PEGレシオ
株式投資において、指標となるものがある。いくつもある。
株式投資部で顧問から、いの一番に教わったのはPERについてだった。
株価 = EPS × PER
株価が何によって形成されるのかという意味において、このシンプルな方程式はとてもわかりやすく、基本になるものだと思われる。
EPSとは一株当たりの純利益額のこと。PERは株価がEPSの何倍まで買われているかを示す株価収益率のこと。
顧問はこのふたつが何を意味しているのかについて、わかりやすく次のように表現した。
EPS:企業の実力
PER:企業の人気
EPSは単年で判断できるものではない。
複数年の経過や市場動向、社会変化から、今後増えるのか減るのかを想定するもの。
当然、増え続けると想定できるなら、株価はどこかで上がるだろう。
では、増え続けるかどうかをどう判断するのか。
「そこは個人の投資力次第です。単純に何かの指標だけを見て、増えると判断できるものではありません」
「むしろ流行ってる店があるなとか、使い勝手のいい商品やサービスがあるなとか、最近こんなニュースを見たとか、気になったことをそのままにしないで、じゃあそれはどの会社がやってるんだろうと、ちょっと調べてみるようにすれば、案外掘り出し物が見つかったりします」
顧問はそんなことを言っていた。
PERは数値の大小によって、市場の人気度合いがわかる。
株価の割安度合いを知る指標とよく言われるが、だからと言って基準数値があるわけではない。
10倍程度なら低いなと感じるし、50倍を超えるようなら高いなと感じるけれど、では10倍が割安で50倍が割高とも言い切れない。
例えば、何年経っても利益水準が変わらない銘柄は、PER10倍でも株価が上がる見込は薄いと見込まれる。PERでは割安でも、顕著な業績向上が見込めない株式を進んで買おうと考える投資家は少ないだろうからだ。
まして先々の利益水準が大幅に下がるようなら、PERそのものが高くなる。仮に利益が半分になれば、今のPER10倍はPER20倍になって、もはや割安とは言えない。
逆に倍々で業績を伸ばし続ける銘柄なら、今のPER50倍は来年にはPER25倍、再来年にはPER12.5倍となる。今の株価は、二年後のPERからすると割安水準にある。
株価はEPS × PERで形成されることをよく承知しておかねばならない。
現時点のPERだけを見て「割安だ」と飛びつくのは最悪だ。業績が伸び続けてくれれば、つまりEPSが増え続けるならいいが、EPSがいつまでも変わらないなら、株価上昇は見込めないだろうし、EPSが減っては株価まで下がってしまいかねない。
「と理解している」
わたしは部の発表会で、そう締め括った。
「どうですか?」と顧問が先輩二人に振ると
「うん、すごくよかった。よくわかってると思う」と女のほう。
「十分でしょう」と男のほう。
顧問は「わたしもよく理解できていると思います」と言った。その上で
「逆になにかありますか?」とわたしに振ってきた。
「EPSの成長率とPERの関係について、どう考えるべきかを整理したいと思う」
「なるほど」
顧問はそう言って、次の説明を始めた。
EPSの成長率とPERの関係については、PEGレシオと呼ばれるものが一般的とされる。
PERをEPSの成長率で割って算出する。
仮にPERが20倍の銘柄のEPS成長率が20%なら、20倍 ÷ 20% = 1倍となる。この1倍が標準的とされるので、PER20倍の銘柄が20%の成長を続けるなら、株価は妥当と考えられる。1倍を上回るようなら、株価は割高、下回るようなら株価は割安と判断される。
例えば、PER10倍の銘柄が5%の成長しかできないようなら、10倍 ÷ 5% = 2倍となるので、株価は割高と判断できる。逆にPER30倍の銘柄が50%の成長を続けるなら、30倍 ÷ 50% = 0.6倍となるので、株価は割安と判断できる。
「ただ、これも全てとは言えません」
と言って、顧問は「なぜだかわかりますか?」と問うた。
「未来のことは誰にもわからないから」
わたしが答えると、顧問は「そのとおり」と言った。
過ぎたことは調べればわかる。過去の決算書を丹念に調べれば、その会社のEPSがどう推移してきたのかはたちどころに知ることができる。
