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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
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26 命を賭けた契約

瑞己が飛び降りていった姿を見て、拓巳は潰れた手首と痺れる背中の痛みを忘れるほど笑った。



「あはっ!あはははははは! あの馬鹿、自分から飛び降りていった!?」

「このガラスを突き破って行くなんて……まさか、彼も異能を?」

「関係ないですよ。どうせ助からないっ!」

「た、拓巳さん大丈夫ですか!?」



しかし、負傷がなくなった訳でない。嘲笑はすぐに激痛に戻る。手首から伝わる痛みが痛みなのかも判別がつかない。感覚が無くなり、体への負荷が許容を超えて吐き気がする。



「……大丈夫、なわけないでしょう? ……っ!  くそっ!」



何とか腕を圧迫して出血は抑えた拓巳。応急処置としては不十分だが、現状これが精一杯だった。



冷や汗が止まらない拓巳をあたふたとどうすれば言いのか当たりをきょろきょろする加賀に上の階から怒気を含んだ声が降りかかる。



「これは……どういうことだ?」

「……何事?」



真奈とメイが上と下を繋ぐ階段から見下ろす。



「真奈様、メイ様……」



慌てていた加賀が二人の登場で萎縮した老いぼれに変わる。



「加賀、お前には侵入者の阻止を指示したのに。なんだ、この様は?」

「まったく、親子揃って使えないわねぇ」



その言葉に一瞬加賀が反応する。自分が見下されるのはいい、慣れている。しかし、愛娘をけなされるのは不愉快だ。でも加賀は何かを言い返すことができない。自分で何かを訴える勇気がない。



「……なんだ?」

「…………なんでも、ありません」

「ふん! それに拓巳君、君には期待していたけど。買い被り過ぎだったようだね?」



真奈とメイは階段を下りながら、拓巳に矛先を向ける。



先程から背中を向けたままの拓巳が、雇い主である自分の前でもその態度のままなのは真奈の神経を逆撫でする行為だ。



「そ......それは、こっちの台詞ですよ?」



ようやく口を開いた拓巳の声には苛立ちが込められていた。



「何?」

「あなたたちの力で……東雲瑞己を調べて……彼は適正者、と言いましたよね?」

「そうだ、ただの一般人に何を手こずっていたんだ?」

「ただの一般人? ……ふざけるなよ?」

「何?」



立ち上がり、真奈とメイに顔を見せた拓巳の顔は真っ青だ。血の気が引いた死人のような顔色を見たメイが気味の悪さに口元を押さえる。しかし、今にも倒れそうな様子とは真逆に拓巳の纏う雰囲気には殺意と怒りを感じる。



