⑩魔法少女
ニュースを見てすぐに駆け付けたが社屋の周りは完全に立ち入り禁止だった。
冬の空は雲一つなく平穏な一日を告げているようだったのに、私の職場には無数の弾痕があるように見えた。
木島社長が亡くなったというニュースが後に流れてきた。
午前七時の凶行だったので出社してる者は少なかったが、社長は撃たれて亡くなった。
深く考えては行けないが彼の考えだったが、深く考えなくてもこれはおかしかった。無敵の変身ヒロインたちを生み出し、ついでに私もほぼ無敵だった。
だから社長にも戦略核兵器ぐらいは簡単に撥ね退ける力があると思っていた。後に発表されたのはチャイニーズマフィアの仕業だという。
一応五人には私の家に退避命令を出した。SATの護衛が付く異例の状況だったが我々にはあまり意味がなかった。敵の攻撃を事前に察知、閃光を放ち我々は変身できる。その際に全ての攻撃は無効にできるからだ。
あっという間に一週間が過ぎ社長の葬儀も終わった。
「たぶん敵はもう来ない。だから家に帰りたい者は帰っていい」と伝え、真彩だけ心配だからという理由で帰宅した。
薄々感じていたが敵は社長の自作自演だった。
彼女たちに危害を加えない程度の敵を出現させ、我々が殲滅するの繰り返しだったからだ。変身ヒロインたちの強化のみを目的としていた。
何故彼がこんなことしたのかは分からない。そして本当の敵にはあまりにもあっさりと殺されてしまった。
チャイニーズマフィアなんておもちゃはただのフェイクだ。依頼をした黒幕がいるのは明らかだったが彼の遺志に従い深く考えなかった。
「仕事が無くなってしまった訳だが、変身ヒロインを辞めたい者はいるか」
皆黙り込んでしまった。今起こっている事態に対応できてないようだった。
「ほんとに敵はいなくなったのか?まだ何かあるなら言ってくれ」
男らしさを取り戻した圭がかわいいので、頭を撫でたらすごく嫌がった。圭は嫌がったついでに頬を叩いたので私の顔に痣ができてしまった。
「本当の敵との戦いになる。どこの誰かはわからないが」
腫れあがった頬で私は真顔で言った。社長は迎撃だけでこちらからの先制攻撃はさせなかった。つまり待っていれば必ず来る。それを斃すだけだと私は宣言した。
圭が私の頬に薬を付けている間、他のメンバーは相談していた。
「真彩にも連絡が取れました。私たちは力を合わせて今後も戦います」
メインヒロインらしく鳴が代表でそう言い切った。
「楓と恵美もそれでいいんだな。なら今まで通りでいい。社屋の防弾化を進めているので、その後はまた同じ生活になる」
ここまで言って腹が減ったので皆にご飯をねだった。
一月後改造後社屋が完成した。防弾能力が格段に上がったが、敵の攻撃が銃弾とは限らないので職員の勤務場所は対爆仕様にしてもらった。
レッスン室の下にある使われていない地下階を初めて覗いて見ると、そこには五人が宿泊できる施設があった。風呂の大きさに驚いたが木島社長の趣味だったのだろう。
射撃場もあったがこれは意味があるんだろうか。万が一変身できなくなった時の備えなのだろうか。
地下は完全シェルターで核攻撃にも耐えられる。「一体なにと戦おうとしていたんだ社長は」私の頭は混乱した。
「真彩ももうすぐ合流するので、五人はシェルターで暮らすことになりました」
やたらと顔が赤くなる楓がそう言った。
独り暮らしになるのでしょげてる私に圭が写真を見せた。私たちのフロアの下には大きな部屋があって、筋トレ道具が充実しているからたぶんお前の部屋だと彼女は言った。
ジム風なのにシャワーすらないのは嫌がらせだった。上の階の女子風呂を使わせ波乱を演出させようとしているのがみえみえだった。
死ぬ前からなにを考えていたんだあの社長は。
圭と一緒の時間が激減してしまう。これだけでダメージが大きかったが、圭は自分の部屋に頻繁に呼んでくれた。
風呂の上には六人分の名前が書いてあり、誰かが入っていると赤ランプが点滅するようになっていた。今は鳴と楓が入っているようだった。脱衣場には普通に入れるので下着に手を伸ばし掛けたが、圭にもらった下着があるので自重できた。が、二人が出てきてしまった。
