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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
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11 瀬奈の過去②

瀬奈が男の運転で連れていかれたのは高層ビルだった。入口に男が車を止めると中から美しく化粧を施した女性が出迎えにくる。



知らない大人が増えたことで瀬奈はまた萎縮してしまい、男が下りるように促しても瀬奈はそれを拒む。



「大丈夫ですよ。怖かったら目を閉じていても構いません」



男が優しく声をかけると瀬奈は小さくこくんと頷いた。男のシワだらけだが大きく温かい手に引かれ瀬奈はビルへと入っていく。



受付まで辿り着くと男が受付担当の者と何かを話し始めた。その間、瀬奈は周囲を見渡す。



慌ただしく携帯を片手に歩いている人もいれば、きらびやかな衣装を運んでいる人もいる。それを瀬奈は不思議そうに見ていた。ぼーっと眺めていると資料を抱えて急いでいる女性と目が合う。



すると、その女性は何かに取り付かれたように突然足を止めて手に持っていた資料も落としてしまう。その音が響くと周りの視線が女性に集まる。そうなると必然的にその場にいた全員が瀬奈の存在に気づいてしまった。



全員が手を止めて瀬奈に注目する。その中性的な容姿に皆が釘付けになっていた。しかし、それだけではなく純粋な子供の可愛さも相まって、まるで天使が舞い降りたと錯覚してしまうほど瀬奈に夢中になっている。



流石に異変に気づいた男はそこにいた者達から瀬奈を隠すように早足でエレベーターに乗る。扉が閉まると扉越しに驚きと喜びが混じったような騒ぎ声が聞こえてきた。



「申し訳ありません、騒ぎにするつもりはなかったのですが……」

「…………あの人たちは、どうして僕を見ていたの?」



瀬奈は男の袖を引っ張りながら尋ねた。男は初めて自分から声を出した瀬奈に驚いたが、すぐに優しい眼差しになり小さい体に合わせてしゃがんだ。



「それは瀬奈様が特別だからです。貴方には多くの人を引き付ける才能があるんです」

「……女の子みたいなだから?」



瀬奈の辛そうな瞳に男は言葉を詰まらせる。その表情を見ただけで女の子のような見た目は瀬奈にとって恵まれたものではないのだと理解したからだ。



瀬奈は初めて歳が近そうな子供達に声をかけた時の事を思い出す。その場にいたのは全員男の子だった。院内で本を読んだり、ママゴトをしている女の子達よりも瀬奈は外で走り回っている彼らに興味を持った。それは同じ性別の子供達は一緒に遊ぶのが当たり前だと思っていたからだ。



しかし、男の子達にとって瀬奈は自分達と同じには見えなかった。



臆病な瀬奈が勇気を出して言った「一緒に遊びたい」という頼みに男の子達は女の子はあっちだと院内を指差す。



悪気があって言ったわけではないが、それを聞いて瀬奈は声を上げて泣いた。自分は彼らに拒絶されたのだと。



男の子は瀬奈を傷つけるために言った訳じゃないが、傷つかない訳じゃない。人の心がどれだけ繊細かを知らなかっただけ。瀬奈がどれほどの決心をしていたかを知らなかっただけだ。



