⑫戦争と海戦
春の陽気が気持ちよく、日比谷公園散策を皆でしていた。
何故か警察特殊部隊が警護に当たってくれたが、わりと迷惑なことだった。
もし我々が急襲されたら、彼らは守らなければいけないお荷物になるからだ。変身ヒロインたち(及び魔法少女)はMP5Fなど足元にも及ばない火力を有する。だが彼らの避難を優先させたりしたら、防御と攻撃両面で少ないながらも影響を被る。
とか考えつつ公園内を歩いていたのだが、彼女たちが大噴水の前でしゃがみ込んだため、急いで対面に回り込んだ。
スマホのカメラをアップにすると圭の白いパンツが見えた。野生の生パンツは久々だったのでどうしようもないくらい興奮した。すると一緒に見ていた楓の顔が真っ赤だった。下にカメラを向けるとピンクの下着が丸見えだったので、シャッターを切ったあと慌ててその場から逃げた。
木陰で腰を下ろしコーラを飲んでいると圭がやってきた。
挙動が不審だったのかスマホを没収された。案の定と言った顔でその碧眼をこちらに向けてから、圭は電撃でスマホを壊した。
二枚の国宝級画像を焼かれた私は涙ぐんでいた。その代わり圭はちらっと生で見せてくれた。
癖毛で肩までしかない金髪ショートヘアの圭は、どこへ行っても注目の的だった。身体が小さいため守ってあげたくなる儚さを湛えていた。
「え、今変身しないで電撃出したよね」
圭に質問をしたら土を弄りながら頷いた。当然と言わんばかりだった。
他のヒロインたちにお願いしたら皆できた。楓は池の色を紫に代えてしまったので、立ち入り禁止にしてもらった。
悠は私服で飛んでしまったものだから下から丸見えだった。そこで木島社長の置き土産である、スカートの中身真っ暗システムを発動させ事なきを得た。青の水玉だった。
歩いて会社の部屋に戻ろうとした時にそれは起きた。
皆一斉にその気配に気が付きそれぞれ変身した。
悠はおもちゃの三日月が先端に付いた杖を身体の上に掲げた。閃光が彼女を包み込み目を閉じながら、両手両足を少し開いて全裸になりながら変身した。たくさんの星の光が彼女を包み込んでいたので見えないがとても危険だった。
それはそうと超音速のミサイルが皇居を目指していた。我々はシールド張り防御に備えた。
ブルー・オーシャンの大海のうねりとグリーン・フォレストの無数の葉がミサイルを包みこんだ。
こういう時の対策を講じていなかったが、黄海北側にローズ・レッドのスティング・ローズスナイプを放ち返してあげた。
東京には戒厳令が敷かれた。
ミサイルが目指したのが、皇居なのか我が社屋なのかは近過ぎてまったく分からない。ただわりと正確に飛んで来たのと、イージス艦でも捕捉不可能な速さと弾道で飛んで来たのは確かだった。
我が社は自衛隊とは連絡を取り合っていたが、軍属ではないし特にこの国を守るための組織でもなかった。
東京を守るためにやったまでで他の地域なら無視した。
戒厳令の中の皇居周辺を、彼女たちは変身しながら警護に当たった。グリーン・フォレストの薄いグリーンのスーツは、際ど過ぎて警察や軍に影響を及ぼしかねないので、モザイクを掛けたがもっといかがわしくなった。
圭、鳴、悠の変身は可愛らしくてぎりぎり健全だったが、楓のピンク・ナースはアウトっぽかったので、ブルー・オーシャンと共に皇居内警備に当たらせた。
内閣では報復攻撃をするか審議していた。やられたらやり返すのが基本のホモサピエンスだが、ここの国民は少々違ったようだ。
24時間警護を約束した訳でもないので、夕方になると全員社屋内シェルターに帰した。
風呂で疲れを癒すように皆に指示して私は地上階の喫煙室に行った。「これって彼女たちの仕事の一部なんですかね」
独り言で木島社長に問いかけた。
防弾ガラス越しで外を見ると戦車や装甲車とパトカーが並んでいた。我が国の歪さが嫌でも見て取れた。
今回のミサイル迎撃功績に対し、変身ヒロインたち(と以下略)に政府から感謝状が贈られたが丁寧に送り返した。国家のためには動いたつもりは一切ないと言う理由で。
代わりに都知事からのお礼状は謹んでいただいた。
