プロってなに?
「でもさー、不思議だよな」
「なにが?」
「ふつうプロって、ケタ違いなもんじゃん。スポーツだって、芸術だって。オレが今どんなに頑張ったって、大谷翔平のタマ打てるとは思えないし、バイオリンでツィゴイネルワイゼンを弾けるわけがない」
「それで?」
「でも、投資ってプロと言われる人たちと素人の違いってあるのかなあって思ってさ」
「そりゃあるんじゃないの。ウォーレン・バフェットとかピーター・リンチとかって有名じゃん」
「そこらへんは確かに有名なんだろうけどさ」
「なにが言いたいの?」
「投資信託ってのもプロが運用してるんだろ。でも、それってほとんどが市場平均を下回ってるって言うじゃん」
「そうね、市場平均ちょっとでも上回ったらすごいとかって言われるみたいね」
「それってすごいことなのか?」
「プロにもいろいろいるってことなんじゃない」
「だからさ〜、プロにもいろいろいるんだろうけど、例えばお前の好きな野球だって大谷翔平もいれば、ヒット1本打てずに引退する奴もいるんだろうけどさ、それでもさ、そのヒット1本打てない奴にオレが太刀打ちできるかって言えば、絶対ちがうだろ。プロと素人の違いって、それくらいあるってことじゃん、ふつうは」
「だから?」
「投資のプロって、何なんだろな? 市場平均って言ってしまえば、偏差値50みたいなもんだろ? それをちょっと上回ったらすごいのか? どころか平均さえできないのに、プロ? そんなこと、他の世界であるのか?」
「なにが言いたいの? んなのプロじゃないって言いたいの? それとも、プロでもできないことを素人ができるわけないって言いたいの?」
「そこなんだよな。よくわかんね。結局、投資に正解なんてあるのかなって思ってさ」
先輩二人の会話を聞きながら、投資とは結局のところギャンブルなんだと言った男の方の先輩の言葉を思い出した。
ギャンブルである以上、プロも素人もない。数多くの投資信託が市場平均を下回るのは、ギャンブルにプロなどいないからだ。いや、いるのかもしれないが、いるにせよ、それは多分に偶然の結果だったりするのだろう。
仮に世界中の人がじゃんけん大会をしたとする。最後に誰か一人が勝者になる。その勝者が、じゃんけんのプロと言えるかということだ。
その勝者が再び同じじゃんけん大会に参加して優勝できるかと考えたとき、ふつうに考えて、それはまずあり得ない。優勝せずとも、ベスト8、いやベスト512に勝ち残ることさえ至難だろう。ずっと勝ち続ける確率は、勝負を増やすほどに小さくなる。再現性の高さをもってプロというなら、じゃんけんにプロは存在し得ない。
投資の世界にはそんな側面がある。
「でも、実際に勝ってる人っているわけじゃん。当たる当たらぬがあるにしてもよ、これやったらまずいよねとか、ここはチャンスってあるんじゃなくて?」
「なんだけどさあ。わからないのは、んなこと人のカネを運用してるプロだって百も承知でやってるわけっしょ? なんで、それでも市場平均マイナスが大半になるわけ?」
「相場が下がると、投資信託の解約が増えて、現金作らなきゃいけなくなっちゃうから、むざむざ持ってる優良株を売らざる得なくなるとかって聞いたけど」
「本当にそうなのかなあ」
「小型株は規模が小さすぎて買えないとかって話もあるとか」
「そもそもファンドマネージャーは大手以外を買うには社内規定でハードルが高いとかって話もあるんだろ? それ、本当? 制約多すぎるから成績上がらないってマジなの?」
「そんなのわかんないけど、でも、プロがどうあれ、これやっちゃダメだよねってゆーのはあるわよね」
株価が上がった銘柄を見て、これは買いだと中身も見ずに飛びつくとか。
ずいぶん上がった銘柄が高値から20%ほど下がったから買うとか。
買値から10%下がったから売るとか。
予期せぬ問題が発覚して、当初見込が大きく変わったのに、損を確定するのがイヤで持ち続けるとか。
買値から30%も上がったら、ここで下げられてはせっかくの儲けが飛んじゃうからって売っちゃうとか。
損失の補填をしたくて、上がり続ける優良株を売ってしまうとか。
女のほうの先輩が並べる「べからず集」を聞きながら、
人間の習性があらぬ動きをさせてしまうのでは?
とも感じた。投資で必要なのは、知識やテクニックよりも胆力だという人もいる。
値下がりする持ち株が奈落の底まで落ちてゆくのではという恐怖。
目をつけていた銘柄の株価がどんどん上がって、さっさと買わねばもっと上がってしまうのではという焦燥。
持ち株の値動きがなく、他の銘柄への乗り換えという誘惑。
たまたま目にした、耳にした誰かの話への盲信やバイアス。
投資関連の本に書かれる戒めを要約すれば、
なぜ投資するのか、したのかを再考もせず、一時の気の迷いに衝動的な行動を取る人々のなんと多いことか
に尽きると思われる。
「あたしはいつでも基本を押さえておくべきだと思うけど」
「基本ってなに?」
「株価 = イプス × ペル」
イプスとはEPSのこと、ペルとはPERのこと。かわいい姿をしたこの人独特の発音。
「イプスが伸び続けると思う会社をまず選ぶ。そのうち、まだペルが低い会社に狙いを絞る」
イプスが伸び続けるかどうかはフタ開けてみないとわからないから、そこはギャンブル。
まだペルの低い会社に狙いをつけとけば、イプスが上がり続ければ、そのうちペルも上がりはじめて、かけ算で株価が上がる。仮に当てが外れても、もともと人気なかったんだから、株価が下がってもたかが知れてる。
ペルが高い株は、当てが外れたとき、イプスだけでなく、人気が落ちてペルまでどんどん下がるから、どこまでも株価が下がってゆくことになりかねない。
「ここが株式投資の絶対外しちゃいけないとこだと思う」
「なんだろうけど、それ、プロだって知ってるはずだろ? なんなんだろうな」
そこまでは、高校生にわかるはずがない。
2023年11月24日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 1,400株 買値300円 株価314円 時価438,900円 含み益18,900円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価1,916円 時価383,100円 含み益77,100円
・6623 愛知電機 100株 買値3,615円 株価3,615円 時価361,500円 含み益0円
・7330 レオスキャピタルワークス 300株 買値1,358円 株価1,196円 時価358,800円 含み益▲48,500円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,266円 時価506,200円 含み益79,400円
現金 78,300円
時価総額 2,125,320円 含み益125,320円