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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
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32 波打つ窓

「貴方達、自分がどれだけ危険なことしたのかわかってるの!?」



瑞己達は困惑する瀬奈に事の経緯を説明していると救助が到着した。その救助というのが、まさかの菊だった。菊の転送によって黒軍服を着た物達が五、六人送られてから菊本人がやってきた。



彼らは到着した瞬間に手早く拓巳と真奈を拘束した。



菊は一度ここに来ているから【転送】の条件を満たしている。迅速な救助には最も適任なのだ。



「最悪の場合だってあるのよ!!」

「「すみません……」」



現場に着くと瑞己と鈴がいることに驚愕した菊は、問い詰めると同時に説教を始めていた。



「菊……それくらいにしろ。そこの女子生徒のことは知らないが、彼は集が同行を許可したんだ」

「隊長が?」

「それに結果として無事だったんだ。今回は許してやってくれ」



無事という言葉に菊は疑問を持つ。亮を見ると体はボロボロで足には怪我を負っている。何があったのか知らないが、間違いなく戦闘は激しいものだったのだろうと想像はつく。悩みながら菊は不服そうに溜め息をついた。



「はぁ、わかりました。……二人とも!」

「「はい!」」

「今回は亮さんに免じてもう何も言いません」

「あ、ありがとうございます」



瑞己が礼を言い、鈴は胸を撫でる。



「けれど、反省の意味を込めて罰則を科します」

「ば、罰則……?」

「夏の休みに入るまでの期間、私の雑用係をしてもらいます。異論は認めません!」



一度は安堵した瑞己と鈴に罰則が告げられた。言葉では言っていても全体に許さないという菊の怒りが伝わる。



「「……はい」」

「全く……瀬奈さん」

「……はっ、はい!」



菊の剣幕に圧倒されていた瀬奈は急に声をかけられて心臓が跳ねるように驚く。



何を言われるのか、そんな不安が顔に出ていたのか。菊はゆっくりと落ちつかせるように話した。



「遅れてごめんなさい」

「…………え?」

「今回の件、私達学園側の落ち度だわ。貴方の事情をもっと詳しく知っていれば事前に対処できていた。貴方を危険にさらしたのは私達にも責任がある。本当にごめんなさい」



菊は瀬奈に頭を下げた。不甲斐なさと自責の念から誠心誠意謝罪しているのは見ている瑞己にも伝わる。



「そ、そんな! 先生が謝ることじゃありません!」

「……ありがとう」



菊は悔やんでいた。瀬奈を自然に保護できなかったこともだが、拐われたと聞いたとき自分で動けなかったことだ。適材適所というのは理解しているが、それでも教師としては優柔不断だったのもわかっていたからだ。それ故に瑞己と鈴の行動には褒めてあげたいというのが本心だ。



「それじゃ、皆学園に戻りましょう」

「「「はい!」」」

「瀬奈っ!!!!」



濁った泥を吐き捨てるような声に皆が振り返る。救助に来た対策局の者に拘束され連行されようとしていた拓巳が目を覚ました。潰れた片手と晴れ上がった顔面に痛みを感じないのか、拓巳は連れ去られようとも必死に抵抗しながら瀬奈の元へ向かおうとする。



真奈の姿はすでにない。何の抵抗もなく連行されて行った。



「僕達は必ず結ばれる。これは運命なんだ! どこにいても、何年たっても……僕は君を迎えに行く! だって、僕達は……愛し合っているんだから!!」

「おいっ! 暴れるな!」

「そうだろ、瀬奈? 君も僕を、」

「嫌いです」

「へ?」



瀬奈は拓巳の前に立ち、今はもう憶することなく正面から見据えてはっきりと言う。



「もう金輪際、自分にも、その周りの人にも関わらないでください! 自分の犯した罪を牢屋の中で償ってください」

「瀬……奈?」

「それに自分には!」

「えっ!?」



瀬奈は鈴の腕を引っ張った。



「好きな人がいるんです!」

「私!????」

「はぁ!?」



瀬奈の突然の告白は不意にそこにいる全員が頭を打たれたかのような衝撃だった。事の展開についていけない瑞己と鈴は互いに困惑していた。瑞己が鈴に目を向けると必死に首を振っている。



それは拓巳も同じようで、時間が止まったように膠着した。抵抗の動きも止まったことで対策局の者に再び押さえ付けられる。



「ちょ、ちょっと瀬奈! どういうこと!?」

「自分は鈴先輩が好きなんです。だから、もう自分のことは諦めてください!!」



混乱している瑞己、慌てる鈴、更に菊と亮ですら呆然としている。現場は壮絶だ。



「大人しくしていろ!」



拓巳を連れていく対策局の者は多少乱暴に拓巳を扱って引きずっていく。



「認めない!!」



引きずられながら、拓巳が叫ぶ。



「認めない、認めない、認めない!! 瀬奈には僕が必要なんだ!!」

(あの日、瀬奈は一人だった。僕と同じ……孤独だったはずだ。それなのに……何だ、あいつらは?)



