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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
57/68

23 尽きる弾丸

瑞己が亮に見送られる数分前、ロビーにて。



集の目の前に血を含んだ唾液を垂らしながら、唸り声を上げる猟犬が三匹その行く手を遮る。



「これは……困りましたね」



集は溜め息をついた。



殴り飛ばしたはずの猟犬達が何度も立ち上がり、襲ってくる。先程からその繰り返しだ。兎無の異能により、死んでなお、その役割からは解放されない猟犬は血を吹き出しながら集に牙を向け続ける。



最初の一匹、壁に殴り飛ばしてめり込んで死んだはずの猟犬が息を吹き返したかのように動いたときには流石におかしいと思った。猟犬に異能があること自体ありえないこと、それなのにまるで動く屍のようにしつこく襲いかかってくる。



そんな猟犬を見ると先に亮と薄情そうな男の子を送ったのはまずいかもしれないと少し後悔していた。これは急ぐ必要がありそうだと集は拳を力強く握り込む。



「ですが……ふん!」



猟犬の一匹が襲い掛かろうと飛び掛かる。それを集はさっきまでとは比べものにならないくらいの力で床に叩きつける。



その瞬間、猟犬の頭部が爆ぜる。周辺には肉片と血飛沫が飛び散り、目前にいた集はそれを浴びてしまう。



「頭を潰せば関係ありませんよね?」



口に入った返り血を吐き出しながら、集はそう呟いた。





▽▽▽▽▽

「先輩、残りの弾数は?」

「……十二発」



亮の銃は威力は高いが反動も大きい。素人には扱いにくい物だが、それは技量で補うことができる。しかし、大きな欠点として一度に使える弾丸の数が少ないのと予備がそこまで準備ができないというものがある。



それは亮とて重々承知の上で使っているが、流石に二十を超える数の猟犬は予想がつかない。言い訳にはならないが、相手の数が多いと途端に不利になってしまうのだ。



「何か作戦が?」

「今、考えてる」



不安な未奈美に亮がそう答えるが、実は兎無に弾丸を避けられて内心焦っていた。兎無の油断を誘うためにあえて射程圏内にも関わらずにわざと狙わなかった。初見だからこそ効果のある作戦だが、外せば次がない。兎無はそれを寸でのところで避けた。正直、ここからは亮の銃で仕留めるのは厳しい。



「さて、おつかいの途中ですし。そろそろ大人しくしていただきましょうか」



暗闇にも慣れた兎無は薄暗い通路の先にいる亮と未奈美をその目で捉える。



「貴女の異能もたいしたことはないですね、加賀未奈美さん」



挑発するような口ぶりで兎無は未奈美を嘲笑う。



「その苗字で呼ぶな! 私は阿久津だ!」

「くふふふっ! これは失礼しました。確か、お母様の旧姓でしたね?」

「貴様!!」



あからさまな挑発に未奈美はまんまと引っ掛かる。懐に隠していたメリケンサックをその手に握り込むとその勢いのままむやみに突っ込もうとする。が、その前に亮が力ずくで止める。



「こらっ!」

「あいたっ!?」



またも脳天から銃の持ち手部分で叩かれる。しかも、正確に一度目と同じ箇所を狙った一撃。未奈美は本気で頭蓋骨が割れたかと思った。



「せ、先輩!」

「見え透いた挑発……引っかかるお前が悪い」

「うぅぅ」



少し冷静さを取り戻した未奈美は涙目になりながら頭を撫でる。自業自得とはいえ、痛いものは痛いのだ。



「でも、この犬の数……どうするんですか?」



未奈美は通路を敷き詰めるほどの威嚇をする猟犬を前に何も案が浮かばない。さっきは無我夢中で考えていなかったが、この数を力ずくで突破するのは困難だ。更に、その先にいる兎無に一撃を加えるにはそれこそ亮のような飛び道具でもない限り不可能に近い。



「大丈夫。私に任せて」



そう言う亮の顔にはどこか自信があるような気がした未奈美は、その言葉を信じることにした。不思議と何とかなるような気さえする。



「それにどんなに数が多くとも、この子達は可哀相な人形。ただの骸なの……もう、解放してあげよう」

「作戦会議は済みましたか?」

「未奈美、私の合図でまた着けて」

「!」



その一言で未奈美は自分の役目を把握した。



「では、我が愛犬達と戯れてください」



その言葉を合図に兎無は猟犬を三匹だけ放った。その意図は亮の弾丸の消耗だ。数で押せば勝てる確信が兎無にはあった。しかし、帽子を貫通させた亮の射撃の技量は慎重に事を運ぶだけの脅威があると感じた兎無は亮と未奈美が、ぎりぎり対抗できるであろう最低限の数で攻めたてることにした。