そして、その原因となった腕を二人の前に突き出した。



「普通の人間に! どうしてこんなことできるんだ!?」

「「!?」」



血は止まったようだが、骨と肉は剥き出しのまま。更にその腕から鼻を侵すように鉄の臭いが部屋に充満していく。



人の死に関心のない真奈とメイでも、流石に潰れた手首は見たことがないようで驚いている。



「ぼ、僕の手首を、握り潰したんだぞ? これが異能でないなら、何だっていうんだ!?」

「……間違いない、東雲瑞己は適正者。兄とその父親は異能者だが、本人は間違いなく……普通のはずだ」



若干、真奈の顔色も悪いように見える。



「なら、あれはどう説明する?」



拓巳がもう一方の腕で砕けたガラスの破片を指差す。けっして人の力では割れない。そう説明を受けた代物がいとも簡単に粉々に砕けた。



普通に考えればそもそもの耐久力が悪いのか、粗悪品だったのか、そんなところだろう。



「劣化してたんでしょ?」



頭のどこかで潰された手首と砕けたガラスが無関係には思えなかった。けれど、それを認めるのは彼女らの自尊心が許さない。だから、メイは鼻で笑う。



「……馬鹿にするのも大概にしろよ?」

「た、態度には気をつけなさい。【契約】の異能で、例え殺人鬼の貴方でも私達には手を出せない。……契約内容を忘れた訳じゃないでしょう?」



拓巳の様子が少しずつ変わる。従順だった護衛から殺人鬼の色が見え始める。それを雰囲気で感じとったメイがつい脅迫めいたことを口にする。



理知的な真奈はメイの感情的な発言をまずいと思いながらもここまできては後には引けなくなった。



「瀬奈を誘拐してお前達を護衛する。その報酬として瀬奈を僕の物に……そういう契約だ」

「実はそれだけじゃないんだ」

「……何?」



真奈は仕方がないと、殺人鬼の手綱を握るために用意していた物を出した。



「この契約書には私とメイ、それに君の名が書いてある」



契約者の名前をなぞる真奈。そこには真奈、メイ、そして拓巳の名が書かれている。



契約書自体はただの紙切れだ。しかし、この契約書を破ったところで契約は破棄されない。異能と言う形で残っている以上、目に見えない鎖が三人を互いに縛っている。



「これには君が言った内容をまとめている」

「そんなの当たり前だろう?」

「実は少し細工をしてね」



拓巳の訝しげな様子を見て真柰とメイの顔に余裕が生まれる。



異能で契約するのに、何故紙にその内容を書き留める必要があるのか。それは契約内容を忘れない為ではない。相手の知らない契約内容を追加するためだ。



それを見ていた加賀が息を飲む。



「この紙には(あぶ)文字(もじ)と言ってね、熱で浮き上がる文字を書いてある」

「君がもしも瀬柰を連れ出したり、逃げようとしたり、もしくは私達に危害が加わった時は自害するようこの紙に炙り文字で書いておいたんだ」



真奈はライターをポケットから出すとその炎で紙を炙り始めた。熱に当てられた箇所に黒のインクが浮かび上がる。



【その一】真奈もしくはメイの断りなく瀬奈を連れ出した場合、契約者は罰として自害すること

【その二】契約者が逃亡、もしくは契約内容を放棄した場合、契約者は罰として自害すること

【その三】真奈もしくはメイにどんな理由があろうが傷を負った場合、契約者は罰として自害すること



「これでどちらが上か、わかったでしょ?」



なんとも理不尽な内容がそこに書かれていた。



契約書に浮かび上がった項目は三つ。その全てが拓巳に不利な条件でしかない。



これが真奈とメイのいつもの手口だ。大した細工ではないが、初見の者は必ず(だま)せてきた。菊もその一人だ。目で見たものだけを信じていては真奈の掌で踊らされる。



「でも、メイ……彼の腕を見てみろ」

「えぇ、そうね」



蒼白になった拓巳の顔色と潰された手首。健全な者には見えないその風貌に真奈とメイは使い捨ての(ゴミ)のように拓巳を見る。



「もう使えないわね?」



メイは自身の髪飾りを外す。美しく細工された銀の髪飾りはその先端に行くにつれて鋭くなっている。掌ほどの大きさしかないが、刃先のついた髪飾りはメイの数少ない武器だ。



それを手に取るとメイは何を思ったのか、己の掌にその髪飾りの刃先を強く当てて肌を裂いた。



「メ、メイ様!?」



すぐに切り口から鮮やかな血が流れ始める。



加賀はメイの自傷行為に驚くが、拓巳は顔色を変えずただ眺めている。



期待とは逆の反応をした二人に真奈は違和感を感じたが、殺人鬼にでもなれば自分の命さえどうでもいいのかもしれないと思った。そうであれば、この男の平静を打ち砕くのは無理だろう。



「これでお前は契約違反で死ぬ。そもそも人殺しなんだ。生かしておくつもりもないけどな」

「そうよ! 貴方なんかに私達の可愛い瀬奈を渡すわけないじゃない?」



黙っていた拓巳が口元を手で覆う。



それを見た真奈とメイは、ついに拓巳が恐怖に身を震わせ自分の立場を理解したと思った。真奈に余裕が戻る。



余裕が戻ると視野が広がる。拓巳にだけ合っていた焦点が加賀に移る。蒼白となった顔色、よけいに窪んだ目元、力が抜けたように垂れる肩。まるで自分の死相が見えてるよう。



何かを見落としているのではないか、そう思った時にはもう手遅れだった。



「あはははははっ!」



何がそんなに面白いのか、拓巳が声を荒げて嗤う。



「人殺しは頭もおかしいのかしら? 自分が死ぬときも笑ってられるなんて?」

「あははははっ! この僕が! 黙ってお前達の指示に従うわけないじゃないか!?」



手の隙間から歪んだ三日月のように薄い笑みがはっきりと見えた。



背筋がぞっと冷たくなる。



「何を言うかと思えば。お前が何をしていようがこの契約がある限り、私の異能は絶対……」

「いいことを教えて上げるよ。お前の【契約】には一つ欠点がある」

「……なんだ、それは?」

「契約者に該当するのは、書かれた名前の人物じゃない。その時、その場で契約を結んだものだ」

「うぐっ! が……かぁ……」



【契約】の効果が始まった。契約違反による死は即死とはならない。契約とは互いの思想を理解し、契り結ぶこと。契約者の間には絶対の信頼が前提になる。それを破ると言うことは相手の信頼を裏切る行為、万死に値する。故に最大限の苦痛を持って死に至る。