「あ、溝口先生」
全裸で平然とこっち向くんじゃない鳴。楓はパニックになって隠れるところを探していたので、バスタオルを後ろ向きに投げてあげた。
風呂から逃げて圭の部屋でくつろいでいたら鳴と楓が来た。
「覗きの理由を教えてください」
鳴にすぐばらされたので圭に頭を叩かれた。楓の裸は後ろ姿しか見てないので、顔を赤くするのをやめて欲しかった。
単にトレーニング後だったが、風呂場に行ったら二人が入っているので帰ろうとした。脱衣場が開いてしまい二組の下着があったので無意識に手を伸ばし掛けたが、触ってないので無罪と主張した。
「何色の方を盗もうとしたんですか」
楓に尋問されたので白と言ってしまったら、楓の顔がゆでだこになった。
私は逮捕されるわけにいかないので風呂に逃げ込んだ。ふぅっと一息付いたところで真彩と恵美が入って来た。入浴中のランプを付け忘れていた。
全力ダッシュで逃げようとして滑って頭を打ったが、これ以上余罪を増やす訳にはいかないのでそのまま自室に帰った。
「下着が好き過ぎるな」圭の下着を何組か抱えながらたんこぶ頭の私は溜め息を付いていた。
煩悩を振り払うべく射撃場でライフルを撃っていたら、圭が鏡の向こうから見ていた。
「楓と鳴から貰ってきたからこれやる」
と下着を渡された。下着マスターの私は、これがさっき脱いだやつだと分かってしまいしゃがみこんでしまった。
圭はとっくに私が下着に目が無いことを知っていた。思えば初回から圭を下から覗いていた。
「木島社長、ここは天国に一番近い場所ですが試練が大きいです」独り言を呟いていた。
圭、鳴、楓の名前のシールを作り厳重に保管して圭の部屋に行った。
「さっきのはわりとお遊びだが敵が攻めて来たら今まで通りに行かなくなる」
罪を軽く見積もって真剣な顔で言ったら頭にパンツを被せられた。
「その前に皆もうすぐ来るから反省の言葉でも考えてろ」圭がそう言った。
なんとかあれが事故であると熱弁し許して貰えた。風呂に誰か入って入る時は、脱衣場に入れなくするよう技術班にも言うつもりだと話した。
そして圭の部屋でお泊りが許された。流石に今日は大人しくした。
「警報だ圭、皆にメッセージしてくれ」
新たな敵かも知れぬ存在に戦慄しつつ私は外に出てポセイドンに変身した。
敵らしきものはブリキ細工のようで木島社長の物とは比べようがなかった。ただここは皇居のすぐ傍なので静かにチョップをして倒した。
駆け付けたヒロイン軍団には、取り敢えず一体倒したので一時間警戒するように指示した。
大量のパトカーが集まり、都内には最上位クラスの警戒宣言が出された。
SAT隊員も大量導入されたがもう敵は来なかった。
「皆眠そうなので帰って寝る」
そう圭が言ったので皆に帰還命令を出した。
現場に来た責任者に敵の正体掴めますかと聞いたが、現在木島社長の出身校であるT工大で親交が有った者を調べているという。皇居の警護頼みますと言い私も皆のところへ戻った。
もう一度シャワーを浴びようとしたが圭が入ってるようだった。インターフォンで通話をしたら入って来てもいいと言うので開けてもらった。
「弱かったよすごく」
圭に率直に感想を言ったが何か考えているようだった。
「進化して木島社長並になったら変身ヒロインも作れるんじゃないのか」
彼女が核心を突いて来たので頷いた。ただ捜査権も逮捕権も持たない我々は待つしかないと伝えた。木島社長が迎撃のみの訓練しかさせなかったことも加えて言った。
「たぶん我々に出来るのは訓練して強くなることだ。それが最も良い手だと思う」
と圭の胸を見ながら言ったので彼女は顔を真っ赤にして足を蹴った。
翌日もニュースは大騒ぎしていた。
変身ヒロインたちが東京を守り切れるのか不安の意見が多いらしい。
あのブリキなら警察でも自衛隊でもなんとか出来る。ただ木島社長が作った仮想的にはどちらも勝てない。だから我々が守ってることを忘れないで欲しい。