戦後初の核弾頭付きミサイルが、国家の首都目掛けて発射されたことで国際社会はざわついた。
それよりも東京以外では動かないと宣言した我々に対して、非難と擁護の声が交錯していた。自衛隊が守れなかったミサイルを軽々と受け止めたので評価は過去最高に上がっていた。
他都市から東京へ避難する動きが出たので、都知事は他県からの転籍を当面認めない方針を打ち出し非難されていた。
我々としては、東京都民の盾であり鉾なので都の方針を支持した。
自衛隊が専守防衛のため朝鮮に出兵したのは一カ月後だった。
パトロールを終えると食事を摂り皆風呂に入った。
珍しく圭に誘われたのだが彼女はスク水を着ていた。
今まで何も着てなかったので戸惑ったが、スク水はほぼ全部脱がないと身体を洗えない作りなので安心していた。
すると彼女は粉せっけんを大量に入れ泡ぶろにしてしまった。
湯船の中で水着を脱ぎせっせと身体を洗ったので見えそうで見えなかった。血涙を流しながら自分もそうすると鳴と楓も水着で入って来た。
「温水プールかな」
私がそう聞くと『特殊浴場』という言葉を楓が発した。
皆驚きの顔で彼女を見たが、どうやらその意味をまったく知らずに使っていたようだった。
この三人は特に仲良しになっていた。
もう鳴と楓は私には特に興味なんてないだろう。単に一緒に働いてた唯一の異性なので勘違いしてしまっただけだ。
鳴と楓も圭方式で泡の中で洗い始めた。男の本能で見えなくてもそこにあるだろう場所を眺めていたら、楓が泡を掻き分けたのでもろに二つのサクランボが見えた。慌てて鳴の方を見たのだが彼女も同じことをしたので丸見えだった。
圭は?と思って見たがもう水着を全部着てしまっていた。自分でやっておいて楓は顔が真っ赤だ。鳴は何故か誇らしげな感じだった。圭は呆れて二人を見ていた。
『特殊浴場』
私は小さな声で呟いた。
就寝しようとしてベッドに入り掛けたところで部屋をノックされた。
圭だったがネグリジェ姿だったので部屋に入れなかった。
「ここでは普通にしてようと言ったよね」
と私が言うと圭は何も言わず帰って行こうとしたので、慌てて左手を掴んで部屋の中に入れた。ベッドに寝かせるとすぐに毛布を肩まで掛けてあげた。
私の部屋だけ喫煙可能で空気清浄機が何台も置いてあった。煙草に火を点けて心というより煩悩を鎮めようとしたのだが、温水プールぽろり事件を思い出してしまった。
こういう時100%の確率で圭は私の心の中を当ててくる。
「わたしだけ見せなくて悪かった」
そう言いながら圭は起き上がりブラのホックを外したので抱きしめた。
「あの二人は異常だから真似しなくていい。そのままの圭がいい」
そう言って、二人で静かに唇を合わせ一緒にベッドに入った。
日朝戦争は激しさを増していた。
護衛艦かがから発進する爆撃機は北の首都を火の海としつつあった。
戦争を始めるまで時間が掛かったが、天皇を狙われた国民は怒りに満ちており戦争を支持した。元々大日本帝国神民の末裔だからこれが本来の姿なのかも知れない。
ミサイル発射基地を壊滅させられた敵国は反撃の余力はなく、敵のマスコミは本土決戦を煽っていた。
直接我が社を狙われたので海神ポセイドンが津波と嵐で国ごと滅ぼしてしまおうかとも考えたが、後処理が面倒そうなのでやめた。
開戦二か月後我が国は勝利した。
戒厳令が解かれ平和な東京の夏がやってきた。
空には積乱雲がどこまでも高く段々と伸びていた。
今日は江の島の由比ヶ浜に行こうと皆に言っておいた。これだけの美少女に囲まれているのだから、ご褒美があっていいはずだ。普段もけっこうあるが。
この日のために中古のキャンピングカーを買った。
助手席には恵美がいた。何故圭じゃないのかと言うと単に彼女が小さいからだった。四人乗りの後部座席に詰め込んでも幅を取らない便利さがあった。
恵美だといろいろと大きすぎて問題があるのだ。
彼女たちの身長や体積順にすると大きい方から、恵美>真彩>鳴=楓>圭>悠となる。
順番は付けてみたが、鳴以降は小柄なのだった。
恵美とは仕事以外ではあまり話したことが無かった。
彼女は圭と私の間柄を考えて、必要以上のことは話すことが無かった。仕事の方では先のミサイル防衛に大きく役立っており重宝している。