しかし、投資に必要なのは、過去の実績ではない。未来への展望だ。
たとえ輝かしい実績を残してきた会社でも、お先真っ暗だと誰もが知るなら、投資したいと考える者は少なかろう。当然、株価が上昇する見込は薄いと判断できる。
「そこまで極端でなくても、将来不安のある会社は株価が上がりにくい傾向にあります」
「例えば、日本の自動車会社は輝かしい実績を残し続けて来ました。しかし、EVへの取組では明らかに出遅れたため、これまで築いてきた栄光が将来も継続できるのか不安視されています」
「そもそも世界の自動車が化石燃料から電気に移行するのか、EVでもない別のエネルギー源に移行するのか、なんだかんだ言いながら従来のエンジンが主流であり続けるのか、まだ不明瞭なので、投資家も判断に迷っているというのが現状だと思います」
結局、EPSにせよ、PERにせよ、PEGレシオにせよ、様々な指標は、今や今に至るまでの推移を映してくれるけれど、未来の確かな道すじを示してくれるものではない。
だから意味がないわけではない。それぞれの指標は投資判断の参考になる。ただ、参考にはなっても絶対ではない。参考にしつつ、指標だけで可否の判断をするのは危険だと認識すべきだ。
「ここはとても重要です。往々にして何かの指標だけで投資の判断をしがちですが、そんな単純なものなら、誰も苦労しません。PEGレシオは株価の判断基準としてきわめて有効だと私も思います。例えばかつてマゼラン・ファンドで13年の間に資産を2,000万ドルから140億ドルへ増やしたピーター・リンチは、その著書の中でこう述べています」
もしPERが成長率より低ければ、それはバーゲン価格である。
一般的に、PERが成長率の半分だときわめて魅力的だし、PERが成長率の二倍だと非常に危ない。われわれのマゼラン・ファンドではこの方法で株式を評価している。
「ここで重要なのは、成長率とは、未来への展望であって、過去の実績ではないということです。過去の実績を調べることは重要ですが、それを踏まえて未来がどうなるのかを想定しなければいけません。けれど、未来のことなど誰にもわからないから、可能性の高い未来に賭ける。これが個別株の投資の要諦になります」
「結局、ギャンブルってことですね」と男の先輩が言った。顧問は笑った。
「そう。でも、人生だって同じことだと私は思います。いずれ自分の進む方向を決めなきゃいけない。でも、未来のことなどわからないから、よかれと思って選んだ道がとんでもない難路かもしれない。だからと言って、適当な考えでろくに勉強もせず、努力もしない人に、明るい未来が開かれるとも思えない。ギャンブルといえばギャンブルなんだろうけど、当てずっぽうでやればいいんじゃない。やっぱり、しっかり見るべきものは見て、準備をして、成功への可能性を高める必要はあるでしょう。何より、自分なりの目が養われれば、仮に失敗したとしても、次の対策を打つことができる。成功してもなんでそうなったのか見当もつかないなら、五里霧中で落ち着かないですよね」
じゃあ、未来予測はどうすればいいのか。結局、そこが最大かつ永遠の課題だ。
顧問の話を聞きながら、わたしはそう思って、静かに嘆息した。
2023年11月17日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 1,400株 買値300円 株価317円 時価443,800円 含み益23,800円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価1,947円 時価389,300円 含み益83,300円
・6623 愛知電機 100株 買値3,615円 株価3,635円 時価363,500円 含み益2,000円
・7330 レオスキャピタルワークス 300株 買値1,358円 株価1,173円 時価351,900円 含み益▲55,500円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,264円 時価505,600円 含み益78,800円
現金 78,300円
時価総額 2,132,4000円 含み益132,400円