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異能な僕らの青春期  作者: 戌叉
一章
29/68

28 目には目を、歯には歯を……

瑞己は龍悟を逃がさないために拳を掴んで離さない。



「ちっ!」



龍悟の判断は早かった。手が駄目なら、と直ぐに蹴りを繰り出す。



が、瑞己のほうが圧倒的に速かった。



「うぶっ! ーーーー!」



強く固められた獣の手が龍悟の腹にめり込む。その一撃で龍悟は数秒間、呼吸ができなくなった。



体をくの字に曲げられて倒れそうになるが、拳を掴む瑞己によって許されない。



「まだまだ、こんなものじゃ足りない」



続けて、もう一度同じように同じ場所を瑞己は殴る。



龍悟はそれを防ごうにも片手は掴まれたまま、逆の手は瑞己の蹴りを防いでから腫れ上がり指先が動かない。



「や、やめっ、ろう゛っ!」



胃液が逆流する感覚が殴られる度に襲う。いっそのこと吐き出せれば楽なのだが、瑞己は力加減を調節して龍悟が吐かないようにしていた。



「吐かれたら、服が汚れるからね」



理由はそれだけ。近くにいるため、龍悟が吐いた時に自分にも飛び散られるのが嫌だから。



「……この、ケダモノ……やろう、が」

「まだ元気があるみたいだね」

「殺してやる……必ず、殺してやるからな!」



唾を飛ばしながら、瑞己への殺意を剥き出しに。怒りのあまり目が充血している。



「…………」

「覚悟してろよ! お前も、颯も、あの女も! 歯向かう奴は全員っ!?」



最後まで言う前に瑞己が動いた。掴んでいた拳を離して、今度は龍悟の首を握り締める。



「あの女?」



瑞己より背が高く、体格もある龍悟を軽々と持ち上げた。



苦しそうに踠く姿を瑞己はつまらなそうに眺める。



「少し、黙ろうか」



そう言うと瑞己は目を閉じて、記憶を遡る。すると、瑞己と笑い会う女性が思い浮かんだ。



「そうか、彼女を守るために。……頑張ったね」



優しい声で誰かに向かってそう呟く。



「お゛っ、お゛っ、え゛っ!」

「ん?」



喉に何か詰まったような汚い声が聞こえた。声の主に目を向けると顔を青くした男が泡を吹いていた。



「あ、忘れてた」

「ーーーーーっ! げほっ! げほっ! げほっ!」



瑞己はまずいまずいと思い、ぱっと手を離すと龍悟はそのまま地面に倒れた。



突然の過呼吸により、むせたようだ。



「それで? 歯向かう奴は全員、何だって?」

「ーーーーぇ」

「?」



息を整えながらゆっくりと立ち上がろうとする龍悟。下を向いているからどんな表情をしているかわからない。



それは立ち上がっても伺うことはできなかった。



ただ、拳を強く握りすぎているのだろうか。腫れた手から血が垂れている。



「死ねぇ!!」



その顔はひどく憎悪に歪んでいた。傷の血は止まったが、五つの線が更に龍悟を恐ろしく見せる。



龍悟が腫れた血の拳を構えて飛び掛かる。



何度も同じように攻撃を仕掛けに来る様子に瑞己は呆れて溜息をつく。



(……興奮で痛覚が麻痺してるな)



そして龍悟は血の滴る拳を突き出すと、瑞己の目前でその手を開く。



「!?」



手の内に溜めていた血が瑞己の顔にかかった。咄嗟に瞼を閉じて血が眼球につくのを防ぐ。



「あ゛はっはっ! 油断したな!」



龍悟の狙いは最初から瑞己の視界を奪うこと。



引き摺られる前に、密かに折られたナイフを拾っていた。



それをわざと手に刺して血を準備していたのだ。しかも、腫れ上がった手なら違和感もない。



折れたナイフの刃先を瑞己に向けて振り下ろす。折れているとはいえ、その鋭利さは侮れない。



「その顔、引き裂いてやる!」



瑞己の顔にナイフが迫る。視界を奪われ、龍悟の姿は見えない。得られる情報が限りなくゼロになった。



不幸中の幸いなことに勝利を確信して醜く嗤う龍悟の顔を見なくて済んだ。



(これは……まずいね)

「シネェーー!!」



そして、ナイフの先端が瑞己の肌に触れた。






とは言え、得られるものが何もないというわけではない。



カンッ、と上から落ちてきたナイフが地面に突き刺さる。



「……ひぇ?」



龍悟の想像だと瑞己の顔をナイフが走り、悲鳴が聞こえるはずだった。



けれど、瑞己は平然と目を閉じて立っている。



そこで龍悟は自分の手の感覚が無いことに気づく。指先が何も反応しない。



体の熱が一気に低下する違和感を覚えた。



「はぁ………はぁ……はぁ…はぁ、はぁっ!はぁっ!はぁっ!」



頭の中では自分に何が起こったか想像する。けれど、理性がその答えを知ってはいけないと拒絶している。



だから、頭上に上げられた腕を下ろしてはいけない。



だから、上から降ってきているのはきっと雨だ。



グチャッ!!



