【34】シベリア鉄道④
「乗車賃にお金払い過ぎたから高い物どんどん頼んで」
キャビアを皆で頼んで高い肉も注文した。
特別に愛していた三人とまた旅が出来てることに、嬉しさが隠せなかった。悠は離れる度にすぐ帰ってくるのでずっと一緒にいた感じだが、圭と紅葉はわりと長く離れていた。
どうやって圭と紅葉と仲直りするか、それが目的の夜行列車の旅だった。
「圭ちゃん、一緒に車内見物しよう」
隣の部屋で寝ていた圭だが、二つ返事で了解してくれた。
華奢なロシア人とのハーフの女の子。この職場にきてすぐにこの子に告白され、少し悩んだが付き合った。鳴も圭も強気な態度だったが、圭は劣等感の塊で虚勢を張ってる子だった。
一般車両、食堂車、二等寝台車やシャワー室を見て回った。
「ここはえっちなことに向いてるシャワー室だね」
そういっても圭は特に否定することなく、その部屋の隅々を見ていた。
「エカテリンブルグまで半日くらいかな。車中泊やめてホテルに泊まろうか」
圭と二人の朝食中にそう言った。
食べている圭をずっと見ていたが、それに気が付いても彼女は普通に食事を続けていた。この子の身体に触れたいけど触れていいものか迷った。二人の間にできてしまった溝が怖かった。
「特別列車だから自由効くでしょ。次のエカテリンブルグでホテルに泊まりたいんだが」
要求はすぐに快諾され、四人分の部屋を取ってもらった。
人口140万人のロシアの大都市は、ラウンジから眺める夜景が綺麗だった。三人ともソファから離れ、立ってガラス越しに見学していた。
「明日は午前中寝てられるからそこそこ夜更かししていいよ」
「ちょっと変身して飛んで来る」
圭が言い出したのでどうかと思ったが自由にさせた。
黄色い肩出しスーツのイエローメドゥーサを目で追っていた。もうそろそろロリータ過ぎて似合わない歳になってるはずだが、彼女たちの時は止まっているので可愛かった。色違いのスク水スーツを着たミルキーウェイとギャラクシーも愛らしかった。
しばらくの間変身ヒロインと魔法少女がシベリアの夜に舞った。
圭や紅葉の部屋のドアを叩くのが怖かったので、深夜にも拘わらず悠の部屋に行った。
「なんですか。悠はもう寝るのです」
「一人が嫌なの。圭と紅葉のところはまだ抵抗があるし」
正直に悠にそう言った。
翌朝、圭たちは昼前に起きて美術館や動物園を見に行った。
やや疲れていた私はそのまま悠のベッドで寝ていた。出発は夕方だがロシア号に戻り寝ながら圭たちの帰りを待った。そして次のノボシビルスクでもホテルの宿泊をお願いした。
午後五時ごろに三人が帰って来た。
紅葉が一番に部屋に来て、おみやげに象のぬいぐるみをくれた。悠からはブレスレットを、圭からは船の模型をもらった。
その夜も悠の部屋にお邪魔してたので、彼女は心配して私に言った、「圭ちゃんが今は難しいなら紅葉ちゃんのとこに行くといいです。待ってますよきっと」
「婚約破棄された男がどんな顔して会えばいいんだ」
悠はまたむむむと言う顔をしたが、答えを見つけられないようでそれ以上は喋らなかった。
「悠に迷惑掛けるのも可哀想だから二等車で寝てくる」
そう言って出て行くと悠もとことこと付いてきた、「悠は来年16だから指輪ください。突き返すなんてこと死んでもしません」
「気持ちは有りがたいけど、あげられない。もう婚約はしたくない」
そういうと悠は困った顔をしながら抱きついてきた。
「溝口さんが諦めたら誰が我々の子孫を残すのですか。だから見捨てないでください」
それでも嫌だ。木島社長みたいないいを人探してくれ。
悠が泣きそうだったけど続けた、「楓に殺されかけたり指輪突き返されたり、もう無理なんだ私は。ごめんな悠」
翌日のノボシビルスクでは長い停車時間をもらったので、皆と一緒に観光に行った。