「未奈美、できるだけその武器で倒して」

「わかしました!」



既に死んでいる犬達を操っていることから未奈美は、ただ殴るだけでは意味がないことはわかっていた。亮が一発で頭を打ち抜いていることからおそらく弱点は頭、脳にあると考えた未奈美は猟犬の牙に注意しながら頭を集中的に狙う。



「ガウッ!!」

「はぁぁぁ!!」



メリケンサックを襲ってくる猟犬のこめかみを目掛けて殴る。すると、肉が潰れる感触と骨が砕ける感覚がその手に伝わる。直に喰らった猟犬は少しよろめきながら糸がぷつんと切れたように倒れる。



自分の考えた事が合っているとわかると未奈美は慣れない片目で猟犬の猛攻を避けながら、次々と操られている猟犬を骸へと変える。



「意外とやりますね。では、こんなのはどうでしょうか?」



三匹では役不足と思った兎無は、次からその倍、六匹同時に襲い掛からせる。



「くっ! 先輩!」

「四匹任せる」



亮はそう言うと空かさず二発の弾丸が猟犬の脳を貫通する。



「なかなか……」



一秒にも満たないその早撃ちに兎無も感嘆の声を漏らす。その中には未奈美に対しての評価もあった。



暗闇、片目、数、それらの不利な条件がある上に未奈美は女性だ。四匹の猟犬を凌ぐその体力と戦闘センス。圧倒的有利な兎無だが、油断せず慎重な行動をとったのは正解だったといえるだろう。



そして、その結果が如実に表れ始めてきた。



「しまっ!」

「未奈美!」



それから六匹の猛攻を二度繰り返して、ついに未奈美が反撃を受けた。猟犬の一匹が未奈美の足に噛み付く。



「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」



間を置かずに亮が未奈美に噛み付いた猟犬を打ち抜くが、その代償は大きかった。



「先輩……すみません」



抑えても止まらない足の流血は直ぐに処置しなければ血液不足で立つこともままならないだろう。しかも、最悪なことに腐敗が進んだ猟犬からの噛み付きだったため、何かしらの感染のリスクもある。



「気にしないで。それより、まだいける?」

「……二匹までなら」



それが今の未奈美にできる精一杯だ。寧ろ、一匹ならまだしも二匹も対応できるのが驚くぐらいだ。



「お願い」

「はい!」



片足を引きずりながら、未奈美は拳を構える。その瞳にはまだ闘志が十分残っていた。



が、このチャンスを兎無が見過ごすはずもなく。



(片方は傷を負い、そして彼女の弾も残りわずかのはず……しかし、時間をかけ過ぎましたね)



兎無のそもそもの目的は亮の誘拐ではない。その目的を差し置いても亮の方が重要だっただけだ。何の収穫もなく帰還したとなれば、それこそ、兎無は自分の首を自分の手で締めることになる。

そして、懸念はもう一つあった。唯一、異能を宿すことができた強い個体達をロビーに配置して足止めに使っていた。しかし、その個体達の反応が亮と未奈美との攻防を繰り返しているといつの間にか感じなくなった。



(あれを倒せる奴は異能者しかいない。……排除されたか、それとも共倒れか)



遠隔に成程、兎無は猟犬達の操作が困難になる。それを踏まえたうえで、異能を持つ一匹で強力な猟犬をあの配置にした。



(これは急いだ方が良さそうですね)

「そろそろ、幕引きと行きましょうか!」



少し焦った兎無は自分の前に肉壁としていた猟犬達を向かわせた。その数、十匹。



「せ、先輩! 抑え切れません!」

「出来るだけ抑えて! 残りは私が仕留める!」



残りの弾丸は五発。

まず、未奈美に襲いかかる前に二匹仕留める。残り三発。



「三匹行きました」



未奈美を擦り抜けて猟犬が亮に襲い掛かる。飛び掛かる一匹を避けると続いてくる二匹を撃ち抜く。次がラストの一発。



その一発を瞬時に兎無に向ける。猟犬の肉壁を崩した兎無は無防備だ。狙うならここしかない。引き金を引こうとしたその瞬間。



「あ゛ぁぁぁ!! 助けて、先輩!」



未奈美が二匹の猟犬に噛み付かれた。なんとか自力で三匹の猟犬を殴り落としたようだが、流石に無理があった。



「ガウッ!」

「あ゛あ゛っ!」



最初に避けた猟犬が後ろから亮の足に噛み付く。牙が肉に食い込む。もう死んではいるが、力尽きるまで決して離さないであろう力に亮は思わず膝をつく。肉が裂け、骨までその牙が到達しそうな危険から、亮は咄嗟に銃の持ち手で何度も殴り、力ずくで脳天を割る。



