を聞くっていうんだ?
圭は完璧だった。きっかけが年上願望だったとしてもそんなことは関係ない。きっと誰でも同じように愛してくれる女だった。
彼女は風呂から上がると、動揺した私がそこに居たので珈琲牛乳を奢ってくれた。
言葉は不要な気がしたのでそれを飲んだ。