ノヴォシビルスキー・ゾオパルクには白熊がいて、可愛いので見入っていた。虎もいたのでこういう猛獣の飼育員もいいなと思った。
ツェントラリニ・パルクという公園は、季節のせいで一面雪景色だった。元気に遊ぶ三人を眺めていたら、皇居や赤坂周辺で遊んでいたのを思い出した。たまに雪玉が飛んできたが避けずに顔で受けた。
それからサン・シチというショッピングモールで食事をして、ホテルに戻ることにした。半日でも冬のシベリアはとんでもなく寒かった。
本当は圭と紅葉と仲直りしたかった。ただ自分から二人とどう距離を詰めていいのか、さっぱりわからなかった。
ホテルのロビーでくつろぎたかったのだが、ほぼ悠が膝の上にいた。
一時間後煙草を吸うためにどかしたら、次は紅葉が座った、「さっきまで悠が座っていたので足が痺れてるんだが」
そう紅葉に言うとおんぶに変わった。
ラウンジをぐるぐると回りながら一時間おんぶするのはかなり大変で、降りてくれた時にはかなり疲れていた。
最後に圭が来たのでお姫様だっこをした。
抱っこをして三時間が過ぎたところで圭がさすがに圭が声を掛けてきた、「いくら太い腕でももう限界だろう」
「圭を抱っこしていいんなら限界とかどうでもいいんだよ」
そう言うと圭は私の顔をじーっと見た。
夕食を終えた後はさすがに疲れたのでベッドで横になった。三人はシャワーに入るようだ。
「圭、入るよ」
勇気を出して圭の部屋をノックした。
圭は集中して勉強していたが、私を見ると勉強をやめてベッドに入った。私は掛布団を捲りパジャマ姿の圭をじぃっと眺めた。
「おい、寒いからやめろ。早く入って来い」
圭に誘われ嬉しくてすぐにベッドに入った。
「圭はやっぱり大学に行きたいんだな。勉強なら教えられるけど、この仕事やりながら通うのは難しいね
。無理矢理連れ帰っちゃったけどやっぱり普通の子に戻る?」
「逃げ出して悪かった。だけどこれからは一緒にいるから、いや、いさせてくれ」
圭の言葉の真意はわかるようでわかりにくかったが、お帰り圭と言った。
翌日ノボシビルスクを出て、次はイルクーツクだったがここは前に来たので列車を進めてもらった。
「紅葉はまたおんぶ?でも車中だから体勢崩してどこかにぶつけちゃうかも」
「一緒にいたいからべたべたしてるんです。離れてしまってごめんなさい」
わかったとその場では言ったが全然紅葉の心が見えなかった。
それから二日が二日が経過した。
夜の電車が明るくなる時、ウラジオストクまでの到着が近くなった。一睡もしてないので朝食を食べたら仮眠しようと思った。
しかし、朝食後自室に戻ろうとした紅葉を拉致し部屋に連れてきた。きょとんとして抱えられてる紅葉に問いかけた。
「離れた理由を教えてくれ。紅葉がいなくなってこころの中に穴が開いた気分だった」
「圭とわたしと悠が特別じゃなくなるのが悲しくて、だから指輪も返してしまったんです。でも離れてみたら一層寂しさが募りました。だから帰っできたかったんです」
私は紅葉にお帰りなさいと言いながら抱きしめた。
「悠のお陰で二人ととりあえず仲良くできた、ありがとう」
「悠はわりと放置され気味でしたが、圭ちゃんと紅葉ちゃんが幸せそうなのでそれでいいのです」そういう悠の頭を撫でた。
「三人一緒、それはずっと変わらないから」
可愛い駅舎のウラジオストク駅に着くと鳴が迎えてくれた。
「お帰りなさいみんな、長旅お疲れ様でした」
鳴がそう言うとみんなでただいまと答えた。
彼女を見掛けてほっとしている自分がいた。圭と紅葉の気持ちを探る旅だったので、正直、緊張しっぱなしだった。
鳴と並んで歩き、三人はその後ろを付いてきた。
ホテルに戻りラウンジで珈琲を鳴と一緒に飲んだ。そこで気が付いてしまった。
