らしくない師走
師走になったけれど、街の景色は冬というよりまだ秋だ。
紅葉は今が盛り。まだ青い木々も少なくない。
気温が下がらなければ、落葉樹の葉は色づかない。
「もしも、日本から冬がなくなったとしたら」
イチョウもモミジも年中、葉っぱがついたままになるのかなあと、かわいい先輩が小首を傾げた。
この人、おそらく多くの人がわからないことを口にする癖がある。浮かんだ疑問をシェアしたいだけなのか、ただ口をついて音になってしまうのか、いずれにせよ、明確な回答を望んでいるわけではないと思われる。
イチョウやモミジが常緑樹になることはあるのか、なんら知識のないわたしは微かに首を横に傾けた。かわいい人は「四季はあったほうがいいわよね」と呟いた。
部室でのひとコマはかくして終わった。何十年か経ったとき、ふと、こんな情景を思い出したりするのだろうか。そのとき、無味乾燥な部室で、愛らしい姿をしたひと学年上の少女と共有した時間をどう感じるのだろう。そんなことを思って、ふっと可笑しみを覚えた。
答えのない問いを、わたしも発している。
日銀はマイナス金利解消に向けて着々といったところ。
物価高が進む中で、企業の賃上げは本格化する気配だ。
「賃上げできるところと、できないところとで、企業に差がつくことは間違いないでしょう」
顧問はそう言った。
「どーゆーこと?」
かわいい人の無邪気な問いに、
「あなただって、給料のいいところと、そうでないところと、どちらに勤めたいですか?」
「うーん、そりゃいいにこしたことないけど」
「似たような仕事なら、どうです?」
「そりゃあ、たくさんくれるなら」
ですよね、と顧問は笑った。
給料がよければ、人が集まります。企業にとってほしい優秀な人が集まります。
給料を上げられない会社からは人が離れてゆくでしょう。特に他でも通用する優秀な人ほど離れてゆく可能性が高い。
企業を運営するのは、結局のところ、人です。
優秀な人が多い企業と、そうでない人が多い企業とでは、ふつうに考えれば、どちらがより成長するかは明らかでしょう。
投資家目線からは、賃上げをしっかり行なっている企業こそ、買いの材料のひとつとなるわけです。
インフレ下では、値上げのできる企業は強いですね。
コストの上昇分を商品価格に転嫁できるなら、売上げも利益も増やすことができるでしょう。
じゃあ、どんな企業が値上げできるのか。
他社にない独占的ななにかを持っている会社はわかりやすいですね。他にないんだから、価格がどうあれ、必要とする人は買わざるを得ない。
「独占的ななにかって、商品のこと?」
「一般的にはね」
「他にあるの?」
「販路もそうですね」
「販路?」
「ええ、いくらいい商品を作っても、それを売るお店などを持ってなければ、多くのお客さんには届かないでしょ」
「ネットでなんとかなるんじゃないの?」
「確かに。昔に比べれば、売りやすい環境はありますね。でも、しっかりした販売網をもつ会社とそうでない会社とでは、売る量が段違いです。その販路を他社に使わせることで、利用料を取ることもできます」
「ほかには?」
「地域を押さえているとかもそうですね」
「地域?」
「鉄道などわかりやすいですね。そこに住んでる以上、その電車に乗らざる得ない」
ただ、独占企業だからと言って、なんでもいいわけではありません。
中には、独占にあぐらをかいて、放漫経営をする会社もあります。独占ゆえに適当にやってても、回ってゆくんですね。こうした会社は前例踏襲が常態化し、「これでいいのだ」でやってますので、高収益でなかったりする。こういった会社には気をつける必要があるでしょう。
また、独占的な何かを獲得したくって、独占企業を買収しようとするところも現れますから、TOBともなれば、株価は買取価格程度に上がる可能性はあります。
近頃、TOB絡みの話題が増えたように思いませんか。つい先日も、第一生命がベネフィット・ワン買収に名乗りを上げたとの報道がありました。すでにエムスリーとの間で買収契約を交わしているにもかかわらずです。これから、こういう動きは広がると思われます。
「なんで?」
なんで? 理由は簡単。インフレになれば、現金の価値が目減りしてゆくからです。新たな投資先を見つけて事業を拡大しなければならない。遊ばせておくお金はないといってもいい。
既存事業の大きな成長が見込めないなら、他で稼ぐしかない。でも、イチから事業を立ち上げていては時間もかかるので、大きなマーケットを掴んでいるところを買収するほうが手っ取り早い。お金なら、ある。今、話題になってる資本効率を上げるにも有効でしょう。
「投資の狙い目としては、買収されそうなところを選ぶってこと?」
「どうでしょうね」
「でも、買収する会社は、今の株価より高い値段をつけて買い取るわけでしょう。TOBが発表されたら買収価格までには上がりますよね」
「それはそうなんでしょうけど、よく考えてほしいのは、買収する側はなぜその金額で買収するのかってことです」
「?」
「仮に今の株価が100円で、買収価格が150円としましょう。今の価格を市場評価額と言い換えるなら、買収しようかという会社は市場評価より五割も高い金額を出すと言うのですよ。どうしてでしょう」
「だって、たくさんの株を買い集めるわけでしょう。高い金額を出さなきゃ、売ってくれないじゃない」
「それはそのとおり。でも、そもそもの話、買収する会社はどうして市場評価より高い金額を出してまで買収したいと考えるのでしょう?」
「それは、買いたいと思う魅力的な会社だから?」
「魅力的な会社とは?」
「だから、ステキな商品だったり、サービスだったりを持ってる会社?」
「そんな会社だったら、市場評価より高くてもいいんですか?」
「・・・いいわけじゃないんでしょうけど、それだけ気に入ってるってことでしょう?」
「そう、買収する側は、もっと価値があると認識してるってことです。つまり、市場評価以上の金額を払っても、本当はそれよりもっと価値があると考えるから、ですね」
「ふーん」
