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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
二章
39/68

5 二人の関係

翌日、瑞己は思い詰めながら学園に向かって歩いていた。体の痛みは翌朝目が覚めるとあの激痛が嘘のように無くなっていて体に活力が(みなぎ)っていた。そのおかげか普段よりも歩くペースが早くなる。



「はぁ」



それとは別に瑞己は溜息をつく。それは怜奈の事だ。あれだけ怒らせてしまっては許してもらえないかもしれないと不安になるが、それでも何かお詫びをと瑞己は今朝から考えていた。



「でも、何をしたらいいんだろう?」



女性を怒らせたときの対応なんて瑞己には経験がない。下手におかしな物を渡しても気に入ってもらえなければ意味がない。ここは本人に直接聞いた方がいいかもしれない、そんなことを考えていると少し先で怜奈が歩いているのが見えた。



いつもは瑞己が寝坊しなければ怜奈が後ろから追いつくのが習慣だったのだが、今日は瑞己が怜奈に追いついた。今日がたまたま早いのか、それとも何か別の理由があって普段よりも早く出たのかはあまり考えないようにした。



「お、おはよう」

「………」

(……あれ?)



怜奈は瑞己の挨拶に反応しない。聞こえない距離ではないはずなのに彼女は何事もなかったかのように歩いていく。きっと急ぐ理由があって声が届いていないだけだ、瑞己はそう思うことにしてもう一度声をかけた。



「おはよう!」

「はぁ、おはよう東雲君」



溜息をつきながら至極嫌な顔で振り返る怜奈、瑞己はさっきまでの怜奈の態度が勘違いじゃないとわかって少し悲しくなった。



「あのさ、昨日のこと謝りたくて」

「あまり、思い出したくないのだけれど」

「そ、そうだよな、ごめん。それでも何か怜奈にお詫びがしたくて」

「お詫び?」



瑞己の申し訳なさそうな態度を見て怜奈は少し考え込む。瑞己は怜奈が口を開くのを待つ。



朝だと言うのに日差しが強いのだろうか、額に汗が流れる。



「東雲君、それは私のため? それとも自分のため?」

「え、それは……」



何のためか、それを問われると瑞己は答えられなかった。



怜奈には悪いと思っていてお詫びがしたい。それは瑞己の本心だ。しかし、それがまた怜奈に迷惑だとしたらそれは償いではなく自己満足になってしまう。そうなればそれはただ罪悪感を忘れたいだけの自己中心的な行いだということに気づいた。



「東雲君、罪の意識っていうのは一種の教訓よ」

「教訓?」

「今貴方が私に向けている罪悪感は拭い去る物じゃなくて、胸に抱えて行くものよ。そして、そこから思いやりや人の気持ちを学ぶの」

「思いやりや人の気持ち……か」



瑞己はあの時の怜奈がどんな思いをしたのか想像する。自分が同じことをされたらどう思うのか、相手のことを許せるのか。それに加えて怜奈は女性だ。男とは感じ方も違うだろう。



「そんな簡単に割り切れることじゃないよな」

「そうよ。でも、東雲君がお詫びをしたいっていうのも間違ってはいないとも思うの。でも、もっと私の気持ちも考えて欲しい」

「そうだよな……本当にごめん」



瑞己は改めて怜奈に謝る。今度はちゃんと誠意をこめて。



「昨日も言ったけど、次は許さないわよ」



挨拶を交わした時よりも朗らかな口調で怜奈が言う。それだけで瑞己の気持ちは救われた。



「それともう一つ、ちゃんと謝れる男性は意外と魅力的なのよ」



こうして蟠りがとけた瑞己と怜奈は二人並んで一緒に学園に向かった。





▽▽▽▽▽

「中等部の深見瀬奈? 僕は知らないかな、なっつーは?」

「僕達は高等部ですし、ほとんど関わりがありませんから名前だけじゃわかりませんね」



瑞己は昼食を取りながら太陽と夏目に瀬奈のことについて聞いていた。自称だが異能者の相談を請け負う部員の二人なら知っているかもしれない、そう思って頼ってみたが残念ながら瀬奈はAPC部(特殊能力者相談)とは縁がなかったようだ。