旅での圭と紅葉の行動はわりとわかりやすい好意表現だった。それに鈍感だったのは二人から気持ちが離れてしまったからだ。
逆に鳴と一緒にいると安心感を感じた。圭と紅葉に捨てられたという意識が、恐怖や猜疑心を生み出していた。
あんなに好きだった圭、後から好きになった紅葉。だが今はこの二人をもうそれほど好きではない自分に吐き気がした。
路線バスを使って金角湾を一望できる鷲の巣展望台に行った。雪の街並みと違って、寒そうな青い海が今の自分には合っていた。
だが雪降るウラジオストクで、私の心はの中はぐちゃぐちゃだった。
帰りにエカテリンブルグでのお返しに三人にプレゼントを買った。なるべく意味を込めないような無難なネックレスを買って帰った。
その日の夜から圭たち三人と離れ独り部屋で過ごすことにした。
就寝時刻近くにドアを叩く音がした。悠が枕を持って部屋の入口にいたので招き入れた。
「一人は寂しいので来ちゃいました。一緒に寝てもいいです?」
悠なら全然構わないと言って先にベッドに入ってもらった。愛くるしい悠のことはまだ凄く好きだった。腕枕をしてあげて寝かし付けた。
翌朝ラウンジに行くと鳴がいたので隣に座らせてもらった。
「鳴って一人が好きな方なのかな。私は全然ダメだ」
「人を寂しい女みたく言わないでください。そりゃ誰かと一緒のがいいですよ」
鳴の返事を頷きながら聞き、珈琲を飲んだ。
「少し休み過ぎた、そろそろ城へ帰ろう。残った三人も心配だ」
皆を集めてそう言って、その日のうちにドイツに戻った。
真彩たち三人が入口で出迎えてくれた。
「お帰りなさいみんな、お疲れでしょうからゆっくり休んでくださいね」
真彩の言葉にただいまと返して皆城へと入って行った。
圭と紅葉の部屋は私と一緒ではなくそれぞれの塔に割り振った。これで私が贔屓している特別な女の子はいなくなった。
「遅くなった楓、元気にしてたか」
楓は頷いた。そして二人ともベッドに入った。
「鳴がウラジオストクに来てくれたんだが楓は知っていたのか?」
服を着ながら楓に聞くと知っていたという。
「鳴が出迎えてくれたら一番嬉しいでしょう。だから私が行くように言ったの」
楓は自分が一番愛されたいという欲求はなかった。だから一緒に寝てもとても楽だった。まだ着替え中の彼女の下着を引っ張りながら楽しいと感じた。
我々だけに用意したとは思えないほど図書室の蔵書は充実していたが、大半はドイツ語だったので語学の勉強を急いだ。その日は日本語で第二次大戦の専門書があったのでそれを読んだ。
この日は夕食に真彩を呼んでいた。
胸は大きいが可愛い系の顔で彼女と一緒にいると癒された。私たちが留守の間何をしていたのか聞いてみたら、以前城内デートしたところを恵美と回っていたという。
「楓とはまだ無理そうか」
そう聞くと恵美が拒否反応を示すので難しいと真彩は言った。
鳴起きてるかといいながら部屋をノックした。
「起きてますよ~」
パジャマの上から鳴の下着が丸見えのだったので下半身を凝視してしまった。
頭を軽く叩かれただけで許されたが、鳴はタオルケットを膝に掛けてしまった。上だけはそのままにして欲しいと懇願したので薄い緑のブラが良く見えた。
「って鳴をセクハラしに来たわけじゃなく、相談に来たんだ」
目がエロ大王めと語っていたがわからないフリをして、鳴に提案した。
「女子会を頻繁に開けないかな。食堂でもお風呂でもアミューズメント施設でもいいから」
鳴は少し顔を曇らせ難しいと思うと答えた。
「女同士は喧嘩しやすいんですよ。だから七人しかいないのに三つのグループに別れていたでしょう。懇親会を頻繁に行ってもそれはあまり変わらないと思う」
