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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
一章
9/68

8 彼と彼らと彼女

右頬の腫れもずいぶん引いた頃、瑞己は昼食を早く済ませた後に屋上でのんびりとグラウンドを眺めていた。



「平和だねぇー」



隣にいる太陽もフェンスに寄り掛かりながら呆けている。



「そうだ! この前話した新島君の件、覚えてる?」

「うん、奇妙な脱走事件だろ」

「それなんだけど。……今日、彼登校してるらしいよ」



瑞己は穏やかな昼休みを過ごしたいが、太陽はそうではないようだ。



「へー」

「……行こうか!」



気が乗らない瑞己を太陽は無理矢理連れて、Aクラスの教室を覗きに行った。新島は窓際の列、先頭の席だと言われてその方を見る。



そこには目元が隠れる程の伸びた髪で顔がいまいちわからない生徒がいた。明らかに陰の空気を漂わせていた。



「あれが新島兼也?」

「そうだよ。でも、最初の頃に比べると雰囲気が変わったかな」



太陽によれば新島は入学当初は口数は少なくても、あそこまで陰湿な印象ではなかったらしい。



「おい! 新島!」



新島の前に二人の男子が近付く。見るからに柄が悪そうだ。



その内の一人は何故か腰に赤い布をぶら下げている。ファッションのつもりだろうか。



「何で最近学園に来なかったんだ?」

「ママが恋しくなったのか?」



馬鹿な事を言って笑う二人。新島はそれを黙って聞いてる。



それを見ている周りの生徒は、「やばいよ、あれまずいんじゃない?」と呟いている。



「ん? 文句でもあんのか」

「おら、黙ってないでなんか言ってみろよ!」



そういいながら新島の髪を掴みあげる。それでも新島は黙ったまま二人を見る。



「はぁー、つまんない奴だな」



乱暴な男は、それでも何の反応も起こさない新島に舌打ちをする。



「怯えて何にも言えないのか?」



挑発するように言う二人にどんどん教室内の視線が集まる。



「…………のか」

「あ? 何て言ってんだよ!?」



その時、初めて新島の口が動いた。聞こえなかった二人は睨み付けるように聞き返す。



「人を見下さないと……生きていけないのか?」

「あぁ?」



その直後、教室の一人の女子がきゃっと驚く。



髪を掴んでいる男が新島の顔を殴る。そのままダンッと頭を机に押し付ける。



「何て言ったか聞こえなかったなぁー。もう一回言ってくれるか?」



聞こえていただろうに、それをわざと暴力の後に聞き返すということは相手を蔑む行為を楽しんでいるようだ。



流石にやり過ぎだとAクラスの女子たちがこっそり先生を呼びに行った。



「人を見下す奴は必ず周りの人間から軽蔑される。俺をいくら殴っても、誰もお前を認めないよ」

「……そうかい。ご親切にどうもっ!」



今度は机に頭を叩き付ける。その衝撃で新島の額から血が出た。あまりの強さに机が押し潰されたように少し歪んだ。



見ていて辛くなる光景をAクラスの面々は誰も止めない。それは瑞己も同じだ。



自分が介入して次の標的にされたくないからだ。止めるべきだとわかっていても躊躇ってしまう。



「何の騒ぎよ?」



気付けばクラスの前は騒ぎを聞き付けた人達で溢れていた。そのうちの一人が何の騒ぎかを周りから聞いている声がした。



「詳しくはわからないけど、何か喧嘩っぽいよ?」



喧嘩というよりは一方的な暴力にしか見えない。



「ふーん、ちょっと退いて」



人を掻き分けて瑞己の前に出た彼女は、声でもしかしてと思ったがやっぱり鈴だった。



彼女はAクラスの中に入り、今に新島の頭を押さえている男子の前に行った。気付いた二人は鬱陶しそうになんだ?と訪ねる。



「貴方達、何してんの?」

「何って、見ての通り仲良くしてるだけさ」

「そうそう、俺ら仲良し三人組なんだよ」



醜悪な笑みを晒す二人に誰もが嫌悪感を抱く。



どう見たって違うだろと脳内で突っ込みを入れ、瑞己達は黙って事の成り行きを見守る。

彼女と一緒にいた二人は後ろから扉の近くからりっちゃーん!、と言いながら青い顔をしている。



「そうなの?」



と、凜は新島に向かって聞いた。



「そうさ。わかったらさっさと、あっちに…」

「うるさい! あんたに聞いたんじゃないわよ」



汚物でも見るかのような目で男を眺め、台詞を遮る。



邪険にされた男の額に血管が浮き出る。あぁ!と言っているが、鈴はそれを無視する。



「…………こんなのが友達に見える?」

「それもそうね。で、何で黙ってやられてるの?」



鈴が新島に問いかける。彼女の後ろにいる男子二人が何やら文句を言っているがそれも無視だ。



「何でって、やり返したらその二人と同じだろ」

「確かにそうね。あんた、面白いわね」



そんな理由であれだけやられても手を出さない冷静さに驚いた。周りにいる野次馬たちも唖然としていた。ここにいる全員が新島兼也という男の印象を考え直すだろう。



「ふざけんなよ!てめぇがやり返したところで俺と同じになるわけねぇーだろ!」



鈴がまだいたのか、と言いたげな顔で振り返る。それが更に彼のプライドを傷つけたようだ。



男は制服の内ポケットから学園内限定で使える携帯型の生徒手帳を出した。



「俺は学年ランキング七位の能力者だぞ。今すぐにこの俺に媚びへつらうならその態度、今なら許してやるぞ」



<学年ランキング>



それは各学年の生徒それぞれの能力によって生徒会が独断で決めているらしい。



上位三十人の生徒だけがそのランキングに入ることができる。瑞己のような能力を持っていない生徒にとっては雲の上の存在みたいなものだ。



「今度は自分の能力自慢? 救い用のない馬鹿ね」



鈴が言い終わると同時に男が腕を振りかぶり殴りかかろうとし、それを見た鈴の取り巻きの女子がりんちゃんっ! と、叫ぶ。



男の拳が鈴に迫り……そして、



「動くなっ!!」



声が聞こえてきた直後、突然の静寂。まるで時間が止まったかと錯覚した。しかし、意識ははっきりしている。



その声を聞いた瞬間から瑞己は自分の体を動かす事ができなくなった。

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