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ハッピーホワイトバレンタイン  作者: 山吹凪咲
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第1話『おそろい』

「何があってもずっと一緒だよ、あかねちゃん」

「うん! あたしとゆなちゃんはずっとずっと一緒!」

 そして2人はナイフを一緒に握り、お互いの小さな手を重ね、そして貫き“おそろい”を作りました。

「他にもあったかもしれない。だけどそれでもいいの」

「あたしもだよ! 一緒!」

 この出来上がった世界やそちら側あちら側などでは、色々あるでしょう。

 おかしいと言われたりするのでしょう。

 ですが、聞こえません変わりません変えません。

『愛してる』

 幼い2人の少女とそれを見守る人、その記憶。






 あたしとゆなちゃんは色々一緒だった。

 おはようからおやすみまで色々一緒だった。

 親戚だからどっちかの家でお泊りしないとそうはならないんだけど、あたしたちは違ったの。

 あたしたちが住むための小さな家があって、そこで一緒に暮らしてるの。

 お互いの両親は時々しか来ない。

 普段は仕事かよく分からないことしてるし、それぞれ家があるから分からない来ない。

 じゃあこんな小さな子どもがどうやって生きてるのって話だけど、メイドさんというか何というかそんな人が1人居るの。

 そんな言い方したけど、その人――おねえちゃんもあたしたちの親戚なんだ。

 おねえちゃんはお互いの両親や親戚たちと違って、とっても優しくて出来た人なの。

 口ぐせのように時々こう言ってたんだ。

「ここで止めるから。守るから」

 意味は分からないけど、時々言うの。

 何とも言えない鈍く暗く重い顔で。

 そういえば今年の最初にあった親戚の集まりで、他の子どもたちの中に同じ顔をしてる子が何人か居た。

 それ以外の子どもたちは、周りの親戚たちと同じように歪んで1秒も見られないほどの顔をしてた。

 何というか、気持ち悪くなるような、寒くなるような、震えるような……よく分からないけどそんな感じだった。

 あ、大きく分かりやすく違うところがあったんだった。

 そのおねえちゃんと同じ顔の子たちは、顔とか手とか見えるとこだけしか分からないけど、紫のような色になってるとこや荒れてるとこがあったかな。

 あとは……まだあたしには辛かったり濃かったりしたものを、近くに居たそんな顔をした子に押し付けたら無反応だった。

 そしたらおねえちゃんがこう言ったの。

「いいから。私に任せて」

 そう言って代わりに食べたんだ。

 それと――

「これは辛くしすぎたから、味をかなり濃くしたようね」

 確かそんなことをとっても小さな声で言ってた気がする。

 まあ言い出したり考え出したら終わらないから、置いといて。

 あたしたちは何故そんな色とかないのか分からないけど、ゆなちゃんと居られるからいいかな。

 そんなこんなで、今日はゆなちゃんと海に来てるの。

 あとって言ったら駄目だけど、おねえちゃんももちろん一緒。

「ゆなちゃんおいで!」

「うん……今、行く」




 わたしとあかねちゃんはいつも一緒。

 毎日一緒に寝て起きたり、ほとんどいつも一緒。

 何でわたしたちだけで暮らしたりとかするのか分からないけど、おねえちゃんが言うには産まれる前から決まってたみたい。

 あとこんなことも言ってたっけ。

「少なくとも私と同じことになって欲しくないからね」

 どういう意味か分からなかったけど、苦しかった。

 そういえばお姉ちゃんと一緒にお風呂入った時、傷とか色々多かった気がする、かも。

 もしかしてそういう意味?

 うーん、どうかな?

 違うかも?

 ?

 考えても分からないや。

 だってまだわたしたちは小さいもの。

 小さいくせにませてるのねって?