たが、残念ながらその報いは拓巳へは振りかからなかった。



「どうして……加賀が倒れる?」

「僕の異能がどんなものか、ちゃんと説明してなかったな?」

「貴方の異能は自分の顔を変える【変装】でしょ? いくら顔を誤魔化すことはできても中身は変わらないはずよ!?」

「自分の異能をそう簡単に教えるわけないだろう?」

「「!?」」



確かに拓巳は自身を【変装】させることができる。しかし、それは異能の一部に過ぎない。



異能は大きくわけて人に作用する異能と、自分にのみ作用する異能の二つに別れる。応用すれば対人向けに活用はできなくはないが、ほとんどがこの二通り。



そして、拓巳の異能は前者だ。



「確かに僕の異能は自分に対しては顔を変えることしかできない、たいしたことない異能だ。でも、そもそも僕の異能は自分を対象にかける力じゃない」

「ど、どういう意味よ!?」

「そこで悶えている加賀さんが体現してくれてるじゃないか?」



拓巳は苦し、踠く加賀に目を向ける。それにつられて真奈も加賀を見下ろす。それでさっきまでの加賀の様子を振り返った。



契約書を見せて息を飲み、冷や汗をかいていた。そして、メイが自傷すると焦り始める。契約違反が絶対の死であると告げると最後に諦めたような、覚悟したような目をしていた。



「……まさか……まさか、あの時契約したのは?」

「そう、【変装】させた……彼だ」



拓巳の異能【変装】は誰かを自分と同じ顔、体形、体格、声や性格まで酷似させること。対象は一人だけだが、その効果は半日以上続く。



「そっ、そんなこと加賀がして何の意味があるっていうの!?」

「思い当たる節がないとでも? ……そんなわけない、僕は彼と約束した。それこそ命を賭けた契約を」



拓巳がシャツのボタンを引きちぎる。胸元がはだけた服はその体を露にする。



傷だらけの体。切り傷、刺し傷、火傷の他にも数え切れない傷跡が残っている。



その無数の傷よりも一際目立っていたのが胸の中心よりやや左側にある、心臓の位置を示したかのようにある天秤の入れ墨のようなもの。



それを見た真奈は急いで倒れた加賀の服を剥く。そして、胸元を晒した。そこには拓巳と同じ天秤の模様があった。



「!? ……加賀、お前気づいていたのか?」

「!!」



呼吸も途切れ途切れ、口からは涎を垂らし、涙も流している。だが、その瞳には強い意思を込められている。不様ではあるが、覚悟を持って真奈を睨んでいる。



決して許さない、と。



「くっ!! この死に損ないがぁ!」

「う゛ぅっ!」



真奈が加賀を踏みつける。



「今更! 復讐! しに! 来るなんて! どれだけ! 不様なんだ! 加賀!!」



言葉の区切りで加賀を力強く蹴る。報いに加え、真奈の暴力に加賀は防ぐ術がない。けれど、これが加賀の選んだ選択だ。



「……真奈」

「この! こ……メイっ!」



加賀に気を取られている間にいつの間にかメイを拓巳に取り押さえられていた。そして、メイの首筋には髪飾りが添えられていた。



拓巳は見せびらかすようにその髪飾りを薄い肌に当て、撫でるようにすっと引いた。



「まず一人……」

「や、やめろ!?」



力の抜けた人形のようにメイは倒れる。崩れる最中、何とかその体を受け止めた真奈はメイを強く抱き締める。



「あぁ、そんなぁ! メイ! メイ!? しっかりしろ、メイ!」

「さぁ、加賀さん。貴方の奥さん……千代さんの復讐を始めようか」

読者の皆さん、明けましておめでとうございます


年末はゆっくり過ごせたでしょうか?

私はコロナで寝正月という悲しい年始を迎えました。なので、今年の抱負はとりあえず健康第一となりました。皆さんの抱負はなんでしょうか?


それでは改めまして、今年も『異能な僕らの青春期』を宜しくお願いします

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