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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
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28 人間の性

「他にも色んな人で試したんだ」



拓巳は指を折ってこれまでに傷つけた人を数える。



「男も、女も、子供も」



指を折った回数は十を超えていた。



「それでも、誰も僕の愛を受け入れてくれなかった」

「あ、当たり前だ! そんなのは愛じゃない!!」

「ほらな……」

「な、何が?」

「お前は僕を、僕はお前を理解できない」

「……」

「でも、僕はもういいんだ」



拓巳は折れた自分の手を見る。



「ある時、僕は気づいたんだ。僕は別に誰かに愛されたいんじゃない、誰かを愛したいんだ」

「そんなのは、ただお前が無理矢理押し付けているだけだ!」

「あぁ、そうさ。それでいいんだよ。だって、愛はそういうものだろ? 愛に見返りを求めるのは間違っているだから」



言葉だけなら立派なものだが、異常者の台詞は信憑性の欠片も感じられない。それは真奈も同じようだ。不快さを隠さず、顔に出している。



そして、拓巳から感じる悍ましさや狂気は益々膨れ上がるばかり。



「父さん、母さん、それに他にもたくさんの人達を愛してきた。次は……瀬奈なんだよ」

「!?」



拓巳の意識が真奈から瀬奈の部屋へと移る。



「今でも、初めて会った時のことを鮮明に覚えている。まさに一目惚れだった。どんなに他の女性を愛しても瀬奈が頭を過るんだ」



泣き叫ぶ女性を何人もその手に掛けてきた拓巳だが、いつもその瞬間には脳裏に瀬奈を思い浮かべていた。どこか物足りなさを感じていた拓巳の心情を埋めることができる存在が目前にある。拓巳の我慢も限界に来ていた。



「瀬奈……僕の瀬奈……早く、早くこの手で愛して(傷つけて)あげたい!!」



まるで、瀬奈の恋人のような態度。最早、瀬奈の事などどうでもいい真奈ではあるが、見ていて気持ち悪いと感じていた。



「はぁ……だから、早いとこ終わらせようか。ねぇ、加賀さん?」

「!」



ここに来てなぜその名前を呼ぶのか。



ほんの一瞬の間を置いてから倒れている老人に何ができるのか、真奈はその疑問をすぐに体感することになった。



「あ゛ぁぁぁぁぁっ!!」



体に走る電流と激痛。ほんの数秒だけだが、真奈は今までに経験したことのない衝撃が襲ってきた。



その衝撃がなんなのか、真奈には思い当たるものがあった。



「た、拓巳さん……時間、稼ぎ……ありがとう……ございます」

「えぇ、せっかくの復讐なんですから……最後は自分の手で」



痺れて動かない体でも、なんとか顔だけは動かすことができた真奈はその聞き覚えのある声の方を向く。そして、その腹の立つ声の主を睨みつける。



「は、はい」

「それじゃ、僕は愛し瀬奈を迎えに行きます」

「…………」

「う゛ぅぅ……か、かがぁぁぁ!!」



拓巳は自分の役割はここまでだと、後のことは加賀に任せて軽い足取りで階段を上って行った。



加賀はそれを片手にスタンガンを持ちながら、申し訳なさそうに見送った。次に電流で呂律が上手く回らない真奈に目を向ける。その表情だけで真奈の怒りがどれほどのものかわかった。しかし、ここで怖じけ付くわけにはいかない。



この時のために加賀は何もかもを、自分の命すら賭けてきたのだから。



「真奈さん……私は……貴女の言った通り、この上なく惨めで……無様です」



もう必要ないのか、加賀はスタンガンを投げ捨てた。



「っ!」

「貴女達にいいようにこき使われてきた。本当に、私は大馬鹿です。家族のためと思い、二人と距離をとったのに事態を悪化させ、その上に妻を失い、娘からは突き放されて口も聞いてきれない」

