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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
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18 期待

「うぅ………、?」



加賀に奪われた意識がうっすらと回復してきた鈴は自分の体が揺れている事に気づいた。



冷たい地面の感触ではなく、暖かい温もりを肌で感じる。それで自分が誰かに背負われていることに気づいた。



街灯の灯が真上まで来ると鈴を背負っている人物が足を止める。背中にもたれ掛かっていた鈴は覗き込むようにして顔を覗き込む。



「……瑞己?」

「目が覚めたみたいだな」



鈴を背負って運んでいたのは瑞己だった。その顔を見て鈴は一瞬驚くとすぐに安心したような顔をして瑞己の背中に自分の顔をこすりつける。



「大丈夫か?」

「うん……大丈夫」



偽物ではなく本物の瑞己が目の前にいる。



偽物が現れた時は顔に出さないようにしていたが、本当は瑞己のことがずっと心配だった。軽口をついたのも動揺を隠すため。内心では瑞己に何かあったのでないかと気が気じゃなかった。



その胸のつっかえが取れて鈴の口から安堵の溜め息が出る。



鈴が落ち着いたことを確認すると瑞己は鈴を背負ったまま、また歩き出す。



「鈴、何があったんだ?」

「……瀬奈が……連れていかれたわ」



瑞己の肩を掴む鈴の手に力が篭る。瑞己は鈴の表情は見えないがその声音からきっと唇を噛み締めるのだろうと思った。



「どこに連れ去られたかわかるか?」

「わかんない」

「……」



正直、瑞己はここから先に自分達が関与していいものか迷っている。確かに瀬奈のために恋人役を引き受けたが、これ以上は瑞己にとって手に余る事態にまで発展している。



彼らはまだ学生で異能があるとは言え、保護される側の人間だ。自ら危険に身を投じるほど意思が高くも経験が豊富なわけでもない。それを強制されている訳でもない。



最初の一件以来、瑞己は瀬奈に申し訳なくて色々と付き合ってきた。しかし、これ以上は危険が伴う。それだけのリスクを背負う理由もない。



なにより鈴に何かあったらと思うと助けに行こうとは言えなかった。



「取り合えず、先生達に知らせよう」

「…………」



鈴は返事をしなかった。





▽▽▽▽▽

瑞己と鈴は職員室の前に着く。



もう鈴は瑞己に背負われていない。完全に回復しきった鈴は自ら進んで職員室の扉を開ける。



「失礼します!」

「失礼します」



二人は職員室に入るとまず忠志を探した。ここ三日は不登校だった瑞己は気まずい心情があったが背に腹は変えられないと渋々その姿を探す。が、目立つ高身長でぼさぼさの特徴的な髪型は見当たらなかった。



残念なような、よかったような複雑な気持ちだ。



「貴方達、どうかしたの? こんな遅い時間に」



キョロキョロしている瑞己と鈴に唯一職員室にいた教師、菊が話しかける。



「えーと、一条先生は?」

「一条先生? 丁度、不登校の生徒の元に訪問しに行ったわよ。よくわからないけど謝らないといけないことがあるって言ってたわ」

「え?」



恐らくそれは瑞己のことだろう。まさかの擦れ違いになり瑞己は鈴の顔をそっと見る。



「………ちっ!」



あからさまに不機嫌な態度をしていた。それは瑞己に対してなのか、忠志に対してなのか。はたまたその両方か。



「どうかしたの? 急ぎの用事ならここで待っていてもいいわよ」

「それじゃ、駄目なんです!」



突然、鈴が大声で言う。



その怒っているようにも焦っているようにも見える様子に菊は戸惑う。



「ど、どうしたの? 何があったの?」

「生徒が……瀬奈が」

「!?」



聞き覚えのある名前に菊の表情が変わった。



「瀬奈が危ないです!!」



鈴の瞳には涙が流れていた。ずっと瀬奈を助けられなかった後悔と自分の情けなさに打ちのめされていた。瑞己の無事で一時は落ち着いていたが、本当は様々な感情が鈴の心を掻き乱していた。それがとうとう抑えきれなくなり溢れだした。