「恵美は皆と上手くやれてる?君から見たらみんな子供だと思うけど」
そう言ったら即座に否定してきた。
「恋をしてる子が多いけれど、私にはそれがないから子供なんだと思う」
恋は小学生からするもので、それが無いから子供というのは何か違うと思った。ちらっと見た肢体がそれを十分に証明していた。
それ以上は話さないのでやはり恵美は大人だと思った。何故なら、圭が寝たフリをしながらこちらの会話を聞いていたからだ。
海水浴場に着いた。
ピンク地に白のふりふりレースのセパレートを着た圭と手を繋いで砂浜を歩いた。
我々は兄妹としてもやや差がある年齢だった。だけど気にしてはいけない。圭はすぐに感づいてしまうからだ。
圭の足が付くところまで歩いて行った。小さいからすぐに肩が浸かるところまで着てしまった。圭が目を閉じたので軽く唇を合わせた。
二人でボートに乗っていた真彩と恵美が我々を微笑ましく見ていた。この二人と比べたら自分のが子供な気がして恥ずかしくなった。
鳴、楓と悠は砂浜でサングラスを掛けて休んでいた。皆小さいので似合わなかったが、この三人は恋には積極的だった。一番年下の悠には彼氏がいると言う。
圭と私は手を繋いだまま鳴たちと合流した、「場所取りはいいから皆で行っておいで」と言うと、ビーチボールを持って三人とも駆けて行った。
残った二人は正真正銘のカップルなので、日焼け止めを塗ってあげたり手を繋いだりした。圭がビーチパラソルの下でうとうとしたのでキスをした。頭を叩かれたがまったく痛くはなかった。
普通ならクラゲが出るので昼で引き上げるが、宿泊先も確保していた我々は夕方まで浜にいた。冷えて来たので皆タオルケットを羽織った。
圭には私が直接掛けてあげた。
江の島を見ながら暮れてゆく夏の海辺を皆で眺めた。
海の家でシャワーは浴びたがそれでも潮っぽいので、会社の保養施設に着いたら皆急いでお風呂に入った。露天風呂だったのでお湯に浸かった時、日焼けの痛みで皆が悲鳴を浴びているのが聞こえた。
元々サーファーの私は気にならなかった。
「敵襲、皆準備して!」
大声で女湯に指示を出した。
最速の悠が敵に急いだ。変身ヒロインたちも彼女に続いた。
私は走って海に向かった。飛べないこともないのだが、少女たちみたく格好良くはなかったので緊急時以外は走る。
海から来る敵だからタコやイカだったらどうしようかとおろおろしていたが、翼竜みたいなものが飛んでいた。
しかし東京以外で初めて現れた怪異なので慎重にと皆に伝えた。
我々と暫く対峙していた敵だったが、急襲してグリーン・フォレストを狙った。あっという間にスーツを引き裂かれ恵美が落下してきたので受け止めてバスタオルを掛けてあげた。ローズ・レッドとピンク・ナースは反撃しようとしたがやはり一瞬でやられた。
三人の身体にバスタオルを掛けてあげ海神は動き出した。
すると悠が大丈夫のサインを送って来た。見守っていると超速でジグザグに飛び翼竜をかく乱していた。その隙に圭がライドニングコメットを叩き込み敵は海に落下した。
その落下してきた敵をポセイドンが素手で四つに切り裂き勝負は付いた。
負傷した三人を抱え空を舞い宿に急いだ。キャンピングカーの中には医療道具がたくさんあるからだ。無傷だった圭と真彩、悠が傷の治療に当たった。男の私は包帯の用意くらいしか出来ない。
元々回復力も尋常ではないのですぐに彼女たちは目を覚ました。
心の底からホッとした。悠が私の出撃を止めたのは、やられた仲間が軽傷なのがすぐ分かったからだそうだ。私が出てこの地域全体に災害が起こるのを防いでくれたのだ。
それにしても実質的に初の苦戦だった。敵の勢いが増してくるのを感じ私は戦慄した。だが恐らくポセイドンを倒せる個体は現れないだろう。
木島社長が変身ヒーローはデータが少ないと言っていたからだ。ポセイドンは彼が作った最後で最強のヒーローだったはずだ。
ベッドから起きると初めての事態に三人が不安になっていたのでそれぞれ抱きしめた。
メドゥーサの力を隠し持つ圭はじっと空を見つめていた。