「ラウンジに行こう鳴、従業員とは滅多に合わないのでその格好で」
タオルケットを持ってあげて我々はラウンジに向かった。
「胸を見ながら話すのやめなさい!次からサラシ巻くからね」
それは困るのでちゃんと顔を見ながら鳴に話した。
「圭と紅葉に対する気持ちが無くなってしまったんだ。二人とは婚約した仲だったんだが」
鳴は唇を噛みしめて言葉を探したが、見つからないようだった。
夜勤の従業員が軽い食事と飲み物を持ってきてくれたので、それを二人で食した。鳴には言っておきたかっただけで圭たちへの解決策を求めてはいなかった。
「私たちの誰かが仲が悪くてもいいんです。溝口先生が皆を愛してくれるなら」
「側室を持つ王たちが皆を愛していたとは思えない。序列は変わるかも知れないけどあったと思うよ。私の序列も変わって今は鳴が一番で二番は真彩なんだ」
自分が一番と聞いて鳴は驚いたようだが接し方でわからないものかと思った。
鳴と食事後に別れた後で、屋上の城壁に登った。高い城の男がこうも孤独なものだとは思っていなかった。雪が降る城の上で吹雪に耐えながら真っ白になった。
大浴場で湯に浸かっていたら悠が入りたいと言うので断ったのだが、どうしてもと言われて水着着用で許可した。
「女同士で今は入って欲しいんだよ。男だから欲情が凄いんだよ」
「圭悠と紅葉、楓と鳴、恵美と真彩。はっきり派閥が別れてるですよ」
それはさっき鳴に聞いたし、前からなんとなくは分かってた。
「それでも悠は私にハーレム王をやって欲しいか。圭と紅葉にはもう気持ちが残っていないから、罪悪感が酷いんだ」
翌日から悠主催の女子懇親会が頻繁に開かれた。席順はランダムで、仲良し同士はなるべく避けさせた。たぶんあまり上手く行かないだろうことはわかっていたが、何もしないのはもっと良くないと考えた。
「楓はちゃんと反省したの?わたしが知りたいのはそれだけなんだよ」
恵美のきつい言葉に、楓は一生罪を背負いながら付いてゆくとしっかり答えた。
「圭ちゃんと紅葉ちゃんはしっかりと溝口さんを捕まえて。一度離れたしまった二人に、溝口さんは心が折れてるです」
悠はしっかりとその事実を二人に伝えた。
「ゆっくり少しづつね。溝口先生は誰かを憎むことはできないから」
鳴はなんとかその言葉を二人に言えた。
「本気演習やるぞ」
海が遠いこの城で見事私を倒して見せろとはっぱを掛けた。
皆がレベルアップしてるところを見たかった。イエローの大彗星とポセイドンの大嵐から始まった。麓からはちゃんと見えないだろうが、異常なことが起こっているのはわかるだろう。
まず高火力のピンクを狙い背後を取ったところで退場。ブルーの大海とグリーンの捕縛は特に警戒した。
ミルキーとギャラクシーの火力とスピードは恐らく凌げる。
『満月!』『ブラックホール!』二人の魔法少女が懸命にせめてきたがウィングで移動し躱した。
『大雪崩!!』渾身の物理攻撃で魔法少女二人を仕留めた。
「圭、煽り文句はないのか。自分より下と思った相手にしかイキれないとか雑魚そのものだな」
圭に対してだけは特別に強く当たった。
もう一度大雪崩で皆の反撃にトドメを刺そうとした時にレッドが動いた。
『ローズ・ブリザード!』
冬に咲く鉄壁の薔薇が残った三人を守った。
その隙にブルーとグリーンが攻めて来て私は捕縛されてしまった。弾こうと思えば出来たのだがその後が見たかったのでそのまま捕まった。
『スティング・ローズスナイプ!』『ライドニング・コメット!』二人の攻撃で私は白旗を上げた。
初めての勝利に四人で抱き合って喜んでいた。私は雪に埋まった魔法少女を助けに行った。
城に帰りみんなの激闘を称え、プラチナのアクセサリーを与えた。二つだけ指輪だったが、圭と紅葉が競うようにそれを取った。