泣いている鈴を落ち着かせながら菊は隣に立つ瑞己に目を向けた。



「説明して。瀬奈さんに何があったのか」



そこから細かい部分は鈴が補足をしながら瑞己は事の経緯を説明した。



「警備員が、……それに顔を変える異能。わかったわ。すぐに助けを向かわせるから」

「……先生は行かないんですか?」



瑞己の質問に菊は申し訳なさそうに首を振る。



「私達教師は学園を守る義務があるの。簡単にここから出て行くわけには行かないわ」



その言葉に瑞己はそれもそうかと納得したが、鈴はそうでもないようだ。



「……先生」

「何?」

「先生の異能は人や物を転送する異能ですよね?」

「えぇ、そうよ」



その先の言葉を瑞己は何となく察した。



「私を……瀬奈の元に送ってください!」

「駄目よ」



菊が断るのも予想どおりだ。



「どうして!?」

「当たり前でしょ。貴方達学生を守るのが私の役目よ。わざわざ危険とわかっていて送ることなんてできないわ」



菊の言っていることは尤もだ。しかし、今の鈴にはそんなことを気にしている余裕がなかった。何故なら瀬奈は自分のせいで連れ去られたと思っているから。瑞己や菊がそれを否定したところで鈴は納得しないだろう。



「鈴、ここは先生達に任せよう。俺達ができることはもうないんだ」

「ふざけないで!」



鈴は瑞己に向かって手を振り上げる。瑞己はそれをわざと避けなかった。



頬を叩く音が職員室に広がる。三人しかいない空間でその音はやけに強く響いた。



「嘘でも貴方は瀬奈の恋人役でしょ! ずっといなかった癖に余計なこと言わないで!!」



確かにそうだ。瑞己はいなかった。仕方がなかったとは言え、いいわけにはならない。瑞己本人もそれはわかっている。だから、もし責められたら言い訳しないと決めていた。だが、実際受けてみると正直かなりきつい。



「わかってる。こうなったのは俺のせいだ。だから、こうして頼れる先生達に言いにきたんだよ」

「そんなの只の責任放棄よ!」

「鈴さん! いい加減にしなさい!」



菊が立ち上がって鈴の目の前に立つ。



「先生もよ! せっかく瀬奈を助けられる能力を持っているのになんで何もしないの?」

「そ、それは……」



痛いところを突かれて菊は口ごもる。



情けなくも一度、瀬奈を助けに言って失敗している。挙げ句に契約であの事件のことも瀬奈に近づくことさえできなくなった。そんな失態を口にしてしまえば生徒の信頼を失う。それが菊には怖かった。



すると、鈴が菊に向かって失笑する。



「ほらね、守るっていいっても……どうせ人任せなんでしょ?」



流石に言葉が過ぎると瑞己は思った。でも、鈴の言っていることは間違ってもいない。



「鈴……」

「うるさい! 瑞己だって何も変わってないじゃない! ……結局、また逃げるんじゃない……」



その言葉に瑞己は何も言えなかった。



「やっぱり……来るんじゃなかった」



そういうと鈴は振り返って出て行ってしまった。



最後に見せた鈴の裏切られたような顔を思い出すと瑞己は心臓を締め付けられる。きっと鈴は期待してくれていたのだろう。倒れていた自分を見つけてくれた瑞己と学園の教師に。