 わたしたちには分からないけど、両親たちとかが言うには特別だって。

 特別とか普通とか劣化とか分からない。

 言われても説明されても分からない。

 分かるけど分からないの、わたしたちは。

 ともかく一緒に暮らして特に何をする訳でもなく過ごすだけ。

 咲くかなー、どうかなーって。

 綺麗かな、鈍色かな、黒いかな、あかいかなって。

 通ってるかなって。

 わたしたちは何だろうってね。

 ずれてぐちゃぐちゃになっちゃった。

「ゆなちゃんおいで!」

 今日はあかねちゃんとおねえちゃんとわたしの3人で海に来てる。

 泳ぐとかそんな訳でもなく、ただ戯れるだけなの。

 それだけ。

「うん……今、行く」

 ちゃんと返事しなきゃ、ね。

 じゃないと、よどんでしまうの。






「意外と冷たいね!」

「こんなに暑いのに……不思議」

「頭から浴びたくなるねー」

「それは……少し、寒そう」

「してみるー?」

「やめとこう、かな」

「あたしもやめとくー」

 私より歳も身体も小さく幼いのに、どうして不思議だなあ。

 叶うならこのままずっと――

「ゆなちゃん、今日って何℃だっけー?」

「えっと……39?」

「本当!?」

「多分……?」

「じゃあなおさら暑いよねー」

「砂の上だから」

「裸足で歩くー!?」

「どうなっても知らないよあかねちゃん」

「意外と熱くないねー!」

「本当?」

「うんー! 何か不思議な感じー」

「わたしも……」

「ほら、おいで!」

 見てて微笑ましいけどさ、けどさ……熱くないの!?

 今朝のニュースで未来予知のように、今日の気温は今年かそれ以上の猛暑になるって言ってたんだよ?

 そんな日の砂がどれだけか。

 ちなみに気温は39どころじゃないから。

 今は大体45℃くらい。

 だから日陰に居るんだけど……それでも暑い。

 なので無意味に出歩く人何か居ないのよ。

 それなのに海へ行ってみたいと言い出した2人。

 説明したよもちろん。

 ま、何かあったら強制送還するかで行きましたよ、ええ。

 暑い、帰りたいよ、本当に。

 2人は何故何ともないのかな。

「やっぱり海に入る方がいいね!」

「そりゃそうだよあかねちゃん」

「初めて来たけど予想以上だねー」

「そうだね。言い出したのはわたしだけど、押し通したのはあかねちゃん」

「おかげで来れた。ありがとう」

「いいのいいの! ほら、もっと遊ぼー!」

「うん」

 聞こえるかなあ……この音。

 時々遠くで聞こえるのよ、サイレンが。

 つまり、主に熱中症で忙しくしてるみたい。

 そんな中、あまり水分も取らず、帽子も被らずに遊んでる2人。

 強すぎない?

 元気だよね、本当に。

「そろそろごはんするー?」

「うん。これが1番楽しみだったり」

「あたしもー!」


「はい、あーん」

「!? びっくりするもの作ったんだね」

「えへへ、びっくりしたでしょー」

「何でお弁当にメロンパンだろう……って思った」

「そしたら、カレーパンだった」

「びっくり」

「かわいいメロンパンでしょー」

「うん、見た目は。じゃあ――」

「ほらほら早く!」

「せっかち何だから。あーん」

「見た目通りだねー」

「当たり前でしょ。あかねちゃんだけ」

「気のせいだよー」

「他は……いつも通りおいしいね」

「だっておねえちゃんが作ったんだもの!」

 あいつのせいでって言ったら駄目だけど、いつの間にかそこまでの技術を身につけたんだよね、私。

 ま、そこは感謝してもいいかもしれないけど。

 けど、けど貴様も他の奴らも死ね――いや、いつか殺してやる。

「何かいつもより少しだけ多かったねー」

「うん。だけど丁度よかったかも」

「少し歩こ?」

「うん」

「ほら」

「ん」

「ひんやりしていいかもー」

「あかねちゃんだって」

「こうして手をつないで歩くの、久しぶりだよね」

「うん。だけど、手ならいつも……」

「そうね。どこでもよくつないでるもんねー」

「何かその……」

「んー?」

「えっと……お――」

「“おそろい”が欲しいなって?」

「そう」

「だけど持てないし何も出来ないよねー」

「だからこれしかないのかなって……」

「これってー?」

「あのね」

「……」

「身体しかないかもね」

「本当に分かるんだ、わたしのこと」

「当たり前じゃん」

「ふふ、うれしい」

「じゃあこれ」

「準備いいのね」

「言うかなーとか色々思ってたー」

「じゃあしよう」

「うん!」


 せっかくだからあたしたちは少し海に一緒に入った。

 そしてこっそり持ってきたナイフを出す。

 ゆなちゃんとおそろいを作るために。

「何があってもずっと一緒だよ、あかねちゃん」

 あたしが言おうと思ったのにな。

 ずるいや。

「うん! あたしとゆなちゃんはずっとずっと一緒!」

 ちゃんと言わなきゃね。

 よどんでしまうから。

「じゃあ一緒に……せーの!」

 あたしとゆなちゃんは、ナイフを一緒に握って、お互いの手を重ねそして刺した。

「他にもあったかもしれない。だけどそれでもいいの」

「あたしもだよ! 一緒!」

「意外と何もないね」

「それはあたしも思ったー」

「ねえあかねちゃん」

「うん、あたしも――」

『愛してる』

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