が、現実はそれを許さない。



上空から何かが落ちてきた。それは着地と同時に爆ぜて二人の顔に飛び散る。



瑞己はぶつかってきた何かを掴む。それを感触で確認すると面白そうに龍悟に見せつける。



「これ……なーんだぁ?」

「ーーーーーっ!!」



獣の手には腫れた指が握られていた。



飛散した物に目を向けると原形は無く、あるのは潰れた肉塊とぎりぎり繋がっている歪な指が四つ。それが、何を意味するのか考えたくない。



「あ、あ、あぁ」



龍悟の現実逃避を察知した瑞己は、握っていた指を上に放り投げた。放物線を描きながら龍悟の上を通過するように。



そして、より残酷な事実をつきつけるために。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー!?」

「良いことを教えてあげるよ」



瑞己は顔についた血を柔らかい毛で拭う。



自由になった目を開くと龍悟が両腕を見比べて泣き叫んでいた。



「僕らは気配に敏感で、目が見えなくてもある程度把握できるんだ。特に殺気なんかは……って、聞いてないか」



瑞己の自慢話を聞く余裕など龍悟にはない。



確かに瑞己の気配察知は優れているが、それ以上にあの反射神経のほうが人の域を越えていた。



どんな人間でもナイフの先端が肌に触れた瞬間に反応できる者などいないだろう。



「お゛れの、俺の手がぁーーーーー!!」

「流石にやり過ぎたかな?」



叫び声が辺りに広がる。



きっとこの悲鳴で駆け付ける者が現れるだろう。人が集まる前にここを離れなければ。だが、その前にまだやるべき事がある。



瑞己は泣き喚く龍悟の側によるが、気づいてもらえない。しょうがなく無理矢理意識をこちらに向かせる。



「あ゛ぁ、あ゛ぁ……、う゛っ!」



龍悟の髪を掴んで顔を覗き込む。苦痛と手を失った喪失感でぐちゃぐちゃになったその表情を瑞己は待っていた。



「惨めだね。自慢の異能も、高慢なプライドも……手まで失って」

「う゛っ……う゛ぅ……う゛ぅぅ」



身も心もボロボロで龍悟はもう戦意を喪失している。後は、ほんの一押しで復讐の幕切れを迎える。



「あの時、君がこの子を殺しかけた。だから、僕も君に同じ事をする」

「な、何言って、んあ゛ぁ!」



そう言うと瑞己は龍悟の髪を掴んだまま引っ張る。ナイフが刺さった地面の場所まで。



それが瑞己の答えだ。理解と同時に龍悟が最後の抵抗を始めた。



「嫌だ! やめろ! 嫌だ! 離せ! はな゛せっ!!」



ブチブチと、髪が抜ける事など構わずに懸命に抗う。だが、満身創痍な龍悟の抵抗など何の意味もない。



目的地にたどり着くと、瑞己がナイフを引き抜くいて刃先が上向きになるように地面に刺し直す。



抵抗虚しく、龍悟の目にナイフが映ると頭上から押し込まれるように力が込められる。



「良い(ことわざ)があったね。目には目を、歯には歯を………なら命には、命を」



ゆっくりと龍悟の頭がナイフ目掛けて下に落とされる。



「わかった、お、俺が悪かった! もうこんなことはしない、本当だ! 約束する!」

「……」



瑞己は返事をしない。黙々と獣の手に力を込める。



「頼む! やめてくれ!」



膝が地面につく。



「お願いだ! もう、二度と誰にも手は出さないから!」



次に両腕が。



「冗談だったんです! 本気じゃなかったんです! ごめんなさい!」



残すは頭のみ。



「イヤダッ! 死にたくない、死にたくない! イヤダッ、イヤダッ、イヤダッ!」

「さようなら」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァーーーーー!」

ドスッ!











「なぁーんてね」



瑞己は龍悟の首をナイフが掠めるように地面に額を押し付けた。



「あ、あ、あ」



ぴくっぴくっと震える龍悟から異臭が漂う。



「うわぁ……」



失禁していた。



しかし、これで瑞己の復讐劇が完了した。晴れて気分は爽快だ。



「この……化け物」

「ははっ、化け物か。ちょっと違うな」



倒れたまま龍悟が呟く。瑞己はその言葉を不快には思わない。むしろ、近しい何かだと認める。



「人でも……獣でもない……お前は一体、何なんだよ」

「僕は、僕さ。君と同じ、人間であることに変わりはない。……でも、僕達は違う。」

「?」



龍悟は瑞己の言っていることがわからない。



「別に理解しなくてもいいよ。僕にとってはこの子が全てだ」



そういいながら瑞己は両の手を見る。が、すぐに目線を下に戻す。



「この際だし、教えてあげるよ」



しゃがんで龍悟の耳元で囁く。



「僕らは、い「生徒から離れなさい!!」さ」



龍悟の顔は驚愕と絶望に染まっていた。

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