「何か特徴とかはないんですか?」



夏目に聞かれて瑞己は瀬奈の特徴を思い浮かべる。真っ先に思いついたのはあの容姿だった。男子のようでもあり、女子のようでもあるあの中性的な魅力は他の人にはない、瀬奈にしかないものだ。それに副作用で異能者にのみ反応するという魅了の力もある意味特徴ともいえる要素だ。



「瀬奈は」

「自分が何か?」



瑞己が瀬奈のことを話そうとしたら、タイミング良く後ろから本人が声をかけてきた。瑞己の後ろに立つ瀬奈に三人の視線が集まる。



「あ、いや、何でもない」

「? そうですか。先輩方、こんにちは。深見瀬奈っていいます」

「みっきー、まさかこの子がさっき言ってた?」

「気になる中等部の生徒ですか?」



礼儀正しく挨拶する瀬奈に釘付けになりながらも太陽と夏目は瑞己に問い掛ける。



「まぁ、そうだな」

「瑞己先輩、私のこと調べてたんですか?」



それを聞いた瀬奈がにやにやと瑞己を見下ろす。余計なことを聞かれてしまったと瑞己は逃げるように目を逸らす。



瀬奈の足元に目線を逸らした瑞己、その先には質素だが丁寧に作られた肌触りの良さげなスカートがひらひらと揺れていた。



「あれ、この間はズボンじゃなかったっけ?」

「だって自分、女の子ですよ?」

「え? あぁ……そう……だよな?」



スカートの端を摘んでほんの少したくし上げながら当然のように答える。確かに瀬奈は自分を女性と明言したのだが、女性らしい格好をしているとそれはそれで違和感があった。



二人のそんなやり取りを呆然と見ていた太陽と夏目が瑞己を引っ張って瀬奈に聞こえないように小声で話す。



「東雲君、あの子のこと知らなかったんですか!? 僕も名前は知りませんでしたけど、あの子の容姿は学園でもかなり有名なんですよ!」

「僕も中等部の三年からこの学園に来たけど、皆噂してたよ。あの子は制服がころころ変わるんだ。ある日は女子の制服、またあるときは男子の、時には一日のうちに何度も制服を着替えるんだって。しかも、着替える姿を誰も見ていないからその性別は謎のままなんだ」



太陽の言った通り瀬奈の性別は瑞己もよくわかっていない。本人は女子であることを認めているが、本当のことを言っているようには思えなかった。



こそこそと話しているのを不思議そうに見ている瀬奈に瑞己は目を向ける。今の格好、女子の制服は違和感を感じるが瀬奈に良く似合っていた。しかし、つい先日見た男子の制服も男だと言われれば信じてしまう程だった。



世の中には体が男で中身は女の心を、逆に女の体で中身は男といった身体的特徴と性自認が一致しない人達がいる。そんな人達は人の目や環境に合わせて望まない格好を強いられて辛い日々を送っているというが、瀬奈にはそんな様子も感じられない。



「ところで、高等部の食堂に何しに来たんだ?」

「あっ、そうでした。先輩良かったら一緒に食べませんか?」



その手には布に包まれた弁当が二つあった。その一つを瀬奈は瑞己に差し出す。



「もしかして、俺に?」

「はい、もちろん」



瑞己は既に自分の昼食を食べていた。食卓には食べかけのオムライスが置いてある。瑞己は大食いと言うわけではないから、ここから更に一人分の昼食を食べきれる気がしなかった。



「悪いけど、俺はもう食べちゃって」

「何でも言うこと聞くって言いましたよね?」



断ろうとする瑞己に瀬奈は耳元で囁く。楽しそうに呟く言葉に瑞己は思わず身を引いた。これ以上近づかれたらまた自制が効かなくなりそうな気がしたからだ。甘い囁きがまだ耳に残っていて頬が熱くなる。



「みっきー、どうしたの?」

「……いや、何でもない。弁当ありがとう、頂くよ」

「どうぞ、召し上がれ。それじゃ、私も」

「だからここは」

「中等部の生徒が高等部の食堂を使っちゃいけないなんて決まりはないですよね?」



瑞己の隣に瀬奈が座る。スカートを折らないように手で押さえながら座る様は女子そのもの、これで男だったらと思うと瑞己はこれから何を信じればいいのか不安になった。



「それに彼女が彼氏と一緒に昼食を取るのは当たり前ですよ?」

「「「彼女!?」」」



三人の声が食堂に広がり、生徒たちの視線が瑞己達に集まる。幸い、慌てて瑞己が抑えたおかげで騒ぎは一瞬で済んだ。周りにも知れ渡っていないようで安心すると、瑞己は無用心な瀬奈を睨む。



(えういえば、もう一人叫んでいたような?)

