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⑭木島の最後

先の江の島で敵は二回も現れた。

そしてそれは木島前社長の自作自演の敵よりも強かった。

いつまでも目的のない戦いを変身ヒロインたちに強いる訳にはいかなかった。いつか疲弊して戦えなくなることが容易に予想できるからだ。


『敵の正体を探せ』


私は頭の中でこの言葉を繰り返していた。


我が社に木島社長ほどの力量を持った技術者は皆無だった。なら何故敵が襲ってくるのか。

これはある程度簡単に予想できた。

木島理論の後継者がいて敵として襲って来ているか、木島社長が生きていて彼による攻撃だと二つの仮説が出来た。

あの本社襲撃事件は午前七時に起こった。

社内には数人しかおらず、チャイニーズマフィアの襲撃で木島社長含めて三人が亡くなった。朝早い出勤でマフィアもご苦労なことだった。

それと地下シェルターの部屋の数だ。五つしか部屋は用意されておらず、六人目の悠の分は無かった。そして彼女は催眠術のようなものを使える魔女だった。


深く考えなくてもこれくらいの予測は出来た。

だが決めつけはいけない。彼も変身ヒロインを愛してる節がたくさんあった。出来るだけ負担を掛けず育成していたのがその証拠だ。

失敗するかも知れないが、そろそろ動いてみようという考えが私を支配していた。あくまで深くは考えずに。



レッスン室では鳴と楓の強化を特に急いでいた。

翼竜の攻撃に容易く撃破されてしまったので主に防御に関してだ。あの戦いでスナイパー型に特化しつつある圭と超速飛行の悠は戦果を収めた。

「防御シールドの形成は順調だ。海に現れた翼竜であれば今なら攻撃を防げる」

だがそれ以上の敵になったら分からないと言い、更なる強化を進めた。


悠は戦力から一旦下ろすことにした。部屋が用意されていないのはもともと我が社以外の配属か別部屋で育成する予定だった可能性が高い。

『飛行が上手くなったら会社に来い』

木島社長がそう言ってたという悠の言葉は信用できるだろう。木島社長にはまだ死ぬ予定がなく、別動隊で使おうとしていた可能性も高い。


悠の部屋。

私がマンションを探していた時ポンと即金で買ってくれた件を思い出した。まさかあの家が拠点予定だったのだろうか。

悠が魔法(催眠術)を発動しようと思っても、圭のメドゥーサはそれより早く察知し、最悪石にして魔法少女を殺せる力があった。他のメンバーだとそうはいかない。

という訳で悠を圭と楓と一緒にマンションに住ませることにした。圭は嫌がるだろうが。レッスン室の完備はすぐに出来る。


嫌がる圭をなんとか説得し四人暮らしを始めることにした。

大鏡は用意していたので、部屋を明るくしてまずはストレッチで汗を流させた。いざ実戦訓練となると皆が不安がったが、部屋を暗くして実際の部屋の大きさを誤魔化した。すると変身後飛び立っても広さに全く問題がないことが彼女たちにも分かった。