鈴が欲しかったのは、もう大丈夫と後は任せてくれという安心と覚悟。鈴もまた誰かに助けて欲しかったのだと瑞己は後になって気づいた。



「先生、すみません」



鈴の代わりに瑞己は菊に頭を下げた。



「いいえ、鈴さんの言ったことは間違ってません。私はまた瀬奈さんを助けることができません」

「また?」

「昔の話……いえ、最近もありましたね」



その先を菊は言いたくないように見えた瑞己は詮索しないことにした。ただ、一つ気になることを尋ねた。



「もしかして神嶋(かみしま)龍悟(りゅうご)……の事ですか?」

「!? どうしてそれを……」



その名前を出すと菊は途端に瑞己を警戒する。菊の態度が変わったことに瑞己は慌ててその訳を話した。



「い、一条先生が言っていたんですよ! 神嶋龍悟が殺されたって!」

「っ! はぁー、あの人は……。いいですか、このことは誰にも言わないこと! いいですね?」



菊はあのぼさぼさ頭めと思いながら瑞己に箝口令を命じた。



「はい、わかしました」



そして菊はまた一つ大きな溜め息をつくと何となく瑞己の全身を見た。



「貴方、名前は?」

「え? 瑞己です。東雲瑞己」

「東雲君、前にどこかであった?」

「?」



本当になんとなく菊はそう思った。特別怪しい訳でもない生徒に対してこんな疑惑は申し訳ないが、どうしても確認したくなった。



「覚えてませんが、学園のどこかで擦れ違ったりしました?」

「いいえ、そういうわけではないんだけど……ごめんなさい。何でもないわ」



あの学生服をきた白髪の面影が瑞己と何故か重なった気がした。しかし、すぐに気のせいだと頭から振り払う。



「貴方ももう帰りなさい」

「あ、はい。……瀬奈のこと、お願いします」

「えぇ、わかったわ」



瑞己はもう一度頭を下げて職員室から退室して言った。



「はぁ……」



また、一人職員室に取り残された菊は体を預けるように椅子に座る。そして、鈴と瑞己からは見えないように隠していたファイルを出した。そのファイルには『指名手配異能発現者』と書かれている。



世の中には異能を悪用する人間が少なからずいる。その中に龍悟を殺した犯人はいないかと探していたが、これといって有益な情報はなかった。



「どうして問題は立て続けに起こるのかしら?」



最近、頭を抱える事案が多すぎる。菊がいくら生徒のために体を張っても限界はある。しかし、それを嘲笑うような問題は度重なっていく。



菊はファイルのページを適当にめくり、その内容に目を泳がせながら菊は携帯を取り出して電話をかける。



「もしもし……はい、菊です。実は学園の生徒が……」



そこで偶然開いたページの記載に目が止まった。



身長 170~175cm

年齢 19歳

危険内容

親族 両親殺害・幼児10人誘拐 未解決・詐欺事件・女児強姦及び殺害

確認済み殺人件数 7人

顔写真無し

異能【変装】 

名前 ……



美原(みはら)……拓巳(たくみ)。異能【変装】……もかして!」



菊の中で歯車が噛み合ったように繋がった。



「緊急事態です! 今すぐに異能対策局に繋いでください。指名手配の異能者がいる場所が判明しました! 場所は……」

「……よし、行くか」



そう言って瑞己は歩き始めた。



菊が慌てて電話しているのを、瑞己はわざと扉を完全には閉めずに盗み聞きしていた。瀬奈の名前を聞いて変わった態度と過去に瀬奈と接点があるなら、もしかすると瀬奈の居場所に心当たりがあるのではないかと帰る振りをして隠れて耳を立てていた。



『本当に行くの?』

「あぁ」



レイが不安そうに瑞己の頭の中で言うが、瑞己の決意は変わらない。鈴の期待をこれ以上裏切るわけにはいかない。



瀬奈には申し訳ないと瑞己は思う。これは瀬奈のためではなく瑞己の名誉挽回と鈴の悲しむ顔を見たくない為に行動を起こすと決めた。



『あの子が大切なんだね』

「まぁ、そうだな」

『最初から助けにいくつもりだったのに……どうして言わなかったの?』

「何かを失敗したり、後悔したときは自分のせいだと思い込むよりも誰か悪者がいたら自分で自分を傷つける事はないからな」

『なるほどね。でも、瑞己はいいのかい?』



確かに瑞己はかなり責められた。叩かれた頬はまだ痛い。鈴の表情を見て良心を(とが)めた。でも、きっと瀬奈の側にいた鈴が一番悔しい思いをしているはずだ。それを少しでも瑞己は自分に向けさせることで鈴を守りたかった。



「また、謝りに行けばいいさ。説教されるのは得意だ」

『あはははっ! そうだね、一緒に聞いてあげるよ!』



瑞己はレイの笑い声を聞きながら瀬奈のいる思われる場所へと走り出した。

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