ただ、その日から瀬奈の中で人に対する精神的な壁が分厚くなり、自分の容姿がコンプレックスへと変わった。



「……そうですね。確かに貴方は女の子のようにも見えます」

「!!」



瀬奈の目尻に涙が溜まる。孤児院で泣いた時にあやしてくれる院長はもういない。抱き締めてくれる相手はもういない。



瀬奈は涙が溢れないように新品のワンピースをぎゅっと握って堪える。



「他の子供達と違うのは嫌ですか?」



男が訪ねると瀬奈は小さな頭を縦に揺らす。



「……人と違うと言うのは、確かに変に思われるかもしれません。皆にあの子はおかしいと指を差されるかもしれません。しかし……孤独になるわけではありません」



男はワンピースを握る瀬奈の両手を優しく掴んで、その優しい眼差しで瀬奈を見つめる。



「必ず貴方を理解してくれる人がいるはずです。いつかあの院長のように、貴方という存在を一人の人間として見てくれる人が現れます」



ポケットからハンカチを出した男は瀬奈の溢れそうな涙を受け止める。男が優しく拭き取ると瀬奈の震える肩が少し落ち着く。



「それをもう少し待ってみませんか?」

「…………うん」



瀬奈が頷くと同時にエレベーターが目的地へと辿り着いた。



すると、男が瀬奈のワンピースのシワを伸ばして身だしなみを整える。そして自分も立ち上がるとこれから合う人物を考えて、気持ちを引き締めるためにネクタイを締め直す。



ゆっくりと扉が開く。



「行きましょう。貴方の新しい家族が待っています」



新しい家族。その言葉に期待と不安を感じながらも瀬奈は男の背中についていった。



エレベーターの先には真っ直ぐの白い廊下が続く。壁には一定間隔に像が並んでいた。美しくも凛々しい女性の像もあれば、どこか悲しげで儚い印象を思わせる物もある。何かに怒りを向ける姿もあり、喜怒哀楽を彷彿とさせる像があった。



それらを見てどこか気味の悪さを感じた瀬奈は男の背中に近づいて見えなくなるようにぴったりとくっついた。その時、一つだけ像が乗っていない台座があることに気づいて目が止まった。



何故、あそこだけ何もないのかと。



「準備は宜しいですか?」



台座に気を取られていると男の背丈を越える扉が目の前にあった。瀬奈が扉の頂上まで見ようとすると首が真上を向いて口があんぐりと開いてしまう。



扉が開くとそこには二人の女性が立っていた。



一人は着物を着た女性だ。その姿はこの国の文化を思わせるが、後ろに纏めている髪が薄いブロンドなところを見ると一目で国外の人間というのがわかった。



「いらっしゃい! 待っていたわ!」



嬉しそうにその女性は瀬奈を見て笑顔を向ける。



「遅かったね。待ちくたびれたよ」



今度はその隣に立っていた女性が男に向けて呆れたように言う。



瀬奈はその女性を不思議そうに見た。それは彼女の立ち振る舞いや喋り方が男性を意識しているように見えたからだ。服装にも違和感を感じた。瀬奈を連れてきた男のようにまるでサラリーマンのようなスーツの着こなしに瀬奈の認識が曖昧になる。



「申し訳ありません。ロビーで少々手間を取りまして……それでは、私は失礼します。瀬奈様、お元気で」

「あっ」



そういって男はその場を去って行った。瀬奈の名残惜しそうに伸ばす手に男は気づいていたが、自分の立場を考えるとその手を取ることはできなかった。



「あなたが瀬奈ちゃんね!」

「ぁ……」



男と瀬奈を遮るように着物を着た女性が割って入る。置き去りにされた瀬奈は知らない二人に挟まれるような形になり無意識にからだが強張る。しかし、これからこの人達の家族になると考えると怯えてばかりではいられないと勇気をだした。



「は、初めまして」

「初めまして。私は真奈(まな)、彼女はメイ。これから私たちは家族よ、よろしく」



ぶっきらぼうに言う真奈はしゃがんで瀬奈へと目線を合わせる。



「私からも、宜しくね!」



真奈に合わせてメイもしゃがむ。そして、メイが瀬奈の手を握って満面の笑顔で歓迎する。いきなり手を握られて驚いた瀬奈だったが少し照れながらその手を握り返した。



「早速で悪いけどあまり時間がないの」

「え?」



メイはそのまま瀬奈の手を引いて奥へと連れていく。



室内を進むとそこはリビングになっていた。壁には階段があり、二階までが吹き抜けになっている。外側の壁にはガラスを使用しており、外の景色を眺めることができて想像以上の開放感があった。