「自分が恋人だと恥ずかしいんですか?」

「いや、それは……」



自分で偽物の恋人と言ったのに何を言っているんだろと瑞己は思った。本物ではないとは言えこんな見せ付ける真似をされては注目を集めてしまう。それは瑞己にとっては嬉しくないことだ。



わざとらしく悲しい振りをする瀬奈に苛立ちを覚えつつも、それが愛らしく見えてしまう。瑞己はまた本能に翻弄される前に食事に集中することにした。



「東雲君、僕は君を誤解していたようだ」

「何が?」

「君は僕と同じ日陰側の仲間だと思っていたのに、彼女を作るなんて」

「みっきー、僕が知らないうちに青春を送っていたんだね」

(何言ってんだこいつら?)



瑞己と瀬奈を祝福する太陽とは裏腹に夏目は裏切り者でも見るかのような眼差しを向ける。瑞己からしたら二人とも瀬奈の芝居に騙されただけの哀れな観客だ。本人の気持ちを蔑ろにした期待や嫉妬は余計なお世話にしかならない。



余計な二人のことは無視して瑞己は受け取った弁当を開けると中身はいたって普通だった。卵焼きがあり、ソーセージがあり、野菜があり、梅干しをのせたご飯があった。他にも色とりどりのおかずが並べられていて健康バランスを重視していて美味しそうだ。



「これ手作り?」

「そうですよ、お味はいかがですか?」

「……旨い」

「それは良かったです」



バキッ!

「こら! 箸を割るんじゃないよ!!」



今度は食堂のおばちゃんの怒声が広がる。他の生徒が喋り合っている中、突き抜けるようなその声を瑞己は流石だなと思いながら聞き流した。



一体誰がおばちゃんを怒らせたのだろうか、などと考えながら瑞己は瀬奈の弁当を食べる。お腹はオムライスで既に満腹に近い状態だが隣の彼女はせっかく作った弁当を残すのは許してくれそうになかった。



「なっつー、僕たちは二人の邪魔になるし行こうか」

「東雲君、君に不幸あれ」

「お前最低だな」



最後に捨て台詞を残して夏目達は食堂から出て行った。



「素敵な友人ですね」

「素敵な友人は友達の不幸をながったりしないだろ」

「そうだ、放課後は女子寮のカフェに行きませんか?」

「拒否権は?」

「ありません」



瀬奈が笑顔で答える。きっと周りの人は仲がいいカップルのように思うかもしれない。しかい、瑞己は今の瀬奈との関係が太陽のよく言う青春とは掛け離れていると実感した。



その後は何事もなく昼食を終えて、互いに教室へと戻った。



放課後になると教室に瀬奈が迎えに来て帰ろうとする瑞己を引っ張って女子寮のカフェエリアに連れていかれた。学園のサービスでカフェの飲み物は基本的に無料で好きな物が飲める。



瑞己はコーヒーを飲みながら瀬奈と向かい合って座っていたが、居心地は最悪だった。女子寮なのだから当然だが、周囲には女子しかいない。瑞己は好奇心と不信感の込められた視線を受けながら瀬奈を睨むことしかできなかった。



その眼差しを向けられている瀬奈はというと、涼しい顔で優雅に紅茶を楽しんでいた。






▽▽▽▽▽

翌朝、学園の正面玄関にて。



「彼女とやらについて説明しなさい!」



今にも噛み付きそうな勢いで鈴が話しかけてきた。

最近、仕事との両立が下手でなかなか執筆に集中できません。それでも週に1話は更新したいと思います。


投稿する度にすぐ読んでくださる方々、いつもありがとうございます。

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