頭から血を溢れさせ猟犬は力無く倒れた。その返り血を振り払い、再度、不格好のまま兎無へとその銃口を向ける。



「くふふふっ! 宜しいんですか、私に使って?」



兎無はちらりと未奈美に目を向ける。一匹が腕に噛み付き、もう一匹がまさに未奈美の首に牙を食い込ませようとしている瞬間だった。



「くそっ!」



常に落ち着いた物言いの亮とは思えない憤慨した台詞。その言葉と同時に銃声が鳴る。



未奈美の首に噛み付こうとしていた猟犬の頭を撃ち抜いた。これで未奈美の命は救えたが予備の弾丸は全て使い果たした。



亮は足を引きずりながら、未奈美の元に駆けつける。そして、腕に噛み付いている猟犬を役目を果たした銃でたたき付ける。何度も、何度も、未奈美の腕から牙を離して言葉通り、脳天を割るまで殴りつづけた。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」



動かなくなった猟犬を目の前に亮はその手から銃を落とした。

すると、笑い声とともに拍手する音が響いてきた。



「素晴らしい! なんと後輩思いの先輩なんでしょう!」



兎無は銃を落とした亮を見て弾丸が尽きたとわかった途端、この態度だ。慎重な癖に相手が無防備だと知ると鼻につくような言い方。亮は心底、それが嫌いだ。



「せん、ぱい……すみません」



未奈美が唇を噛み締めながら言うと、亮は後輩を労うように頭を撫でる。



「!?」

「未奈美……」



未奈美は申し訳なさそうに亮を見ると、その表情に驚く。兎無からわざと見えないよう下を向いている。



「貴女の奮闘とその優しさに感動しました。黙ってついて来てくれるなら、未奈美さんには手を出さないと誓いましょう!」



既に勝敗は決したつもりでいる兎無は何の警戒もせずに亮へと近づく。じっくり勝利という美酒を味わいながら距離を詰める兎無は、下を抜いている亮を落ち込んでいると勘違いする。



そして、亮と兎無の距離が三メートルを切った。その瞬間、



「良く頑張りましたよ! 貴女は誇っていいです、ただ相手が悪かっただけ……」

「今!」

「くらえ、このくそったれ!!」



未奈美の異能は瞬時に光を集めることができる『集光』。通路で最初に使っていたのがその異能。そして、それを応用したのが瑞己との戦闘で使った目眩まし。瞬時に光を放つことで閃光弾のように視界を奪うことができる。それは集めた光の分だけ発光させる効果がある。瑞己のときは地道に集めた光を使ったが、この通路にある分だけでそれ以上の効果が期待できる。



「あぁぁぁぁぁぁ、目がぁぁぁ!」



突然の発光を間近で見た兎無は、暗闇になれた視界が突然白く染まったことで相当な刺激と痛みが兎無を襲う。しかし、それはこちらも同じこと。使い手の未奈美はある程度は防ぐ事ができるが、亮も知らなければ同じ目にあってしまう。



「先輩!」



だから、あえて目を瞑っておく必要があった。でなければ的をとらえることができない。



「死ね」



未奈美の合図で目を開いた亮は軍服を脱ぎ捨てた。そして、銃声が三発なる。



「う゛っ!」



兎無は胸の中心で三度の衝撃を味わう。なにも見えない状況でも今のがなんだったのかはすぐわかった。



「そ、んな……弾は尽きたじゃ?」

「予備の弾丸は使い切った。……けど、銃が一本しかないなんて言ってない」



いつも使う銃は軍服の上から取り外し安いように下げているが、もしもの時のためにも常日頃から軍服の下にも銃を隠していた。それが功を奏した。



「これは、一本取られま……した」



兎無が倒れると操られていた猟犬達も倒れていく。亮と未奈美の作戦勝ちである。

先週分、投稿するの間に合いませんでした。申し訳ないです。今週、もう一話投稿するのつもりなので、お付き合いして頂けたら幸いです。

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