「ここがあなたの住む部屋よ。ここにあるものは何でも使って良いからね」

「必要な物があったら言って。買ってこさせるから」

「あ、えーと……」



今までの生活とは掛け離れすぎて瀬奈は頭の整理が追いつかない。状況を把握できないまま二人は二階を案内する。



階段を上がるとそこには三つの部屋があった。



「ここがあなたの寝室よ。私は和室が良いって思ったんだけど、真奈が譲らなくてね。どう? 気に入った?」



扉を開けるとその部屋は八畳程の広さで机、ベットそして可愛らしい人形がいくつか並べられていた。まさに子供部屋を忠実に再現したような部屋だ。



孤児院ではここと同じ広さで一部屋に二段ベットが二つ並んで入るのがやっとだったのが、これからは瀬奈だけの自由な空間として用意された。



今まで狭い部屋に四人で寝過ごしていたのが、自分一人だけの物になると思うと瀬奈とっては衝撃的で言葉がでなかった。



その様子を見てメイと真奈も満足そうに互いを見て頷く。



「それじゃ、次に行きましょう!」



瀬奈は心臓が強く脈打っていて興奮が収まらないままメイにまた手を引かれる。



次はどんな驚きが待っているのだろうと真奈が隣の部屋の扉を開ける。



「きっと気に入るぞ」

「ここは貴方のために用意したワードローブよ!」



瀬奈の目に最初に映ったのはウェディングドレスだった。



「……すごい」



一つの穢れもないような純白にパールのような透明感。祝福と幸福でできたようなドレスに瀬奈は心を惹き付けられた。



「ふふふっ! 気に入ってくれたみたいね」

「当然だ。私がデザインしたんだからな」



他にも数多の服がその部屋には並んでいるが瀬奈はウェディングドレス以外には目もくれない。



「十六歳になった貴方を考えて真奈が作ったのよ。絶対に似合うわ!」

「でも、男の子は着ちゃ駄目なんじゃないの?」



瀬奈は自分を男だと思っている。



世間一般的に男性はタキシードを着るのが常識だが、瀬奈は綺麗なものや可愛いものが好きだ。孤児院にいた頃はそこが他の子供達との一番の違いだった。



孤児院だと性別に分けて服を調達するのが金銭的に難しく、ほとんどは成長した子供達からのお下がりが多かった。だから、男から貰ったワンピースは瀬奈にとって初めて自分の好みに合うもので嬉しかったのだ。



瀬奈は男の子でありながら好みは女の子のような自分の価値観が周囲と違うことを自覚している。それ故にこのウェディングドレスを着ていいのか不安になった。



「そんなことないわ! これは瀬奈ちゃんだけの物よ。貴方が着ることに意味があるの! 真奈を見て!」



メイに言われ瀬奈は真奈に目を向ける。



「真奈はね。体は女性だけど、中身は男性なの」

「どういうこと?」

「私は性同一性障害なんだ。……つまり、見た目と中身が別人なんだ」

「女の人なのに、男?」

「そう、世の中には私みたいな人が存在する。私はその人達のためにこの仕事についた。同じ境遇の人が自分らしくあれるように」



真奈の言う仕事と言うのはウェディングドレスのような服をデザインする事だ。



瀬奈は真奈をもう一度見る。今度は上から下まで良く観察しながら眺めた。



狭い肩幅や細い足、そして申し訳程度に膨らんでいる胸を見ると彼女は迷う事なき女性だ。しかし、溢れ出るその雰囲気は横に立つメイとは正反対に感じる。



「可愛いものが好きでも良いの?」

「もちろん良いに決まってるじゃない!」

「それが本来の君だ」



性別に関わらず好きな物を我慢しなくていい。二人が自分の価値観を認めてくれたことによって瀬奈はここに居場所ができたと感じた。



「ここで新しい自分を見つければいい」

「これからは私達は家族よ。私と真奈は籍は入れないけど夫婦のようなもの、そして瀬奈ちゃんは私達の子供になるの! きっと、楽しいわよ!」

「よ、よろしくお願いします」



こうして瀬奈に新しい家族ができた。

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