「次からはわたしに行かせてください」
変身ヒロインたちのリーダーが吼えた。エースの自覚を持たせるため弱い敵ならいいよと答えた。ただ慎重にやってくれとも伝えた。木島社長は自殺したのではない。彼の弱点を知ってる敵に殺されたのだ。つまり我々のことを知ってる可能性もあるからだ。
今月は私と圭の誕生日だと言うのに本当に慌ただしかった。
それでもみずがめ座の二人を祝い同時誕生会が開かれた。ケーキや鶏肉がたくさん並び豪勢だった。なにより圭と隣の席が嬉しかった。
プレゼント交換を開けたら下着セットだった。楓の顔が真っ赤なのですぐに分かったが何故だ。
会が終わると警護と称して皇居の周りを散策した。空を見上げても一等星以外の星は惑星と月しか見えなかった。パトカーがうろうろしていて、たまに警官にご苦労様ですと声を掛けられた。謎の敵相手の警護は大変ですねと労っておいた。
千鳥ヶ淵から四谷まで行って引き返した。このまま歩けば赤坂のマンションに帰れたが我々がいたら住民が不安がるので断念した。
しばらく会社暮らしが続き皆の学習が心配になったので勉強会を開いた。
同い年だから教材も同じで楽そうに思えるが、学習の進捗状況がまるで違うのでわりと大変だった。圭には一流高校向け、真彩、恵美、楓には一般高校、鳴はかなり低いところだからだ。塾ならクラス分けを行うがそういう訳には行かなかった。しかし、圭が鳴を教えてくれるので私は他の三人を教えればいいことになった。
そんな生活を送っていたところに空を浮かぶ敵が現れた。
警報は鳴り響いたがどう見てもあれは人間だ。なので生け捕り作戦を皆に指示した。そして最強の圭だけを出した。
「厄介な敵だったら仕留めますよ」
鳴が物騒なことを言ったが正論だった。あれが人間でも敵なら倒さなくてはならない。
スピードは速いので皆警戒した。鳴はスティング・ローズスナイプの構えに入った。しかし圭の1/100ライドニングコメットを受けてよろよろ落ちてきたので皆で受け止めた。
「あなたは変身ヒロインなの」
と鳴が尋問したが魔法少女だと敵の少女が答えた。皆、どこが違うのかさっぱりわからないという顔をしたが一応納得した。
警察に引き渡し暴れたら困るのでこちらで預かると私は言った。
鳴の部屋に皆集まって尋問をした。だが私だけ理不尽にも追い出されたので、意義を申し立てるために戻ると少女が鳴に服を脱がされていた。
「そんな拷問のような尋問は許さない」と私が言ったので鳴は彼女に服を着せてあげた。
もっと平和的に話し合いなさいと私が支持を出したので、鳴は誰の命令で来たのかきちんと伝えなさいと魔法少女に行った。
「木島社長から言われていたので来ました。戦う意志はないのです」
と少女が言ったので皆言葉を失った。
「木島社長は、まだ生きているのか」と私が少女に聞くと彼女は分からないと言った。三ヶ月前に会ったのが最後で飛行が上手くなったらここに来る様言われていたと。
彼女に木島社長の死を伝えた。すると彼女は泣き出してしまったので圭が抱きしめ慰めた。
これを見ただけで敵ではないだろう。女子は嘘が上手いので油断は出来ないが。
「今晩は圭の部屋で寝なさい」
ただし敵対行動を取ったら大変なことになるとも伝えた。それを聞く前に少女は眠ってしまった。母性の強い圭にここは頼んで、念のために楓もここで寝るように指示した。
翌日彼女をレッスン室に呼び戦闘訓練を行ったたのだが、俊敏なだけで攻撃技を一切持っていなかった。どうしたものかと思った。
怪獣なら装甲も硬いし人型は変なビームを出して来る。この速さなら逃げ切れると思うが役には立たない。なので射撃室にある銃を持たせた。魔法少女なら銃弾は要らないはずなので飾りだ。なんらかの光線で敵を足止めして欲しいとの思いで持たせたのだが、これが強かった。人型と怪獣両方を蜂の巣にしてしまった。
シールドを無効にして敵を貫いていた。
「すごいぞ。ところで名前はまだ聞いてなかったな」
私が問いかけると、少女は高谷悠と答えた。




