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うろこ雲はね

作者: 木村美登里

 「あー、みんな、よく聞きなさい。わたしはこれから出雲の国まで行ってくるから、しっかり留守番しているように。いたずらはいかんぞ。夕方には帰るからの。」

「はい、行ってらっしゃい。」

 朝早く、神様が年に一度開かれる神様たちの話し合いのためにお出かけになると、天使たちは、それっと神様の机に駆け寄り、引き出しから 空のクレヨン を取り出しました。

「うふふ、これ、これ。」

 神様の仕事のひとつに、空に絵を描くことがあります。神様はクレヨンで、夕暮れの空を真っ赤な色に染めたり、雨上がりに七色の虹をかけたり、ふわふわのパンのような雲を描いたりなさるのです。天使たちはいつもそれが羨ましくてなりませんでした。ぼくたちも描いてみたいなあ。ずっとそう思っていました。

「今日、神様は一日中お社の中にいらっしゃるから、空をご覧になることないよね。」

「うん、ないない。夕方までは大丈夫だよ。」

「じゃあ、ちょっとだけ。」

 滅多にないチャンスです。どの子も嬉しそうにクレヨンを握って、空のあちこちに散らばって行きました。しばらくの間は好き勝手に、花や鳥や自分の顔なんかを描いていましたが、ひとりが、

「ねえ、みんなで空いっぱい使って大きな魚描こうよ。」

と言うと、

「あ、それ、おもしろそう。」

「やろう、やろう。」

と、全員が賛成しました。

「色は白がいいね。」

 今までに描いた絵を全部消して、白のクレヨンで空の端から端まであるとてつもなく大きな魚を描き始めました。 みんな一生懸命、ご飯を食べるのも忘れて描き続けましたが、なにしろ大きな魚です。なかなか完成しません。

 いったいどれくらいの時間がたったでしょう。ふと目を上げたひとりが、

「あれ、お日様があんなに傾いてる。ねえ、今何時?」

びっくりして言うと、

「え? わっ、大変だ。神様が帰っていらっしゃる。みんな消して、はやくはやく!」

 それまでの楽しい気分は吹っ飛んで、誰もが真っ青になりました。大慌てで空の消しゴムで魚を消していきます。

「こんなに大きく描くんじゃなかったよ。」

「だけどもうちょっとで出来上がるところだったのに残念だなあ。」

「のんきなこと言ってる場合か。神様が帰っていらっしゃったら大目玉だあ。」

 汗びっしょりになってふうふう言いながら消して消して消しまくります。


 話し合いが終わり、お社の外へ出た神様の目に、半分消えかかった大きな魚の絵が飛び込んできました。

「やや、あいつらまたやりおったな。」

 神様は帰り道を急ぎました。

「こらっ、おまえたち!」

神様の大きないかめしい声が響き渡ると、天使たちは一斉に ひっ と凍りつきました。 頑張って頑張って消したけれど、空には魚のうろこが随分残っています。

「あれほどいたずらは駄目だと言ったじゃろう。」

「はい、ごめんなさい・・・」

天使たちは小さくなって神様にあやまりました。その天使たちを睨みつけながら、神様は心の中で、

(ふむ、うろこのような雲が空に広がっておるのもなかなかおもしろいのう。これから時々わたしも描いてみるかな。空の高い所で夕陽に照り映えて輝いておるさまのなんと美しいことよ。)

と思っていらっしゃったのでした。 天使たちも神様に叱られてしょげ返っている顔をしてはいましたが、心の中では、

(今日は失敗しちゃったけど、今度はもっとうまくやるぞ。 んーと、次は渦巻き模様にしようか、大きな波がいいか、真っすぐ真っすぐ線を描くのも面白いかもね。)

と考えているのでした。


 うろこ雲はね、天使が空に落書きしてできたものだったんですよ。

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