瀬奈の周囲にはいつの間にか人が増えていた。親も兄弟も友人もいなかった瀬奈に好きな人ができて、心配してくれる人ができて、友人ができていた。



「そんな……そんな、普通の幸せ……絶対認めない!!」



生活が豊かであっても一人ぼっちで孤独だった子供。もうそんな幼い頃の瀬奈の面影は微塵もない。それは拓巳にとってある種の恐怖だった。



「拓巳さん、貴方はただ……自分が孤独になりたくないだけでしょ?」

「ぁ………………」



反論はできなかった。(すが)っていたのは拓巳の方。



「早く来い!!」

「うっ!!」



更に強く、拓巳は引きずられていく。



「僕は孤独じゃない! 瀬奈、君がいれば僕は孤独じゃない!!」

「さようなら……」

「っ!! 瀬奈っ、瀬奈ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



拓巳は泣き叫びながら、連行されて行った。これから先、拓巳を待ち構えているのは生涯監獄生活という更なる孤独。救済を求めるには犯した罪が多過ぎた。



「先生、あいつはこれからどうなるんですか?」



何となく気になった瑞己は菊に拓巳の処遇を聞いた。



「異能者が犯した罪の判決はね、一般人と少し違うの。何故か、わかる?」

「……いいえ」

「異能が万能過ぎるからよ」

「万能?」



瑞己の疑問に菊は感情を殺して答える。



「例えば、私が異能を使って誰かを殺すとしたらどうすると思う?」



瑞己は風が流れ込んでくる窓に目を向けた。肌に流れる悪寒は夜風なのか、それとも馬鹿げた妄想なのか。



「先生は空中に誰かを転送できますか?」

「流石にそこまではできないわ。でも、考えとしてはそういうことよ」



できないと聞いて、瑞己は少し安堵した。



「普通では考えられない方法で人を殺せる。それが問題なのよ。だから、異能者がもし殺人を犯したら、もうその人は一生監獄か……死刑になるの」

「…………そうですか」



万能故に、制約が付き纏う。これは異能者がこの世界で普通と共存するために必要なこと。が、まだまだ青い若人はそれを理解できずに制約を(くさび)と思い込んで、それが反感や暴走に変わってしまう者が出てきてしまう。



学園も苦労が絶えない。



「菊、少しいいか?」

「亮さん? はい、どうぞ」

「皆、今日のことは一切口外してはいけない」

「亮さん……まさかこれだけの事件を隠蔽するんですか?」



少し苛立ちを込めた菊の言葉に亮は首を縦に振る。



「今回の事件、ただの誘拐事件としは不可解なことが多い」

「不可解?」

「菊、悪いけど……上から命令だ」



そういうと亮は自分の携帯を出した。その画面には一つの名前が映っていた。



東雲(しののめ) (まこと)



「真さん!?」

「久しぶりだな、菊。亮から話は聞いただろう? 悪いが今回の件、学園にも伏せさせてもらう」

「納得できません! 被害者は私の生徒なんですよ!」

「西園寺には承諾を得ている」

「理事長が!?」



菊が納得していなくとも学園の理事長、西園寺宗次郎が首を縦に振ったのならどうすることもできない。



「……わかりました」

「ここにいる他の者も、箝口令を敷かせてもらう。では……」



それだけ言い残して真は通話を切った。



瑞己は終始苦情を飲んだ表情をしていたことに鈴だけが気づいていた。



ひっそりと誰に聞こえないような声で鈴は囁いた。



「今の人って……瑞己のお父さん?」 

「……悪い、鈴。今は言いたくない」

「そう……」



それ以上、鈴は追求して来なかった。



「菊、ここにいる全員を病院に転送できる?」



瑞己が落ち込んでいる中、菊と亮は話を進める。



「問題ないです。……この男もですか?」

「あぁ、彼も被害者だ」

「……わかりました」



菊はいつの間にか立ち上がっていた加賀に視線を向ける。菊はエレベーターで上昇している時にある程度の情報を聞いていた。その中には誘拐犯の特徴もあった。痩せ気味の老人、それが誰なのかは来てすぐにわかった。何も言わなかったのは加賀に敵意を感じなかったからだ。詳しい事情はたった今伏せられてしまった今、亮の言葉を信じるほかない。



「それじゃ、皆私の目の前に集まって」



菊の指示通りに瑞己を含めた五人が一つの固まりになるように集まる。肩を寄せ合う瑞己と鈴。その間に瀬奈が割り込もうとして、妙に騒がしい。



「学園が経営している病院に転送します」



菊の瞳の奥がうっすらと輝く。そして、菊がカウントダウンを始めた。



「三、二、一……」

「「「!!!!」」」



てっきり瑞己は魔方陣でも出るのかなと変な期待をしていたが、実際はそんなことなかった。亮以外の四人は合図と同時に瞬きをすると、そこはもうさっきまでいた高層ビルではなかった。



瑞己達の目前には赤い十文字が特徴の白い建物があった。



「転送すげぇ……」



そして、菊はというと。



「はぁ……帰ろう」



一人、エレベーターに乗って帰っていた。



異能【転送】あらゆる物体を転送できる、自分以外は。



「……いつも私は置いてけぼりね」



菊は再び、大きな溜め息をついた。便利なようで不便な異能だった。






▽▽▽▽▽

誰もいなくなった夜風が吹き抜けた部屋。月明かりが照らす中、割れていない窓が波打つように不自然に揺らめいた。



「…………見つけた」

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