「どうなってるんだこれ」

と圭が言うので深く考えるなと言った。


「木島さんの方法を盗んだんですか」

悠の言葉に、教えてもらった訳じゃないから分からない。ただ実戦経験は私のが断然豊富だからねと言った。

楓とは海神ポセイドンが相手をした。今のところポセイドンは、全ての敵のシールドを軽々破っているので参考にして欲しかった。


夕方になったので晩飯の支度だ。

圭は慣れているから手慣れたものだが、悠と楓は悪戦苦闘していた。私が包丁の握り方から野菜の切り方まで指導した。

「お前らだけだと廃棄食品しか作れないだろうからわたしに感謝しろ」

圭は最近にしてはごきげんだった。たぶん二人じゃないとは言え私と一緒に暮らして家事をするということが嬉しいのだろう。


私は本社とここと行ったり来たりなので負担は増えた。

だが圭は、一緒に暮らしているうちに悠とのわだかまりが少なくなっているように見えた。

メンバーを二つに分けるのは良くないので他のメンバーも日替わりでこちらに呼んだ。


「お風呂できたので三人で入ってきますね」

一番お姉さんっぽい楓は癒し役だ。尖って衝突寸前だった二人の間を取り持っていた。私は敵の手がかりになるものがないか、社内を物色することが多くなった。


いつも仕事では気が滅入る。

幸い社員は年間休日128日あったので次の休みに出掛けることにした。あの圭に告白された公園だ。

「地味ですね」

悠と楓はハモった。

私はロープに捕まって駆け降りるアスレティックな器具で遊んでいた。

船の形の遊具だと絶対誰かのパンツが見えるから自重した。


これやるよ。という圭からのメッセージが来たので、開くと悠と楓のパンツがばっちり写っていた。前かがみになったので暫く木陰で休んだ。

三人が船の上に乗っているところを写真に収めた。この地味で田舎な場所を二人も気に入ってくれたようだ。


池のある公園では、じゃんけんの結果私と楓が一緒のボートに乗ることになった。

血涙を流しながら恨めしそうに圭はこちらを見ていた。

「楓の気持ち凄く嬉しかったんだよ。キスされた時」

ボートを漕ぎながらそう言った。

楓の気持ちを考えたら無神経かと思ったが、言うチャンスは今しかないと思った。「わたしは気持ちが顔と行動にすぐ出ちゃうのでやっちゃいました。ご迷惑をおかけしました」

「考えすぎてすぐに縛られちゃう私や圭より良いと思う。あの日一日気持ちがぐらぐら揺れたもの」

正直に楓に答えた。


圭がアカンベェをしていたが見えないフリをした。


四人デートから帰ると久々に会社に泊まることにした。

部屋が無いので悠は私の部屋と言い掛けただけで二人から猛反対された。

「重度のロリコンの溝口さんが、悠と二人きりで何もないとは到底考えられません。ですから反対です」

楓が酷いことを言ったが真実に迫っていた。

結局三人が私の部屋で、わたしは楓の部屋という部屋割りになった。



『木島社長、今どこに居ますか。早く帰ってきてください』


『溝口くん、そのうち会いに行くから待っててください。それとこれも深く考えないでくださいね』


ポセイドンに変身しながら喫煙室で木島社長と話すことが出来た。



風呂に浸かってデート疲れをほぐしていた。

すると当然の様に圭と楓、悠が水着で乱入してきた。

裸族の楓と悠に水着を着せるのは大変だったと圭がこぼした。圭が一番かわいいよと関係ない事を言って肩を抱いた。

一応危ないのでと言って、圭がジェットと泡風呂スイッチを入れ更に黒い温泉の素を入れていた。


私は一つの懸念を抱いていた。木島社長が生きていたとして悠をまだ愛しているのか心配だった。

しかし彼の言うとおり深く考えるのはやめた。実際に会って見なくては分からないからだ。


そんなことを考えていたら小さめのお椀とサクランボが目の前にあった。

圭と悠が洗い場にいる隙を楓が狙っていた。

手を半分伸ばし掛けたが根性で引っ込め、楓の頭を押さえて見えないところまで沈めた。

「諦めてくれたんじゃなかったの?」

「そんなこと言ったことないですよ」

楓も鳴と同じく大変な肉食だった。顔にすぐ出るけど。

圭がすぐに駆け付け、楓の水着のジッパーを上げていた。悠は全裸でまったく隠すことなく堂々とこちらに歩いて来たので、圭は私を連れて風呂場を出た。


鳴に今の事を相談すると自業自得と言われた。

「圭だけ脱がせてずっと二人で抱き合っていれば、そんなことは起こり得ません」

理想だけど無理とはっきり鳴に言った。例えば鳴のお椀が見えたら我慢出来る自信なんてないと。


ところでと強引に話を切って、近日中に起こる戦闘について話した。


真彩の部屋に行くと恵美が遊びに来ていた。

お邪魔していいかなと言うと快く歓迎してくれた。「トラブルがあったんですね?誰がお相手なんですか」

真彩の質問は辛らつだが合っていた。誰とトラブルになるかホントにわからないからだ。

この部屋だけはなんか落ち着けた。私に関心が無い二人なのも大きかった。


そして近日起こる戦闘の概要を二人にも伝えた。




『魔法少女を出してきたら容赦なくイエロー・メドゥーサが固めます。サシで勝負して下さい』


『乱暴なことを言うね。わかった、一人で出向こう』


外を眺めながら木島社長に会えることを喜んだ。生死は不明だが。



圭たち三人の部屋に行った。

この部屋が一番厄介だ。

悠がいるからだ。


圭に部屋に通されビールを頼んだ。

滅多に飲まない酒を飲んでいることで圭は酷く心配していた。

煙草に火を点け随分と長い間沈黙が続いた。


「木島さんと戦うんですね」

流石は彼女だ。悠はすぐに状況を理解した。他の二人は何のことか分からずパニック状態に陥っていた。

「木島社長をなんとか救ってみたい。また一緒に新潟の海で泳ぎたいんだ」

二本目の煙草に火を点けてから言った。

「どちらかが死ぬ可能性がある。その場合、悠はどっちに加勢してもいいぞ」



東京湾に予め津波と地震警報を出させた。

実際に起こる予測可能な警報だった。ただそんなものが通用する相手でもないことは予め分かっていた。


魔法少女部隊が来た時に備え、イエロー・メドゥーサを先頭に五人の変身ヒロインが護衛に付いた。


しかし木島社長は一人で来た。



「木島社長お久しぶりです。いえ、全知全能の神とお呼びした方がいいですか」

「固いことは抜きにしよう溝口くん。この戦いに負けたら君らは全滅する」

そんなことは分かって着てるに決まってるでしょう社長。


先手を取り地震を起こし雷を東京湾に数百本叩き込んだ。海中勝負しか勝ち目はないので足首を持って引き釣り込んだ。

殴る蹴る叩く絞める、全ての徒手格闘を持って挑んだが敵はびくともしなかった。

「ゼウスを選ぶって反則ですね。何もできやしない」

そう言ったら木島社長は笑った。

「そうでもないことは君なら知っているでしょう。溝口くん」

ああ、そうだなと言って後ろに回り込み首を絞めた。人間ならほぼ死ぬ体勢に持ち込んだ。だが信じられない雷をゼウスは起こしポセイドンの身体に直撃させた。

もはやここまでだった。


『ライトオブミリオンスター!』

魔法少女ミルキーウェイが私に力を与えてくれた。


今度は前から頸を締め上げた。「これでやっと質問できました。木島社長、あなたの肉体はどこですか。最初から見あたらないのですが」


「意地悪な事を言うね。あの日死んだのにある訳ないじゃないですか」

「だよな。精巧な死体を作る技術なんてあんたには無い。だから魂だけこれに載せて生きてるフリしてたんだよな」

更に締め上げゼウス、いや木島は喋れない。

「魂なんてものは存在しちゃいけねえんだよ。辛くて悲しかったら堂々ともがき苦しんで死ね」

最後にミルキーウェイを見て微笑み木島は死んだ。


ミリオンスターの光が湾内から天まで届いた。悠の悲しみと木島の苦悩を洗い流すように。




















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