「は……な、せぇ!」



痩せこけた加賀は真奈を腕を両手で掴み、引きずる。その先は割れた窓。



「それも当然です。私は妻と娘を捨てたようなもの、恨まれても仕方ありません。許してもらうつもりもありません」

「う、ぐっ!」

「全ては私の、自分の責任……自分のせいです。……わかって……います」



引きずりながら加賀は声を震わせる。これまで押し隠していた後悔と自責の念、そしてそれを凌ぐとある感情が崩壊しそうになる。



「それでも、私は……貴方達を許す、ごとが……できない!」



加賀にとっては妻と娘、家族が全てだった。それを失うこととなった原因を加賀は攻めずにはいられなかった。



「何故私ではなく! ……私のぉ……私の家族を、陥れたのですか!?」



加賀は窓際に真奈を連れていくと腕を掴んだまま外の景色に目を向ける。真奈に情けない顔を向けないように、これからすることに躊躇わないように。



真奈は外からの冷たい風を背中に浴びて自分の現状を把握するが、体の自由はまだ戻ってこない。



「……お、お前が……黒服共に、じょ、情報を流していたからだ!」

「っ!」



黒服という言葉に思い当たる節があるのか、加賀は言葉に詰まる。



「……妻と娘は、関係なかったのに……」

「は、ははっ! だから、だよ……お前を、最も苦しめるには……その者の愛する者を奪えばいい!」



加賀とて、その可能性は考えていた。だから、家族がいることも言わずに軽はずみに会うこともしなかった。それでも、真奈とメイは加賀の全てを知っていた。誤算だった。



「妻は……千代は、一度たりとも私の仕事に文句を言ったことはありません。情報屋の身内は危険に晒されると知りながらも、いつも笑顔で……送ってくれ、ました……」



記憶に残っている妻はいつも笑顔のまま。愚痴さえこぼさない献身的な最愛の女性だった。加賀の頬から流れ落ちる雫が一つ、二つ。その数は妻を思い返す度に増すばかり。



「そんな……妻の最後を、私は……私は! ……知りも、しないで……のうのうと生きていた、自分が許せない! でも……」



頭ではわかっていても受け入れられないのが、人間の性なのだろうか。いや、これが愛するものを失ったものの末路なのかも知れない。



「でも、それ以上に……貴女が憎い」

「や、やめ!」



覚悟は決めてきた。決意は揺るがない。だから、掴んだ真奈の腕を離すことに罪悪感はない。



「あ、……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」



加賀が放り投げた腕に真奈はつられ、抵抗することができずにその身は外へと落ちていった。



そのまま落下していく真奈を見下ろす。この高さでは確実に助からないだろう。これで加賀の復讐は達成された。



妻の仇を取り、復讐という目的は遂げたのに加賀の表情はどこか浮かばれない。それもそのはず。加賀が本当に望んでいたのはかつての家庭だ。それが叶うことは決してない。それがわかっていて、こんなことをしても加賀は虚しさしか感じなかった。



加賀は胸元から薄汚れた一枚の板を出した。そこには[加賀]の文字が刻まれていた。加賀が妻と彫った思い出の品だ。



「…………千代、すまない」



何かを諦めたかのような、もしくは救済を求めるように加賀は呟いた。そして、真奈の後を追うように自ら身を乗り出した。



「今、行くよ……」



目を閉じて、片足を出し、宙に身を投げ捨てる。加賀は最初からこの時が来たら死ぬつもりだったのだ。



が、物事というものはそう簡単に上手く進むものではない。



「うわぁっ!?」



突然、等身大の何かをぶつけられ加賀の身投げは阻止される。



「う、うぅぅぅ……なっ!?」

「ねぇ……」



一言、凛とした響き渡る声が広がる。



加賀はその声の女性と女性とともにいるモノを見て言葉を失う。



「鈴はどこ?」

今回は少し短いです。

先週分を投稿し忘れたので、今週はもう一話投稿します

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