「投資の観点で言えば、買収される企業の株を持っていて、TOBにかかっていくらか株価が上がれば確かに儲かるのでしょうけれど、でもそれは買収する側が思う価値からすれば、ずっと低いものでしょう。言わば、本来の価値からすれば、安値でかっさらわれることになるわけで、本当に旨味のある投資なのか疑問だとも言えます」
「てことは、買収をされるところより、買収する側に投資すべきってこと?」
「そういう視点はとても大切ですね」
顧問の話を聞きながら、感じた疑問があった。
今の話は、買収する側の算定が確かなものならば成立するが、過大な期待による幻想に過ぎなければ、つまらない会社を高値で掴むにすぎない。
また、仮に価値ある買収だったにせよ、取り込んだ後の経営がまずければ、せっかくの価値が毀損しかねない。
結局のところ、買収される側なのか、買収する側なのかの二択で判断するのではなく、個々の中身の確認が不可欠だ。
ただ、顧問の言わんとすることは理解できる。
仮にEPSが先々4倍になると期待できる株式をPER10倍で購入したとする。思惑どおりEPSが4倍になれば、市場人気の上昇でPERが30倍まで膨らむと、株価は4 × 3 = 12倍を期待できる。ところが、どこぞの企業が現在価格の倍の金額でTOBを成立させれば、株価は2倍に急騰するだろうが、それで終わる。
一方、買収するどこぞの企業は、現在価格の12倍を期待できる株式を、わずか2倍で取得できるのだから、大きな利を得ることになる。自社の事業との連携で、より大きな利を得ることができれば、企業価値は増大するだろう。ならば、買収する側に投資すれば、その恩恵を得ることができるわけで、先々の価値の増大は買収される側の比ではない。
とは言え、買収される側との比較で、する側の規模の程度によって、価値の増大が、買収する側の企業に与える影響は大きく変わる。やはり、単純なルールで判断できるものではない。
・・・などが顧問と先輩部員との会話から思考したことであったが、特に発言する意義もないと判断し、わたしは沈黙を貫いた。
部室の窓からは、抜けるように青い空が見え、真っ盛りに色づく木々が見え、時おり吹く風に舞う落ち葉が見えた。
秋真っ盛りといった風情ながら、暦は既に師走の半ばに入っている。令和五年も終わる。持ち株は、なんら変えていないが、区切りの検討をすべきと考えた。
2023年12月8日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 1,400株 買値300円 株価320.3円 時価448,420円 含み益28,420円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価2,094円 時価418,800円 含み益112,800円
・6623 愛知電機 100株 買値3,615円 株価3,620円 時価362,000円 含み益500円
・7330 レオスキャピタルワークス 300株 買値1,358円 株価1,092円 時価327,600円 含み益▲79,800円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,257円 時価502,800円 含み益76,000円
現金 84,840円
時価総額 2,144,460円 含み益144,460円 含み益率7%
仔細に見る。
インド株式は、インドの将来性に投資したいと考えた。インドの人口は世界一で、かつ若い世代が多いことから、かつての日本や中国のような高成長が期待できる。個別株投資は至難のため、インデックス投信で全体の成長取込みを狙った。
今のところ、まずまず順調だ。
ウクライナやパレスチナでの戦争が、インド企業にとって負の要素とはならないだろう。グローバルサウスを牽引するポジションを高めつつ、民主主義国家とも共産主義国家ともわたりあうこととなるだろう。
世界経済全体を揺るがすような事態が発生し、インド株式も暴落することとなれば、追加購入するチャンスと捉えよう。
コカ・コーラは業績回復株として購入した。
ここ数年、赤字続きで有利子負債も多く、株価も低迷していたが、フリーキャッシュフローはプラスで、そのブランド価値は絶大。インフレのため、値上げが許容される環境変化もある。地球温暖化による気温上昇が、この会社の製品需要を継続的に高めることにも期待できる。等が購入理由である。
今のところ、これがポートフォリオの稼ぎ頭だ。
3Qの決算発表によれば、売上高は計画比22,800百万円の増収、営業利益はとうとう黒字化の見込み。
わたしの期待どおりの動きで、ここからいよいよ反攻が始まると考える。株価は購入価格から37%増ながら、保有継続だ。
愛知電機は割安株として購入した。
今期見込EPSは516円で、株価3,620円の益回り(EPS ÷ 株価)は14%ある。PERは7.0倍で、さらに現金同等物が一株あたり665円ある。それを引くと実質株価は3,000円を切り、PERは5.7倍になる。
3年後のEPSを700円、PERを10倍とすれば、株価は700 × 10 = 7,000円、PERが15倍にまでなれば、700 × 15 = 10,500円が期待できる。
株価はほとんど動かないが、保有継続だ。
レオスキャピタルワークスは成長株として購入した。
現在、唯一、含み損を抱えている。株価は上場以来ずっと下がり続けている。
けれど、有利子負債はなく、配当金がつき、EPSは順調に増える見込み。ひふみブランドの投資信託を運営するので、来月からの新NISAでの躍進を期待できる。
では、なぜ株価が低迷するのか。
ひとつ考えられるのは、新NISAで推奨される投資信託が主にインデックスファンドなので、アクティブファンドのひふみブランドが敬遠されるのではと思われているのかもしれないということ。
今後の業績がどう推移するのか見守るため、保有継続。
三菱UFJは安定株として購入した。国内最大の金融グループで、今後、金利が上昇すれば、恩恵を最も受けると思われる。日銀はゼロ金利解除を示唆しているので、今後の更なる業績拡大が期待できる。保有継続。